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好みが同じなので、姉弟喧嘩が勃発します~黒鷺視点~


「え!?」


 柚鈴が驚きながら、こちらを向く。僕はその様子を視界の端で確認していた。



(正面から見たら、よけいに可愛い。あー、なんかヤバい気が………………いや! イヤ! 違う! チガウ! これは、そんな気持ちじゃない! そうだ、別のことを考えよう。そもそも、ここに来た目的は買い物で……)



 必死に思考を逸らそうとしている僕に、姉さんが命令する。



「突っ立ってないで、座りなさいよ。てっきり日課のジョギングに行ったと思ったのに。買い物に出かけていたのね」


「ジョギングは姉さんが寝ている時間に済ませたよ」



 向かい合う二人の間の席に腰を下ろしながら不自然にならない程度に顔を傾けて、先ほどの堕落二人組の動向を確認する。

 すると、男連れかよ、と舌打ちして立ち去っていた。



(これぐらいで消える程度なら、姉さんから一方的に叩き潰されて終わっていたかもな)



 要らぬ心配だったか、と考えていると声がした。



「ジョギング?」



 その言葉に釣られて視線をむけると、小首を傾げた姿が。その仕草で黒い髪が揺れ、可愛らしさが倍増しており。



(……って、見たらダメなんだって、僕!)



 額を押さえて落ち込む僕の代わりに、姉さんが柚鈴の質問に答える。



「天音は体力作りのために、朝晩とジョギングをしているの」


「あ、だから体がしっかりしているのね。すごいわ」



 その言葉に胸が跳ねた。



(そんなに簡単に誉めないでくれ! また顔が緩む! なんで、柚鈴と話すとこんなに緩みやすいんだ!?)



 なんとか平静を装いながら話す。



「運動不足にならないようにしているだけです」



、必死な僕に対して、姉さんが雑にメニュー表を押し付けてきた。



「何か飲む?」


「じゃあ、カフェモカを」


「え?」



 柚鈴が驚いた顔をしている。変なものを注文したつもりはないのだが。



「なにか?」


「あ、ちょっと意外だなって。珈琲を頼むと思っていたから。ドルチェを作るのは苦手って、リク医師が言っていたし、漫画を描く時はブラックコーヒー飲んでるみたいだし」



 たしかに甘い物が苦手そうと、よく言われる。理由は不明だが。


 僕はウエイターにカフェモカを注文してから説明をした。



「甘い物も好きですよ。ただ、ドルチェは分量を正確に量らないといけないから、作るのが苦手なんです」


「フレンチトーストは? ドルチェだから、ちゃんと分量を量らないといけないんでしょ?」


「あぁ、フレンチトーストは適当でも大丈夫そうだったので、試しに作ってみたんです。思ったより上手くできました」


「つまり、あのフレンチトーストは試作品だったのね。試作品とは思えない美味しさだったけど。でも、料理はちゃんと計らないといけないんじゃないの?」


「料理こそ目分量で十分ですよ」


「そうなの? 凄いわ」


「これぐらい普通ですよ」



 素直に感心した柚鈴に平然と答えた。



(これは本当に料理しないパターンだな。忙しいというのもあるのだろうが、料理が苦手なのかもしれない。別に、問題ないけど……ん? なにが問題ないんだ?)



 自問自答してしまった自分に首を傾げる。



「どうせ、私は料理もお菓子も作らないから、知らないですよ」



 拗ねたように頬を膨らます柚鈴。そういうところが子どもっぽい。


 微笑ましさを感じながらも僕はフォローをした。



「今の日本なら、自分で作らなくても美味しいものは、いくらでもありますからね。作らなくても、いいと思いますよ」


「え?」


「料理は無理してまで作ることはないですよ。ところで、二人は何をしていたんですか?」



 話題を変えたところで、姉さんがニッコリと微笑んだ。



「ゆずりんとデートしてたの」



 その言葉を柚鈴が慌てて否定する。



「デートじゃなくて、買い物よ! 買い物!」


「ゆずりん、は訂正しないんですね」


「……諦めました」



 声とともに体がシュンと小さくなった。

 訂正したらその倍以上にゆずりん呼びされたのだろう。この姉は一度決めたことは、鉄板のように意地でも曲げない。

 僕は苦笑いを浮かべながら言った。



「さすがの、ゆずりん先生でも姉さんには勝てませんでしたか」


柚鈴(ゆり)!」


「僕が言ったら訂正するんですね」


「当然!」



 柚鈴が胸を張って威張る。本当に見ていて飽きない。


 そこにウエイターが注文したカフェモカを持って来た。受け取って一口飲む。ちょうどいい甘さに、カカオの苦味。体の中から温まる。


 僕がカフェモカを堪能していると、柚鈴が姉さんに言った。



「ミーア。やっぱり、さっきの化粧品代は払うわ」


「いいのよ。私からのクリスマスプレゼントなんだから」


「なら、私もクリスマスプレゼントをあげるわ。何か欲しいものある?」



 その質問に姉さんが目を細める。



「それなら、大丈夫。私は、もう貰ったわ」


「え?」



 浅黒い手が柚鈴の手に伸びた。そのまま白い手をとり、妖艶な笑みを浮かべる。

 けぶるようなながい睫毛が彩る、潤んだ薄茶色の瞳。筋が通った鼻に、数々の男を虜にしてきた美麗な顔。

 そこに、果実のように熟れた唇がゆっくりと動いた。



「クリスマスという日に、あなたの時間を」



 耳が溶けるような、甘い囁き声。自分の魅力を分かっているからこそ、それを最大限に活かした言葉と表情。そこに差し込む冬の木漏れ日が演出に磨きをかける。

 思わぬ光景に歩いていた男たちの足が次々と止まり、見惚れる。



「ブハッ!」



 この展開に僕は吹き出していた。



「汚っ! なにしてんのよ!」



 姉さんが怒るが、なにしてんのよ、は僕の方が言いたい。



「なに本気で口説いてるんだよ!」


「わかってるなら、邪魔しないでよ! せっかくの良い雰囲気が台無しじゃない!」


「僕がいる時点で、良い雰囲気じゃないから!」


「空気になりなさい! 空気に!」


「無茶言うな!」



 いつものように姉弟喧嘩が勃発。

 言い争う僕たちに柚鈴は目を丸くした後、楽しそうに笑った。



「姉弟っていいわね。私は一人っ子だから羨ましいわ」


「こんな弟でよければ、いつでもあげるわよ」


「あげぅ!?」



 柚鈴の可愛い顔が真っ赤になる。が、それより僕は姉さんへの文句が溢れていた。



「こんな弟って、なんだよ。僕が好きになったものを、横取りするくせに。お菓子だって、玩具だって、いつもそうだ」



 幼い頃から好みが似ているせいで、いつも取り合い。でも、姉の方が口がたつから、最後は取られて終了。

 そんな僕の訴えを姉さんが鼻で笑う。



「私が好きなものと、同じものを好きになるのが悪いのよ」


「僕が先に好きになったんだ!」


「順番なんて関係ないでしょ!」



 姉さんと睨み合う。決着がつかないパターンだが、僕は一歩も譲る気はない。


 だが、今日はいつもと違った。


 ふいに薄茶色の目をずらし、柚鈴の顔を見てニヤリと笑った。



「天音をあげるって言ったのは、やっぱり止めるわ。代わりに私をもらってちょうだい」


「え?」


「私、長子だからお姉ちゃんに憧れがあるの」



 おねだりをするように体をくねらせて近づく。

 そんな姉さんに柚鈴が考えながら訊ねた。



「つまり、私の妹になるってこと?」


「そう」


「で、でも……」



 戸惑ったような声に対して、姉さんが甘えるような表情で覗き込む。しかも、上目遣いで。



「ダメ? お姉ちゃん」



 その言葉を柚鈴が感動したように反芻する。



「お姉ちゃん……」



 噛みしめるような呟き。



(これダメなヤツだ。陥落されかかってる)



 僕は二人の距離をあけるように、ワザと間に入った。



「はい、そこまで。姉さんを貰うぐらいなら、僕を貰ってください。僕なら料理も家事もできるからお得ですし、姉さんみたいにトラブルメーカーにならな……あれ? どうしました?」



 柚鈴の顔が沸騰したように真っ赤になり固まっている。



「ゆずりん先生?」



 目の前で手を振るが反応がない。それどころか、名前を訂正しない。



「え? どうしたんですか!?」



 焦る僕を姉さんが笑う。



「ちょっ、笑ってる場合じゃないだろ!」


「若いって、良いわねぇ」


「それ、関係ないでしょ!」



 僕のツッコミに、なぜか姉さんが声をあげて笑った。



長くなりましたが、次からは柚鈴視点に戻ります

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