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【改題】パパは世界最強の魔法使い ~異世界女子高生と愛娘と過ごす幸せスローライフ  作者: 最上碧宏
第1章 おじさんの元に元嫁そっくりなJKが舞い降りた
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第4話 おじさん、JKとはじめての朝を迎える

 ――眩しい。


(朝か……)


 何故だ。どうして。

 なんで朝というのはこうも無慈悲にやってくるのだろう。

 僕はまだ眠っていたいのに。


 窓の外から聞こえる鳥の声がやかましい。


(頼む。寝かせてくれ。もう少しでいい。ほんの少し、毛筋ほどでいいから……)


 僕は寝ぼけ眼のままカーテンを閉じ直し、もう一度布団に潜り込む。


「あの……お、起きてください。朝ですよ、アルフレッドさん」

「あー、うん。分かってる。分かってるよチトセ。愛してる。愛してるからもう少し寝かせて、本当に、お願い、一生のお願い」


 布団から出した腕だけで、呼びかけてくる声に答える。

 昨日は色んな事があって大変だったんだ。


 娘のカレンと森に出かけて素材の採集をしていたら、来訪者(ビジター)の女の子と遭遇してしまい、来訪者(ビジター)狩りの連中と追いかけっこをしなきゃいけなくなって、最後には霊素(エーテル)の奪い合いまでして、なんとか無事切り抜けたところで、村の自警団のみんなに出会って……


(ん? あれ? 今、僕なんて言った?)


 どっぷりと眠気の海に沈んでいた脳が、徐々に浮上してくる――


「え、えと、アルフレッドさん……その、誰かと間違えてませんか?」

「――――!?」


 僕は布団をはねのけて起き上がった。

 そして目の前に広がる景色は。


「……君は――」


 いつも通り僕の横で寝ているカレン。それはいい。


 分からないのは――

 来訪者(ビジター)の少女だった。

 カレンと同じ黒髪、そして夜空よりも深い黒の瞳(・・・・・・・・・・)を持つ少女。


(……そう。そうだ。彼女の名前は――チヅル。アマミ・チヅル……異世界(チキュウ)からやってきた来訪者(ビジター)


 亡き妻によく似た面差しの少女は。

 寝室の入り口から、遠慮がちにこちらを覗いていた。


 (チトセ)の遺品であるワンピースをまとって。


「どうして君が、その服を……」

「あの、わたしの服、泥だらけになっちゃって。それで、メイドのル・シエラさんが、これを貸してくれて」


 僕は――一瞬、言葉を失った。

 胸の奥からこみ上げてくる感情が、あまりにも大きくて。

 ……きっと寝起きで油断していたからだろう。


 もし、こんな不意打ちでなかったら、もっと大人らしい対応が出来ていたはずなのに。


「……出ていってくれ」

「え……」


 自分でも驚くほど、刺々しい声だった。


 チヅルさんが身を固くする。

 ……僕は自分が何をしているのか、ようやく理解できた。

 なんとか冷静さを取り繕いながら、言葉を続ける。


「ル・シエラを呼んできてくれ。お願いだ――チヅルさん(・・・・・)

「は、はい」


 慌ててリビングの方へと引っ込むチヅルの足音を聞きながら、


「……彼女に当たってどうするんだ。馬鹿野郎」


 自分の赤毛を、わざと乱暴にかきむしった。


 ――程なくして、寝室にやってきた人影は二つ。


「おはようございます、ご主人様。お目覚めはいかがですか?」


 長い金髪をシニヨンにまとめ、黒のワンピースに白いエプロンをまとった女。

 どこからどうみてもハウスメイド。

 でも、彼女はメイドでもなければ、人間でもない。


「今日のイタズラは趣味が悪いぞ、ル・シエラ。チヅルさんがよく似てると分かってて、チトセの洋服を着せただろう。カレンが思い出したらどうするんだ」

「あらあらあら。イタズラだなんてそんな、わたくしはただ、着られそうなものを貸し与えただけなのに。そんなに怒らなくてもいいじゃない、アルちゃん(・・・・・)


 家妖精(シルキー)

 人の家に住み着き、趣味と好奇心で家事を行う妖精。多様な妖精種の中でも比較的人間に友好的な種。

 なかでも彼女――ル・シエラは変わり種で、僕という個人(・・)に住み着いている。


 僕がまだ孤児院にいた頃から、いたずらっぽい碧眼はずっと変わらない。


「だからずっと言ってるだろ、アル。こんな悪霊、さっさと【除霊(イクソシズム)】すべきだって」

「随分な言われようですこと。アルちゃん、このエレナとかいう女、そろそろ出禁にした方がいいんじゃないかしら」

「……相変わらず仲が良いね、二人とも」


 呆れた顔でル・シエラを押しのけたのは、伸ばした亜麻色の髪をぞんざいにくくった女性。

 彼女の名前はエレナ・キーネイジ。

 僕と同じ孤児院の出身で、今は隣の家に住む文字通りの隣人。


「冗談じゃないぞ、アル! あたしはこの悪霊を斬るために剣の道に進んだんだからな!」

「ニンゲンの刃物ごときで妖精(わたくし)が斬れる訳ないでしょう。そんなことも分からないとは……カレンちゃんにアホが伝染らないように隔離しておきましょう、アルちゃん」

「くそー! ムカつく! コイツほんとムカつく! どうにかしてくれよアル!」


 言うまでもなく、エレナと僕は二十年以上の付き合いがある幼馴染だ。

 つまり、ル・シエラとエレナの子供みたいなケンカも、かれこれ二十年以上は続いている――ここまで来ると、一種の愛情表現だと思う。


「ていうか、それよりアル! 身体は大丈夫か? どこか痛むんじゃないか?」

「あー……うん。ちょっと、頭と、腕と、背中と、腰と、脚が」


 意識すると、痛みが蘇ってくる――魔法を使いすぎた時の偏頭痛と、【疾風迅雷ライトニング・スピード】を使った副作用の筋肉痛と、それから。


「腰の湿布を変えましょう、アルちゃん。そこの欲望を抑えきれない野獣(エレナ)に押し倒された傷が痛むでしょう」

「ちが、違う! そういうのじゃない! その、あたしは単にアルが心配で――」

「声が大きいですよエレナ。カレンちゃんが起きてしまうでしょう」


 グレートソードとフルプレートアーマーで完全武装したエレナのタックルは、強烈だった。

 インドア派のおじさん――僕をテイクダウンするには十分すぎるほど。


 エレナは超がつくほど一流の剣士で、かつては“剣聖(ソードマスター)”の二つ名を持つS級冒険者だった。

 女性としてはかなり長身で、上背は僕と変わらない。

 その上、剣士として十代の頃から世界中を巡って鍛錬を続けた肉体は、猫科の獣のようにしなやかで力強い。

 

(むしろ僕、よく生きてたよな)


 よくよく考えてみれば、一線を退いたとはいえ元S級冒険者のタックルだ。内臓が破裂してもおかしくない。


「ぐっ……あのな、いいかアル。誤解がないように言っておくけど、アレはその、親愛のハグっていうか、別にイヤらしい気持ちとかは」

「分かってるよ。君がその気だったら、僕は上半身と下半身がつながってないだろうし」

「違っ、違う、それはまた別の誤解だ、アルっ……」


 何故か真っ赤になったエレナを見て、ル・シエラは腹もよじれそうなほど大爆笑している。

 二人とも、十分騒がしい。


「ん~……あれぇ。ウサギさん……どこ? お茶……ウサギさん、お茶会の、クッキー」

「起こしちゃったね。おはようカレン。よく眠れたかい?」


 まぶたをこすりながら起き上がってきたカレンは、にへら、と笑って。


「うん。おはよ。おとーさん」


 僕に、ぎゅっとしがみついてきた。

 僕はいつものように、黒髪を優しく撫でてやる。

 

「……あれ。エレナおねーちゃんがいる。おはよ。どしたの、お顔が真っ赤」

「えっ……あ、ご、ごほん! おはようカレン。大丈夫だ、お姉さんはいつも元気いっぱいだぞ!」


 ……なあカレン。

 なんで僕は『おじさん』で、エレナは『おねーちゃん』なんだ?

 歳、ほとんど変わらないのに……


「今、何か失礼なこと考えただろ、アル」

「えっ、ち、違う、考えてない。全然!」


 剣豪だけが放てる鋭い眼光から逃れようと、僕はベッドから降りる。

 その瞬間、全身が悲鳴をあげた。


「――ぐっ」


 危うく崩れ落ちそうなところを、エレナが支えてくれた。


「無理せず休んでろ、アル。昨日のハグ(・・)のお詫びに、その……きょ、今日は、一日あたしが面倒を見てやるからっ」

「ありがとう、エレナ。ホントに助かるよ。えーと……とりあえずカレンの着替え、手伝ってやってくれる?」


 僕が言うが早いか、カレンがベッドの上からエレンの胸に飛び込んだ。


「わーい! エレナおねーちゃんと一緒! うーれしーいなー」

「おっと……よしよし、カレン。クローゼットから自分の服は出せるか?」

「できるよ! カレン、おねーさんだもん!」


 楽しそうに服を選び始めた二人を、僕は床に座り込んだまま眺める。


 こういう時。

 『幸せ』の意味について考えてしまう。

 僕とカレンは大切なものを無くしたけれど、こうして僕らを支えてくれる人達がいる。


 それを果たして『幸せ』と言っていいのだろうか。


(……ねえ。君はどう思うかな、チトセ)


 革紐を通して、いつも首に下げている霊銀(ミスリル)の指輪。

 あの惨劇の中で、かろうじて回収できた結婚指輪。

 小さな環を握りしめる。


(僕達は……幸せ、だよね)


 ふと、先程のチヅルさんの姿が、脳裏をよぎる――


「朝食は用意できていますよ、アルちゃん。あの娘を待たせていますから、早く着替えてしまいなさいな」

「ああ……ありがとう、ル・シエラ」

「一人で着替えられますか? わたくしが手伝いましょうか?」


 できるよ、子供じゃないんだから。

 咄嗟に答えようとしたが、腰に走った激痛が言葉を飲み込ませた。


「……で、できる、よ」

「まあ、強がりを言って。今更恥ずかしがらなくてもいいでしょう、アルちゃんの裸なんて、わたくしとっくに見飽きているというのに」

「頼むル・シエラ、カレンの前でその話はやめてくれ、ホントに」


 娘の前で少年時代の話をされるのは、父親としての沽券に関わる。


 確かにル・シエラは、まるで母親のように小さな僕の世話を焼いてくれたけれど。

 流石に三十歳にもなって、七歳の頃と同じように扱われるのは辛いものがある。


 僕は渾身の力で、なんとか寝間着を脱ごうとしたが。


「ババババババババババカ! アル、お前、な、なに普通に脱いでるんだっ!」


 それこそ今更だと思うけど。

 慌てたエレナがカレンの着替えを終えて寝室を出ていくのを待つ。


 ――腰の痛みをこらえながら、血を吐くような思いで着替えを終えた頃には、もうみんな朝食を始めていた。


「これおいしーよチヅルおねーちゃん! あのね、ロバートおじさんとこのチーズ!」

「ホントだ……すごい、味が濃いね」

「えへへー、カレンこれ超好きなの! ロバートおじさんとこのマリーおねーちゃん、優しいし!」

「カレンちゃん、お野菜も食べなさいな。ニンゲンは少し食べないとすぐ死んでしまうんだから」

「えー……チヅルおねーちゃん、これ、食べる?」

「か、カレンちゃんは、ブロッコリー、苦手なの?」

「んー、なんかぼそぼそしてるし……」


 ……なんだ、すっかり仲良しじゃないか。


 僕は少し笑って、エレナの隣の席に腰掛けた。

 腰に負担をかけないよう、できるだけゆっくりと。


「……なぁ、アル。あの娘が昨日の大爆発で現れた来訪者(ビジター)なのか?」


 このテーブルでエレナだけが真剣な顔をしていた。

 視線の先には、チヅルさんがいる。


 僕は頷いて、


「ああ。服装や雰囲気から見て、『チキュウ』出身者だと思う」

「じゃあ、あの娘も持っているんだな――天恵(ギフト)を」

「おそらくね。どんな力なのかは、見せてもらわないと分からないけど」


 テーブルのかごからパンを取ると、ロバート牧場のバターを塗りつけてかじっていく。

 相変わらず間違いのない味。ありがとうロバート。……君もおじさん枠に入ってて安心した。


「分かった。冒険者ギルドの方にはあたしから報告しとく。早く王立魔法研究所の保護官を呼んで、預けた方がいい。何か事故が起きてからじゃ遅い」


 流石はエレナ。元S級冒険者の判断は的確だった。


 確かに来訪者(ビジター)は危険な存在だ――少なくとも、魔法使いでない人間にとっては。

 いつ天恵(ギフト)が暴走するか、悪用されるか分からない。

 そうなったら、村はもちろんカレンだって危険にさらされることになる。


 だが。


「……待った、エレナ。まだ彼女に何も話してない。約束したんだ、この世界について教えてあげるって」

「相変わらずお人好しだな、アル。そういうのは保護官の仕事だ。わざわざお前がやらなくたっていい」

「いや。約束は約束だ。チヅルさんに『この世界の人間は信用できる』ってことを教えてあげなきゃ。天恵(ギフト)を恐れて彼女を遠ざけたら、逆効果になる」


 精神的なストレスは天恵(ギフト)が暴走する一番の要因だ。


 それに、望むと望まざるとにかかわらず、チヅルさんはこの世界で生きていかなきゃいけない。

 初めて出会った人間が約束を守ってくれた、という事実はきっと彼女にとって拠り所になるはずだ。


(……チトセは、そう言ってた)


 まったく知らない世界に一人で放り出されて、不安だった。

 でも、僕に出会って――僕が『必ず守る』と約束してくれたから。

 その約束を守ってくれたから、この世界で暮らしていく勇気が湧いたと。


 ……あの頃、僕は本気でチトセのことを研究対象としか思ってなかったんだけど。


「……分かった。元とは言え、専門家(アル)の意見だ。尊重する」

「ありがとうエレナ。助かるよ」


 僕は表情を改めて、チヅルさん達に向き直った。


「……チヅルさん。少しいいかな?」

「は――はい!」

「昨日は急に倒れてごめん。改めて、この世界のことについて、君に教えたい。気になることや知りたいことがあったら、何でも聞いてくれ」


 チヅルさんはピンと背筋を伸ばして――まるで教師と向き合う生徒みたいな態度で、僕の方を向いた。


「ああ、ごめん。食べながらでいいよ。特にル・シエラのオムレツは絶品だから、温かいうちに楽しんで」

「ありがとう、ございます。それじゃ……いただきます」


 そう言うと、少しだけチヅルさんの頬が緩んだ。


 ……『チキュウ』出身の来訪者(ビジター)は皆、理解が早い。

 話を聞く限り、彼女達の世界では紙や本を超える色々な媒体(メディア)が発達していることが理由だと思う。

 ゲームやアニメ、ライトノベルと呼ばれる豊富な娯楽が、彼女達の想像力や理解力を高めているらしい。


 この世界は、彼女達(・・・)が言うところの『中世ファンタジー風の異世界』だ。

 王様がいて魔法使いがいて騎士がいて、戦争は馬と槍が主役。食事のレベルは良くはないけど最低ではない。

 ところどころ彼らの知識とは整合性が取れない部分もあるそうだけど、まあ魔法もなければモンスターもいない平和な世界と比べれば違いも多いだろう。

 

 チヅルさんは一つずつ自分の知識と照らし合わせながら、熱心に質問を重ねてくれた。

 彼女はまだ若いけれど、冷静で理知的な人物で、優秀な生徒だと思う。


「――それじゃ、アルさん。わたしが車に跳ねられた後に出会った人って、本当に……」

「僕達が『女神』と呼んでいる存在だと思う。全知全能とは言わないけれど、大きな力を持ってこの世界に度々干渉してくる。良い意味でも、悪い意味でも」


 僕は『魔法使いの言葉遣い』で、その存在について語ったけれど。


「おいアル! そういう言い方はよせ。ムール・ムース様は慈悲深き方だぞ」

「ああ、ごめん、エレナ。……そう、女神(ムール・ムース)様は慈悲深き御方、だ」


 エレナにたしなめられて、言い方を変えた。

 この世界の多くの人々にとって、女神様とは優しき保護者であり、信仰の対象なのだ。

 批判や議論の対象にするものじゃない。


「……どうだろう。少しは整理できたかな?」

「はい。驚きました……本当に。まさか、自分が異世界に転移するなんて」


 話をする内、チヅルさんの中では不安よりも興奮の方が勝り始めているようだった。

 表情も明るくなってきたような気がする。


「……話は済んだようだな。それじゃ、次はあたしからだ」


 エレナは腕を組んだまま、話し始める。


「聞いての通り、お前達来訪者(ビジター)は女神様から天恵(ギフト)を授かった。正しく使えばこの世界に生きる人々を幸せにできる貴重な力だ。王立魔法研究所なら、お前の天恵(ギフト)が何かを調べて、正しい使い方を教えてくれる」


 王立魔法研究所。懐かしい名前だ。

 来訪者(ビジター)天恵(ギフト)をテーマにしている工房(アトリエ)は、今いくつあるだろう。あの事件(・・・・)のせいで、かなり予算が制限されてしまったと聞いているが。


「二週間ほどで王都から保護官が来る。彼らがお前を守り導いてくれる。それまではあたしとアルの指示に従うんだ。いいな?」


 反論の余地はない、とばかりにエレナは言い切った。

 チヅルさんも真剣な顔で頷き――


「えーっ! チヅルおねーちゃん、王都行くの!? いいなー、カレンも行きたーいっ」


 カレンの歓声が台無しにした。


「あー……カレン。いいかい。チヅルさんは遊びに行くんじゃないんだ。お勉強しに行くんだよ」

「そーなんだー。どれぐらい? いっしゅーかん?」

「ええと、その……わ、分からないんだ。チヅルさんが自分の天恵(ギフト)を制御できるようになるまでは、王都にいることになると思う」


 言いながら、僕は気付いていた。

 これはマズい流れだ。


 助け舟を求めてエレナをちらりと見るが。

 チヅルさんには厳粛に言い切った手前、カレンに説明し直すのも座りが悪いのか、視線を逸らされてしまった。

 逃げたな。


「……帰ってこないの?」

「いや、違う、そうじゃないけど……その。どう説明すればいいか」


 僕が言葉を探してるうちに。

 カレンのキラキラとした眼差しは、どんどん光を失っていった。


「――……みたいに?」

「カ、カレン……今、なんて?」


 パンも、サラダも、オムレツも食べ終わって、空っぽになったお皿。

 その空白をじっと見つめたまま。


「……おかあさんみたいに」


 小さな声で、カレンはつぶやいた。


 その瞬間。

 僕は、何か言ってあげることができなかった。


 ただ、脳裏に――

 チトセのワンピースを着たチヅルさんの姿が浮かんだだけで。

週三ペースでコツコツと更新しています。ご覧になったあとは、是非評価とブックマークをお願いします!

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