冒険者ギルドに行きました
「まず用件なんだが。実は今日は1人これなくなったから一緒にレベリングに付き合ってほしいんだ」
「それは構わないけど、こっち初心者だよ?」
「俺だって初期ステだし問題なし。動きはじきに慣れる。それにβ版テスターの特典で期間限定でレベルが上がりやすくなるし、即戦力になっから」
確か、奥さんも言ってたな。β版テスターのみ対象の経験値増加の特典。
「言っておくけど色々準備するから時間かかるよ?」
「そん位構わねーよ、付き合うぜ?……っと着いたな。ここが冒険者ギルド」
「意外に近かったな」
「まあな。俺らプレイヤーがよく行く場所だから広場と街の出入口に近い場所にあるんだ」
ユウが指した方を見ると。周囲の建物より一層目立つ大きな4階建ての建物だった。隣には馬が停まっており厩舎らしい。ここでの長距離の移動手段が馬車と分かった。
1~2階は石造りで3~4階は木造でその上には3つの剣を交差させた木の看板がぶら下がっていた。入口はスイングドアで仕切られ。上の看板にはアレンジが入ったローマ字で書かれていて、その上から光る文字で『冒険者ギルド』と書かれていた……今度は読めた。もしかして共通語は母国語で翻訳される仕様なのか?あの石碑だけ違うのか?
【冒険者ギルドに着きました。以後、ミニマップに位置が表示されます】
通知が来るのと同時にメニューが自動で操作されて。視界の右上に自分の位置を中心に円形のミニマップが表示された。
【マーカーを設置しました。経路を視覚化しますか?(Y/N)】
ミニマップの冒険者ギルドを選択するとこの様な通知が出た。
どうやら迷子防止みたいだ。
「この字は読める……けどさっきの石碑は何で読めなかったんだろう?」
「ああ、それはポータルに使われる神代文字だ」
「神代? ポータル? トンネルとかあった?」
「……もしかして初心者ってゲーム含め?」
「……実は家が厳しかったし、この手のゲームは始めて」
「聞いちゃ不味かったか?」
ユウがバツが悪そうな顔をしている……
さすがに親については言うのは余計だった。ただゲームを知らないですませば、仕方ないで終わった筈。
「大丈夫。もう終わった話だし。今はこうやってゲームしてるから」
「そっか、まあ本人が言うならいいか」
「そうそう。で早速だけどポータルと神代文字について教えて?」
「了解っと。まずはポータルは文字通り入り口って意味でゲームじゃ拠点――つまり街から街への転移する施設に使われるな。基本的に1度行った街でポータル機能があるオブジェクトに触れれば解放されるな」
「随分と便利な……もしかして異邦人限定?」
「正解。異邦人はここの神様、アルカナ神によってやって来た設定だからポータルの使用は異邦人のみ。神代文字は広場の石碑にあった謎の字だな、地元人も読めないがプレイヤーはインフォで内容が来るから、地元人からすれば『神の啓示によって内容を理解できる』と思われてんだ」
「成程。通知が来た際の挙動をそう考えられてるのか……教えてくれてありがとう」
さすがにゲームシステムに関しては色々統合がとれているみたいだ。
「そんじゃあさっさと行くか。地元人も利用するから混んじまう」
「ああ、そう言えば地元の人も利用するんだった」
ユウの後に続いて冒険者ギルドの扉を開けて中に入る。
冒険者ギルドの内装はらしいの一言だった。
基本は軽食も取れる酒場。横の壁の1つは受付、格子を挟んで似たような制服を着た地元人の受付が数人。反対側の壁は食料、ビンに入った薬品類、小道具類を売っているさっきとは違い様々な格好の人達。
奥は紙をたくさん貼り付けられているボード。酒場のカウンターに厨房、上と下にそれぞれ通じる階段、厳重に閉ざされている扉が数か所。奥は職員が広く使っている様だ。
命知らずが多いイメージだが。騒々しいというより賑やかでそれなりに清潔さを保っているようだ……
「さて登録だが……どこに並ぶ?」
ユウが突然、真面目な顔で聞いてきた。並ぶとは受付だよね?ってああ――
「男の子だねえ……」
冒険者に応対している受付は殆どが若くて美人な女性だ。その需要はゲームの世界でも変わらないのか。
「おいおい当然だろ? シオだって……あれ?そう言えば男か女か?」
『男……だよな? 背からして』と小声で呟く声が聞こえる。
……キャラ作成失敗したか?
「それを今聞く? 男だよ。それとお生憎とそう言うのは間に合ってるから。ほら、列の短いとこに並ぶよ」
悩んでいるユウを無視して列に向かう。
1番短い列は顔にキズがある、厳つい男の列だった。しかも制服の前を全開にして盛り上がった筋肉を惜しげも無く晒している。自分のすぐ後ろにユウが並ぶ。
前には2~3人いたが男の対応が手早く、すぐに自分の板が来た。
「ん?お嬢ちゃん新顔か? それも異邦人の」
「お嬢……ちゃん?」
不意打ちの言葉に固まる。振り返り自分を指すとユウもこっちを指してきた……
そういえばこの街の地元人と話すのは初めてだ、ここが中世の外国なら日本人は幼く見えると言われるからこの反応は間違いないだろう。
「子供扱いはやめて。もうそんな歳では無いから」
「ははははっ! いや、スマンスマン。異邦人ってのは人族でもエルフかって位、見た目が当てにならねえのが多いからな。それで、新顔だから登録で良いんだよな」
「そうだね……登録するのにいくら掛かる?」
「初回は掛からない。ただ、紛失したりすると手数料が掛かる。ほれ、まずは隣にある水晶に触ってみろ」
男のカウンターの脇にあったのは占い師が使うような丸い透明な水晶が猫足の台座に敷かれたクッションの上に乘っていた。
言われた通りに壊さない様に触れてみる。
すると、水晶の中心が淡く光始め神代文字が水晶の中から浮かび上がり、人肌程度の熱を帯び始めた……
「あ、これってもしかして魔道具か?」
「そうだ! この魔道具はギルドが生みだした最高傑作の1つだ――っと」
水晶の正体に気づいたユウに自慢げに答えた男は水晶の台座を慣れた手つきで白いカード状の物を手に取るとそれを眺め始めた。
「えっと名前は……シオで良いのか?」
「え?そうだけど……」
あれ? 名乗ってないよね?
「種族は人族。年齢、後は省略っと――」
「うわ、端折った。雑過ぎんだろ」
「うるせぇ。冒険者なんて名前と種族が分かれば良いんだよ。後はこの魔道具から出たギルドカードで何とかなるんだよ。ほれ、お前さんのギルドカードだ」
8割適当になっていたのをユウが指摘すると、ぶっちゃけ始めた男。
そして先程眺めていたカードをこちらに差し出した。受け取るとやはりこちらの世界の文字が何か所かに書かれた白いカードだった。名前が分かったのはこのカードが理由か。
===============
イベントアイテム
・ギルドカード レア度-
ギルドに登録した際に貰う身分証。これはギルドだけでは無くあらゆる施設で身分証として使用できる。カードには以下の事が表記されている。
Name:シオ
Race:人族
Rank:F
Guild:冒険
===============
【ギルドカードを手に入れた】
【称号『新米冒険者』を手に入れました】
【冒険者ギルドに登録しました。依頼を受けてランクを上げましょう】
何か一気に通知が来たな。とりあえず一番気になる称号だけ見よう。
===============
称号
・『新米冒険者』
冒険者ギルドに登録したばかりの冒険者。
===============
うんそのまんまだ。どうやら実績を残すと称号が得られるようだ……
「登録した後何だが、ギルドについて説明があんだが……必要か?」
「お願い」
奥さんからの情報はあくまでβ版の情報。正式版との摺り合わせは早い方が良い。
「んじゃあ横に避けてろ。後ろの兄ちゃんの登録を済ませたら一緒に説明してやるから」
「邪魔になるんじゃ……」
「安心しろ! ここに並ぶ奴なんて仕方なしが多いんだ。同じ時間が掛かるんなら他の列に並ぶって。俺もそうする!」
「はい……」
もはや何も言えない……
そのまま横にずれて、今度はユウの登録を待つ事にした――