訓練を始めました
「よし、俺も登録完了!」
数分後、ユウの登録も恙無く終わる。ユウもギルドについての説明を聞く様だ。
「説明の前にギルドカードの読み方を教えるぞ?まず左上が自分の名前、左下は種族、右上が現在のランクで登録したてだから最下位の『F』だ。そんで右下は現在登録されているギルドのシンボルだ」
ギルドカードを見ると右下に入り口にあった交差した3本の剣のシンボルがあった。つまりこれが冒険者の証なんだろう。
「一応読めるから、大丈夫」
「さすが異邦人、話が早くて助かる。大体文字を読める奴は冒険者何かやってねぇしよ。後、初めて来た他の種族な。一応職員全員が《言語》スキルを持っているがな」
やはり識字率はそんなに高くないのか。
そう言えば初期スキル欄に《言語》があったし、取ろうかな?
「まず、ギルドについてだ。こいつは大きく分けて4つある――が面倒何で今回は冒険者ギルドについてだけ説明する」
「まーた適当になってんぞオッサン」
「うるせえ! 大体てめえら異邦人がわんさかやって来るから大まかなギルドに分けて作業しなきゃ職員が死ぬんだよ!」
原因は異邦人か……こればかりはどうしようもないので心の中で謝っておこう。
「他のギルドついて聞きたきゃ後ろにいる奴らに聞け。アイツらは他所のギルドから派遣された職員だ」
と、男が顎で反対側のカウンターを指す。
成程、職員の一部の制服が違うのは所属が違うからか……商人もしくは生産ギルドか?
「へー随分と細かくなってんだな」
「そこは知ってて欲しかったかな……」
君、β版テスターでしょ?
奥さんメモでも冒険者ギルドしか無かったし。
「いや、β版じゃ冒険者ギルドだけだったし、一か所だけで済んだんだ。こんな沢山のギルドを聞いたのは今日が始めて何だ……」
ユウが周りに聞こえない様に小さく耳打ちしてきた。
仕様変更されたんだ……説明聞いて正解だった。
「その他にも問題とか理由は色々あるが―――面倒だからしねぇ」
「本当に雑だな……」
「だんだん適当になってきたね」
この人本当にAIなのか?
ユウと2人で呆れていると、男が咳払いし始めたので、黙って聞くことにする。
「まずは依頼だな、受注と発注があるがお前たち異邦人はほぼ受注だからそれの説明な。1度に受けれる依頼数は3つまで、1人でも1パーティでも変わらねえ。それに依頼ごとにランクを設けられていて、自分と同じランクしか受注出来ん、パーティの場合は一番下のランクから1つ上までだ。依頼に成功すれば報酬が貰えるが、失敗や依頼をキャンセルしたら違約金として逆に金を取られるからな」
「まあ、当然だね」
「因みにシオ、1パーティは6人な」
説明を聞いているとユウから補足が入った。
次に男が横に向かって指を差した。その先には紙が沢山張られているボードがあった。
「依頼の受け方だが。あそこにある依頼板に張られている依頼書を取って受付に渡すか、受付に自分の希望の依頼を選んで貰うの2つだな。理由はまず文字が読めない奴がいるのと常時依頼ってのがある」
文字を読めない人が多いから口頭で内容を聞くのか。
そしてまた新しい言葉が出てきた。
「常時依頼?」
「依頼板に載ってない常に受注している依頼の事だな。ポーションの素材だったり鉱石だったりと生産に事欠かない素材は常に受け付けていてんだ。報酬も小遣い程度の稼ぎにはなるし、Eまでならこれで上がる」
成程、常に消費される物なら一々発注するより常に受け付けていれば定価で取引が出来るから、回転率は上がるな。
「んで、依頼を熟して行くとランクが上がる。そうすれば受けれる依頼の種類が増えるし、報酬もでかい。それに信頼も得られるから他のギルドでも多少は融通が効く……まあ、なんでも出来る異邦人からすればどこのギルドに行ったって変わんねえだろ」
「ん? つまりギルドは複数登録出来んのか?」
説明の最後の余計な一言に反応するユウ。
「出来るぞ?元々、異邦人がわんさかやって来るから分けただけで、兼用のデメリットは無い……がランクがそれぞれ別だ、管理は難しいから詳しいことは――」
「他のギルドに?」
「そうだ」
溜めを作った男に答えを返すと自信満々に返された。
しかし、これは良い情報だ。兼用できるのはありがたい。
「あとは……ペナルティについてだな。法については俺達の世界の法律が適用される。ザックリ並べると、殺人、傷害、窃盗、器物破損、辺りだなお前たちに関係あるのは」
殺害はPK……いや、地元人も適用だなこの場合。
「牢屋にぶち込まれてランク降格か凍結、最悪抹消もある。捕縛は基本現行犯だが、異邦人は過去の犯罪者を認識出来るんだろう?」
「それはレッドネームの事か?」
「よく知らんけどそうなんだろう。後、異邦人同士の揉め事は決闘で決めるんだろう?」
「決闘? ああ、PVPか」
初心者だから2人の話についてこれない。後で奥さんのメモ読もう……
人前で読むわけにはいかないし。
「これで大体の説明は終わりだ。何か質問あるか?」
「あ、訓練所! 武器が使える場所を聞いてない!」
ユウが食い気味で答えた。何でそんなに焦っている?
「おおそうか、忘れてたな。適当に説明してたが思ったより時間を食っちまった。そっちの嬢ちゃんの武器も探さないと街の外に行くときは日が暮れるぜ――こっちだ」
早足に奥に向かった男のあとをユウと追う。
最初に入ったときに見えた奥の通路の先を進んで行く。
「日が暮れると何が?」
「そりゃお前、暗くて何も見えねえし。夜に起きる魔物がいるんだそいつらは目が利くからな」
あ、そういう事か。魔物が蔓延るこの世界で街道の舗装何て出来るわけがない。
街の中は街灯らしき魔道具を見たけど……
「それとシオ、こっちでの1日が現実では6時間って事は知っているよな? β版から時間経過が変わらないとすると、インしたのは丁度昼で夕方になるのはリアルで2時間だ……」
ユウに言われて。現実時間を確認する、夕方にはまだ早いが準備をするとギリギリかもしれない……
「これは、早々に慣れないといけないな」
「まあデフォで3時間連続使用中に通知が来るからな。戦闘中に着たらヤバイ」
これは実体験かな?
「さて、ついたぞ。ここが訓練所だ」
奥に進み、開けた場所に着いた。
2階分の天井まで開いた吹き抜けの今までで1番大きな部屋だ。
訓練所では様々な人達が各々訓練を続けていた。地面に深々と打ち込んだ大人と胴回りと同じ位の太い杭に武器を打ち込んでいる人や、投げナイフや弓矢で遠くから狙っていたり、最後には火や水等の魔法を使って杭に放っている人もいた。
あれがこの世界の魔法か、初めて見た。
「他の奴らが殴ってる杭があるだろ?あれは特殊な製法で出来た魔道具の一種で、硬さもそこそこあって多少の損傷は復元しちまう、訓練の的には丁度いいもんさ」
でた、システム的にメタいの。
でも今多少って言った? もしかして一定値超えると壊れる奴?
「多少――因みにどれくらい耐えられるの?」
「β版の時は……バフ盛り盛りで当時最高火力でブッパしても壊れなかったらしい」
ゴメンユウ、β版テスターじゃないから凄さが分からない。けどあの多少はかなり広く取っていいだろう。
「さて、面倒見れる奴は――いねえな。ったく、仕方ねえ……特別だ、お前たちの訓練を見てやるよ」
男が周り見回して溜息を吐き、その後に頭を掻きながらこちらに振り返ると面倒くさそうに言った。
「は、いや別に見て貰わなくてもこっちで勝手に……」
「見張りだ見張り。何でか知らねえがこっちの人間と異邦人でよく揉め事が起きんだ、血の気が多い冒険者とかち合うと流血沙汰もあり得るからな、4~5人に対して教官が1人就くよう決められてんだ」
「あー……何かすいませんでした」
「何でお前が謝んだ? ほら、近くに1つ空いてるからそこ使うぞ、2人だから1つでいいだろ」
突然の男の提案に遠慮していたユウだけど、理由を聞くと納得して謝罪した。男には意味が分からないようで話を終わらせて、近くの空いている的へ向かって行った。
何か異邦人って迷惑しかかけて無いような……
心の中でゴメンと言っておこう。
「んじゃあ武器だか……そっちの兄ちゃんは剣として、嬢ちゃんは何にする?」
もう子供扱いは置いておこう。
使う武器は実は決めている、奥さんからスキルについて色々聞かされたので、狙ってみスキルを取ってよう……
「弓で」
「弓だな」
「弓かあ……」
弓に決めると男が武器を立掛ける壁の方に向かって行く。一方ユウは若干渋い顔をしていた。
「もしかして弓って不遇?」
「不遇と言うより上級者向け? メインで使う奴はいないな」
「サイドアーム扱い?」
「まず装備枠、弓は矢筒とセットだろ? そんで枠2つ使うから、一緒に使う武器が制限される」
F.W.Oでは武器は主と副と複数同時に装備出来る。基本の剣と盾、二刀流のみならず槍を2本二槍流と変則的なものまで可能。ただ、複数装備して持ち歩くという事は当然嵩張る、なので大体は緊急時の為に装備が普通らしい――と奥さんメモに書いてあった。因みにインベントリ内の物は重量制限に除外される。
「それに矢を番える、弦を引く、狙う、放つとアクションが多くて更に攻撃範囲が狭くて素早い敵には難しい。それに矢は消耗品だから元が取れにくい。それなら下級魔法で攻めた方がサイフには優しい」
確かに、初めの頃は色々と出費がかさむのに更に金欠になる要素は避けたいか。
「うーん……やっぱり魔法の方が有利?」
「そんな事は無いな。魔法は簡単に狙えるし威力もあるけど、有効距離を超えると霧散するし目立つから防がれたりもする。その点弓や投擲武器は有効な距離を過ぎても威力は下がるが消える事は無い、それに音も小さいからステルス向きだな」
まあ、弓は今でも海外で狩猟使われてる位だし、日本で禁止されてるのは日本基準の弓が銃より弱いだけだからね。
「後はステータスだな。F.W.Oの近接武器を使うには一定のステータスが必要なんだ。剣類や鈍器系はSTR、槍とかの長柄系はDEXだけど、弓はSTRとDEXが必要だな」
「遠距離系は2つ必要なんだ」
「弓は現実でも結構筋肉使うからな、腕は細いけど肩幅は女子でもガッシリしてるし」
「結構詳しいね。必要ステータスとか公式サイトとかには無かったと思うけど」
「所謂マスクデータだ。β版時代に検証したプレイヤーのおかげだな」
「色んな人がいるんだ」
「よう、弓と矢筒を持ってきたぜ。ほら」
ユウの説明聞いていると、弓と矢筒を肩にかけた男が戻ってきて矢筒の方を差し出した。
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副武器
・革の矢筒 レア度 N
? 耐久値 ?/?
厚手の革で作られた丈夫な矢筒。
矢は補充されている。
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矢筒を受け取ると新しい画面が出てきた。矢筒にポインタが現れてそこから線が伸びてその先に矢筒の詳細が載った画面が現れた。
だか、殆どが『?』だった。でも今は装備しないと。
インベントリから矢筒を選択して装備する。すると手に持っていた矢筒が青白い粒子になって消えると次の瞬間には腰の後ろで革のベルトで固定された。
「へえ……こうやって装備するのか」
「ほお、これも異邦人の能力か?じゃあ次は弓だ」
そう言って男が持っているのは飾り気の無い駆け出しが使う様な木の弓だった。
「確かめてみても?」
「好きにしな、壊したら弁償してもらうけどな」
男から弓を受け取って木の部分を触ったり、弦を引いたりと状態を確認する。受け取った際にまた出た画面は即消した、詳細が分からないし意味が無い。
弓を装備、早速撃つ為に的の杭から倍ほど離れてみる。
「……流石に遠すぎるだろ。下級魔法の倍の射程だぞ」
ユウは視線をこっちと杭に行ったり来たりしている。距離的には下級魔法の有効距離の倍。
そんな事は気にせず矢を番え、狙いを定める。洋弓にも和弓と同じ八節の動作があるがそれは日本だけ、多少雑でも狙って中れば良い。
ズレない様に固定して、矢を放つ――
「ほう」
「お〜」
小さな風切り音の後、カンッ! と矢が杭に命中、狙い目標よりズレて微妙、だけど威力は鏃が杭に完全に入っているので良しだ。
そして、男とユウの反応が正反対で面白い。前者は納得して後者は驚いている。
【《弓術》の取得条件を達成しました。《弓術Lv1》を取得しますか?(Y/N)】
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スキル
・《弓術Lv1》
弓を扱うためのスキル。
Lv1
・武器知識〈弓〉
・武器補正〈弓〉(*1.5)
・耐久値減少率(減)
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当然YESを選択。初の武器スキルゲット、SPは有り余っているので問題なし。
でも狙いがズレたのでもう一度――
「あ」
命中、けど今度は上過ぎた。もう一度――
「よし」
今度はしっかり狙い通り命中。
……まあ3回射っただけでレベルは上がらないか。
「まあ、それを引けるんなら中るだろうな」
「しかも狙いも正確っぽいな……」
ユウ達のもとに駆け足でもどる。
改めて、メニューを操作して現在装備している弓を確認する。
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武器
・狩人の弓
ATK+12 耐久値 75/75
現地の人が狩猟に使われる一般的な弓
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お、武器のステータスが見えた。弓のスキルを取ったからかな?
「結構簡単に引いてたな」
「一応、STRを重点に振ってるから。たしか極振りNGだよね」
「よく知ってたな。β版の頃ラノベの影響で極振りが大勢いてな……プレイヤーも運営も泣きを見る羽目に……もう地獄だった」
「うわあ……」
あ、ユウが遠い目をしている……どんだけ阿鼻叫喚だったのさ。
「けどSTR重視とは。弓を選ぶからDEX重視かと思った」
「何事もSTRは必要、冒険だろうと生産だろうと」
「その通りだ!」
ゲームシステムについて話していると男が入ってきた。
NPCに今の会話はどう聞こえたんだろう――
「力が必要なのは当然、それにいくら武器が良くたって使えなきゃ意味がねえ、それが剣だろうが弓だろうが――」
片袖を捲り上げて、盛り上がった力こぶを見せてきた。
「どのみち筋肉は必要ってこった!」
今の会話は『お前、意外と鍛えてるな』『筋肉は重要』な話に聞こえたのか……
弓はもう大丈夫なので装備から外して男に返却する。さて、ここから本番だ……上手くいってほしい。
「さて、次は――」
「他も取るのか? 確かに弓だけじゃ近づかれたら終わりだしな。短剣か?」
「試したい事があって――ちょっと後3つ武器スキルを取ってみる」
「へ――は? お前何言って――スキル4つってまさか?!」
ユウが何か驚いてる。その反応からするとこれで当たりみたいだ。
【《剣術》の取得条件を達成しました。《剣術Lv1》を取得しますか?(Y/N)】
【《槍術》の取得条件を達成しました。《槍術Lv1》を取得しますか?(Y/N)】
【《斧術》の取得条件を達成しました。《斧術Lv1》を取得しますか?(Y/N)】
【特殊条件を達成しました。《武器使いLv1》を取得しますか?(Y/N)】
【※《武器使い》を取得すると今までの武器スキルは統合されて消去されます。消去されたスキルはSPに還元されます】
あ、ポイントが戻って来るんだ。思ったよりお得。
当然YESで。
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スキル
・《武器使い》
武器は手段の1つに過ぎない。扱いも技量も一流に至れない。しかし武器を使うというだけなら万に通じる。
Lv1
・武器知識〈全〉
・武器補正〈全〉(*1.2)
・一部アイテムの武器使用
・専用アーツ取得可能
※デメリット
・武器耐久値減少(微増)
・各武器アーツ取得不可能
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【《武器使い》を取得しました。今までの武器スキルは消去されてSPに還元されました】
《武器使い》分の5ポイントを使ったから15ポイント戻ってきたんだ。
奥さんの言った通りだった……
『F.W.Oのスキルは組み合わせ次第で色んな事が出来るけど。更に特定のスキルを揃えると違うスキルに統合されるんだ。私も魔法関連のスキルありったけ取ったら色々出てきてさ。まあ、そんなスキルは大体難しいのばっかりだけど、あんた器用だしやってみたら?』
奥さんが魔法特化ならこっちは物理で行こうと、武器スキルを4つ取ってみたら予想通り統合されたようだ。
4つの理由は奥さんのメモの魔法適正についてで適正属性は多くて3つが良いとあったので、恐らく地雷を踏んだアイツは4つ以上取ったんだと思い武器スキルで試したら予想通りと――
「新しいスキルが取れた。《武器使い》」
「やっぱり武器使いかよっ……!」
ユウが頭を抑えだした。
結構知られているスキルみたいだ。
武器使いのモデルはネットゲームが舞台のPKされたら意識不明になったりする某RPGの主人公のジョブです。