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コンコンコン
「イ-サンです。まもなくオ-スティン王子が来られますが、大丈夫でしょうか?」
えっ。
そう思い、ジゼルさんの方に目をやると衣装部屋から慌てて出てくる。
「もう少々、お待ちください」
ジゼルさんは扉に向かって叫ぶと、奥から先ほどのワンピースより華やかなクリ-ム色のドレスとコルセットを持ってきた。パーティーほど華やかではないものの、刺繍やレースがたくさん施されていた。
「エイミー様。着替えます」
「えっ」
「王子様に会われるのですから着替えは当然です」
否応なしに無理やり着替えさせられ、イ-サン様にジゼルさんからその旨伝えるとちょうど部屋の前に着いたようだった。
コンコンコン。
「はい」
座っているわけにもいかず、ドアの前で出迎える。
パーティーのときよりは少し落ち着いた格好でオ-スティン王子が満面の笑顔を見せる。護衛も何人かついていた。イ-サン様も同様に部屋に入ってくる。
ま、眩しい。
「先ほどのドレスもよく似合っていたが、今の格好もとても素敵だよ」
そう言うと、跪いて私の手をとり、また手の甲にそっとキスをする。体中が火照っていくのを感る。なんとかお礼を伝える。本当はオ-スティン王子の格好も伝えたかったけど、男の人にこんなことされたことなかったから、ドキドキがまだ止まらない。
「今日はパーティーに来てくれて本当にありがとう。どうしても、皆に伝えねばならなくてね。申し訳ないんだが、妃候補の中でこの王室にいる間、貴族同士の交流は辞めて欲しいんだ」
跪くのは辞めてくれたけど、手は離してくれない。何よりオ-スティン王子に見つめられると、吸い込まれそうになる。
「かしこまりました」
やっとのことで、声を絞り出す。
「ありがとう。変ないざこざや家の都合で圧力かかったりすることをさけたいからね」
コクコクと頷く。
「それじゃあ、今日はこれで。また明日」
そう言って、オ-スティン王子と護衛は去って行く。
「はぁはぁ」
「エイミー様大丈夫ですか?」
近くにいたイ-サン様が心配そうに見つめてくる。
「だ、大丈夫です。息をするのを忘れていたみたいで……」
そう言うと、堅物そうなイ-サン様はふっと軽く笑う。
普段着に着替えるためにイ-サン様に部屋をあとしてもらう。
「手の甲にキスをするのは普通なんでしょうか?」
「……私は初めて見ました」
ジゼルさんはコルセット緩めながら答えてくれる。
貴族同士でもあまりしないのなら一体……。オ-スティン王子とはなるべく関わらないようにしなければいけないのに。
「とても、カッコイイ方でしたね。せっかくですから、王室の料理とか楽しんではいかがですか? もしかしたら、本も借りられるかもしれませんよ」
困惑した私を見てジゼルさんが微笑んでくれる。
「そうですね。おいしい料理ともし借りられたら本を借りてみます」
王室の本となれば、たくさんあるだろうし、見たことないハ-ブの本とか刺繍の図案があるかも!
そう思ったら少し嬉しくなる。
「あとは、敬語は辞めてくださいね」
ジゼルさんがクスッと笑うので、私も釣られて笑った。
明日から早速、本を借りに行ってみよう。