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ゲームに誘われました

「ふ~ん、偶々くじ引きで当たったっと」

「そうそう。どうせなら3位のフライパンセットが欲しかった、通販で宣伝してた奴」

「主夫だな~そこは特賞取った事を喜びなよ」


 夕食後、後片付けの食休み。2人の間には例のアレが存在感を放っている。


「使わないのに何で?」

「え? やらないの『F.W.O』?」


 『F.W.O』は『Far World Online』の非公式の略称。『フォー』とも読めば『エフオー』とも読まれる。全部奥さんの入れ知恵だけど。


「これ系ゲームは見る専だったし、後はTRPG位しかしてないし……」


「ああ……RP(ロールプレイ)狂だもんね」

「家が厳しかったからね」


 学生時代は親は厳しいし学校は全寮制だからゲームは据え置き機は基本禁止。

 ただパソコン類は大丈夫だったのでひたすらボードゲームやオンラインで寮内の人達を巻き込んでひたすらTRPGを遊びまくった記憶しかない。


「折角のプレミアム何だしさ~……と言うか特典ってあんの?」

「箱には何――って!」


 疑問と同時に箱を開封し始めたよこいつ。


「お、限定カラー!」

「あ、コラ! 勝手に開けるな」


 取り出された思念デバイスはゴーグルと骨伝導型ヘッドセットを一体化させたスタイリッシュなデザインで。ヘッドセットの部分を耳に引っ掛け、前後に回るリングで額と後頭部を同時に押さえて支えるタイプだった。カラー艶消しのシルバーでリングの部分に『F.W.O』のロゴとシリアルナンバーがデザインされている。あ、その略称公式になったんだ。


「いいな~私の時は赤、青、白、黒の4色だけだったのに」

「良かったらあげるよ」

「ふっふっふっ……心配ご無用!実はサービス継続のβ版テスター特典として最新の純正品と交換出来るのだ!性能はこれと同等だね」

「ああ~そういえばやってたよね。寝る間も惜しんで……」


 そう、何でこの奥さんが『F.W.O』に詳しいのか。それはこいつが『F.W.O』のβ版テストプレイヤーの抽選に当選してほぼ毎日ゲームに没頭していたのだ。

 …それに関してはとやかく言うつもりは無い、仕事も家の事もちゃんとしてくれたし。寝不足に関しては自業自得だけど。


「思念デバイスはもう自前のがあるし」


 そう言って自分が掛けている眼鏡を指す。


「でもそれって医療用でゲームするには厳しいでしょ?」


 奥さんの言う通り。

 自前の思念デバイスは一般販売ものと違い。常時使用を前提としたタイプで一般の物より長時間使用による精神負担を減らしている。なので当然高い、国からの承認で保険がきいてやっと一般向けのデバイスと同価格で購入できると、すごく面倒臭い代物なのだ。


「いいじゃん、普段用とゲーム用に使い分ければ。同期でデータ共有出来るでしょ?」


 確かにそれなら付け替えても問題なく使える。ゲーム用だから動く必要ないし。


「基本は無料だし定額(サブスク)はファミリープランを組めば年間で半分もお得だから」

「……因みに加入特典は?」

「アバターのパーツ増加、ゴアやセクシャル的な描写変更、痛覚の調整あとは――」


 次々と特典を並べてくる……今日はやけに良く喋るな?うちの奥さんはこう言っては何だけど、うちの奥さん頭は良いが考えるより先に体が動く、口より手、とにかく本能に忠実な行動派……つまり馬鹿なのだ。

 そんなにゲームをさせたいのか? いや、こいつの場合サプライズとか言ってこっそり買っていたり……そんな事ならこいつの財布の紐を更に絞らなきゃ……


「あ~……ほら、テレビ! サービス開始直前の特番組んでいるんだよ!」


 疑問の目を向けていると、目を泳がせて突然テレビをつけ始めた。

 テレビでは『F.W.Oサービス開始直前スペシャル』のモニターを後ろに数人の芸能人達が話していた。


『とうとう明日ですね。皆さんはもう手に入れましたか?』

『私は(ようや)く手に入れました』

『自分はβ版テスターだったので引継ぎです』

『カミさんにせがまれて買った……けどな! これ買って出来んのは、仕事無いコイツと暇な時間を持て余しているウチのカミさん位だよ!』

『コラー!!』


 現在人気の若手芸人の叫びに相方がツッコミ、周囲から笑いが響く。

 …まあ空き時間はあるよ?けど暇な訳無いんだけど。


『──さぁ、それではF.W.O。Far World Onlineとはどう言うゲームなのかもう一度詳しくご覧ください』


 MCの言葉と共にVTRに切り替わる。四隅に出演者のワイプがあるのは御愛嬌。

 壮大なグラフィック、精密なキャラクターCG、派手な戦闘シーンが流れる映像にワイプの出演者が百面相している。


 Far World Online──それは遥か遠くにあるもう一つの世界。

 ジャンルとしてはフルダイブ型VRMMORPG。VRゲームは今まで幾つも販売され人気を(はく)するのも多いがそれは飽くまで現実でコントローラーで操作するもの。

 しかしこれは従来のVRでの視覚・聴覚のみならず、嗅覚、触覚、味覚と五感全てに働きリアルにゲームの世界を歩き回れる。VRゲームとしては世界初である。

 しかも、情報公開当時のフルダイブVRは長期間のリハビリの医療用や建設のロケハンの為や実験や検証等と企業用シュミレーションが通説だったが、情報公開からβ版テスターと数年時を経て一般向け公表された時はまさに偉業だった。

 世界設定はド定番の剣と魔法の王道ファンタジー。戦闘だけでは無く、武器を作り道具を作り生産も出来る。更に釣りや土地を買い農作と手に入れた商品を売り歩くと様々な産業も可能。

 そして最大の魅力であろう豊富なスキルの組み合わせにより、自分だけの分身(PC)を創れる。安定を行くのも良し、ネタに走るのも良し、全ては自分次第。

 フルダイブ型のVRゲームの最大の利点は体感時間の引き伸ばしと、NPCのリアリティー向上。

 体感時間の引き伸ばしは文字通りゲーム内では時間の流れが緩やかで。F.W.Oでは、ゲーム1日が現実では6時間らしい。リアルの1日=ゲームの4日という計算だ。

 もちろんそんな長時間フルダイブ型を使用できる訳が無く。現実で尿意、空腹、喉の渇き、3時間以上のプレイ等で警告が通知される。また、指定された時間が迫るとアラームが通知されるので。警告がされてもプレイし続けて体に支障をきたしても自己責任と。

 F.W.OのNPCは今までのゲームと違い、『感情』を持ち『思考』する。つまり普通の人間と大差無い。つまり()()()()()という事。NPCが死ぬとそのキャラはロスト……つまり二度と現れ無いのだ。それに感情あるのでNPCだから、と言ってあまりにも横柄な態度や不快感を与える行為をとっていると悪印象を与え。NPCから冷たくされ素材の取引等が出来なくなる。

 ……そんなリアリティを極め尽くした様なこのゲームと体験したβ版テスターは声を揃えてこう答えた『本当に別世界』『まさに異世界転移』『リアル過ぎて違和感ゼロ』──


 Far World──まさに遠い世界(ファルワールド)の物語──






 ……と奥さんの補足を交えてテレビの内容を聞いた。


「うーん……」

「お? 気になっちゃう? やる? やっちゃう?」

「それは置いといて。NPCについて何だけど、自由を謳ってるけどその話を聞くと悪役(ヒール)プレイは不利な様に聞こえるけど?」

「あーそれはそれね。そういうのを楽しんでる奴もいるけどある程度常識の範囲でやる事になっているの。β版にもいたよ、大量殺戮してそうなピエロみたいなRPしてNPCの子供達に人気のプレイヤー」

「ゴメン全く想像出来ない」

「有名RPGのラスボスみたいなやつ。だから常に浮いてて、子供達の人気もあったし、子供の服を直したりしてて有名な生産職だよ」

「その人が何をしたいのか分からないけど。道理を弁えてれば多少のルーニーは良しと」

「あと、自分はこの世界を救う使命があるとかRPに酔って、他人に自分のご都合主義な考えや善行を押し付けて、自分基準の悪の一切を糾弾する迷惑クソプレイヤーとか……」

「やたら私怨が籠ってるね」


 善人(ヒーロー)やってもよし悪人(ヒール)やってもよし、常識を弁えていれば向こう(GM)はスルーっと。善行も悪行も度が過ぎれば、ただの迷惑行為だし。そう言う裁量は運営任せか。


「――で、本題なんだけど。何でそこまでF.W.Oやらせたがるの?」

「――実はβ版でギルド作ってて、そこのメンバーが1人除いて既婚者なんだけど。私が旦那自慢してたら、その独身女から『妄想乙』等脳内扱いしやがって……だから結婚出来なんだよ」


 知らない所で個人情報晒されて、架空の人物扱いされてるんだけど……


「仕方ないじゃん! 特定されない様にぼかして本当にあったこと言ったら『そんなハイスペックイケメンがアンタと結婚する訳がない!』と言って妄想扱いだよ、あの独身女!」

「そんで妄想(仮)の旦那を連れてこい……って話になったの?」

「正解! さすが私の旦那さん!」

「正解じゃない! 何で当事者を他所に約束してるのさ、売られた喧嘩買いすぎ」

「ゴメンゴメン! まあでも正直それだ! って思ったね」

「それ?あ、ゲームに誘う口実?」

「うん。本当はさ、リセットされたステータスをある程度戻ったら、本体ごと買ってサプライズしようかな~って」


 本当にやろうとしてた……


「そしたらさ、F.W.Oの世界で一緒にデート出来るし。ゲーム内での時間は長いからゆっくり出来るじゃん」


 そういえば最近は奥さんの仕事で忙しいし、休日はβ版F.W.Oで1日の半分以上遊んでたし……デートらしい事はしてなかったな……


「……それもそうか。じゃあしようか」

「え? マジ?!」

「何で誘って驚いてるの? 君の言う通りゲームでのデートもちょっとした海外旅行見たいで楽しそうだし。それに──」

「それに?」

「もしこのまま正式版F.W.Oを始めたら、ゲームと仕事を徹夜してぶっ倒れそうだから」


 さすがにそれは不味い。主夫としてそれは阻止せねば──


「それは大丈夫! β版でもその辺はちゃんとしてたから! けどまあ……」

「どうしたの?」

「いや、私はβ版の抽選で、あんたはくじ引きでF.W.Oを当てるって。よっぽど運が良いな~って」

「確かに、そうなると揺り返しが怖いね」

「もう来てる」

「え?」

「有給取れなくなって今週はずっと仕事……タブンゲームデキナイ」


 乾いた笑いを浮かべた奥さん。

 楽しみにしていた正式版F.W.Oのスタートダッシュに見事に遅れたようだ。

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