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【改題】パパは世界最強の魔法使い ~異世界女子高生と愛娘と過ごす幸せスローライフ  作者: 最上碧宏
第2章 おじさんと初恋と子連れ未亡人と後継問題
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第19話 おじさん、JKと家族になる

「さ、いいですか~チヅルさん! 今日から早速、王立魔法研究所始まって以来の秀才にして“魔王の弟子キングズ・アプレンティス”と呼ばれた、このユーリィ・カレラ★ が、直々に特訓を施してあげますよっ」

「え、えーと……よろしくお願いします」


 酒場での歓迎会が明けて、翌朝。

 昨日、丸一日をベッド(仕方ないので)で過ごしたユーリィはすっかり元気になっていた。

 使い込まれた王立魔法研究所の訓練着を身につけて、薄い胸を得意げに張る。


「じゃあまずは走り込みからっ! がんばりましょうね~」

「えっ? わ、わたし、魔法の練習がしたいんです! 霊素(エーテル)中毒にならないように、簡単なものでいいから使えるようにって、アルフレッドさんが」

「やだなぁ、これも魔法の訓練ですよぉ。疲れて集中できないんじゃ、霊素(エーテル)の制御なんて出来ませんよ?」


 対するチヅルさん――こちらはル・シエラが見立てた運動用のシャツとズボンだ――は、半泣きで僕に助けを求めてくる。


「あ、あの、アルフレッドさん、わたし、運動は、ホント全然ダメで……」

「えーと……まあユーリィの言うとおりなんだ。集中力を支えるためには体力がいる。うまくやろうとか、成績を残そうとか、難しいことは考えなくていいよ。ただ、昨日の自分より良くなれればいいだけ」


 なるべく優しく言って聞かせるが、チヅルさんはそれでも首を振った。


「嫌、なんです。その……わたし、足が遅くて、それで、周りにすごく迷惑をかけたことが、あって。怒られたりからかわれたりして」


 その時、僕の脳裏に浮かんだのは、孤児院時代の記憶だった。

 身体が小さくて、運動も苦手で、周りの子達に全然敵わなかった。


「……分かるよ。僕も孤児院では、散々馬鹿にされてたし。子供って容赦ないよね」

「えっ、アルフレッドさんも……?」

「うん。でも、研究所に入った時、師匠に言われたんだ。『腐れヤローの言うことなんて気にしてどうすんのさ。とりあえずやってから考えたら? やってみてキライなら別の方法考えよっか』って」


 師匠は、とにかく口は悪いが独特の倫理観を持つ人だった。

 要するに、自分が好きか嫌いか、突き詰めて判断しろと言うのだ。


 好きなら良し、嫌いなら悪し。

 それ以外の判断は全てゴミ、クズ、カス――とにかく無価値で無意味。


「……やってみたら楽しかったんですか? 運動」

「うーん。正直、僕も研究の方が好きだけど……一人でひたすら走るのは意外と楽しかったから、こういうのはありかなって」


 特に研究が煮詰まった時は良い気分転換だった。

 王都の外壁沿いを三日三晩走り続けてたら、幽霊(レイス)扱いされて冒険者に狩られそうになったっけ。


「それは、なんか……違う気がします」


 あれ? 今、わたしもやってみます! ってなる流れじゃなかった?


 僕が首をひねっていると、チヅルさんはおかしそうに笑った。


「……でも、分かりました。とりあえず、やってみてからにします――師匠(・・)

「ちょっとチヅルさん! なに先輩と楽しくおしゃべりしてるんですかっ! ユーリィ、そういうのキビシイですからねっ!」

 

 地団駄を踏んで騒ぐユーリィのもとに駆け寄っていくチヅルさん。

 なんだかんだと言いながら走り出す二人の背中を、僕はボケーっと見送る――


「ほらほらアル先輩もっ★ 早くしてくださいよっ」

「……え? 僕?」

「あったりまえじゃないですかっ! 先生がやってみせてくれないと、生徒はついてきませんよっ」


 えええ~、いやいや、僕ここで待ってるから、若い二人でどうぞ。

 とか言う暇もなく、ユーリィに腕を掴まれる。


「さあっ、行きますよアル先輩っ★」

「……そ、そうですよ! 行きましょう、アルフレッドさん!」


 何故か逆の腕をチヅルさんに掴まれる。

 くそう、若い人はすぐノリとかでおじさんを巻き込もうとする!


「――はあ、分かった、分かったよもう」

「さっ、しゅっぱ~つ★」


 最終的には両腕を引きずられるようにして、僕はしぶしぶ走り出した。


 正直なところ、実際に走り出してみると、思った以上に気分は爽やかだった。

 朝が早い村人達と挨拶を交わしながら、やがて郊外ののどかな田園風景の中へと踏み込んでいく。

 まだ実りには遠い作物を眺めながら、ふと考える。


(……例の依頼の話、どうやって切り出そう)


 リリー家の後継問題への干渉。

 ジェヴォン達は血で血をあがなう泥沼へと飛び込もうとしている。

 さらにマリーアン様は僕という武器を使って泥沼を干上がらせて、底に眠る財宝を掴み取ろうとしている。


(報酬は霊銀(ミスリル)の供給ルートだ――チヅルさんの天恵(ギフト)の調査には、確かに必要だ)


 霊銀(ミスリル)

 多量の霊素(エーテル)を吸収保持する性質から、マジックアイテムや霊薬(エリクサー)の素材としてこれ以上のものはないとされる金属。需要は多いが採掘量は少なく、王都の市場での価値は常に上昇を続けている。

 こんな片田舎では、おいそれと手に入るものではない。


(……リリー領から霊銀(ミスリル)が供給されれば、この村でも上質な霊素吸収剤エーテル・アブソーベントが安定して製作できるようになる)


 チヅルさんの天恵(ギフト)の調査を続けるなら、また霊素(エーテル)中毒になる危険性は高い。


(万が一のことを考えれば、霊銀(ミスリル)を使用した上質な霊素吸収剤エーテル・アブソーベントは必要だ)


 とはいえ、マリーアン様の訪問について行って長期間家を空けるのも心配だし、そもそも交渉には危険がつきものだ。


 僕にもしものことがあったら、今度こそカレンは一人ぼっちになってしまうかもしれない。


(……他に霊銀(ミスリル)を仕入れる方法があるんじゃないか? ユーリィの伝手とか)


 そんなことを考えながら走っていると、


「せ、せ、せんぱ~い、ちょっと、待って、くださいぃ~」

「アル、フレッド、さん、速、すぎ、です……っ」


 いつの間にかチヅルさんとユーリィを置き去りにしていた。

 慌てて戻る。


「ごめん、ちょっと飛ばしすぎたね。休憩にしよっか」


 いつの間にか田園も終わり、森の境界近くまで出てきていた。

 周囲に人気はないが、モンスターの気配もない。小規模な魔法の練習には最適な環境だ。


 ユーリィが背負ってきてくれた敷物を広げて、水筒で一息入れる。


「さ、さすが、先輩、ですね……これ、だけ、走っても、顔色、一つ、変えない、とは」

「悪かったよ、ユーリィ。荷物、ここからは僕が持つから」


 ははは、と笑いながらぐったり倒れるユーリィ。

 ……実は君もトレーニングサボってただろ。


「チヅルさん、落ち着いたら練習を始めよう。構成を編むところからだね」

「は、はい! 構成って、えーと、魔法の設計図、みたいなものでしたよね」


 その通り。

 構成は魔法の鋳型のようなものだ。そこに霊素(エーテル)を流し込むことで、初めて効果を持つ。

 鍛冶屋で見た、鋳型と熱した金属みたいな関係だ。


(問題は、魔法を使おうとした時にチヅルさんの天恵(ギフト)がどういう働きをするか、なんだよな)


 今まで見てきたケースから、天恵(ギフト)が発動して霊素(エーテル)を急激に取り込むのは、彼女自身に魔法が向けられた時だけだ。

 じゃあ、自分の意志で体内に霊素(エーテル)を取り込み、引き出そうとした場合はどうなのか?


 普通に発動すれば問題はない。

 厄介なのは、取り込んだ霊素(エーテル)を構成に流し込めない場合だ。

 もしそうなら、霊銀(ミスリル)の必要性はますます高まる。


「……あの、アルフレッドさん。考え事ですか?」


 チヅルさんの指摘に、どきりとする。


「あー……うん。分かる?」

「口に出てましたよ」


 うわ、独り言。気をつけないと。


「ふふっ、嘘です。でも、すごく真剣な顔してるから。昨日、領主様に連れて行かれた後、ずっとそんな感じですよ?」

「……そっか。バレちゃうね、それは」

「よかったら、何があったのか教えてもらえませんか? ……ル・シエラさんも気にしてたみたいですし」


 どう話せばいいのか決めかねていたけれど……もったいぶってみんなを不安にさせるのも、それはそれでよくないか。


「あの。あんまり大きな事は言えませんけど……わたしも、何かの役に立てるかもしれないし、それに」

「それに?」

「……わたし達、その。家族みたいなもの、じゃないですか」


 うん、そうだね。僕もそう思ってるよ。

 ……って、普通に返すだけでよかったのに。


(なんだこれ……なんか、泣きそうだ)


 チヅルさんは本当に――僕の、一番情けないところを思い出させてくれる。

 そんなところまで、チトセに似てるなんて。


「えっ、ど、どうしましたアルフレッドさん? 大丈夫ですか?」

「あーうん! ごめん! 全然、あの、ホコリが目に入っただけ、ホントに!」


 一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせてから――僕はマリーアン様の依頼を、かいつまんで説明した。

 できるだけ来訪者(ビジター)霊銀(ミスリル)関連の話は抜きにして。


「……領主様からの依頼で、他家の後継問題に口を出す……って。うわぁ、なんかいよいよファンタジーって感じですね」

「いや、僕は口出さないからね。マリーアン様の護衛……というか、相談相手? みたいな」

「でもすごいですよ! 確かに、アルフレッドさんが後ろにいたら、相手も無碍にできないでしょうね、“世界最強の魔法使い(オールマイティー)”ですもん!」


 何故か目をキラキラさせはじめるチヅルさんをよそに、僕は溜め息をついた。

 ……チヅルさん、ちょっとユーリィに毒されてない?


「……あ、でも、アルフレッドさん、カレンちゃんのこと心配ですか?」


 流石というべきか、察しが良いところは変わらない。


「……うん。最近色々あったしね。リリー領まで行くってなると、それなりに時間もかかるし」


 いくらマリーアン様の馬車隊とはいえ、移動には一週間以上かかる。

 向こうで用事を済ませて帰るとなると、結局、一ヶ月は家を空けることになる。


「ワープ魔法は使わないんですか? そういうのもあるって言ってましたよね」

「そんなに便利じゃないんだよ、空間転移って。原理的な問題が多くてね……今の構成だと、移動する度に空間の変形が起きて、余波だけでクレーターができちゃうんだ」

「そっか……難しいですね」


 そんな気軽に地形を変えていたら、あっという間に政治問題に発展してしまう。


「あ。じゃあ、ついてくっていうのは、どうですか?」

「ええと、カレンを連れてくってこと? それは流石に……観光旅行じゃないし、この世界はチキュウほど交通網が発展してないから、旅は大変なんだよ。モンスターとか、危険も多いし」

「えっと。なので、わたしも一緒についていく、っていう」


 ……チヅルさん、もしかして自分を『保護者』枠にいれてる?

 どっちかというと、天恵(ギフト)の分だけ、色々な意味で君の方が危険なんだけど――


「で、でもでも、天恵(ギフト)の調査とか魔法の練習とか、わたしもアルフレッドさんがいないと困るっていうか……あの、カレンちゃんほどではないと思うんですけど、さ、寂しい、的な」


 何故かやたらとわたわたしているチヅルさん。

 うーん、確かに空白期間が出来てしまうのも良くないんだよな。他の技術と同じで、魔法の練習も継続が大事になる。


 とはいえ、今回は普通の旅行とは訳が違うし、チヅルさんも普通の女の子って訳じゃない――


「ちょ、ちょっと二人ともっ。ユーリィを差し置いて、なんで楽しそうなトークしてるんですかっ!」

「あのね、ユーリィ。今、真面目な話をしてるんだよ」

「ユーリィもですよっ! 来訪者(ビジター)の保護がユーリィの務めなんですから! チヅルさんが行くなら当然同行しますっ★」


 言ってない。

 連れて行くなんて全然言ってないから。


「ユーリィさん! ありがとうございます!」

「いえいえ、ユーリィは職務を全うしているだけですとも!」


 来訪者(ビジター)の危険な行動を止めるのも保護官の仕事だからね?

 っていうかなんで、話はまとまった、みたいになってるの? 


「わたし、この村以外の場所に行くの、初めてです」

「保護官として国中を飛び回ってきたこのユーリィ・カレラが、この世界での旅についてイチから教えてあげましょう★ 何事も準備が大切ですからねっ!」


 僕の話なんてまるで聞こえていないのか、きゃいきゃいと盛り上がる二人。

 いいよね、うん、若い人同士で仲が良いっていうのは、ホント、素晴らしいことだよ。


(友達増えてよかったね、二人とも)


 ……なんて笑っていたら、どうやら二人とも本気も本気だったみたいで。


 夕食時に二人から話を聞かされたカレンは、


「お泊りでおでかけ!? したいしたい! カレン、チヅルおねーちゃんとおでかけするー!」

 

 飛び跳ねて喜び、


「いいだろう。来訪者(ビジター)殿とは、ゆっくり話す機会が欲しかったのでな。構わないか、アルフレッド先生?」


 提案を聞いたマリーアン様もニッコリと笑った。


「いいですか、アルフレッドさん?」

「いいですよね? ね? アル先輩っ★」

「……分かった。分かりました。はい。うん、そうだね、もうそれでいいです」


 彼女達の強大な圧力にはとても耐えきれず、僕は仕方なく、リリー領へ向かうことを承諾したのだった。


 ……正直、この先に待ちうける波乱を知っていたら、僕は絶対首を縦に振らなかったけど。

ユーリィ、個人的にはすごくかわいいと思うんですが、あまり部下にはしたくないですね……ご覧になられたら、ぜひ評価&ブックマークよろしくおねがいします!

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