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第四話 刺客

新たな仲間、エリーシャを加えた俺たちは、元々の目的であったなんでも屋に向かっていた。


「しかしまぁ、なんで男装を?お前みたいな美形が・・・」


「美形とかいうなこのアホ。それに、なんでお前みたいなやつにボクの秘密をべらべら喋らなきゃいけないんだ」


エリーシャはなかなか心を開いてくれない。まぁ仕方ないと言えば仕方ないのだが、あまり空気がよどんでいると過ごしにくい。


「それよりも、この先の何でも屋に行ってお前たちは何をするんだ?ついて行くのは変わらないけど、目的は知りたい」


「なんだお前、こっちの質問は答えないのにそっちは質問してくるのか」


「うるさいな。それで、どうなんだアネッタ。・・・ま、言えないってんなら仕方ないけど」


「・・・ついて来るなら話しておかないといけないかな。私たちは・・・」


アネッタは俺にした説明をエリーシャにもした。エリーシャの顔がみるみる変わっていく。


「アネッタ・・・お前、王女様だったのかよ!」


「まだ王女じゃないけどね・・・。でも、たとえ私が王女にはならなくても、イーゼロッテにどうして私を追い出したのか。それだけは聞きたいの」


まぁ普通は自分が権力を握りたいだとかそういうもんだと思うけど、ここは黙っておく。


「そうか・・・。ま、ボクは全部終わってコイツさえどうにかできればそれでいいんだけどね」


そう言いながらエリーシャは俺の腕をつねる。そんなに男装してる事がバレたくなかったのだろうか。


「・・・さて、このあたりにあったはずだけど」


アネッタがそう言って角を曲がる。俺も内装は知っていても普段はメニュー画面からひとっ飛びするから細かい場所までは知らない。アネッタのナビだけが頼りだ。

そう思いながら俺たちも角を曲がると、そこには小さな小屋があった。テントのようになっている入り口から覗く内装から、ここがなんでも屋だということは理解できた。


「さて、行きましょ二人とも。ここからが私たちの本当の勝負なんだから」


「・・・ああ、そうだな」


俺がどうするかはまだ決まっていない。彼女が王位を取り返したら、彼女の旅をする理由は無くなる。そのあと俺はどうするのか。それは考えておかないといけないだろう。・・・特にこのエリーシャと二人旅になるというのが問題だ。


「なんだよ、ボクの顔に何かついてるのかよ」


「いや、何でもない」


エリーシャをまじまじと見てしまっていたことでまた空気が悪くなったのを察知して俺はそそくさとなんでも屋の中に入る。中ではすでに、アネッタとなんでも屋の管理人が話をしていた。


「おやおや、連れの方もいたのかい。これは驚きだねぇ、ヒーッヒ」


中にいたのはゲームの何でも屋のナビと同じ姿の女性。見た目は子供だが、その分大人びた印象のキャラだったはずだ。その喋りに少し違和感を感じたが、まぁゲームと現実では違うってこともあるだろう。俺は気にしないことにした。


「それで、内容はピスティスの内部調査・・・。特に宮廷魔導士のアルフレッド・オーウェンについて、でよかったかね?ヒーッヒ」


「ええ。・・・隣国の、特に上位の者の情報を得るのは大変だと思いますが・・・」


「あぁいいよ、ここにくる奴なんざ物好きか訳ありの奴ばかりさ。詳しいわけは効かないさ。ヒーッヒ。それじゃ、今から準備をするからそこで待っていなさいな」


そう言って彼女は奥の部屋へと入っていく。・・・やはり気になる。特にあの喋り方が。


「それじゃ、私達はここで待っていましょうか。・・・あれ、ねぇエリーシャ、アイツ見なかった?」


「アイツ?あぁ、ケンゴか。そういや見ないな・・・。」


――――――


「・・・というわけで、貴方様の言うとおり奴はここに来てます。連れがいるのは想定外でしたが、見る限り有象無象。まとめて始末してしまえばいいでしょう。ヒーッヒ」


『・・・そうか。わかった。今からそちらに兵を送る。ご苦労だった』


「問題ありません。すべてこのエミリアにお任せを。ヒーッヒ」


「宮廷魔導士との連絡は終わったか?偽物。」


「なっ・・・、何を言っているんだ?私はどう見ても普通の何でも屋。どこもおかしい所なんてないでしょう?ヒーッヒ。それに、勝手にスタッフルームに入るなんて・・・」


「いいやお前は違う。俺が知っているなんでも屋は語尾に『ヒーッヒ』なんて言葉はつけない。それに、念のためにお前に『憑依』させてもらって全ての念話は聞かせてもらった」


あの時違和感を感じた俺はこっそりと全員から見えない場所に移動し、偽なんでも屋に憑依した。憑依しても何もしなければ相手は気付くことはない。それを利用して情報を探ったのだ。もし本物ならそのまま憑依を解除して何食わぬ顔で戻ればいい。

・・・まぁ、戻る心配はしなくてよくなったが。


「憑依だと・・・!?貴様まさかあの預言者の言っていた『イレギュラー』か・・・!まさか既にアネッタに接触しているとはな。でもこの錬金術師エミリア様の変身を見破ったところで、すでに連絡は終わった。すぐにでもあのお方の兵がお前たちを皆殺しにするだろう!ヒーッヒッヒ!」


「預言者・・・?まぁいい。その時はお前をとっ捕まえて人質にでもするだけだ。俺の能力を甘く見るなよ」


「ハッ、威勢だけはいいねぇ!でも、アンタが憑依する前にアタシの錬金術でお前を殺してしまえば問題ないって寸法さ!」


エミリアと名乗った錬金術師がなにやら呪文を唱えると、彼女の体が変化し、腕が巨大な鎌に変化する。確かこのゲームの錬金術師は自身の姿を変化させて戦うスタイルだったな、などと思いながら、俺は少しずつ後ろに下がる。俺は憑依しなければ一般人と大差ない。それに、さっきから試しているが先ほどは憑依できたにもかかわらず今は憑依することが出来ない。おそらく敵対心を持つ相手には憑依できないのだろう。

そうなると今コイツに勝てる手段はない。なんとか隙を見せないように皆の下へと行かなくては・・・。

そうしてにらみ合っていると、外から大きな足音が聞こえる。


「なんだ・・・!?」


「ヒーッヒ、到着したようだねぇ、あのお方の『軍』が!」


俺はエミリアを放置して皆の下へ走り出す。皆が待っていた部屋には既に二人の姿はない。俺は急いで外に飛び出した。


「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


「離せ!放せってんだよ!」


外に出ると、巨大なモンスター二体が二人を捕まえていた。


「あれは・・・『エビルギガース』・・・!!」


エビルギガース。確か8面で中ボスを務めていた巨人。まさかこんな奴まで扱えるというのか・・・!


「ヒーッヒッヒ!どうやらアネッタとその仲間は既に捕らえたようだね!」


さらに後ろからエミリアが追い付いてくる。挟み撃ちの状態、さらに俺以外は全員捕まっている。とてもピンチだ。


「さぁ、どう料理してやろうかねぇ。ヒーッヒ!」


エミリアが近づいてくる。もう駄目か、俺はアネッタの目的すら達成させられずにここで死ぬのか―――


その時、エビルギガースの蹴りがエミリアを直撃した。


「ぐはぁっ・・・!?どうした!アタシは味方だぞ!」


変形させた鎌で防いだのか特にケガを負うでもなく、抗議するエミリア。しかしエビルギガースはそれを気にする様子もなく無差別に攻撃を続ける。


「どうなってる・・・?確かエビルギガースは知能あるモンスター。味方と敵の区別はつくはずだが・・・」


必死で攻撃をかわしながら考える。その時脳裏に浮かんだのはある推論。エミリアの方を見るが、彼女も同じ結論に立ったようだ。


「まさかあのお方は、この秘密を知ったアタシまで皆殺しにして口封じを・・・!」


やはりそうだ。あの念話の時に行っていた男の声。『ご苦労だった』。あれはドラマとかで悪の幹部が重要な情報を持ち帰ったときにそいつを殺しながら言うセリフ。まさか本当にその使い方で聞くことになろうとは。


「くっ・・・!アタシは死なないぞ・・・!アタシは天才なんだ!天才であるアタシがここで死ぬわけには・・・!」


「おいそこのお前!いやエミリア!」


「なんだお前!このアタシを馬鹿にでもするつもりか!あのお方のために働いて、そして殺されるこのアタシを!」


「いや、そうじゃない。お前を生き残らせてやる!だから、俺とアネッタたちを助けろ!」


俺は賭けに出た。元は敵だが今の状況だ。敵だっただの言っている場合ではない。それに、あいつは生きたいと言っている。そんな相手を見逃すなんてことは、俺にはできない。


「なんだと?アタシはあのお方に仕える錬金術士。その敵であるお前たちを助けるなど・・・」


「だがお前はあのお方とやらに裏切られたんだろ?それに、お前の力だけじゃこいつは倒せない。逃げることもだ!だが、俺の力なら全員助かる!」


これを信じるかは運任せだ。だが、ここであいつの了承を得ない限り成功したとしても俺の体が危険だ。何としてもここは納得してもらわなければならない・・・!


「この局面を乗り切ったらお前は自由に逃げてもいい!また俺たちを売ってもだ!だから、今だけは手伝ってくれ・・・!」


「お前・・・」


エミリアの気が揺らぐ。そこにエビルギガースの攻撃が飛んでくる。


「危ない!」


俺はとっさにエミリアを突き飛ばす。俺もそのまま受け身を取り、何とか二人はエビルギガースの攻撃を回避することが出来た。


「お前、アタシを・・・」


「っつつ・・・。俺は誰も死なせたくないんだ。そのためにはお前の力がいる。俺も、お前も、アネッタやエリーシャも、みんなが助かる道はこれしかないんだ。俺の作戦、聞いてくれ!」


エミリアはふふっ、っと笑いをこぼす。


「ヒッヒ、敵であるアタシを助け、さらには強力まで持ち掛けるなんて、お前は面白い奴だよ。・・・いいだろう。お前の作戦、乗ってやる。」


その言葉が聞きたかった。俺は簡単に俺の能力をエミリアに説明した後、草むらに隠れる。エビルギガースは背が高いからこの場所は攻撃されにくい。そして、その場で腕輪のスイッチを押した。


――――――


「・・・さて、預言者の言っていた『イレギュラー』の力、見せてもらおうかね。ヒーッヒ!」


アタシの体が軽くなる。これが憑依の力なのだろう、とアタシは理解した。その後、あの男の声が響く。


「『筋力強化』『魔力強化』『敏捷強化』『錬金許容範囲拡大』」


アタシの力が強くなっていくのを感じる。今のアタシならばこのままこの巨人もぶち殺せそうだ。


「待て。エビルギガースは傷をつけると周囲に瘴気をまき散らす。それだとアネッタたちが危険だ」


アタシの声でアタシのものじゃない言葉が紡がれる。あの男の能力だろう。


「ならどうするんだい?アタシは別に、アタシだけ助かればいいんだけどね?ヒーッヒ!」


「それは許さない。そうしたらお前を操ってそのまま殺す」


「ハッ、冗談だよ。いいさ、お前の作戦を言ってごらん。ヒーッヒ」


「ああ。先ずはお前の錬金術の力を拡大させてアネッタ達を捕らえているエビルギガースの腕を袋状にする。これで瘴気が漏れ出しても袋の中は安全だ。」


相手の体を変化させる。アタシ一人ではそれは出来ない。だが、この男の言い方だとそこまで出来るように強化されているんだろう。


「なるほどねぇ。それならあとは自由に殺せるってわけだ。ヒーッヒ!」


「ああ。こっちでもサポートはする。思いっきりやってやれ!」


アタシはその言葉を聞いて飛び出す。錬金術で自身の足をキラーラビットの足に変化させ、その跳躍力で一気に距離を詰める。


「アネッタ姫の近くまで来たよ!アタシはどうすればいい!」


「いいぞ!そのまま奴の腕を袋に変化させる!『アルケミスト:バルーン』!」


その呪文が紡がれると同時にアネッタを掴んでいた腕が袋状になり、アネッタが袋の中で跳ねる。これで傷はつかない。


「さぁ、後はそのギガースのコアを破壊するんだ!」


「分かってるっての!すまないねオーウェン。でも、アタシを裏切った罪は重いよ!ヒーッヒッヒ!」


普段の数倍の大きさまで拡大した鎌を創り出し、ギガースのコアごと胴体を両断する。そのままの勢いでもう一体のギガースの体を両断する。


そのまま足をフロッグバットの形に変化させ、着地の衝撃を吸収し元に戻す。巨人は倒れ、操られている魔物特有の黒い炎になって消えた後、アネッタたちが解放される。


――――――


「・・・ふぅ、危険な賭けだったが、なんとかなるもんだ。」


元の体に戻りながら俺は茂みから出る。戻った瞬間エミリアがアネッタたちを殺す可能性も捨てきれていなかったが、どうやら心配は無用だったようだ。


「戻ってきたかい坊や。この通り、二人も無事さね。ヒーッヒッヒ。」


「ああ。本当に助かった。お前がいなかったら俺達は・・・」


「何言ってるのさ。アタシだってお前さんに助けられたんだ。これで貸し借り無しってもんさね。ヒーッヒッヒ」


「・・・あれ、私達・・・」


「くっ、ボクとしたことが・・・」


「二人とも大丈夫か?」


「ええ、なんとか・・・。もしかして、なんでも屋さんが助けて?」


ああ、そう言えば二人はこいつが元敵だったことを知らないんだったな。何と説明したらいいか・・・。


「何でも屋?違うね、アタシは天才錬金術師エミリア・ノースウォッチ様だ!命の恩人の名前だ、よぉーく覚えておくんだね!ヒーッヒッヒ!」


そんなことを考えているとエミリアは普通に自己紹介をした。


「錬金術士・・・?あなた、もしかして城にいた・・・!」


アネッタが敵対心を持つが、俺が間に入る。


「確かにエミリアは元々イーゼロッテの仲間だった。だが、さっきのエビルギガースに俺たち共々殺されかけた。つまりあいつらに裏切られたんだ。だから俺はエミリアを助けた。そして、エミリアも俺たちを助けてくれた。それでいいじゃないか」


「その通りさ。さて、約束通りアタシは好きにさせてもらうよ。ヒーッヒ!」


「ああ。好きにするといいさ。どこへでも・・・って、なぜ俺にくっつく」


「好きにするといっただろう?アタシはお前さんのその能力が気に入った。それに、アネッタ姫はイーゼロッテのところに行くんだろう?アタシだってあいつには借りが出来た。手伝い位させてもらったっていいだろう?」


「・・・いいのか?お前の元の上司だろう?」


「ああいいとも。むしろお前さんたちと共にいた方が面白そうだ。ヒーッヒッヒ!」


そう言ってべたべたと引っ付いてくるエミリア。・・・二人の視線が痛いのは気にしないようにしよう。

こうして俺達は新たな仲間を増やし、旅を続けるのだった。

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