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【改題】パパは世界最強の魔法使い ~異世界女子高生と愛娘と過ごす幸せスローライフ  作者: 最上碧宏
第2章 おじさんと初恋と子連れ未亡人と後継問題
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第28話 おじさん、様子のおかしいイケメンと出会う

様子のおかしいイケメンを書くのはめちゃくちゃ楽しいです。ご覧になられたら、ぜひ評価&ブックマークよろしくおねがいします!

「おお! エレナ様! エレナエレナエレナ様ッ! 我が星、月、太陽、生きる希望にして告死の女神よ! あなたが再び姿を見せてくれるなんて、このピッエール・ラングレン、今この場で命を絶たれても悔いなどありません! むしろ本望ですとも! さあさあ!」


 応接室の扉を開けるなり、勢いよく飛び出してきたその男に。


「……えーと」


 僕は言葉を失い、


「黙れ」


 エレナはただ一言、そう告げた。


 ……リリー家の別荘地から領都までは、辺境よりもずっと穏やかな旅路だった。

 モンスターとの遭遇もなければ、野盗に追われることもなく。

 予定通りの日程で、僕達は領都入りを果たした。


 旅の疲れを考慮して――という名目で――マリーアン様とパイクとの会談は、明後日に設定された。


 パイクのお膝元では、エヴァンとジェヴォン、それにマリーアン様と親衛隊は動けない。

 レオンとミド、ファドのチームはまだ領都に到着していない。

 ユーリィは保護官としてチヅルさんとカレンの護衛についてくれている。


 つまり、ここからは僕とエレナの二人で、どれだけの材料が集められるか。

 それが勝負の分かれ目だった。

 

(できるだけ素早く終わらせるんだ。カレンのためにも)


 ジェヴォンとの一件があって以来、カレンは少しホームシック気味のようだった。

 道中もずっと僕の馬に乗って、ご飯も一緒、お風呂も一緒、寝る時も一緒。


 さっきも僕が出発しようとすると、足元にしがみついてきて、


「……おとーさん、おしごと行くの?」

「ごめんね。もう少しで終わるから」

「もう少しって、どのくらい?」


 なんて答えにくい質問。できるなら今すぐに終わらせたいけど。


「……明日は時間を作るから。市場でお土産探そう。カレンの好きなものと、あとル・シエラが好きなもの」

「ん。分かった」


 僕はカレンを抱きしめてから、チヅルさんとユーリィに預けた。

 後ろ髪を引かれるどころか全身の骨を持っていかれそうな勢いだけど、大人として責務は果たさないといけない。


 マリーアン様が手配してくれた宿を出ると、僕達はまっすぐに冒険者ギルドを目指す。


「エレナの知り合いに頼んで『闇狩り』達に協力してもらおう。デズデラの証言があれば、動いてくれるはず」

「任せロ、アルフレッド! あの魔法使いのミミを削いで、マンドラゴラの肥料にしてヤル!」


 エルフ流の脅し文句は、やけに生々しい。

 ニンゲンと戦争をしていた時代は、耳削ぎなんて恐ろしい拷問をされていたそうだから、その意趣返しなのかもしれない。


「……なあ、あたしもいかないとダメか?」

「頼むよ、エレナ。僕とデズデラが行っても、取り次いでもらえるかわからない」


 僕はそもそも正体を明かせないし、デズデラにコネや交渉は期待できそうにない。

 エレナみたいに顔パスでなきゃ、明後日までに間に合わないかもしれない。


「ナンダ、エレナ。そのギルドの職員とヤラ、元カレか?」

「やめろ、おぞましい!」


 デズデラにまでからかわれて、どんどんエレナが気の毒になってくる。

 よっぽどそのギルド職員に会いたくないんだろうな。

 でも、ごめん、他にいい方法がないんだ。


「冗談ダ。ワタシ、こういうのはスルドイからナ。エレナ、処女だロ。アルフレッドもイイ加減察してヤレ」

「んなああぁぁぁぁぁ、おま、お前、お前ェツ!」

「ちょ、ま、落ち着いてエレナ!」


 真っ赤になって抜刀しようとするエレナを、慌てて止める。

 街中で刃傷沙汰は勘弁して欲しい。


「デズデラ! 協力する気があるなら、これ以上エレナをからかわないでくれ」

「ダッテ、おもしろいカラ」

「エレナの気持ちも考えてやってくれ。君だって過去をアレコレ言われるのは嫌だろ? 恋愛沙汰は特に」


 エレナは「ちょっと待て、誤解だぞアル、オイ」とか言ってるけど、話がこじれるから聞き流すね。


 というか別に、エレナが過去に誰と付き合ってようと僕は何か言う立場にない。

 そもそも、彼女の人生は彼女のものだ。


「ワタシは気にしないゾ! アルフレッドはどうなんダ!? 今までどんな女と――アッ、エルフと付き合ったことはあるカ? ダークエルフは? ニンゲンの魔法使いはみんな、エルフのフトモモ好きだカラな」


 何故かデズデラの矛先が僕を向く。

 しかも、よりによって一番嫌な話題で。

 まあいい、言ってしまおう。隠すことでもない。


来訪者(ビジター)の妻がいたよ。もういない。それ以外は特に経験ないな」

 

 この話をすると、大体場が静まる。

 はしゃいでいたデズデラも、急に大人しくなって、


「……スマン。そうだったのカ」

「気にしないで。それより急ごう」


 罪悪感を利用して悪いとは思うけど、今は一刻を争う。


 僕らは無言で歩き続け、領都の冒険者ギルドに辿り着いた。

 エレナの顔を見るなり、受付係はもちろんギルド中の冒険者達が席を立って、


「エレナ・キーネイジだ! “剣聖(ソード・マスター)”だぞ!」

「嘘でしょ!? なんでこんな辺鄙なギルドに!?」

「ファファファ、ファンなんだ、俺、あの、サインを、いやそれより手合わせを!」

「ヤバい鼻血出た、誰かハンカチくれ。……もう一枚。あっ、すまん、もう一枚、目から出た」

「後ろの二人は誰だ、従者か? 奴隷か?」


 あれやこれやの大騒ぎ。

 でもおかげで僕は目立たないで済む。まぁ、そもそも僕の顔を知ってる人間なんて、王宮務めの人ぐらいだろうけど。


「騒がせているようで悪いな。……ギ、ギルド長に取り次いで欲しい、んだが」

「はっ、はい! ギルド長のピエール・ラングレンですね! しょ、少々お待ちください!」


 年上らしき受付係が手を振ると、若い方が慌てて奥に引っ込む。


「……職員って言ってたけど、思いっきりトップじゃないか。流石、顔が広いね」

「あたしが現役の時は、王都のギルドの職員だったんだ。昇進したって手紙には書いてあった」

「ホー、出世したカラもう一度やり直したい、トカ?」


 デズデラ、やめなさい。


「こっ、こちらへどうぞっ!」


 声が裏返ってる若手職員に案内されて、二階奥のギルド長の執務室へ。

 ノックの後、職員がドアを開けると――


 飛び出してくるなり情熱的な台詞をまくしたててきたピエール・ラングレン氏。

 整った金髪、表情豊かな碧眼、張りのある肌、仕立ての良いダブレット――どこを切り取ってもオシャレで二枚目でハンサムな好青年だ。

 僕とは真逆の存在。


 けれどエレナの態度は、にべもなかった。


「黙れ」

「分かりました、あなたが望むなら沈黙を! しかし漏れ出る心の声はあなたも感じるでしょう、ああ、この三年であなたは更に美しくなった! その宝石よりも美しく神秘的な碧眼、勇壮かつ優美な金髪の輝き、女神すら嫉妬するプロポーション! このピッエール・ラングラン、感動を禁じ得ない! おお、どうか、今しばらくあなたと向かい合う喜びを与えてくれ、そのためなら、このピッエール・ラングレン、地位も名誉も捨てる覚悟があります!」

「黙れ」


 僕は一体何を言うべきか分からなくて、デズデラに助けを求めてしまった。


「コイツ、なんかヤバいナ。近寄りたくナイ」

「……ははは」


 デズデラからも無慈悲な裁定。

 僕は、仏頂面のエレナに向かって延々と話し続けるピエール――ピッエール氏の肩を叩き、


「ええと、失礼、少しお話を」

「誰だお前は、話しかけるなおっさん、私は今忙しい」

「調子に乗るな」


 不機嫌に言い捨てたピッエール氏の顎を、エレナが静かに撫でた――撫でたようにしか見えなかった。

 突然、糸の切れた人形のように、ピッエール氏が崩れ落ちた。


「おっと――脳震盪ですな。流石ですエレナ様! 相変わらずの技の冴え、もはや感動すら覚えますよ、このピッエール・ラングレン!」


 僕も感動してる。

 脳震盪を起こしても、人間ってこんなに喋れるのか。


「急いでる。早くしろ。その口を閉じてあたし達の話を聞くか、顎を外されてからあたし達の話を聞くか。選べ」

「オーケイ、分かりました、顎は止めてください。私は昔から顎が弱くて、干し肉が食べられないから冒険者の道を諦めたのです」


 結局しゃべるのは止めないまま、ピッエール氏は僕達を部屋に招き入れてくれた。

 エレナだけをソファに座らせると、自分は執務机に尻を乗せて伊達なポーズを決める。


 ギルドの職員がそそくさとティーセットを運んできた。

 それを見届けてから、ピッエール氏――ピエールが口を開く。


「それで? 私達のデートの前に、どんな案件を片付ければいいのですかな?」

「この街にある闇ギルドの巣を潰す。手を貸せ」


 ピエールの目付きが変わる。

 なるほど、伊達に支部長の看板を下げているわけではないらしい。


「素晴らしい提案ですな。どうやって潰せばいいのか分からない、ということを除けば」

「ワタシが証人になる。怪しい魔法使いに【呪詛(カース)】をかけられ、殺しの仕事をさせられた。証言がアレバ、冒険者ギルドは動いてくれるダロ?」

「おいおい、冗談はよしてくれたまえ。【呪詛(カース)】がかかっている人間が証言台に立てるわけ無いだろ? 大体、連中に関わる話をした時点で、あなたは爆散してるはずだ、美しいお嬢さん」


 僕は無言で、【光操作(ライト・コントロール)】の魔法を使った。

 オレンジ色の光線で【呪詛(カース)】の立体魔法陣を再現してみせる。


「これは――まさか、闇ギルドが使う構成?」

「彼が解析した。解呪方法も完成してる。そこのダークエルフは、解呪対象者の第一号だ」


 ピエールは驚愕以外の感情を取りこぼしたような顔をしていた。

 おまけにちょっと尻がズレて、危うく机から落ちそうになる。


「そんな、バカな、信じられない! 宮廷魔法士ですらお手上げだったのに!」


 嘘だろう、そっちの方が僕は信じられない。

 僕が知る宮廷魔法士達なら、解析が完了するまで絶対に諦めないはずだ。

 いつから途中で研究を投げ出すようなヤワな組織になったんだ?


「あたしが今まで嘘をついたことがあったか?」

「いいえ、ハニー、あなたは世界中の誰より誠実で気高い。ですが、このピッエール・ラングレンにも責務があります。もう少し信憑性を厚くしてくれないことには、『闇狩り』を動かすことはできません」


 なんだかんだと抜け目のない男だ、ピッエール氏。

 流石は二十代の若さでギルド長になっただけある。

 こういう人間の方が信用できる。初対面のときより、大分印象が良くなってきた。


「……いいか? 話しても」


 エレナの問いに、僕は頷いた。


「ピエール。今からあたしが話すこと、そして見たものは、絶対に口外するな。報告書にも乗せるな。いいか?」

「あなたがそう言うなら、ハニー」

「あと、二度とハニーと呼ぶな。どれか一つでも約束を破ったら、月のない夜にお前の首を鉱山に埋める」


 ピエールが肩をすくめる。

 それを肯定と見なして、エレナは続けた。


「彼は、アルフレッド・ストラヴェックだ」


 僕はローブのフードを上げて、顔を見せた。

 ピエールが絶句する。


「……驚きすぎて声も出ませんよ、エレナ様。まさか、こんなところで、あの生きる伝説に会えるとは」

「握手してもらえ。二度と会えないぞ」


 居住まいを正したピエールは、近づいてくるなり手を差し出してきた。


「先程のご無礼をどうかお許しください。ピエール・ラングレンと申します。当支部の長を務めております」

「アルフレッド・ストラヴェックです。ご丁寧にどうも」


 握った手が、かすかに震えている。

 そこまで緊張されると、かえって居心地が悪いんだけど。


「こう見えて私も魔法使いの端くれでして。王立魔法研究所のピーター・ロック師に教えをいただきました」

「ピーターは優秀な魔法使いで、教師でしたね。孫娘が絡むと人が変わるのが怖かったけど」

「彼が言っていました。『もし万が一何かの手違いか運命のいたずらで孫が結婚するなら、アルフレッドのような男がいい、お前はダメだピエール』と」


 冗談なのか嫌味なのか、ピッエールが笑う。

 まったくぶれない男だな、君は。


「……お尋ねしても良いですか、ハ……エレナ様」

「まともな質問なら答えてやる」

「どうしてあなたや、その――アルフレッド氏のような大物(・・)が、わざわざこの街の闇ギルドを狙うのでしょう?」


 疑問はもっともだ。

 エレナはもうライセンスを返上しているし、僕に至っては研究の名の下に街を滅ぼしかねない狂気の魔法使い(マッド・ウィザード)だ。


 迂闊に借りを作れば闇ギルドより厄介だと、考えたんだろう。


「……友人のためだ」

「友人、ですか?」

「ああ。その人は最近、夫を亡くされてね。その死に、闇ギルドの連中が絡んでいるんじゃないかと睨んでいるんだ」


 まだ疑惑の段階だ。詳しくは話せない。

 だが、このリリー領に住んでいる者なら、ある程度の察しはつくだろう。


 ピエールは剃り残しの一本もない顎を撫でながら、


「……ふむ。となると望みは闇ギルドの顧客名簿ですか?」

「ああ。それと、依頼者に対する告発の立会もな」


 名簿が正式なものであることを証明し、告発されたものを取り押さえる権限を持っている者。

 その協力がなければ、エヴァンとジェヴォンが正当に(・・・)当主の座を取り戻すのは難しい。

 領地の混乱を避けるのなら、そのプロセスは欠かせない。


「……冒険者ギルドは王家の直轄です。貴族同士の揉め事に介入はできないのですよ?」

「あたしは貴族なんて一言も言ってないぞ? ただ、王国法に反した方法で殺人を行った者の告発をしたい、と言っているだけだ」


 エレナは、こういう時だけ別人のように肝が据わる。


 いや、逆だな。

 普段は冷静沈着なのに、恋愛とかプライベートな話になるといきなり動揺するんだ。

 不思議な人だ。


「……分かりました。二時間いただけますか? 『闇狩り』を招集しますので」

「今初めて、お前と知り合いでよかったと思ったよ、ピエール」


 エレナが贈ったのは皮肉半分の称賛だったけど、ピエールはガッツポーズせんばかりの勢いで喜んだ。

 見ていて飽きない人だ。


「ああ、それと。もう一つ訊いても良いですか?」


 大事な話はもう思わった。

 好きにしろ、と頷いて、エレナは冷めた紅茶に手を付けた。


「その、念の為の確認というか、まあ、まさかあなたに限って、とは思うのですが……エレナ様。もしかして、今後あなたのことは、ミセス・ストラヴェックとお呼びした方が良いのですか?」


 ぽぎん。

 ……何かと思ったら、エレナが右手でティーカップを粉砕した音だった。


「て、お、あ、ま、な、おま、ピエ、なにを――なにをー!?」


 落ち着いてエレナ。

 ズボンの膝が紅茶まみれになってるから。

 拭いて拭いて。


「いえね、ずっと腑に落ちなかったのですよ。どうして、かの“剣聖(ソード・マスター)”が突然冒険者ライセンスを返上したのか。理由をずっと知りたかったのですけれど……“世界最強の魔法使い(オールマイティー)”がお相手なら納得というか、その、あなたほどの人物でも、かかりっきりにならなければ伴侶は務まらないのかと」


 なんかこう、色々引っかかる発言ではある。


 とはいえ、あらぬ噂が立って迷惑するのは、エレナの方だ。

 僕は否定しようと口を開いたが、


「だ、あ、い、いや、ま、ああ、その……好きにしろ」


 エレナ自身にそう言われては、継ぐ言葉もない。


「おめでとうございます、エレナ様。このピッエール・ラングレン、心よりお喜び申し上げます。……申し訳ありませんが、少し忙しくなります。準備終わり次第、使いを出しますので」

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