転生
二話です、安定の短さですが許してください。
熱い。痛い。苦しい。全身に先程の数倍の痛みと熱を感じて目を覚ます。助けを求めようとしてあげる声はまともな言語として成立している筈もないだろう。全身をばたつかせてもがく様がいかに醜悪であるかは容易に想像が付いたが、この状況でそんなことを気にする余裕などある道理もなかった。
体内時計で三時間ほど経過しただろうか、狂気に染まったうめきをあげながらもがき苦しむ少年の為に救急車なり警察なりを呼ぶものは遂に現れなかったようだ。すると、何の前触れもなく痛みが引いていき、体が一気に軽くなった。朝ベッドから起き上がり、全身に暖かい太陽の光を取り込んだかのような、先ほどの痛みもわすれる爽快感だ。不思議なことに体に一切の外傷は無く、口の中にあった事故とは無関係の口内炎すらも治っているくらいに回復を果たしている。ふと周囲を見回すとそこには電車が突っ込んでくる前の少し寂れた線路沿いの道は存在しなかった。眼前に広がっていたのは、現代日本に住む者ならテレビでしかその姿を見たことの無いような美しい草原の景色だ。おかしいのは目に見えている物だけではない。ほんの数時間前に俺に突っ込んできたはずの電車の姿がない。確かに俺に圧倒的な恐怖と質量で襲いかかった鉄塊は、まるで初めからそこに無かったとでもいうように消え失せていたのだ。まったく訳が分からない。なぜ確実に死んだはずの俺がこんな状況に陥っているのか、ここはどこなのか、これは幻想なのか現実なのか。
そんな風に思慮にふけっている間にも時間は過ぎていく。太陽、にしてはやや小さい恒星は頭上の天球に沿って少しばかり移動していた。このままではじきに夜が来る。これが夢幻の類であれば目を覚まして終了だ。しかし俺はこれだけは断言できる。これは夢でも幻覚でもなんでもない、現実なのだと。あのときのあの痛み、あの熱、あの苦しみ、どれをとっても本物だった。これが現実であれば時間が経てば腹も減る、寝る時もベッドが無ければ眠れない。携帯電話もつながらない状況では、電話一本で暖かい宅配ピザを運んできてもらうこともできないだろう、第一ここをどこというのかもわからない始末だ。まずは食糧、次に寝床を確保するとなればまずは情報だ。そのためにすることはただ一つ、人を探そう。出来れば町があるとうれしい。
とりあえず、当面の目標が決まった。それと同時に俺の口からはため息一つ。さっきまで生死の境を彷徨っていたというのに、まだ満足できていない。良質な生活環境が整っていなければ生きていく事さえままならないのだ。現代の文明社会はこうも人間を怠惰なものに陥れてしまったらしい。
「仕方ない、行くか」
実に無気力な第一声から、俺の冒険は始まった。
三話は来週投稿します、お楽しみに。