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鈴木クロニクル  作者: 海老名束咲
4/10

名字の世界

数日ぶりですね、御無沙汰してます。この一連の騒動で筆者にもかなり時間ができましたので、今週は二話投稿させていただきます。たぶん四月いっぱいはこの方針でいきます。どうかおつきあいを

「あー、大体理解できたわ。うん。つまりあんたは異世界人で、電車で事故った結果死んでこの世界に来たのね」

「はい、たぶんそんな感じだと思います。お二人の話を聞く限りここがもとの世界と同じものだとは考えにくいですし」

「同感ね、本当にそんなことが起きるのかはともかく、あたしもあんたがもとからここら辺にいたとは思えないわ」

 

二人の少女にいきなり叩き起こされ、訳も分からぬままここまで来た。店の名前は『飯田レストラン』どうやら文字も読めるようになったらしいが、何とも愚直な店名だ。


「あの、俺二人に出会うまでここの言葉が一切分からなかったんですけどそれって」

「ああ、あんた言葉が分からないみたいだったからこの子、エレオノールの魔法で大体の言葉を理解できるようにしておいたわ。ああ、まだ名乗ってなかったわね私は鈴木アミフィア、フィアって呼んでくれて構わないわ」


魔法、思ったよりあっさりこの言葉が出た。どうやらこの異世界には魔法まで取り揃えているらしい。本当に俺の常識は全く通用しないみたいだ。というか名字は鈴木で名前は聞く限りカタカナ名、ハーフというなら説明は付くがこの世界には似つかわしくない名字だ。


「私は鈴木エレオノール。突然こんな所に連れてきちゃってごめんなさい、詳しい説明とかはフィア、お願いします」

「まったくあんたはいつもそうなんだから……取り敢えずさっきみたいな敬語じゃなくていいから、どうせ私たちタメだろうし」

「それじゃあアミフィア、いろいろ聞きたいことはあるがまずは何か食べてもいいか?もう暫く飲まず食わずなんだ」

「フフッ、見知らぬ土地で言語もわからなければ食べ物にも困るってわけね。いいわ、ここは私が奢ってあげるから好きなだけ食べなさい。話は食べながらにしましょう」


 ウェイトレスに一通り注文した後、アミフィアが口を開いた。


「私探り合いみたいなことは得意じゃないから本題に入るわ、あなた名前は?」

 

何を言っているんだ、本題に入ると聞いて少し身構えてしまったが特におかしなことなどない、ただの日常会話だ。


「俺は鈴木亮介、なあこれって何か意味のある質問なのか?俺にはただの自己紹介にしか感じないけど」

「やっぱり、か」

「本当にエルの言うとおりだったわね、まさかまだ『鈴木』が残っていたなんて」

「いや、何でやっぱりなんだ、鈴木さんなんて二人以外にも余るほどいるだろ」


そう言った俺に二人が呆れたような表情を浮かべる。


「驚いた、あんたたちの世界にも名字は存在するのね。でもそれに対しての価値が違うと見えた。エル、ちょっと説明してやって」

「言われなくても準備は終わってます」


そう言って俺の前に指を出したエレオノール、差し出した指からは炎が出た。


「これは私の、あらゆる事象を魔法として顕現させる事が出来る能力です。さっき貴方自分も魔法を使えるって思ってましたよね?申し訳ありませんが私たち『鈴木』は特に能力の幅が広いのでたぶん魔法は使えないかと……」

「……『鈴木』の、能力か。もしかしてこの世界では名字ごとに何か能力があるってことか?俺の考えを読んだのも能力で」

「それはただの特技です、人の表情を見れば考えていることくらい簡単にわかりますよ」


そう言ってちょっと意地悪そうに笑うエレオノール、自信満々の推理が思いきり外れてしまった。


「でも貴方にもきっと常人の域を超えた能力が備わっている筈よ、それで貴方に相談があって……」

「世界を取り返すために、私たちに協力してくれない?」

「それはまた、かなり大きく出てきたな。一応詳しい話を聞かせてくれ」

「ええ、もちろんよ――」





この世界のほとんどの人間は、不思議な力を持っている。 その力の源は名前、より細かく言ってしまえば名字だ。名字は人に様々な力を与える。料理で人を癒したり、他人より喧嘩が強かったり、人並み外れた超常現象を操る者までいる。


そんな中で、とりわけ強力な力を持ち人々を治めていた名字が『鈴木』であった。彼らは変幻無双とも称される強力な力で世界を治め、人々に恐れられ敬われていた。だが『鈴木』はただ強いだけの者ではない。たとえいかなる世界であろうとも、そこに生命がいる限り絶えぬものがある。

それは差別だ。 


この世界に生まれる人間には二つの種類がいる、名字を持つものと持たぬ者だ。彼らはそれぞれ名字持ち(ネームド)と名字無し(ノーネーム)と呼ばれている。数が多いのは名字持ちだ。お互いの間にある差は特異な能力の有無のみだった。肌の色や瞳の色、生まれ故郷などでも人は区別ができる。ましてや能力ときたのだ、明らかにない者とある者では力の差がある。この差別がいつ始まったかなんてことは、いまさら言うまでもないだろう。


しかしその差別もある者の登場によってその差別は終わりを迎えた。それが『鈴木』である。彼らは持って生まれたその強大な力を弱者のために振るった。やがて世界を統治する彼らは、名字無しと名字持ちのどちらにも分け隔てなく接し、遂には名字無しに向けられていた差別の目を無くすまでに至ったという。


 しかし、いつの世も差別がなくなるという事は無い。安定して続いているようにも思われていた『鈴木』の支配、それに異を唱える者も確かに存在していたのだ。 

それが『佐藤』である。


 彼らは当時の『鈴木』の支配者を殺害し、戦争を起こした。はじめこそ『鈴木』には多くの味方がいた。しかしそれもすぐに崩れ去る。『鈴木』に味方していた名字の全てが、やがて『佐藤』に与する事となった。彼らとて、能力を持たない者と同列に扱われることを嫌ったのだ。そうして、『鈴木』はわずかな生き残りを除いて滅亡した。


 その戦争から、もう百年が経つ。ある国では随分と昔に名字無しが残さず処刑され、ある国では奴隷同然の待遇で働かされている。最早『佐藤』が治めるこの世界に、名字無しの居場所はない。





「――とまあこれが、生き残りの鈴木一族である私たちに言い伝えられているこの世界の話よ、これ以上私たちからあんたを誘うことはしないわ。もし私たちと一緒に行くって言うなら、命の保証はしかねるわ」

 

名字の力、鈴木と佐藤、これまでの疑問に申し訳程度の結論は付いた。個人的には二人に協力したい。こんな話を聞いて、頭に来ないやつはいないだろう。それに俺も『鈴木』という名字を持つ。同じような強力な力を使えるのなら、少しは肩入れしたくなってもいいだろう。しかし


「命は保証しない、か。どうやら平和的解決をする気は無さそうだな」

「ええ、その通りよ。これが成功するしないに関わらず、死人が出ないことはまずないわね」

「犠牲の無い革命を革命と呼ぶ気は、私にもフィアにもありません」

 

少し楽観的に考えすぎていたな。この世界は現実で、俺はゲームのキャラクターなんかじゃない。これから彼女たちは反乱を起こす。敗れることも、最悪死ぬことだって織り込み済みだろう。


「正直言って俺は死ぬのが怖い、もし元の世界に帰れるのであれば帰りたいとも思っている。だから」

「死ぬのは誰だって怖いわよ、何もあんたが特別なわけじゃないわ。でも私みたいなのは自分が死ぬのよりも周りで誰かが死んでいく方が怖いの」

「そう、なのか。てっきりそういうのはもう捨てたとか言うもんだと思ってたよ」

「そんなはずないじゃない、どんな狂人だって最後に守るのは自分の命よ。でも困ったなあこんな基本を忘れて話しちゃってた」


そう言って、アミフィアの表情が少し曇る。


「それじゃあ、最初のうちは見学ってのでどうだ?戦い方とかいろいろなものを見て、最終的に一緒に行くかどうかを決めるんだ」

「うーん、私としては戦場に行くならもうちょっと覚悟みたいなのが欲しかったんだけど、エルもそれでいい?」

「フィアがいいなら私もいいですよ、」


 俺としてはいい線を言っていると思ったが、あまりその限りでもないらしい。だが俺としては、いきなり戦うなんてのも御免だ。


「じゃあ決まり!次の戦いは見学ってことで、後の事は後になって考えましょう」


 こうして、俺の戦いは幕を開けた。


次回、遂に戦闘描写あります。やったあ。あと、マックシェイクのプリン味めっちゃ美味いです。

あだ名に関して

フィア→アミフィア

エル→エレオノール

って感じです。困惑した方すみません

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