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第5話「彼女の気持ちが分かりすぎる彼氏」

「…………………」


「………………どうしたの、エミ?」


「………………わたし一応エル姉に教育してもらう立場だよ?別にいいでしょ」


  元気に仕事を始めようとした今日この頃、私は何故か自分の妹分であるエミに冷たい視線を向けられている。


  私は最近この仕事場にこもりっきりで1度も帰っていないし、ここでも仕事しかしていない。エミが傷つくようなことをした記憶もない。


  正直言って、エミがこんな視線を私に向けるような心当たりなどないのだ。前までは私に仕事しろ仕事しろと怒っていたのに、今度はどうしたのだろう。


  こちらが何か記憶違いをしているのかもしれない。私は仕事をしながら、エミの様子を探ってみることにした。


  異世界は既に朝が来ていた。ハルくんと出会って2度目の朝だ。そしてあの盗賊女はまたハルくんの家で寝ていた。また罪を重ねたなクソ女。


 そしてあの女はまだ寝ているハルくんを起こそうと揺さぶる。


「おい、起きろ。朝だぞ」


「うぅ…まだ頭が重いです…なんでティーラさんは平気なんですかぁ…」


  ハルくんはグデグデになってうめきながらそう言う。


  昨日冒険者ギルドで行われた歓迎の宴でハルくんとティーラは、半ば強引に酒を飲まされていたのだ。


  15歳から成人というこの世界の法律があるのでハルくんが飲酒をするのは問題ないのだが、純粋で普通の中学生だったハルくんはもちろん転生前に酒など飲んだことがない。


  よってこんなにグデグデになるのも無理はない。夜に冒険者ギルドから出る時も終始フラフラしながら戻っていたし。


  私の権限を使えばこの悪酔い状態を一瞬で回復させられるのだが、初の飲酒でフラフラしながら歩くハルくんが愛おしくて、ついつい忘れてしまったのだ。


「だらしないな…私はあんなものに呑まれたりしない。勇者候補と称えられた君がそんなことでどうする」


  そろそろワンパターンとか言われそうだが、このハルくんの仲間になった途端良い奴ぶる盗賊女はどっかで潰さないとやばいな。さっきもしれっと私のハルくんの体を揺さぶってたし。


  そんなことを考えながら、魔水晶の映像を食い入るように見つめていた私にエミは、


  「……エル姉さぁ、一昨日からずっとそんなふうに仕事してるの?」


  と、少し怒りが混じった声色で言った。


「そ、そりゃあ仕事しないとこの天界でやってけないし、これが上手くいかなかったらクビ切られるかもしれないでしょ?私だって必死なのよ」


「監視対象のことが好き」なんて言ったらどうなるかわからないから、もっともらしい答えを捻り出した。


「ふーん…エル姉にとってそんなに仕事って大事なんだ」


  あ、分かった。そういうことか。完全に察した。


  私とエミの関係は長い。ここまでの発言の意図が分からなくて、何が「昔からの仲」だ。


  でも、それを早々にエミに言っちゃうのは面白くないな。私は、エミの口からそれを言わせるように仕向けることにした。


「エミさ、なんでそんな不機嫌なの?私心配だよ」


「…………別に?ちゃんと仕事してて偉いね、エル姉」


「それはありがとう。でも、エミがそんな不機嫌だと仕事どころじゃないよ。エミは私の妹みたいなもんだしさ」


「……………っ!」

 

  「エミ、怒ってるんだよね?大体分かるよ。私ポンコツだしなんかエミに嫌なことしちゃったんだよね」


  「え、エル姉…そんなこと…」


「ごめんね。私のせいでエミに迷惑かけてーーーー」


「ちがうのエルねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!わたし…わたしっ…うぅ…」


 エミは目に大粒の涙をため、子供に戻ったかのように泣き出す。


 エミは昔からこうだ。身体はどんどん大きくなっていくし、上司から気に入られるほど立派な女神になってきたけど、私のことを第一に考えて、私のこととなるとこんな風に泣き出してしまうところはずっと変わらない。


 そして私はそのエミがたまらなく好きだ。これに関しては正直ハルくんより可愛いかも。


 だからこんな風に意地悪したくなっちゃうのも仕方ないよね。


「わたしっ…エル姉に休んでもらいたくて…ひぐっ…エル姉に仕事ばっかりしてもらいたくなくてっ…もうわたしなんてどうでもよくなったんじゃないかなって…うぅ…」


「ふ…ふふ…大好きだよエミーーーーーーーーーーーーッ!!」


 駄目だ我慢できないっ!私は泣きじゃくるエミに飛びつく。


 女神共通の羽衣から覗く白い肌。涙で目元が赤くなっているが、それでも綺麗で幼い顔。とてもいい匂いのする白いショートヘア。私より一回り以上低い背丈。


 その全てが愛おしい。私が小さくて可愛い子が好きなのは、エミがずっと私のそばにいたからかもしれない。


「エル姉…ごめんねはわたしの方だよ…仕事してって何度も言った私がこんな風に仕事の邪魔しちゃって…」


「仕事よりもエミの方が大事。私がエミのことを嫌いになるわけないし、無理はしないよ」


 まあ今は仕事よりも大切な子ができちゃってるけどね。


「それでもわたしはエル姉に迷惑かけて…うぅ…ごめんね…ごめんね…」


「ううん…私はもういいよ。私はもういっぱい、エミの可愛い泣き顔を堪能したし…」


「え?」


 あ、やばい口滑った。


「ま…まさかエル姉、最初からわたしの言いたいことに気付いてわざと…?」


「ち、ちが…」


「エル姉の馬鹿ーーーーーーーーーっ!!」



***


 気付いた時にはエミはおらず、私は床に倒れていた。


 右頬が痛い。さっきの失言で、私はエミに頬をぶたれたようだ。


「仕事…忘れてた…」


 エミに夢中になりすぎてもうすっかり忘れていた。


 確かにエミのことは大好きだし大事だ。ただそれは幼馴染としての感情であって、私の初恋を捧げるのはハルくんだ。


 エミにあんな風に心配されたばっかりだけど、やっぱり私はハルくんを見守りたい。私はデスクに向かって座り、魔水晶の映像を見る。そこにはーーーー


 木が生い茂る森の中にいるハルくんとティーラの周りには、大量のモンスターらしき死骸があった。


 ーーーー私に聞かないで?私も何がなんだか分からないの。


「私のこと…呼び捨てにしてくれないか?」


「分かりまし…分かったよ、ティーラ!でもそっちこそ、僕のことを名前で呼んで欲しいな。『君』じゃなんとなく他人行儀だし」


「そうだな。ハルヤ」


 しかもなんか仲良くなってる!?え、マジどうなってんの!?


「…おや?私達は図らずも、人を救っていたらしい」


 2人の近くから出てきたのは、1人の少女。


 あぁーもう!ただでさえ分かんない状態なのに、これ以上情報を与えないでよ!

もーーーーしわけございません!!!!

リアル事情が厳しく、ちょこちょこ書いていたら1週間過ぎてしまいました!

次回、ハルヤくんに何があったのかを掘り下げていきます!

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