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魔法を買いました

仕事が忙しくて、更新が遅れました。

「ユウ、もしかして割とメジャー?」

「有名と言うか使ってる奴が有名。俺が知っている武器使いは丸太を何本も持ち込んで振り回してた」

「広いなあ……」


 F.W.Oには色んな人がいるんだな……


「評価に関しては?」

「武器を壊しやすいしアーツも覚えない。だが、武器全般に補正が入って、アイテムも武器として扱えるから――つまり、その辺の小石を投げれば武器扱いだ」

「やはり器用貧乏スキルか……」

「その通りだな。ていうか狙って取るスキルじゃねーよ」


 前提条件が武器スキルを4つ取る何て事は普通はやらないよね。


「俺もさ、言われたまま武器を貸したけどよ――《武器使い》なんて微妙なスキル取ったな」


 男からの評価も微妙な様だ。地元人でもスキルの用語が通じるんだ。


「大丈夫。むしろ色々武器を使えるって点だけで個人的にお得」

「……異邦人ってのは良く分からねえ」

「安心しろオッサン。こいつはまだマシだと思う、もっと酷いのがいる――」

「――本当に異邦人ってのは分からねえ」


 あれ? もしかしてその酷いの括りに入ってる?

 2人が遠い目をしているんだけど。


「――んで、これで嬢ちゃんのスキルは良いんだよな?」

「うん、そう言えばユウは?」

「シオが武器スキルを取りまくった間に軽く素振りしたから大丈夫」


 それなりに時間が掛かったみたい。


「おっと、そろそろ受付に戻らねえとな。最後に依頼を受けるならしっかりと準備しとけよ? 必要なもんはギルド内で買うより街の店なら種類も多くて安いぞ 。場所が分からない時は他の受付に聞け」


 丁寧なのか雑なのか分からない……


「分かった」

「サンキューなオッサン」

「おー、頑張ってランク上げろよ」


 そう言って男が訓練所を去っていく……あ、そう言えば名前聞いてない。

 次会う時でも良いかな?

 訓練所でももうやる事は無いしさっさと場所を開けよう。


「そんで次はどうする?」

「魔法関連の店かな? この世界の魔法は一般的なものだし、スキルもあるし魔法も取りたい」

「……詮索はマナー違反だけどどんなスキルビルドをしているんだ?」


 え? そんな変な顔される程?


「けど、魔法屋に行くのは賛成だな、んじゃあ日が暮れる前に行くか。変わって無かったら、ギルドの向かいだな……お、ほらあそこだ。あの六芒星とスクロールが描かれている看板だ」


 うん、β版テスターのおかげで案内いらず。

 冒険者ギルド出てすぐ向こう側に目的の建物が見えた。何と言うかここも()()()。冒険者ギルド程の大きさは無く、少し大きめの一軒家でレンガの壁に洋瓦に煙突と遊園地のアトラクションにありそうな見た目。

 玄関先にはきで出来た六芒星とスクロールが描かれてる看板を下げている。

 何と言うかプレイヤーに分かりやすい見た目だよね。


「しかし、よく知ってたな、ここの魔法の取り方」

「このゲームに誘ってくれたのがβ版テスターだったから」

「なるほど、どうりで変なスキルの取り方を知っていた訳だ」


 F.W.Oでの魔法の覚え方は独特らしい。

 これは運営が『RPGで思ったけどさ、レベルが上がると勝手に魔法を覚えるの可笑しくね?』と言う疑問の元、行きついた答えが『知識では知っている。だが使用出来ない』と結論付けたらしい。

 魔法関連の店でスクロールを購入してそれで魔法を覚えて、それを使ってスキルレベルを上げて派生を習得。そして次の強い魔法をスクロールで覚えると。このように自力で覚える事が出来ない仕様で、沢山覚えるとなると結構金がかかるらしい。

 スクロール以外でも地元人から教わったり、ドロップの魔導書で覚える事も出来るので一概に金食い虫とは言えない……と奥さんメモに書いてあった。

 まあ、どの職でも費用が嵩むのは当然だしね……


【魔法屋に着きました。以後、ミニマップに位置が表示されます】


 魔法屋の目の前に着くとギルドの前に着いた時と同じ通知が来た。

 どうやら場所を知っていても、近づかないと情報が開示されないみたいだね。

 PCが情報を知って初めてプレイヤーに還元される、何かTRPGに近くて楽しくなってきた。


「こんにちは、どなたかいらっしゃいますか?」


 魔法屋の扉をくぐると店内は渾然としていた。

 山積みになっているスクロールに剣立てような物に立て掛けられている長めの杖。

 短い杖はペン立て見たいな物に適当に並んでいた。

 ……商売はするつもりは無いのかな?

 その時、僅かな物音と気配を感じた。店の奥にある大きな椅子にだらしなく腰掛けていた。自分達に気づくと、椅子からゆっくりとした動作で立ち上がりこちらを向いた。

 質素なシャツとズボンにゆったりとした若草色のローブと同色の頭をすっぽりと覆う先が少し尖った帽子を少し深めに被っている美形の少年だった。


「■■■■■■、■■■――」


 美少年は口を開いたと思うと聞き慣れない言葉を口にした、たが単語や抑揚が知らないものだった。


「間違えた、人族だった」

「あなたはこの店の者ですか?」

「そう」

「ここで魔法関連の品を買えると聞いたのですが、今は大丈夫ですか?」

「可能」

「ありがとうございます。では、少し見させてもらいます」

「ん」


 そして今度は聞き取れる言葉で話した。なので美少年にここを尋ねてみると言葉は少ないがちゃんと応対してくれた。言葉は分かるが抑揚は少な目、愛想が無いというよりやる気がない。それにあの帽子……もしかしてこの人。


「あなたはもしかしてエルフですか」

「そう」


 この質問にあっさりと簡潔な答えが返ってきた。



『エルフ族』

耳が尖っていて男女共に美形。性格はざっくり言うと趣味人、長命で不老だからか退屈しない様に戦闘なり物つくりや魔法の研究など没頭出来る物を持っている。退屈を嫌うので誰かを驚かせるのが好き……ダークエルフ実装はよ。



 最後に欲望が入った奥さんメモに書かれていた、このF.W.Oの世界にいる種族の1つ。

 ファンタジーのド定番の種族を初日でお目にかかるとは。


「名前、マウリッツ」

「シオと言います」

「あ、俺はユウ」


 少年エルフ……マウリッツに名乗ったのでこちらも名乗り、ユウも続いて名乗った。


「ん。そこスクロール、そこ杖、そこ魔道具、そこ錬金」


 マウリッツは次々と店の至る所を指していく……これは場所を説明しているのかな?けど今錬金って言ったよね?凄く気になるけど今は魔法を買わないと。


「魔法を買うのは初めてなので手頃なのを2~3品選んで欲しいんですが」

「ん。魔法は……これとこれと――」

「おいおいおい!」


 マウリッツは小さく頷くとスクロールの山に近づくと山からスクロールを適当に何本か引き抜いている。その時に巻き込まれて落ちていくスクロールに気にせず。

 このスクロールの雑な扱いに流石のユウも驚いている。魔法が使えるアイテムと聞けばかなり希少に見えるからね。

 落ちていくスクロールを慌てて拾うユウ、当然拾うのを手伝う。


「品物は大事に扱えよ!」

「スクロールは頑丈。壊れない」

「そういうことじゃなくて!」


 ユウもこれには怒っている。

 まあ、魔法が使えると聞けばプレイヤーからすればかなり貴重なアイテムになるからね。

 拾ったスクロールは……山の上に重ねておくかな。


「これ、フレイム。これ、ウインド。これ、ファーストエイド」


 マウリッツはスクロールを3つ持って来て、それぞれ説明しながら差し出した。


===============


アイテム

・フレイムのスクロール レア度 N

下級火属性魔法『フレイム』を習得するアイテム。


・ウィンドのスクロール レア度 N

下級風属性魔法『ウィンド』を習得するアイテム。


・ファーストエイドのスクロール レア度 N

下級回復魔法『ファーストエイド』を習得するアイテム。


===============


 渡されたスクロールは攻撃魔法2つと回復魔法1つだった。


「炎は色々使う。風は鳥も落とせる。回復は必要」


 えっと、フレイムは属性関係なく使える所があって。ウインドは対空に適していて。ファーストエイドは生存には重要と言う事かな?


「金額は?」

「ファーストエイドは200。それ以外は150」


 合わせて500G……高い、初期投資で半分も消える。


「杖」

「杖? ……あ」


 忘れてた。魔法は杖などの魔法の触媒を装備しない限り魔法を発動出来ないんだった。


「安いものは?」

「ん。あそこのワンドは150」


 マウリッツの指した先は適当にペン立ての様な物に入っている木製の短杖(ワンド)だった。

 基準はまだ分からないけど合計750……うん、高い。回復を切るか、攻撃の2つの内1つを切るか。他にも買いたいものがあるから余計な出費は抑えたい……


「……」

「……ん? 何だ?」

「魔法」

「魔法? いや、俺は剣士だから魔法スキルは取って無いぞ?」

「……変」

「変?!」

「……おかしい?」

「意味変わってねーから!」


 スクロールを3つ持って悩んでいるとユウとマウリッツの会話が聞こえた。

 何やらユウが変人扱いされているようだ。


「魔法を使わないのがおかしいのですか?」

「ん」

「彼は剣士ですよ?」

「剣士じゃなくても、変。異邦人、魔法使わない」

「……つまり魔法を使えない時点でおかしいと?」

「ん」


 自分の問いにマウリッツが小さく頷く。

 ……これは認識の前提が違うのかな?


「ユウ、これは異邦人と地元人の魔法への認識の差のせいかも」

「認識の差?」

「ザックリ言うと、魔法は異邦人にとってはスキルの1つで地元人にとっては必需品に近いものかと。でないとスキルで魔法適性と一括にしないし」

「あー確かに、普通なら属性毎に分けるのが普通だな」


 奥さんメモにもあった魔力について。

 魔力は誰もが持っていて、魔法適性は使いやすいというだけ。つまりこの世界の全ての住民が魔法を使えるということ。


「つまり、魔法が普及している文化のこの世界で魔法を使わないのは、リアルで携帯端末を携帯しないと同じ意味だと思う。魔法スキルのポイントが低くて取りやすいし」

「……確かにそう言われるとすげー変だな」


 納得したユウだけどその顔はまだ渋い。


「これは俺も魔法取るフラグ? けど、魔法はアイツが取るし……ピュアファイターで行こうと思ったからSPがな――」


 ……結構揺らいでるね。

 けどマウリッツの話からすると今後、魔法適性のスキルが重要になるイベントがありそうなのでここは背中でも押そうか。


「マウリッツ、剣士が魔法適性を取るメリットは何ですか?」

「魔法をアーツにのせる」

「え?」

「今そのアーツを見せて頂けるの事は?」

「少し待つ」


 さらりと返ったとんでもない答えに悩んでいたユウが思わず発言者のマウリッツを見る。

 そのマウリッツはそんな事も知らず部屋の奥に入るがすぐに戻ってきた。その手には木で作られた簡素な剣を持っていた。


「剣も売っているんですか?」

「趣味」


 ああ、暇つぶしに作ったのか……


「まず、剣に魔力を込めて振るう」

「うおっ!」


 マウリッツが剣を無造作に振るった直後、三日月状の光が剣の軌道に沿って自分達の頭上を通り過ぎた。

 それを見たユウが驚いた声を上げた。


「こんな感じ」


 驚いたユウを見て、僅かだが口角が上がったマウリッツ。エルフは驚かせるのが好きだったね。


「飛ぶ斬撃? ユウ、武器系のアーツには無かったの?」

「無かったな。衝撃波でノックバックだったり、エフェクトで剣身が倍になるとかはあったが斬撃を飛ばすアーツは無かったな。付与魔法は少し違うし、近いものは……魔法を武器に纏わせて攻撃する魔法剣()()()はあった」

「もどき?」

「ああ、魔法を纏わせると何故か武器の耐久値が大幅に下がるんだ。だからもどき何だ」


 なる程、武器が壊れやすくなるなら使いたくはないかな。


「今のアーツ、光属性を使った」

「光か……アイツが取る予定だからなー」

「闇でも、可能」

「おっし取るわ」


 言うが早いかユウがメニューを操作している。


「闇は取るとしてマウリッツ、回避系に相性の良い属性は?」

「火と風」

「うし、丁度被ってない!」


 それを聞いてガッツポーズを取るユウ。

 そんなに取りたいのかあのアーツ……


「でも、魔法には杖等の魔法媒体が必要のはずでは?」

「必要ない」

「え?」


 魔法なのに媒体が要らない?


「このアーツ、媒体必要ない、魔法を使わない」


 ……魔法を使わない?


「アーツに属性を込めるだけ、アーツそれぞれ、相性ある、適性の属性あれば使える」

「適性があればそれにあったアーツに派生すると」

「ん」


 つまり、魔法を込める方法は間違いだったと……

 まあ、武器使いはそんなにアーツを覚えないからいいか。


「それで、どう? 買う?」


 あ、買い物中だった……回復は捨てるか。


「シオ。俺が出そうか?」

「え?」


 ユウの突然の提案に、思わずユウの方を見た。


「理由は?」

「さっきのアーツの情報代だ」

「そこにまで金銭が発生するの?」

「まあな。ところでシオ、始めたばっかだから金あんま持ってないだろ?」

「お察しの通り」


 と言うか物価がそこまでするとは思わなかった。


「そこで今回の情報料についてだが『アーツの属性変化』と『F.W.Oでの魔法についての認識』これ程攻略向けな情報を初日で手に入ったんだ。シオがいなきゃ手に入らなかった情報だ、本当は即金したいけど俺も色々入用だからその情報料をシオが冒険の準備に掛かる金を俺が持つと言う事だ」


 確かにこれからゲームを進めるにあたってこの情報はかなり有用なのかもしれない……


「もちろん全額じゃない。大体7割ってとこだ、幸いβ版の引継ぎで金はある、どうだ?」


 ……これはかなり魅力的な取引だ。

 それに7割と高すぎず安すぎない割合を出してきた。ユウの性格なら初心者をカモにする理由はないし……乗った方がいいかな?


「分かった。こちらが得するだけな気がするけど……」

「構わねーよ。んじゃあそのスクロール3つとワンド1つな」


 結果、3つのスクロールとワンドを買うことになったが、本来より安く済んでしまった。


「ん、まいど」

「長々と話し込んですみません、仕事中に」

「構わない、客あまり来ない」

「……それ、商売としてはダメじゃね?」

「ん、大丈夫」


 ユウの心配に変わらない調子で答えるマウリッツ。


「人族の街、色々お金かかる。だから仕方なく始めた、本当は全部趣味」


 ……さすが趣味人と言われるエルフ。生活費を趣味のついでで稼いでいるのか。


「色々教えていただいてありがとうございます。お話はまた今度と言う事で」

「ん」


 ツッコミに周っているユウがこれ以上捌ききれそうに無いので終わらせよう。

 ほぼユウに買って貰った品をインベントリに入れて、魔法屋を出る事にした。






「いやー……ツッコんでばかりだったな俺……」

「何と言うか、昨今のエルフ像が色々崩壊した気がする……」


 魔法屋を後にして少ししてユウが少し疲れた様子で呟いた。


「けどよくアイツがエルフだって分かったな?F.W.Oに来た奴は絶対引っかかるんだ」

「F.W.Oで確認されている種族で美形と明言されているのはエルフだけだから」

「でも耳が短いだろ?」

「ユウ。エルフ=耳が長いは日本が生んだ偏見みたいなものだよ」

「マジで?!」


 ユウがこの日一番の反応をする。


「悪魔や妖精など人じゃない人を表す表現の1つとして耳を尖らせると言う表現は海外にもあったけど。日本のエルフみたいな長い耳が定着されたのはとあるTRPGのリプレイがアニメ化された際、そのエルフの耳が今で言うエルフ耳だったことから、今のエルフが完成されたって感じだね」

「日本人の魔改造率……」


 ユウが頭を抑えて唸っている。

 確かに日本人って色んなものを日本用にアレンジする傾倒があるよね。


「他にも理由はあるけど、また今度」

「まだあんの? と言うか初見でどんだけ情報拾ったんだよ……」

「クトゥルフにおいて目敏くないと死活問題」

「アンタTRPG勢だったのか……どうりで地元人との会話がスムーズだと思った」


 お、クトゥルフの単語で分かったって事はユウもTRPG知っているんだ。まあ、今はリプレイとかあるし……


「しかし情報か……シオ、魔法屋で手に入れた情報、掲示板に書いても良いか?」

「掲示板? 別に確認取らなくても。それにそういうとこって信じない人がいると思う」

「シオが取った情報だし確認をな。すぐに信じなくても後で気づいてくれる奴がいれば説明が省けるだろ?」

「んー……だったらアーツの属性変化は実証出来ないから伏せて。魔法の認識の差についてのみにしよう。と言うか魔法と武器スキルを一緒に取った人っていないの?」


 オールラウンダーって割といそう何だけど?


「あー……今までゲームで魔法戦士って基本で器用貧乏で使えないって認識があって。さらに物理と魔法は分けて考えられるからな」


 やっぱり認識の差か……


「さて、次は……何を買おう?」

「おいおい、普通に武器だろ? 持ってないんだから」

「そう言えば武器がなかった。この場合武器屋? 鍛冶屋?」

「鍛冶屋だな武器だけじゃ無く、防具や他の金物全般扱ってるな。雑貨も兼ねてんな」

「あ、そっか鍛冶=武器だけじゃ無いよね」


 鍋やコップ、農具等の日用雑貨も取り扱っているんだった。


「すると街の川沿いか? でも夕暮れだし歩くと遠いな」

「何で川沿い何だ?」

「え? 鍛冶で水力の(ふいご)を使うし火を使うから延焼防止に……」

「あー……シオ、ここは中世でもファンタジーだ、生産系は魔道具が使われるから延焼は無い、だから街中にある」

「……線引きが難しい」


 奥さんのメモも用語の解説と重要な解説だけでネタ的……フレーバーについてはさっぱりだ。


「それでユウ、その件の店は例によって」

「ああ、ポータルの近くだ……の筈だったんだが」


 ユウの視線の先、周りの建物より一回り大きい家に金槌の描かれた木の看板が吊り下げられていた……

 だが、もうすぐ夜になる、街の街灯の魔道具に明かりが付き始めているのに、その店からは明かりが付いていない。


「んーやっぱりいねぇな」

「通知も来てないから開いてないと入れない見たい……」


 店の前に来ても人の気配は無く、ユウも首を傾げている。

 重要な施設に着くと通知が来るのに今回は無い……と言う事はその施設に入れないと通知されないみたいだ。


「と言う事はもう閉店?」

「おいおいまだ、夜まで時間あるだろう?」


 現実の中世では夜間の営業は明かりが不十分なため禁止されている。

 けどF.W.Oの世界では明かりを十分確保出来る魔道具もある。店じまいには少し早い様な……


「ああ、ここの飲んだくれジジイは日暮れぐれーになると、店を閉めてすぐに飲みに行くぜ」


 ふと、後ろから聞き覚えのある声に振り返ると。

 顔に傷がある厳つい男、ギルドで自分たちを応対してくれたあの男だった。


「オッサン?! 何でここに?」

「おう、さっき振りか? ここのジジイとは飲み仲間でね。仕事が終わったら飲みに誘ってんだ……いねえって事は先に行っちまったか」


 まさかの再会に驚くユウ。

 男はその再会にニヤリと男臭く笑いながら、ここにいる説明をした。


「あのジジイに会いたいんだろ? だったらついてくるか? きっと何時もの酒場で1人寂しく飲んでいるだろうよ」

「オッサンもこの時間に酒かよ」

「俺は良いんだよ。もう、仕事は終わったんだからな」


 ユウの呆れた顔に自慢げに胸を張る男。確かに男の格好が職員の制服から使い古されたコートの様なものを羽織っている……コートの前は全開で筋肉を晒すのはこの人の基準なのかな?


「――で、どうだ? 今から付き合わないか? 奢るぜ? それにジジイが気に入ったなら、良いもんくれるかもしれねえぞ?」


 と、男が手を口元に持っていき、何かを傾ける仕草をする。

 それに、鍛冶屋も今後顔を出すし顔見知りになるのは有利かもしれない……


「あースマン、俺まだ酒飲めねーんだ」

「こっちは大丈夫。もう成人」


 あ、ユウは未成年何だ……

 自分は夫婦共々よく飲む方なのでわりと好きな方だ。


「構わねえよ。果実水(ジュース)もミルクもあるしメシも美味(うま)い――それに異邦人は家なしだろ? そこは宿もやってるから損はねぇぜ? あ、宿代は自腹な」


 そう言えば、中世では宿と酒場は一緒なんだっけ?


「あ、ヤッベ。宿とってねぇ……そろそろ連続使用時間が――」

「今から間に合う?」


 満員とかならない?


「ハハハッ! 心配するな、あそこ安宿よりいい宿はあっから、大体はそっちに行くだろうよ」


 成程、宿は複数あってそれ毎に値段設定がある。今回案内される宿は安い方なんだろう。


「んじゃあゴチになります」

「良いお酒、期待してる」

「よっしゃあ! ついてこい、酒だ酒!」


 自分達の承諾を得た男は意気揚々歩きだす。早く飲みたいのかかなり早足だった。


「おいオッサン! 足はやいって!」

「急がないと逸れそう……」


 男から逸れない様にこちらも早足でついていく。

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