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鈴木クロニクル  作者: 海老名束咲
8/10

近藤 ②

近藤戦、本格的に始まりました

「よお、ガキ共。待ちわびたぜ」


 頭一つ、そんな次元ではない。優に二メートルは越えているであろうその体躯、鍛え抜かれた頑強な肉体はそびえ立つ山のよう。


「あんたが、近藤ね。その赤鎧に大剣、聞いていた通りだわ」

「いかにも、というより俺が近藤じゃなかったら嬢ちゃんたちはどうしてたのさ?いくらでも逃げるチャンスはあったんだぜ」

「私もフィアも完全になめられていた、という事ですね。おそらくしばらく前から、私達の動向は監視されていた」

「当たり、と言いたいところだが少し惜しいな。正確には嬢ちゃんたちがこの街に入ってきたときから、だな」


 そう言って余裕の笑みを浮かべる近藤、二対一、俺も含めれば三対一のこの状況でも心なしかあちらに利があるように思えるのは俺だけだろうか。


「さあ、始めようぜ。せっかく嬢ちゃんたちと本気で戦うために用意したフィールドなんだ。そこにいるお前も遠慮してねえで、とっとと俺に掛かってこいよ!」


 ギロリと輝く両の眼は俺をとらえる。うまくドアの向こうに隠れたはずだったが、あの大男相手には意味をなさないらしい。


「生憎だけど、あいつは戦闘要員じゃないの。だからね近藤、あんたは私たち二人で片づける」


 先に動いたのはアミフィアの方だ。左前腕の防具を開き固定する、いとも簡単に弦を取り付けクロスボウを完成させた。近藤がパンチを放つその隙に横移動、背後を取ったアミフィアが吼える。


「最初から、本気でいかせてもらう!」


 アミフィアのクロスボウが光に包まれる。光と共にポンとあらわれた三発の矢。


「あらよっと」


 すかさず後ろを振り返った近藤が、その全てを薙ぎ払う。振った大剣を肩に担ぎ勝ち誇った笑みを浮かべた。


「矢の無限生成、一度に三発は作れるようになったか。ま、俺の前では無意味だがな」

「あらそう、じゃあこれも無意味だっていうのかしら?」


 そうだ、アミフィアにはまだ隠していた一手がある。大剣を振った一瞬、自分の剣で見えなかった隙に打たれた無数の矢になど、気付けるはずもない。


「アロー・レイン!」


 決まった。虚を突かれた顔の近藤が矢の雨に消えた。あれがアミフィアの実力、ナイフで戦っていた時とは違う落ち着きと力強さを感じる。


「やったか?」


 思わずそう叫んでしまった途端、背筋が凍るような寒気を覚えた。近畿に触れたような、とにかく何か嫌な感じがする。


「ふぅ、こいつはなかなか効いたぜ。うまい手を考えたもんだ」


 雨が止んだ後、近藤は笑っていた。鎧の耐久性と身のこなしで殆どの攻撃の芯をずらし、守りきれなかった頭もそこまで重症は負っていない。右手には一本の矢を持っている。


「やっぱりバケモンね、あんたたちは」

「この程度でバケモンなんか名乗れるかよっ!」


 近藤の手にあった矢が消えた。消えたのではない、近藤が投げたのだ。人間の視認できるスピードを凌駕して。


「まさかっ――」


 瞬時に矢を放ち投げつけられた矢にぶつける。かち合ったそれは大きな爆発を起こしてアミフィアを部屋の奥に叩きつけた。


「どういうつもりよ、これ」

「どういうつもりも何も、ちょっとした気まぐれさ。俺の能力を教えてやろうと思ってな。俺の手で触れたものを爆弾にする、威力と範囲は俺次第、一度に爆弾にできる個数は……自分で考えてみてくれ」


 煽っている、自分の手の内を明かしてもこの男にはアミフィアにかつ算段があるのだ。その事実を強調するように、部屋の奥で起き上がったアミフィアはもうボロボロで、立てる方がおかしいというほどだった。


「今度は、こっちから行くぜ」


 残酷な死の宣告、石造りの床がゆがむほどの踏み込みで突進を仕掛ける近藤。


「まだ、負けない」


 逃げようとその場を動くアミフィア。しかし逃げた先も大剣の軌道に乗ってしまう。必死に屈んだ先で爆発が起こった。


「せっかくの忠告も、俺の誘導に従がってちゃ意味ないぜ。もっと頭を使いな」


 そこからは完全に近藤のペースだった。大剣と拳の雨あられ、一見乱雑に打っているように見えるそれも完璧に計算されつくしている。アミフィアが逃げる先、逃げさせられた先には必ず爆弾が仕掛けられている。それも一撃ではない、この数分のうちに何十発もだ。そこまで予測し誘導し尽くす頭脳、そしてとどまることを知らない設置された爆弾の数。数は自分で考えろ、と言っていたがこんなもの考えなくたって分かる、無限だ。近藤はこの部屋の中にいくつもの爆弾を仕掛けた状態で俺たちを出迎えた。


「おいおい、もう終わりっていうんじゃないだろうな。ここまで俺を待たせたんだ、その分目いっぱい楽しませてもらうぜぇ」


 アミフィアを終わらせようとする本人がそう叫んだ。もうほとんど抵抗しなくなったアミフィアの首を掴んでは投げ掴んでは投げ、床に叩きつけられるアミフィアの姿は見るに堪えない。近藤、俺がこの世界で初めて見た敵はゲームの雑魚モンスターのそれとは一線を画していた。安っぽい言葉で言うならチートというのがうまくはまるだろう。圧倒的な強さ、恐怖、それを見てただ立ちすくむことしかできない。


「やっぱり、弱いな」


 慢心していた。俺は異世界に来たんだと、陳腐な物語りの主人公たちのようにラッキーでもらえたあの圧倒的なパワーで、もしかしたら芽生えるかもしれない特殊能力で、何でもできる超人に、やがては元の世界に戻っても万事うまくいくような人間になれるもんだと思っていたんだ。だが今の俺はなんだ、目の前で近藤相手に虫の息のアミフィアをただ見ることしかできずに、前に進もうとしても足がすくんで動けない。なんてざまだ、なんてダセえ男なんだ。

 もう一度、アミフィアと近藤を見る。マウントポジションを取られなgられつづけるアミフィアは虫の息だ。ぼこぼこに晴れ上がった顔面からはもう表情を読めない。それでもかまわず殴り続けるのだ、あの近藤という男は。


「鈴木の野望、打倒佐藤。大層なことを言うのは勝手だ、好きにしな。だがな、そいつを実行するのはちょいと訳が違う。実行ってのは強い奴、力のあるやつのすることなんだ。つまりはなあ」


 近藤が両拳を振り上げた。嬲るようにして加えていたさっきまでの攻撃とは違う、確実に相手を破壊するための一撃。その軌道は実に直線的で、普通だったら子供でも避けれてしまうような一撃だ。しかし、今のアミフィアには良く効く一撃だ。


「お前には力ってもんがまるでたりてねえんだよお!」


骨の砕ける、嫌な音がした。これまで生きてきた中で相当するものの見当たらない、聞くだけで痛みを感じる音だ。


 折れたのは、近藤の拳だった。


「防護壁、あまり無茶をしないでください。無駄な魔方陣を書いてしまったじゃないですか」

「ごめん。でも、信じてた」


 完全に忘れきっていた。アミフィアと近藤の戦いで、早いうちに身を隠していたエレオノールの事を。それはきっと俺だけじゃないだろう、どんなに戦いに長けた者でも、あそこまで優位な状況で、相手の打つ逆転の一手を考えられる者はそういない。虚を突かれた近藤を振りほどき、アミフィアとエレオノールが合流した。


「ここまで作戦のうちってか、こいつはしてやられたな。だが良いのかい?こっから先は、二人纏めてぶちのめされるだけだぜ」

「いいえ、それは違います。今からぶちのめされるのは近藤、貴方の方ですよ」

「おいおい何の冗談だよ、って何だこりゃ?」


 近藤の足元から伸びた鎖、たちまち足と腕を掴んで近藤の身体を空中に押し上げた。必死にもがいてはいるがあれを層にかするというのは無理な話だろう。


「随分と時間をかけさせられましたがこれで終わりです。能力暴走!」


 鎖が赤く光り爆発を起こす。黒い硝煙の中から白目をむいた近藤が顔を出した。


「あとはフィア、任せます」

「了解したわ」


 ムクリと起き上ったアミフィアが、大弓に矢をつがえた。さっきまで虫の息だったのが嘘のように思える。


「随分と手こずった初戦だったけど、これで終わらせる」



「強弓、シラハ――」


最近後書きに書くことが全然なくて困っています。皆様楽しんでいただけているでしょうか?悪い点などは指摘していただければ、今後の参考にもなりますので是非感想やレビューの欄にお願いします。

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