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鈴木クロニクル  作者: 海老名束咲
6/10

武器

申し訳ありません、曜日感覚が完全になくなっておりました。今週からは週一投稿に戻します。

 修行とは名ばかりの戦闘から一晩が明け、体の傷はエレオノールの治癒魔法もあり今朝起きた時には治ってしまっていた。


「にしてもすごいな、こんな奇跡みたいな事起こせるなんて。エレオノールさえいればもう無敵なんじゃないか?」

「そうでもありませんよ、私の魔法は全部魔方陣を書きあげないと発動しません。殊に複雑な魔法ならその魔方陣もどんどん複雑になってきます、一部の魔法なら声に出して詠唱しても発動できますが、これは咄嗟の変更には対応しきれないので」

「そ、簡単な魔法はエルの腕に刻んでいつでも発動できるようにしているけど、複雑なやつは体になんて刻めないしね。魔法でたいていの事は出来ても、あたしのサポートが無いと実戦では使えないのよ」


横で聞きながらエレオノールが腕をまくった、墨で書いたみたいなそれが魔方陣というやつなのだろう。


「あ、来たみたいよ。って誰?お粥なんて頼んだのは」

「ああ、それ俺だ」

 

そう言ってアミフィアからお粥を受け取る。俺が起きたのがもう昼過ぎだったので宿の朝食が取れず、近くのレストランに立ち寄り今は朝食兼昼食の最中だ。


「肉体的なダメージは取れたんだがな、なんか精神的にがっつりした物を食べる気になれないんだ」

「ふーん、ジジくさ。精神ダメージだか何だか知らないけど、明日までには何とかしておきなさいよ、そんな状況じゃ勝てる相手にも勝てないんだから」

「ああ、そうしとく」

 

ならよし、と言ってアミフィアは持っていたサンドウィッチを口に放り込んだ。隣のエレオノールはさっきから無心でスパゲッティを啜っている、ちなみにこれで五皿目に突入するみたいだ。さて、俺のもとへ来たお粥に目を移そう。適度に温かいお湯につかったご飯に赤い実がのっているだけの素朴なおかゆ、木の食器に入っているのが少し好感を持てる。


「とりあえず、いただきます」


 赤い実を適当にほぐし米と一緒に匙に入れゆっくりと口に運ぶ――


「なんだこれ、甘っ!」

「何よ突然大きな声出して。甘いなんて当然じゃない、これワムイが入ってるもの」

「ワムイ?なんだそりゃ」

「梅干しを乾燥させて砂糖とかに漬けたやつよ、これの入ったお粥って風邪のときに出てくると美味しいんだけど」


まったく何を考えているんだか、梅干しがあるならそのまま入れるでいいじゃないか。それをわざわざ砂糖漬けするなんて


「味覚障害としか思えない」

「まあ大陸が違っても好みに違いはあるんだし、別の世界から来たって言うならそのくらいの違いがあっても仕方ないわよ」


そういうものか、と簡単に納得できるものでは無いが今はこの甘すぎるお粥でも食べるしかない。どうにかして自炊をする手段も考えてみよう。


「あ、この後あんた用の武器を拵えに行くから着いてきなさい」

「俺用の武器、か。どんなのを使おうかな」


 甘いお粥に少々ダウン気味だったが、こういう話は否が応にもテンションが上がる。俺とて日本人だ、その手のゲームの一つや二つは嗜んでいる。


「まあ、簡単な籠手とかナックルダスターあたりでしょうね。それとも何か武器を使った武術に覚えが」

「ありません」


 なんだろう、少しテンションが下がってしまった。どうせなら剣や弓とかを使ってみたかった。


「よろしい、エルが食べ終わったら出発だからそれまでは適当に待ってましょ」


 結局、店を出たのはそれから三十分は経ってからだった。ここまでにエレオノールが空にした皿の枚数は十五枚、少し食べすぎだろ。


「ああ、お前たちか。今日は何用かね?」

 

 そう言って出迎えてきたのは武器屋の主人だ。一昔前の少年漫画に出てくるようなゴリゴリの体躯に額の傷、歴戦の戦士を思わせるような風貌に思わずたじろいでしまった。


「こいつに合う武器を拵えに来たの、後はエルの杖の調整をさせて頂戴」

「奥の部屋が空いてる、してそいつの武器は?」

 

奥の通路に入っていったエレオノールを見送って、アミフィアがうんと唸る。


「見ての通り素人だし、下手な武器は与えずに格闘だけで戦った方がいいと思うんだけど、あんたからみてどう思う?」

「そうだな、少し確認しよう」


 いかつい巨漢店主が近づいてくる。立てばその屈強さがより伝わるもので、背丈は俺の頭二つ分上だった。


「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は剛田という、一応元軍人で今は見ての通り武器屋をやっている」

「どうも、俺は亮介。今まで武器とかは持ったこともないんで、合うものをお願いします」

「名字は分からんがフィアの紹介だ、パワーやスピードはある方だろう。問題は筋肉の付き方だな、バランスこそ良いが実践的じゃない。扱うのに癖のある獲物は持つべきじゃないな」


 流石は元軍人、俺の腕を少し見ただけでここまでわかってしまうとは。確かに俺は運動部で鍛えてはいたが、生まれてから喧嘩というものを昨日の一件以外経験していない。


「それじゃあ、俺の武器は」

「確かに坊主には近接格闘が向いてるだろうな。それならこっちの棚に良いものが」


 そう言って剛田が取りだしたのは大きめの木箱。開けてみるとに入っていたのは一つだけのガントレット、ゲームで見るような華美な装飾は無いが無骨な鈍色が中々味を出している。


「良いだろ、坊主。別に際立って綺麗ってわけじゃないが性能は折り紙つきだぜ」

「ありがとうございます。でもこれもう片方が」

「無い、こいつは元々片手用だ。坊主がスピードとパワーを生かして戦うのならこいつは大いに役立つさ、片手で牽制を仕掛けガントレットの重い一撃を放つ。坊主もそれくらいは覚えた方がいい」

「は、はあ」


 呆気にとられる俺をよそに剛田は簡単に調整を終わらせてしまう。


「これくらいで大丈夫か。坊主、試に着けてみろ」


 手渡されたガントレットを嵌めてると俺の手にぴったりだ。全体で俺を包んで、動きだけで言えば何も装備していないのと全く変わらない。


「ぴったりみたいだな。調整は、フィアがやった方がいい、後でやり方を教えよう」

「ええ、それでいいわ」

「てなわけだ坊主、これで今日からこいつがお前の相棒だ。もっともいつかは別の武器に乗り換えるかもしれんがな」


 ガントレットを箱に詰め、俺に手渡してくる。手渡された箱はズシリと重く、一瞬落してしまいそうになった。


「なあ坊主、お前さんはこいつを使って何がしたい?」

「何が、それは……」


 アミフィアとエレオノール、俺を救ってくれた二人の夢のため。あわよくば俺がもとの世界に帰る方法を見つけるため。いや、そうじゃない。剛田が聞いているのはもっと単純な、もっと簡単なことのはずだ。


 だったら、何だ?


 隣にいるアミフィアの顔を見る。昨日は俺が死にかけるまでの戦いを繰り広げた彼女は、ただきょとんとした顔で俺を見つめ返すのみだ。そういえばあの戦いの後、アミフィアはナイフを『慣れていない』と言っていた。じゃあ、アミフィアの『慣れた武器』はなんなのだろう。それを使った彼女に、俺は勝てる日が来るのだろうか。


「ああ、そういう事か」


 そう、それは何よりも簡単で何よりも単純な答えだ。


「俺は、強くなりたいんだ。誰にも負けない最強に、この拳で、俺の全てで」

「ハハッ、最強とは大きく出たな坊主。エルもフィアも坊主も、きっと腹に一物抱えてんだろう。確かにそいつは重要だ。だが男なら、誰しもが強さを追い求めるものだ、強くなりたいから強くなる。武器ってのはそういうやつの為に道を示すためのものなのさ」

「ああ、ありがとう剛田さん。何か、新しいものが見えたような。そんな気がしました」

「そうか、そいつは良かったな」


 腕を組みながら剛田が微笑んだ。手に持ったガントレットの箱は、心なしか軽くなったように思えた。


「行きなガキ共、今日の代金はもらわないでおく」

「え、なんで――」

「久しぶりに、いい目をしたガキに会えたからな」

「機会があったら、また来ます」

「おう、その時は俺とも戦えるくらいに鍛えておけよ」


 奥の部屋から、エレオノールが出てくる。彼女の杖の調整も終わったようだ。三人そろって店を出る。


「今終わりましたー、ってみなさん。何かいい事でも?」

「ええ、ちょっとね」



 宿に戻る前に二人とガントレットの試し打ちをしてみた。俺の拳は岩を砕き、あまつさえエレオノールの防護壁に傷をつけた。


「ふーん、剛田の奴なかなかいいのを寄越したわね」

「普通は違うのか?」

「はい。剛田さんの武器は元々評判こそ良いんですけど、気に入らない人には粗悪品を押し付けたりもするんです」

「まああの反応でもわかってたけど、相当気に入られたのねあんた。エルの杖も相当だけど、それ以上だわ」


少し恥ずかしいが嬉しかった。このガントレットも俺の拳によくなじむ、また一つ強くなれた気がした。


「さあ、もう大体分かったことだし宿に戻りましょ。明日に向けて体を休めないと」


 もう暗くなりつつある夕焼けの中、俺たちは帰路に就いた。


来週からは本格的な戦闘に入っていきます、お楽しみに。

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