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鈴木クロニクル  作者: 海老名束咲
5/10

修行

今週は二回投稿出来ました。やったあ

修行回です、少し戦うシーンもあります。お楽しみに

 あの後『飯田レストラン』にて食事を済ませた俺たちは店を出た後すぐに近くにあった安宿を取りそれぞれの部屋に入った。


「明日は六時に宿の前に集合か、ずいぶんと早いけど何をするんだろう」


 部活の朝練のおかげで早起きには慣れていたが、何せこの環境だ。胸が高鳴ってしまいどうも眠れるとは思えない。

 そんなことを思っていたのは束の間、少々固いがまともなベッドと毛布、ほんのりと落ち着く素朴な木の香りは眠気との相乗効果で俺をすんなりと眠りにつかせてしまった。


「遅い!朝ごはん抜きにするわよ」


 心地よい空間で眠れたのは良い、良かったのだが今度は起きる方に問題が発生した。約束の時間の三十分後に起床した俺を待っていたのは怒りの形相で待つアミフィアと少し眠そうな顔をしたエレオノールだった。


「それは手厳しいな。だがこんな朝早くに俺を起こして何をするんだ?もし書いて、今から誰かと闘ったり……」

「完っ全な素人連れて戦うバカがどこにいるっていうのよ。今から近くにある森に入るわ、とっとと着いてきなさい」


 そう言って走り出したアミフィアの背中が、どんどん遠くなっていく。


「これから森で、一通りの戦い方をレクチャーするので着いてきてください。と、フィアも言いたかったのだと」

「ああ、そうか」


 そう言って走り出すと、心なしか体が軽くアミフィアにも簡単に追いついてしまった。序盤で全力を出しすぎて体力が持たなかったのだろうか。


「はあ、はあ。あんた名字の身体強化があるからって、なんて素早さなのよ」

 

 いや、それアミフィアがただ遅かっただけでは、という言葉は飲み込んだが確かにおかしい。街からここまで軽く十キロメートルはあったはずだが対して疲れも感じられない、軽いジョギングを終えたような心地よささえある。もともと運動部で体力はある方だが、流石に人間をやめた覚えはなかったはずだ。ともすればこれこそが昨日アミフィアの言っていた名字の能力というやつか、これに何かまた新しい能力のおまけつきだと思うといやがおうにも心が浮足立つ。


「なによニヤニヤして、気持ち悪いわね。呼吸も元に戻ってきたしさっさと始めちゃいましょ」

「それで、まずは何をするんだ?やっぱり俺の能力の判定とか」

「それは今エルが準備しているわ。まずあんたにやってもらうのはこれよ」

 

 後ろで座り込んでゴソゴソやっているエレオノールを尻目に、アミフィアは目の前の木を指差した。


「ずいぶん立派な木だが、これでいったい何をするんだ?」

「今日はこれを倒しなさい。勿論道具は使わずに」

「よほど冗談が上手いようだが、本題は?」

「あのね、私達が戦おうとしている相手はこんな木ごときじゃ比べ物にならない位に強いのよ、これを倒せたら岩を砕いてもらうわ」


 何を言っているんだ、俺はこれまで喧嘩の一つもしたことないくらいの一般人だぞ。そんな俺にいきなり木を倒せとは、よほど俺をこの戦いから引き離したいとしか考えられない。


「まあ、いいさ」

 

 この理不尽を拳にのせて、我武者羅に目の前を叩き殴った。ガコッ、と大きな音を立てて全身を砕かれるような痛みが走った。俺の前に先まであった木の姿は無く、ただぽっかりと空き地ができていた。


「何よ、この訳わからないパワー」

 

 やっぱり、この世界の人から見てもおかしいよな。まだ痛みの残る拳を見つめ少しだけ自慢げな気分になった。


「これなら、今日中に岩も砕けそうだな」

「ごめん、それ中止。あんたのパワーは分かったけど、致命的な問題に気付いたわ」

「なんだよ、今のじゃ何か駄目だったのか?」

「ええ、パンチのフォームも後の思考も全然なってないわ。よっぽど平和な環境で生きてきたみたいね、喧嘩の基礎すらなってない。だから」


 そういってアミフィアが取りだしたのは銀のナイフ、良く研がれた刃は木漏れ日を反射して俺の目を焼く。


「私が稽古をつけてあげる」


 

 銀の網が、張り巡る。冷静という色を瞳に湛えたまま、アミフィアの腕は無慈悲に振り下ろされた。


「いつまで守りに徹してるのよ、本物の敵はそんな悠長に待ってくれないわよ!」

 

 そんなことを言われたって、あの早すぎる刃の糸をどう攻略しろって言うんだ。


「くそっ」

 

 アミフィアの腕を振り払い、闇雲な一撃を叩き込む。先程見たあの威力だ、当たってしまえばこちらのもんだろう。


「甘いっ!」

 

 回り込まれた。パンチを打った隙を狙うアミフィアのナイフが、俺の背筋を凍りつかせる。


「グオッ」

 

 我ながら格好の付かないうめき声だ。だが助かった、ちょうどそこにあった木の枝に逆上がりの要領で跳び乗る。ここから跳び蹴りを食らわせて――

 ドテッ、と大きな音を立てて尻餅をつく。アミフィアの背を狙ったはずの脚に用意されていたのは針の筵、あの連撃をくらってしまえば俺はもう再起不能だっただろう。


「なかなか機転は利くわね、でも私から一本取るにはまだまだっ」

 

 陽炎、刹那の間世界の空気が揺らめいだ。俺の肉が、乱雑な赤い筋を刻んでいく。


「乱影、もちろん急所には当ててないけど結構痛いでしょ。これくらい見切れるようになりなさい」

 

 あが、あば、みたいな呻き声しか上げられない。急所には当ててないだと、それでここまで痛いのか。もう、こんな思いはしたくない。でもアミフィアは攻撃をやめてくれない。


 

 ならば、勝つだけだ。



 よく見ろ、俺が昨日言ったことはこういう事だったんだ。ここでアミフィアに一杯食わせられないようではここから先の戦いを生きていく事すらできない。それができなきゃ二人を追う事も出来ないし、もしかしたら見つかるかもしれない帰る方法を探すスタートラインに立つことすらできないのだ。だから俺は、勝つ。眼前に突き立てられたナイフを躱し、反撃のチャンスを窺え。


「ふーん、やればできるじゃない。今のあんたはさっきより成長しているわ、確実に。でも、まだこの修業は終わらせない」

 

 狂気的なスピードにのせた一撃、と思わせて背後を取られる。すかさず木を切り倒して目くらましをする。振り返ればすでに綺麗な木材になった木の粉塵からアミフィアが迫ってきた。足を地につけナイフの連撃をあと一ミリくらいの所で躱しつづける。


「くっ」

「そろそろ体力も限界でしょう、これで決める。乱影」


 来た、さっきの蜃気楼だ。目にもとまらぬ連撃、でも集中すればよもや――


「がああああああ」


 切り傷が穴となって、俺の血脂を絶え間なく垂れ流しつづける。もう体の半分以上は感覚すらないだろう。


「流石に、まだ見切れるようなものでは無いわよね。でも安心しなさい、後はエルに回復するよう頼むから。あの子の治癒魔法、結構性能が……」

 

 おもちゃ屋で駄々をこねる子供のように、俺はアミフィアの腕を掴む。


「まだ、だ。まだ俺は、死んで、ない」

 

 自分でも何を言っているのかわからない、でも、この勝負だけは終わらせてはいけない。この勝負は偽物、そう言い切って次の機会というやつに身を任せてしまっては、俺は今掴もうとしている何かを永遠に見失ってしまう気がしたから。


「あんたね、そういうのが素人だって言うのよ。いい?これはあくまで修行、練習なの。今の傷なら明日起きるころには完治してる、でもこれ以上やったら体が」

「関係、ない。まだ俺は倒れちゃいねえ」


 そう言って一人で立ち上がると俺はファイティング・ポーズをとった。筋肉を今一度引き絞って、ボタボタと流れる血を一時的に止める。随分前に、ボクシング中継で見たもののコピーでしかないが。


「呆れた。素人だとは思ってたけどここまで判断能力が無いなんて……いいわ、受けてあげる。どっちかが倒れるまでのデスマッチよ、これであんたが先に倒れたら、私達はあんたを置いていく。どうする?今ならまだ引き返せるわよ」

「それで、いい。じゃあ行くぞ」


 ニヤリと口角を歪め攻勢に出る。不思議とアミフィアも同じような表情をしていた。


「もう手加減なんてしてあげない、狂乱影!」


 アミフィアの瞳が真っ赤に染まる。漆黒のオーラのようなものを纏い何度目かの乱雑な連撃、間違いなく先の二発より圧倒的に早く重い。


「ぐああああああ」


 俺とてこのままやられてしまっては、不恰好な啖呵を切った意味が無い。どんなに無意味な攻めだったとしても、億が一の可能性にでも賭けてみるしかない。この中の一撃がアミフィアに当たりさえすれば……


 両者一歩も引かぬ勝負はもう数時間が過ぎただろうか。俺もアミフィアも、攻撃が当たらぬままただ体力のみ消耗していった。


「終わらせる!」


 そう言ったアミフィアの超加速、彼女はここにきてもまだ体力を温存していたのか。だが、何かが違う。さらに鮮明になった銀の糸、相も変わらず零れ落ちる血と汗の滝、狂気に堕ちた互いの呻き声、変わったものと言えば空の色くらい――

そうじゃない、俺の中では決定的に何かが変わった。それに気づき俺は、鋭さを増しつづける蜘蛛の巣に足を踏み入れた。


「はあ、はあ、もう観念したかしら。じゃあ、お望み通りここで修業は終わりにしてあげる!」


 蜘蛛の毒牙は俺を刺した。先程とは明らかに違う、『教える』ためではなく『突き放す』ための無慈悲な攻撃が襲い掛かってくる。


「これでぇ、終わりっ」


 そう言ってアミフィアが振り上げた銀のナイフは、夕焼けに反射して俺の目を眩ませた。


「この時を、待って、いた……」

「あんた、まさか」


 このチャンスだけは逃してはいけない、そう叫んだ心のままに俺はアミフィアの腕を掴んだ。


「最後の一撃に生じる油断、あの一回を受けた時にはもう勝敗は決まっていたんだ」


そう言いながらもアミフィアの顔は笑っていた。


「俺も、戦いながらでしか見つけられなかった答えだがな。ありがとう、アミフィア」


 止めの一撃、全体重を乗せた掌底をアミフィアに叩きつけようとしたその時


「防護壁」


 拳の先には、透明の壁。もうボロボロになった右手はとうとう使い物にならなくなってしまった。


「もういいでしょう、フィア。彼の能力判定も必要なくなりましたし」


 と、草むらから出てきたエレオノールが言う。


「ええ、これは文句なしの合格ね。あーあ悔しいなぁ、いくら使い慣れていない武器だからって初日に負けるなんて」


 『防護壁』が無くなり支えを失った俺はそのまま地面に倒れ込んだ。


「すないが、説明と手助けを頼んでいいかな」

「ああ、ごめんなさい。それにしてもあんたには驚かされたわ、動きはまだぎこちないところが多いけど状況判断力とパワー、それからあの最後の気迫はもう一人前よ」


 話しながら、アミフィアにおぶられる。少し恥ずかしいが、一人で歩くには足の疲労は溜まりすぎていた。


「明後日の夜私達は街にある屋敷の主人、佐藤軍の幹部である『近藤』に勝負を仕掛けます。部屋まで迎えに行きますから、それまでに体を治しておいてください」

「と、言う事は」

「ええ、修行は終わりよ。私達で用意できる相手で一番強いのは私だもの。本当ならもう少し決行日が伸びる予定だったけど、これなら大丈夫そうね」

「ああ、まずは見学をさせてもらってそれから同行するかを考えるよ」


 最大限の前向きな台詞に二人は、やれやれといった調子で溜息をついた。


「ま、それはあんたの自由だからとやかく言わないけど、とりあえずよろしくね、亮介」

「私からも、よろしくお願いします。亮介さん」


 二人からそう微笑みかけられると、俺も少しはドキッとしてしまう


「おう、よろしく頼む」

初めての戦闘シーンでしたね。何かおかしな点等あれば感想にお願いします、より良い小説を書けるよう努力します。

来週もできれば二回投稿するので、良ければお付き合いください。

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