終焉
一話です、とてつもなく短いですがお許しください。ここから始まる亮介の冒険譚、どうかお付き合いいただけると幸いです。
人間は皆が皆特別な存在になれるわけじゃない。ほとんどの人間は自身に何の役割も与えられぬまま、ただの一人の人間として生涯を全うする。
俺もその一人だ。日本の中で二番目にありふれた名字は俺に何の変哲もない、ただ惰性で過ぎ去るだけの人生を贈ってくれた。幼いころから平均的な成績をキープし、普通の公立高校に進学し毎日を平凡に生きているだけ。今日も何の変哲もない一日だ。いつも通り高校の授業を適当に聞き流し、時間が過ぎ去り次第帰路に就く。普段とは何ら変わらない日常だったはずだ。しかし、運命は幸か不幸か俺に常人にはきっと経験のすることのできない、退屈とは程遠い経験を用意していたのだった。
線路沿いの道を歩く、東京の中でも郊外と言われるこのあたりは時間帯によってはほとんど人がいなくなる。この時間がまさにそうで、若干他校とは違う下校時間の高校に通っていたこともあり、畑と線路に挟まれた小道を歩く俺の周りに人影は見られなかった。
それはちょうど道が緩やかなカーブに差し掛かったところだ。
キィイイイイイイ……
ヘッドホンを着けていてもわかるほどのブレーキ音が俺の耳に響き渡った。後ろを振り返った時には時すでに遅し、脱線し制御を失った鉄の塊は減速も間に合わずに時速一二〇キロを保ったままで、俺に向かって全速力の突進をお見舞いしてくれた。
身体に激痛を覚える。血液の抜けていく全身は一瞬燃え上がったように熱くなると、急に凍えるような寒さで包み込まれ、体温という概念を奪い去っていった。紫色の口から声を出そうにも砕けた喉はヒューヒューと空気を通すばかりで機能しない。死の直前を察知した俺の脳は異常に覚醒し、限界に達した思考速度は俺の認識しうる世界を幾重にも分裂させ、ほんの一瞬の出来事をも何千何万秒にしてみせた。加速し分裂した時間の中で見た走馬灯は幼少期の事から最近の事と多岐にわたったが、その全てにこの状況を打破するヒントなんてものは隠されてはいなかった。そうして、最期に見たものは走馬灯の中の家族の姿という、俺らしい普遍的な最期の景色だった。
俺から見える世界が漆黒に染まる。
俺はその瞬間、自身の十七年の人生に別れを告げた。
今日は二話まで投稿します、そこから先は毎週一話ずつって感じでよろしくお願いします。