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第4話「子供の入学式に臨む母親」

女神エル様の豆知識コーナー!

今日は『転生担当女神』の説明!

転生担当女神は500年前にできた女神の職業の1つで、転生者の対応・その後の生涯の監視を繰り返すというものだよ!

たくさんの転生者が出ても対応できるように、この職業には数百万の神が関わってるんだよ!はい説明終わり!

 ハルくんがいた世界とは何もかもが違うこの異世界でも、太陽は昇るし朝は来る。


  「いい天気ですね、ティーラさん」


  「ああ、そうだな…というか、ティーラ「さん」ってのはやめてほしいな。ティーラでいい」


 だが私の心は、昨日からずっと真っ暗な夜だ。


  昨日ハルくんが今や雌犬に成り果ててしまった元盗賊のティーラを仲間にした後、主に2つのことがあった。


  1つは、ティーラが盗んだものが街のあちこちで見つかったことだ。


  どうやら、今ハルくんがいる街で起こっていた連続盗難事件で盗まれたものは、すべてあいつの仕業だったらしい。


  比較的治安がいいこの街で起こった盗難事件を解決するために街側は躍起になっていたらしいが、そんな中で市民が盗まれたと訴えたものがほぼ全て街中で見つかったのだ。これはハルくんの提案で行われたことだ。


  こうしてこの事件は市民の勘違い、ということで終結し、ティーラも盗みから完全に足を洗った。


  これはいい。というかどうでもいいのだが…


  問題はもう1つのこと。時は遡り、ハルくんとティーラが盗んだものを街中に置いた帰りのことだ。


  『そう言えばティーラさん、寝る場所とかどうしてるんですか?』


『森。盗んだものはみんな木の中に置いてただろ?そこの近くに紐でハンモック作って、最近はもっぱらそこで寝ていたな』


『え!?いくらここが暖かいからって、外で寝るのは危ないですよ!僕の家に来てください、ちょっと狭いですけど寝るには充分なはずです!』


『い、いや、それは悪い…』


『僕の好きでやってることです!いいから行きますよ!』



  こうしてティーラの手を引くハルくんを見たときの私の気持ち、諸君らにわかるだろうか。


  その上あいつは、ハルくんとの譲り合いの末に私がハルくんのために家の中に用意していたベッドに寝やがった。


 ハルくんのために用意したのに…私のハルくんを奪う雌犬のために用意したものじゃないのに…


 そして今ハルくんとティーラが話をしているのは、ハルくんの家の前…なんでこんなことになっちゃったんだろ…


「で、どうしましょうかね?昨日はああ言ったものの、ここで人の役に立つことって何をすればいいんでしょうか…」


  やっぱりどんな時でもハルくんはかわいい。


「全く君って奴はなんて非常識なんだ…君、金は持ってるよな?」


  元盗賊が「非常識」って言いやがった。死ねばいいのに。


「お金なら家にいっぱいありますけど…それが何か?」


「それなら良かった。『あそこ』は金が沢山要るからな。それじゃあ行こうか」


  ***


  東の都の中心であるこの街の中でも中枢部分に位置する、非常に大きな木造の建物。


  他の場所とは一線を画すここの周囲には、街中にあまたある白レンガの建物がほぼなく、人通りも街中とは打って変わって少なくなっている。


  その代わりに馬車の往来が非常に激しく、出入りする人間の顔からは、並外れた自信が伺える。


  そう、ここが『冒険者ギルド』である。


  「ホントに大きな建物ですね……ここで「人の役に立つこと」って出来るんですか?」


「できるとも。まあさっきも言っが、ここはかなり高い金を取られるんだ」


  それは正しい。冒険者ギルドは入会金がかなり高い。この世界の尺度で換算すると、街中で商売している露天商の1ヶ月の月収くらいだ。


  その上ここは運営費の大部分が市民の税収で賄われているため、高い入会金を支払っても実績を残せない冒険者は容赦なく除名される。市民からの批判を防ぐためだ。


  ただ、そんな中で冒険者という地位を守っている者はそれだけで市民からの羨望の対象とされ、冒険者達も「モンスターから人々を護る最後の砦」としての強い自信がある。


  おっと、入会金の話だったね。何も知らない諸君のために話してたら長くなっちゃった。


  私がハルくんに転生の特典として渡したお金は普通の転生者の30倍はある。何もしなくても半年は持つくらいだ。これも私のハルくんに対する愛の賜物ってわけ♡


  もちろん、冒険者ギルドの入会金なんかは余裕で足りる。ただ気に食わないのはーーー


「まあぶっちゃけ、冒険者ギルド(ここ)に憧れてたんだ。まさか君の家にあんな大金があったとは…これで入会金は心配ないな」


  私の愛の結晶を、この盗賊女が横取りしてること。こいつ、ハルくんのことを金づるかなんかだと思ってんのかな。


  「まあ、人助けができるならお金なんていくらでも払いますけど…ああぁ、でも昨日みたいなモンスターと戦うのはなぁ…」


  「やる前から御託を並べるんじゃない!いいから入るぞ!」


 こうしてティーラはハルくんの手を引き、冒険者ギルドの大きな扉を開き、入る。…?ハルくんの手を引いた?あの盗賊が?よし殺そう。


  冒険者ギルド内は、街中とはまた違うタイプの喧騒で満ちていた。


  まだ昼になったばかりだと言うのに、広いこの建物のあちこちで重装備の男達が酒を飲みながら野太い声で騒ぎ、給仕の美女達が忙しく走り回っている。ここには酒場も併設されており、冒険者は飲み食いがタダなのだ。


  ハルくんは早くもこの雰囲気に怖気づいているようだが、ティーラはそんな中でもずんずん歩いて奥の受付へ歩いていく。その時に彼女は何かを呟いていたようだが、喧騒にかき消されて聞こえなかった。まああいつの言葉なんて分からなくていいや。


  自信たっぷりに歩くティーラとそれに恐る恐るついて行くハルくん。この若い上に軽装の彼らは冒険者ギルド内では非常に目立つらしい。彼らの存在に気付いた冒険者達は、クスクス笑いながら彼らを見る。お決まりの展開だ。


  すると1人の冒険者が歩いているティーラに近寄り、


  「なぁ姉ちゃん、冒険者志望?危ないぜそんな仕事。それより俺とお茶しない?」


  聞く者を不快にさせるためとしか考えられないような声色。しかしティーラはそいつに対してあの粗悪な小剣を向け、


  「気遣いは感謝するが、人のやることにあまりケチをつけない方がいい。そして女性との喋り方も学び直せ」


  と言った。冒険者はゆっくりと後ずさった後、走り去っていった。てかさっきのセリフ、ちょっとドキッと…いやなんでもない!


  こうしてハルくん、ティーラの2人は受付にたどり着き、それぞれの入会金を出した。


  「冒険者ギルドへの入会ですね?ではまず、お名前を」


「一樹春哉です」「ティーラだ」


「それでは、この魔水晶に手をかざして下さい」


  受付のお姉さんは、ザ・営業スマイルと言う感じの笑みを浮かべてそう言う。完璧だ。


  ハルくんとティーラが言われた通りに、それぞれの前に置かれた魔水晶に手をかざすと、いくつものウィンドウのようなものが出てきた。こちらからはその内容を見ることが出来ない。


  ここで異変は起きた。2つの魔水晶が突然黒い光を放ち、その後割れたのだ。


  受付のお姉さんの完璧な営業スマイルは一瞬で崩れ、近くで見ていた冒険者達も静まり返った。その雰囲気は次々に広がり、ついにはこの広いギルドすべてが静寂に包まれる。


  5秒ほど時間が経った後、言葉を失い呆然としていたお姉さんはようやく我に返った。


 そしてさっきの魔水晶から出ていたらしい情報を紙に書き記し、それを2人に渡す。


「こっ、こちらがおふたりの冒険者カードになります!このカードはクエスト受注やギルド主催のイベントの際に必要になりますので、無くさないようお願いします!」


 そして渡されたカードがこちら。まずはティーラのから。


 レベル 47

 HP 389 ランク:SS

 MP 121 ランク:B

 攻撃 384 ランク:SS

 防御 134 ランク:B

 素早さ 378 ランク:SS

 魔力 42 ランク:C

 知性 199 ランク:A

 運 154 ランク:B

 冒険者ランク:B

 適正職業 剣士


  この数値には、あのスゴすぎる剣技を見た私も驚いた。まさかここまで強い力があるなんて…


  まあそれはそれとして、お待ちかねのハルくんのカード!


 レベル 24

 HP 309 ランク:SS

 MP 294 ランク:SS

 攻撃 187 ランク:A

 防御 54 ランク:C

 素早さ 399 ランク:SS

 魔力 160 ランク:S

 知性 188 ランク:A

 運 104 ランク:A

 冒険者ランク:B

 適正職業 魔法剣士


  能力に偏りは出ちゃったけど、これらはこの世界では最強級の力なんだよね。まあつまりはあの盗賊も化け物級に強いんだよね…。


「…!?ちょっと待て、なんで冒険者ランクがBなんだ!?普通はFから始まるはずだろ!?」


 冒険者カードを見てぎょっとしたティーラに対し、まだ動揺が隠せていない受付のお姉さんは、


「あ、あなた方の能力値は桁違いすぎるんです!ですので特例として、中級冒険者相当のBランクからのスタートとなります!あとこれ、中級冒険者であることを証明するバッジです!」


  と言って、重なった2本の剣が中央に描かれ、その周りに円形に異世界文字が書かれたバッジを置く。そして、さっき受け取ったお金を2人の前に戻し、


  「あとこの入会金もお返しします!冒険者ギルドはあなた方を正式に、冒険者として認めます!」


  これをただ聞いていた当のハルくんは、


「嘘でしょ…?僕は強い…?」


  呆然としながら自問自答していた。


  そして、先ほどから静寂を貫き、この一連の流れを聞いていた冒険者達は、「あの魔水晶が割れるなんてことあるのか…?」「聞いたことある…確か前に魔王を封印した勇者もこんな風に割ったって…」などとざわめいていた。


  このざわめきをかき消すように、冒険者ギルドのリーダー格らしい巨体の男が口火を切った。


「よ、よしお前ら!未来の勇者の誕生を祝して、今日はじゃんじゃん飲むぞ!」


  いや、お前らさっきからグビグビ飲んでたじゃん。


  ただ、あの男の影響力は大きいらしく、冒険者達は一斉に、


「「「おーーーっ!!」」」


  建物の外にも響きそうな歓声を上げた。


 リーダー格の男は、呆然と立っていたハルくんとティーラに駆け寄り、


「お前らも遠慮せずに飲んでいいからな。なんたって今日は宴なんだからな!」


  と言った。いかにも男気の溢れるセリフだけど、ここの酒場は冒険者ならタダで飲み食いできるから。


  「「「ティーラ!ティーラ!ハルヤ!ハルヤ!」」」


  怒涛のティーラ&ハルヤコールに包まれた当の本人たちは、とても気まずそうな顔で向き合っていた。


  「これは…当分目立ちそうですね…」


  「そうだな…」


  歓声に包まれる我が子のような存在。


  まだ出会って1日だけど、いきなり大出世したハルくんを見ると思わず感動してしまうね。…邪魔者が1人いる以外は…


 まぁ、転生担当女神の役目はここからだから!邪魔者は消す!ハルくんの冒険を全力サポートする!


 大きな進歩をしたハルくんを見ながら、何もしていない私は今日も1人の部屋で勝手な決意を固めた。


今回も読んで下さりありがとうございます。

まずは、前話から5日も空いてしまったことを謝罪します。

さて、コメントにて「前書きは物語への没入感を妨げる」というご指摘があったので、前書きを無くし、代わりに豆知識コーナーを入れましたがいかがだったでしょうか。

次回もできるだけ早く投稿しますので、今回の豆知識コーナーに関することも含め、正直な評価をしていただければ嬉しいです。

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