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第1話「これまでの300年が凝縮した一瞬」

みなさんおはこんばんにちは!瑞瀨ゆういちと申します<(_ _)>

他の異世界小説とは一味違う「女神目線のストーリー」でお送りする私の処女作、楽しんで下さいね!

  「あー、また死んじゃったー」


  私は見えない天井を見上げながら誰に言うまでもなくそう呟く。


  私以外誰もいない、奥も上も見えないようなだだっ広い部屋で一日中ダラダラする。それが私の仕事なのだ。


  あ、ここまで読んでるみんなは私のことを変なふうに解釈してるかもしれないけど、私は君たちが思ってるより低俗ではないということははっきり言っておくね。


  「ちょっと、エル姉!まーた監視対象の子を死なせたの!?先輩たち、カンカンに怒ってたよ!」


  「なーんだ、エミかぁ。あの短気なオヤジかと思ったわ。ビックリさせないでよ」


  「上司をオヤジって言うな!エル姉がちゃんと仕事すればみんなが怒ることもないのよ!大体エル姉は転生担当女神なのに毎日毎日監視もせずダラダラするせいでせっかく転生させた子を死なせるばっかり!そんなんだから女神としての実力はあるのに昇進できないのよ!」


  まったくー、と彼女はほっぺを膨らませる。


  さて、ご丁寧にいっぱい喋ってくれたおかげで私のことは大体わかってくれたよね。

  私は「転生担当女神」。12歳以上の不慮の事故で死亡した人間を、死んだ世界とは違う世界へ転生させ、その様子を監視し、時にはサポートして日記として上に伝える仕事をしている。


  そしてさっきから私にキレてる子、エミは私の妹分で、かなり昔からの仲。研修生として私の下で様々なことを学んでいる。まあ今はこっちがお世話されてるけどね。


  「私だってもうこの仕事に就いて300年よ?昔は不慮の事故やら暗殺やらで死ぬ人が今より多かったし、女神1人で5、6人担当とかザラだったし、その労いとしてちょっとくらい休みくれても良くない?」


  「それはわたしに言うことじゃないし、そもそも仕事しないのに労いも何もないし、色々おかしいよ!あと、さっき死んだ人がいるらしいからその対応してよね!これ資料!」


  バン!!


  えー、とかめんどくさい、とか言う暇もなく、エミは私のデスクに書類を叩きつける。こんなやり取りももう慣れっこだ。


  「わたしもう本部に戻るから、ちゃんと対応してよね!次あんな風に死なせたら処遇を考えさせてもらうって先輩も言ってたよ!」


  そして彼女は私に文句の一つも言わせずに目の前に次元の扉を開き、去る。こんなことももう何十回目だろうか。


  また仕事か…とため息をついて、エミからもらった資料に目を通す。


  一樹春哉《いつきはるや》、15歳。特筆すべき点のない中学生で、死因は下校中に大型トラックと衝突したことによる内臓破裂ーー


  ここまで読んだところで飽きて、私は資料を放り投げた。


  普通すぎる。とにかく普通すぎる。というか、最近転生していく人間の死因は、大体こんなもんだ。


  人の死をこんな風に言ってしまうのは良くないのかもしれないが、こんなにも変わり映えしないワンパターンな死因やら経歴だと、否が応でも飽きてしまう。エミも上司も、それを分かってくれない。


  まあ最近は未知の世界に恐れを抱き、転生を拒否する人間もいる。これから来る春哉くんがそっち側の人間であることを祈っていたら、件の春哉くんがやって来た。




  光に包まれて、椅子とともに出現した彼の姿に、私は目を奪われた。


  まず目に映ったのは、パーツが整っていて綺麗な顔。そして、150cm程度しかなさそうな華奢で小さな体に、少し大きめな学生服。


  一目惚れ、という言葉以外にこの感動を表す方法はないだろう。一瞬のその出会いは、私のこれまでの300年を凌駕していた。


 古くさい武士たちを何百人も何千人も異世界に送り出したことも、同じような奴しかいない学生たちの監視に飽き飽きしていたことも、この出会いに比べたらクソと同義だ。


「えーと…ここってどこなんですか…?僕は確かトラックにはねられて…」


 春哉くんは、上目遣いで恐る恐る私に質問してきた。その見た目通り、まだ声変わりしていない中性的な声で。


 その声は、あの一瞬の出会いに囚われていた私を現実に引き戻し、そしてさらに悶えさせた。


「い、いいい一樹春哉さんですよね…?残念ですが、あっ、あなだ…あだだは先ほどっ、しっしぼっ死亡しましだぁ!」


  いつも言っているセリフのはずなのに、彼が見ていることに緊張しているのか、上手く喋れない。


 彼はと言うと、さっき私が告げた事実を受け入れようとしているのか、俯いて黙っている。


「そっ、そんなに落ち込まないで…。あっ、私はエルッ、女神でぃす!あっああああなたのような不慮の事故で死んだ人にはぁっ、特別な措置があるの、いやあるんです!」


  唇が震えているのが分かる。額からは脂汗が流れ出る。何を緊張しているの私はっ!


「めっ、女神さま…大丈夫なんですか…?どこか悪いんですか…?」


  春哉くんは、そんな私を軽蔑することも笑うこともなく、心配してくれた。自分がこれからどうなるか不安だろうに、とてもいい子だ。


  これ以上心配させたくない。私はそう思い、1度深呼吸してから続ける。


「はい、大丈夫です。心配をおかけしましたね。特別措置というのは、ずばり『異世界での生活』です」


  ふぅ、何とか言えた。そしてそこから、間髪入れずに続ける。


  「まあ、あなたが生きてきた日本とは大きく違う環境ですが、私がサポートしますし、安定した生活が築けるように尽くします。早くに終わってしまった人生、別の世界で過ごすのもいいと思いませんか?」


  よし決まったぁ!


 私は心の中でガッツポーズをした。これで彼はこの世界に行ってくれるーー


「あの…行かないという選択肢はありますか…?」


 はああああああああああああああああ!?


「えーと…確かに異世界に行かずにここ、天界で転生を待つこともできます。でもそれは…異世界で一生を終えた後でも…」


  まずい、これはまずい。何とか引き止めないと…


「でも怖いんです…僕どんくさいし…異世界がどんなとこかも分からないし…」


「全力でサポートはします!!様々なオプションもつけましょう!だから怖いと言わず!」


  駄目!天界は駄目!私の監視対象から外れちゃう!早口でまくし立てるうちに、自分の顔が熱くなってくるのを感じた。


「そこまで尽くしてくれることは感謝します。ですけど僕にはやっぱりーー


「お願いお願いお願い!異世界行ってお願いだから!これはあなたのためでもあるの!」


  嘘!ホントは私のため!


  「天界で過ごすには不自由がいっぱいあるから!異世界の方が楽しいから!」


  嘘!天界はなんでもできるしはるかに自由!


  「もうホントにたのみますよぉぉぉぉぉ!!私を救うためだとおもってぇぇぇ!!」


  シャウトしながら嘆願する私の姿には、もう女神の面影はなかっただろう。でも春哉くんはそんな私をはっきり見てこう言った。


「とても不安ですけど…それがあなたのためになるんですよね?僕行きます、異世界に行きます」


「え…?」


  デスクの上で暴れ回っていた私は、彼のその言葉を聞いて瞬時に椅子に座り直す。


「あ、はい、うん!その言葉を待っていました!ではあなたの体を転移させます!」


  私は、何事もなかったように春哉くんの下に次元の扉を開き、彼をそこに落とす。

  叫び声を上げながら春哉くんは落ちていく。


 そして扉が閉じた後、私は、


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 と絶叫のような声を上げた。


  ここで仕事を始めて300年。私はやっと『初恋』というものを知った。


  もっと彼のことを知りたい。彼に私のことを知ってほしい。そんなことを考えたのも今が初めてだ。


  絶対に彼を振り向かせてみせる。そのためならーーどんな手段でも使ってやる。


 














転生したハルヤくん、一体どうなるんでしょうか?

次回もエルちゃんとハルヤくんのことを応援してくださいね!

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