第二十四話 破壊者
砦の中は想像よりも静まり返っていた。ここは敵の本拠地だ。もっと大量の敵がいると考えていたのだが。
「静かね・・・。奇妙だわ」
「道中いっぱい襲ってきただろう。あれで全部だったんじゃないかねぇ。ヒーッヒ」
エミリアが軽口をたたく。・・・それならいいのだが。何か嫌な予感がする。
俺達は警戒しながら奥へ奥へと進む。しかし、俺たちの歩く足音以外なんの物音しない。
それが、逆に俺たちを不安にさせる。
「物音ひとつしないってのは逆に不気味だな・・・。明かりもほとんど機能していないし・・・」
「ここは敵のテリトリー。用心するっス。あいつらはきっと、ウチらの予想もしない方法で襲ってくるに違いないっス・・・!」
エリーシャやルメルカも警戒している。・・・確かに、これだけ静かなのは奇妙だ。ここは一度様子を見た方が・・・そう言おうとした瞬間、静寂を破るような声が響き渡る。
「警戒する必要なんてねぇぜイレギュラー!俺はずっとここにいる!お前たちを倒すために待っていたんだからな!」
「トパーズ・・・!」
その声と同時に奥の明かりがつき、そこには巨大な椅子に座るトパーズがいた。周囲に他の仲間がいる様子はない。・・・いったいどういうつもりなんだ・・・?
「俺の真意が聞きてぇみたいな面してるな。ま、とにかくもっとこっちに来いよ。そんな遠くからじゃお前らの攻撃も届かねぇだろ?」
そう言って手招きするトパーズ。隠しきれない戦意が伝わってくるが、この行動に罠にかけようとする意志は感じられなかった。
俺は、ゆっくりと奴に近づいて行く。
「ケンゴ、危ないわ!」
アネッタが止めるが、俺は前へと進む。
「大丈夫だ。なぜかは分からないが、こいつには悪意が感じられないんだ。・・・まるで、ただ戦いたいだけのような。」
「その通り!俺はな、イレギュラー。強い奴と戦う、そのためにこの次元に来た。まぁ、俺たちがこの世界に、いや、この次元を使い更なる上位の世界へと昇華するために組織としての目的は果たすが、それはそれだ。今はイレギュラー、お前とその力を試したい!そのために下手な小細工や雑魚はいらねぇ、そうだろう?」
トパーズはガハハ、と笑いながら言う。それに対してエリーシャが反論する。
「それならなぜ魔蝕を使った。あれのせいで多大な被害が出るところだった。・・・それに、それのせいでボクの父と母は・・・!」
その殺意のこもったエリーシャの瞳を不敵な笑みで見つめ返しながら彼は返す。
「あぁ、あれはお前たちを試しただけさ。あの程度を超えられないようじゃ俺たちの目的にも使えねぇし、俺が満足できる戦いも出来ないだろうしな。・・・あと、お前の両親のことはサファイアが勝手にやったことだ。俺に言われても困るってもんよ。ま、魔蝕をあいつが使えたのは俺の存在があったからだし、間接的には俺のせいってことにはなるのか?ま、俺たちがこの世界に顕現するための生贄に選ばれたんだ、運が悪かったと諦めるんだな」
「貴様・・・!」
「待てエリーシャ。・・・こいつにはまだ聞かなきゃいけないことがある」
今にも斬りかかりそうなエリーシャを制し、俺は言う。
「お前たちは白夜と名乗っている。だが、それは元々はこの世界の勇者が立ち上げたギルドのはずだ。・・・なぜおまえらがその名を使う」
俺が言うと、トパーズはほう、といった顔になり、その後ルメルカを見て言う。
「そこまで理解しているのか。ま、あれの生き残りと合流してるならそこまで知って当然か。いいだろう、戦いの前のお喋りは俺は好きだぜ、答えてやる。それはお前の半身・・・勇者としての藤原健吾が俺たちの復活に大きくかかわっているからさ。・・・見な!」
そう言ってトパーズは自分の後ろを指さす。そこには異形の少女がいた。・・・そして、それを見た俺は謎の感覚に襲われる。
何かが共鳴しているような、引き寄せ合っているような、そんな感覚だ。俺はその未知の間隔に耐えられず、膝をつく。
「ケンゴ!・・・何をしたの!」
アネッタが俺に駆け寄って支える。それを見てトパーズは笑う。
「イレギュラーには感じ取れたようだな。・・・これこそが俺達白夜のリーダー。いや、創造主!ヒメの体だ。そして、その体を形成する器が、そこのイレギュラーの半身、勇者としてのそいつさ!」
「センパイが、あの中に・・・!?」
ルメルカが後ずさる。・・・この感覚は、目の前に俺がいるから。・・・そして、やはりあの勇者は、俺。この世界での、俺自身。
「お前は今まで感じたことはなかったか?俺たちの感情がわかったり、場所がなんとなくでも分かったりな。・・・それは『共感覚』。本来は別次元にいる自身との感覚共有現象だが・・・、同次元にいる自分自身にもこの感覚は発生する。こいつは今、お前であり、我らが創造主、『キヨウコウノヒメ』でもある。創造主から俺たちの感覚が伝わっていた、ってところさ。便利だったろ?」
キヨウコウノヒメ・・・。それが、こいつらを生み出した、預言者が、こいつがたびたび口にしていたヒメ・・・。
「俺達は勇者であるお前を襲い、我がヒメへの器とした。だが、その途中で抵抗にあってな、こいつの半身を持ってそいつの腰ぎんちゃくの妖精が外の世界のお前に助けを求めに出ていった。そして、半身しかなくなった勇者の魂ではヒメを完全に復活することは出来なかった。これじゃ計画が台無しだ。・・・だが、幸運なことにその半身がこっちの世界に来た。俺達はあらゆる場所に潜伏し、お前が網に引っかかるのを待つことにしたんだ。完全なるヒメの復活のために、半身であるお前を倒し、ヒメへの器とするためにな」
俺が、勇者の半身・・・。あの妖精の声。あれは、やはり現実のものだった・・・。
「ま、その過程で名乗る名が必要だった。そこで勇者の使っていた白夜の名を借りることにしたのさ。永遠に沈まない白き太陽。俺たちが復活を遂げるための名としてはふさわしい名じゃねぇか?」
その言葉を聞いてルメルカがトパーズを睨む。・・・彼女は、もう一人の俺がその名前をどんな気持ちでつけたかを知っている。・・・それを踏みにじられたんだ。怒りが高まるのは当然だろう。
「お前たちは・・・この世界をどうするつもりだ。上位の世界への昇華・・・。それは、いったい・・・」
まだ感覚がつかめない。だが、これは聞いておかなければならない。奴らの目的を。その意味を。
「上位の世界への昇華。言葉通りの意味さ。お前たちは知らねぇだろうが、この世界は単一の世界じゃねぇ。複数の世界が重なり合って存在している世界だ。そして、それらを一つにまとめて次元と呼ぶ。・・・そして、その次元の領域へと到達すること。それが俺たちの目的さ。そのためにここの次元の世界を統べて俺たちの手中に収め、混ぜ合わせ、ヒメへの糧とする。そして、残るはこの世界だけとなった。・・・そう、お前を倒して姫を復活させれば、俺たちの目的は達成されるのさ。・・・さぁ、そろそろお前も共感覚に慣れてきたころだろ?体調が万全になったなら・・・始めようぜ、決闘をな!」
トパーズは椅子から立ち上がる。それと同時にアリアル・アーマーが出現し、トパーズはその中へと格納される。
「俺はトパーズ!破壊者トパーズだ!その名の通り、お前たちを破壊しつくしてやる!」
俺は立ち上がる。・・・あいつの言うとおり、だいぶマシになってきた。・・・やるしかない。これが、奴との決着だ。
「・・・だが、奴の前で憑依するのはリスクがあるな・・・。何とかして時間を・・・」
俺が呟くと、トパーズが言う。
「ああ、安心しなイレギュラー。俺は動かないやつを殴るほど野蛮じゃねぇ。倒れてるお前を狙うことはしねぇさ」
「そんなこと信じられるとでも・・・」
「信じるかどうかはイレギュラーに聞けばわかるぜ。俺の考えはヒメを通じてそいつに伝わっている。俺は嘘は言わねぇよ」
「・・・そいつの言うとおりだ。そいつの言っていることに嘘はない。・・・あくまで、俺たちを自分の実力だけで倒す気だ」
俺本体の近くにいるからか、アイツの言うとおり今までよりもはっきりと、感覚が伝わってくる。奴の考え。思考が。
「さぁ、どいつに憑依する?俺は誰からでも構わねぇぜ?全員倒すことには変わりねぇからな!」
「すごい自信ね・・・」
「ああ。・・・だが、その余裕を打ち砕く。ボクの両親の敵、それに・・・」
「センパイを助け出すために!」
「・・・ああ。みんな、頼む。力を貸してくれ!」
全員が頷く。・・・俺は、憑依の腕輪を触る。
何度も俺たちを救った憑依の腕輪。・・・きっと、これは俺からの救難信号。俺を探すための、道しるべ。・・・なら、今ならその力をすべて、発揮しろ。
俺は目をつぶり、もう一人の俺を深く感じる。・・・俺が二人に分かれられるなら、それはもっとできるはずだ。俺はみんなを思い浮かべる。・・・皆の感覚が伝わる。
「・・・俺が憑依するのは一人じゃない。今ならできる。勇者としての俺の力を俺は感じる。・・・全憑依!」
憑依の腕輪から七色の光が放たれる。それは、今まで起きなかった現象。俺の意識が、感覚が、複数に分かれていく。
「これは・・・」
「アイツの力が・・・!」
「私たち全員に、入ってくる・・・」
「坊や、ここまでの力を・・・」
「・・・すごい、温かい・・・」
「力が、湧いてくるっス・・・!」
俺の感覚は複数に分かれる。普通ならば混乱しそうな状況だ。・・・でも、今は違う。全てを制御できる。全員を、強くできる!
「・・・ハハ、ハハハハハ!!ここに来て、もう一人の自分に触れたことで覚醒したってか!面白れぇ、面白れぇぞ!やっぱり俺の思ったとおりだ!お前とはいい戦いが出来そうだぜ!さぁ、全員まとめてかかって来い!俺も本気で行かせてもらうぜ!!」
トパーズの乗るアリアル・アーマーが変形する。それはまるで巨大なロボットのよう。・・・でも、少しも怖くない。俺にはみんながいる。頼もしい仲間が。そして、俺にこれを託したもう一人の俺の力も。
「皆!行くぞ!」
俺たちはいっせいにトパーズへと攻撃する。
「行くわ!『ファイアストーム』!」
「どれだけ強くなろうと、ボクの剣技で斬り伏せる!」
「おいたする子はぁ、成敗しちゃうわよ~!」
「アタシらの本気、見せてやろうじゃないか!」
「解析は任せてください!全て、見切って見せます!」
「センパイを助けるため、頑張るっス!」
「どれだけあがいても無駄だ!アリアル・アーマーの動きについてこれるわけがねぇ!」
アリアル・アーマーは高速で動き初撃をかわす。しかし、オリンピアの開発した機械から放たれる電磁波によって、その動きは一瞬ストップする。
「何っ!?」
トパーズが驚きの声を上げる。さすがの彼もこれは予想していなかったようだ。
「隙が出来たな!」
その一瞬の隙を見逃さず、エリーシャが脚部を攻撃する。俺の強化で高まった反射神経と攻撃力により、堅い金属の脚部は一撃で切り飛ぶ。片足を失った機体はそのままバランスを崩し、新たな隙が生まれる。
「もらったよ!」
そのままエミリアが追撃を仕掛ける。鎌が起動部であろう歯車を引き裂き破壊する。
かなりのダメージを与え、動きを止めたように思えたが、奴はまた余裕の笑いを出す。
「ハハハハハ!俺をここまで追い詰めるなんて、想像以上だ!」
「もうそのアーマーの駆動部分は破壊しました、もう降参してください!」
オリンピアが言うが、奴はまだ余裕の声を出す。
「アリアル・アーマーが俺の力の全てじゃねぇ。こいつは単に別次元から持ち出しただけの道具の一つだからな。・・・俺の真の力、もう分かってるだろ?」
「・・・!皆、離れるぞ!」
俺の声で全員がアーマーから離れる。・・・そうだ、こいつの力は・・・!
「他人に与えた魔蝕は体に適合しなかったから暴走した。圧倒的な力は得られるがな。・・・だが、魔蝕の力はそれだけじゃねぇ。今からそれを見せてやる・・・!」
アーマーとトパーズの周りに黒い瘴気が立ち込める。・・・コイツ、自分に魔蝕を・・・!
奴の体とアーマーが変化し、黒い鱗を纏った巨大な竜の姿へと変化する。
「さぁ、第二ラウンドと行こうぜ!これはそこらの魔蝕とは違う。ヒメの力を持った完成品だ!」
「今までとは違う力を感じる・・・。油断するな、皆!」
「分かってるわ!相手が魔蝕でも、攻撃が効かないわけじゃない。それに、オリンピアにはあの武器がある!」
「ええ。ケンゴさんの援護があれば、これは最高の力を発揮できます!マナ吸収装置、起動!」
オリンピアが槍を取り出す。俺のバックアップでその槍に因果を貫くエネルギーを与える。・・・もう一人の俺に近いせいか、さらにその力が増幅されているように感じる。
「おせぇ!」
しかし、準備している段階でトパーズが瞬間移動、オリンピアを吹き飛ばす。
「きゃあぁっ!?」
「オリンピア!」
「そいつが魔蝕への切り札ってところか。だが、遅い、遅すぎるぜ!その程度じゃ発動することすら出来ねぇな!」
「くっ・・・!」
「でも、普通の攻撃だって通るはず!それでなんとかしてオリンピアのサポートを!」
そう言ってアネッタが炎と氷の槍を発射する。しかし、その魔法は全て奴の尻尾の一撃でかき消される。
「そんな・・・!?」
「同じと思うなって言っただろ?お前たちの攻撃は俺には通用しねぇ。故に、ここでお前らは終わりだ!」
トパーズが咆哮し、その衝撃波で全員が弾き飛ばされる。憑依している俺にもダメージが帰ってくる。・・・これだけの力を使ってもコイツには勝てないのか・・・!?
「さぁ、これでトドメだ・・・!そのままヒメの器に戻りやがれ!」
トパーズの周囲に黒い魔法陣が生まれ、そこからとてつもないほどの魔力が溢れ出す。・・・これだけの攻撃を食らったら、俺たちは・・・
しかhし、その攻撃は突如として消え去る。
「なっ・・・!?何が起きてやがる・・・」
「なんだ・・・?」
状況が理解できない。何故攻撃が消えた?そう考えていると、オリンピアが何かに気づいたようで。
「これは・・・鏡。まさか・・・」
鏡。言われてみると、周囲の空間が光を反射しキラキラと光っている。それに気づいたトパーズが怒りをあらわにする。
「これは・・・コバルト!貴様、どういうつもりだ!俺たちの目的を忘れたのか・・・!」
その声に反応して、鏡の一枚から一人の女性、いや、少女が出現する。その少女はやる気のない顔で言う。
「目的とかそんなのはもう私には関係ないさ。それに、私はコバルトなんて名前は似合わない。私はハカセだ。ヒメの復活よりも、人間の可能性に興味が沸いた、ただの科学者さ」
少女の服には白夜のマーク。・・・しかし、今の発言。彼女の言葉に嘘はない。・・・いったいどうなっている・・・?
「貴様・・・!その行為は貴様の生まれたことに対する反逆!自身の消滅を意味することが分からねぇのか!」
「分かっているとも。だからこそ、こうやってキミたちの前に出てきたんじゃないか。最後の仕事をするためにね」
「あなたは・・・」
オリンピアが少女に声をかける。この反応。もしかして手助けをした親切な人、というのが彼女なのか・・・?
「また会ったね小さな科学者さん。・・・さて、私の箱庭の中では何人も攻撃が出来ない。でも、あまり時間は残されていないんだ」
そう言う少女の体が徐々にブレ始める。トパーズの言う消滅。これがその前兆だと、俺は直感していた。
「私はヒメから生まれたが、ヒメと共に過ごすことを拒んだ反逆者。中立でいるつもりだったけど、キミたちの活躍を見て、私は最後に一仕事をするためにここに舞い降りたのさ」
「一仕事って・・・」
「・・・イレギュラー、聞こえているだろう?君の力、その憑依の腕輪は元々勇者サマが持っていた指輪「ソロモン」の力が変質化したものさ。半身であるキミにはそれ以上の権能は発揮できないが・・・。その腕輪の力の限界はそこまでじゃない」
「限界・・・?」
「私は全ては話せない。全てを教えるには時間が足りないからね。・・・だから、ヒントを与えることしかできない。憑依の力はこの世界の力を超えた力。私のヒメを蘇らせることのできる器の力を秘める。・・・それは、あらゆる可能性を見る力。・・・それだけ分かれば、こいつの野望は阻止できるだろう」
少女の言葉の意味を理解しようとする。その間にも、彼女の存在は消滅していく。
「・・・」
「・・・そろそろ終幕さ。私は消えるが、私はずっと人を見ている。・・・私を退屈させないでくれよ?」
彼女の存在が、消える。消滅していく。
「・・・お前は、なぜ人類に味方する?何故・・・」
「さっきも言ったじゃないか。私たちが上位の世界に行くよりも、もっと面白いことを見つけた。それだけのことさ」
その言葉を最後に、彼女と、彼女が生み出していた鏡の世界が消滅する。・・・俺の感じていた、白夜の力も一つ、完全に消滅した。
「・・・コバルト、余計なことを・・・。だが、いまさら何を聞いたところで俺の勝利に変わりはねぇ!邪魔者は消えたことだ、今度こそ殺してやるよ!」
トパーズは再び魔法陣を生み出す。・・・俺の力。あらゆる可能性を見る力。・・・世界を、感じる力。
「今度こそこれで終わりだ!」
魔法陣から巨大な黒球が出現し、俺たちを飲み込む。・・・しかし、それは俺たちに届く前に消滅する。
「なっ・・・!?」
「俺の力は憑依する力。そして、憑依先の力を強化する力。そして、俺たちの絆を繋ぐ力だ」
アネッタ、エリーシャ、エミリア、メア、オリンピア、ルメルカ。そして俺の体から七つの光が放たれる。
「こいつは・・・!」
「この世界に眠る7つの魔法の力。それらすべてを俺たちが増幅させ、周囲のマナを集めた。マナが無くなった魔法はそのまま消滅する」
「バカな・・・!人間にそれだけの力があるわけねぇ!そんなことが・・・!」
「確かに俺たち一人一人なら、こんな芸当は無理だった。・・・だが!」
「私達は絆の力がある!」
「お前たちが世界に仇名すというのなら、ボクたちは世界を味方にして戦う!」
「これが坊やの力の真の力・・・。全てを得る力か。最高の気分だねぇ!」
「体の魔力が高まっていく・・・」
「すごいっス!これはかつてのセンパイ、いや、それ以上の・・・!」
「これだけあれば・・・!あなたを今度こそ、倒します!私と皆の技術の結晶で!」
オリンピアが再び槍に振動を与える。その振動は空気を震わせ、全てをかき混ぜるエネルギーの塊を創り出す。
「俺の攻撃を止めたのは褒めてやる!だが!同じ手は―――」
「いいえ!あなたはこれで終わりよ!『サウザンド・レイン』!」
周囲のマナをかき集め、強大な魔法陣を生み出したアネッタの魔法エネルギーが無数の光の柱となりトパーズに襲い掛かる。その攻撃により彼は空に固定される。
「ぐぅっ!?まさか、この俺が・・・!」
「今よ、オリンピア、ケンゴ!」
「ああ」
「ええ!」
俺達は返事を返す。そして、一投。
全てを破壊するその一撃は、動かないトパーズに直撃する。
「グああァァァァァ!!馬鹿な、この俺が・・・!破壊者である俺が・・・!」
「貴女は確かに強いです。・・・でも、あなたは一人だった。一人の強さでは、私達の絆の力には敵わない。それだけのことです!」
「・・・絆、か。ハハハ、やっぱりお前たちは面白れぇぜ。あの預言者ガーネットが敗北しただけのことはある。・・・だがな、覚えておけ。お前の半身とヒメが俺たちの元にある限り、俺たちに負けはねぇ。・・・サファイア、後はお前に任せたぜ・・・!」
トパーズの体が消滅していく。魔蝕の再生能力、拡散能力ごと引き裂くその攻撃により、奴は消えていく。・・・これで、終わったんだ。あとは、あのヒメの体を・・・
「あーあ、やっぱりトパーズも負けたか。ま、ちょっとした誤算もあったがそんなものだろうさ」
突如、何もなかったはずの空間から声がする。それはヒメの体があった場所。
「・・・この声!お前・・・!」
ルメルカが反応する。トパーズの姿は消えた。しかし、そこにはまた新たな強大な魔力が感じ取れる。・・・この感覚が、こいつが・・・!
「お前が、サファイア・・・!」
ライトに照らされ、その魔女の姿が照らし出される。
蒼い髪、人のものとは思えない完璧な造形。こいつが白夜、いや、ヒメの一番の僕・・・!
「その通り!私が大魔女サファイア様だ!全く、やっぱり分霊如きじゃイレギュラーの対処は不可能か。念のために来ておいて正解だったよ」
彼女がいるだけで世界が震えるような感覚に襲われる。・・・でも、今の俺たちならば!
「お前を倒せばすべてが終わる!アネッタ!」
「分かってるわ!『レインボープリズ―――」
魔法の詠唱が終わる前。いつの間にか現れていた氷の柱がアネッタを貫いていた。
「え・・・」
倒れるアネッタ。俺は急いでメアに回復をさせる。・・・大丈夫、まだ間に合う。
「今やり合ってもいいんだけどねぇ、お前たちの狙いはこのヒメの本体だ。これを守りながら戦うのはちと面倒だ。イレギュラーに余計な力も与えてるようだしね」
「お前・・・!」
「私を倒したかったら我ら白夜の本拠地まで来るといいさ!私はその天空の城で待つ!そこで決着をつけようじゃないか!」
「待て・・・!」
それだけ言い残すと、サファイアは消える。ヒメの入っているカプセルごと。まるでそこには最初から何もなかったかのように。
そして、半身が離れたことで、俺の力も弱まったのか、強制的に憑依が解かれてしまう。
「くっ・・・!アネッタ!大丈夫か!」
起き上がった俺はすぐさまアネッタの元へと駆け寄る。メアによる回復の甲斐があり、呼吸はしている。一命はとりとめたようだ。
「サファイア、アイツの攻撃が見えなかった・・・」
エリーシャが言う。奴の出した氷柱。魔法陣を生み出した様子もなかった。あの転移も含め、全く奴の行動の原理が読めない。
「・・・とりあえず、アネッタを車に運ぼう。まずはそれからだ」
トパーズは倒せた。しかし、まだ敵は、残っている。
サファイア。そして、俺の半身を取り込んだヒメ。・・・戦いは、まだ続く。正直絶望的だ。・・・でも。俺達は一歩進んでいるんだ。今は、そう考えるしかできない。
「アネッタ・・・」
アネッタを背負いながら俺は呟く。その鼓動はまだ残っている。・・・俺は、誰も失っていないんだ。だから、俺はまだ戦える。
待っていろサファイア。その天空の城で、お前を倒す。俺は虚空に向かって宣戦布告をした。・・・それが、俺の闘志を残すための唯一の方法。絶望しないための、俺の抵抗だった。




