第十九話 魔蝕
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シー・ルメルカという少女が俺の元へやってきた。彼女は俺のことを知っているようで。
「それで、お前は俺の何を知っているんだ?それに、白夜のことも」
俺はルメルカに詰め寄る。彼女は慌てた様子で。
「あーいや、センパイ、そんなに近く・・・いや、そんなにいっぱい質問されても困るっスよ」
「そうよ、まずは落ち着きなさいケンゴ。確かに彼女はアンタに必要な情報を持ってるのかもしれないけど、がっついても怯えさせるだけよ」
アネッタに制止され、少し冷静さを取り戻す。俺はコホン、と咳払いをして言う。
「悪い、少し興奮していたようだ。・・・なら最初の質問だ。お前は俺の何だ?いや、俺はお前から見て何なんだ?」
「何って・・・、センパイはセンパイっスし、ウチはセンパイの後輩っスよ」
彼女はそれが当然、というように言ったが、一呼吸置いてああ、といった顔になる。
「あー、そういやセンパイはうちのこと知らないんスよね。それじゃこの説明だと分かりにくいっスね・・・。うーん、でもなんて言えばいいっスかね。旅の仲間、って言った方が適切っスかね?」
「旅・・・?俺はこの世界に来てからそんなに日が立っていない。それにこっちに来てからはアネッタたちと行動していたはずだが・・・」
俺が言うと、彼女はうーん、とうなりだす。
「うー、ウチは説明が苦手なんスよね。こんな時にクロノセンパイ辺りがいてくれると助かるんスけど・・・」
クロノ。また知らない名が出てきた。・・・いや、その名前は聞いたことがあるような。しかし、思い出そうとすると頭の中に霧がかかったようなようになる。
「まぁとにかく、ウチはセンパイの味方っすよ。白夜に何をしたかは知りませんけど、センパイが悪いことをする人とは思えないっスし」
ルメルカが続ける。・・・そうだ、彼女は白夜を知っている。それに、今の言い方は・・・
「じゃあ次の質問だ。お前は白夜の何を知っている?・・・いや、そもそもあいつらは何者だ?」
「それまで忘れちゃったんスか?白夜はセンパイが立ち上げたギルドじゃないっスか」
・・・なんだと?
彼女の口から出た言葉は、俺の理解を超えていた。
「おい、それはどういう事だ?あの組織はこいつが立ち上げただと?そんなことがあるのか?」
「あらあらぁ~、不思議なこともあるのねぇ~」
エリーシャたちも驚いている。当たり前だ。俺はずっとみんなといた。そして、白夜は俺たちの敵で。・・・それを、俺が立ち上げた?
「そうっスよ。白夜はケンゴセンパイが立ち上げた全ての種族をまとめた、天使も悪魔も仲間にしたセンパイが立ち上げた正義のギルドっス。魔皇ヘルロードを倒した後に、また新たな悪意が生まれた時に対抗出来るように、って作り上げたモノっスよ。正義の光が、太陽が永遠に沈まない。そんな思いを込めてつけた名前っスよ」
正義のギルド?・・・いや、どういう事だ?なら、なぜ・・・
「正義のギルド?ならなんでその白夜のメンバーが私の国を襲ったのよ。モンスターを使って、私の国を使ってこの世界を支配しようとしていたのよ」
「そうさ。あいつは無関係な人間まで利用してアタシらを攻撃してきた。正義のギルドがそんなことをするとは思えないがねぇ。」
アネッタたちが言う。そうだ。奴らは異次元からモンスターを呼び出してすべてを破壊しようとしていた。俺が立ち上げた正義のギルド、それが本当だとしたら、その行動の理由は・・・
そんなことを考えていると、ルメルカも困惑した様子だった。
「え?白夜のメンバーが?そんなのありえないっスよ。彼らは今いろんな国の自警団として活動してる筈っス。そんな侵略みたいな行為をするはずが・・・」
『皆さん、お喋りはいったん終了です。敵襲です。生体反応はこの前襲ってきたチンピラたちを示しています』
アポロが会話を遮る。・・・またアイツらが攻めてきたのか。しかも、俺たちの居場所がバレている、ということになる。
「ルメルカ、話は後だ。俺達は敵の対処をする。お前はここで待っていろ」
俺が立ち上がると、彼女も立ち上がる。
「何言ってるんスかセンパイ。ウチだって戦えるんスよ?センパイは忘れてるかも知れないっスけど、ウチは白夜でもナンバースリーの実力だったんスよ?」
そう言ってつなぎのポケットから小型のカプセルのようなものを取りだし、空に向かって投げる。カプセルが開き、中から二丁の銃が出現する。
「コイツの素性は分からないけど、戦力になるならあるに越したことはないさね。とにかく迎撃するよ、坊や」
エミリアの意見に賛同し、俺たちは外に出る。そこにはひったくりの方の男とモンスターがいた。
俺たちが臨戦体制を取るが、どうも様子がおかしい。
「あ・・・ぁ、助け・・・、俺が、俺が・・・」
「なんだ?様子がおかしいぞ?」
エリーシャが言うと、男の様子を見たルメルカが顔を真っ青にする。
「そんな・・・!?これは、この感覚は・・・!」
「なんだ?何か知ってるのかルメルカ」
「知ってるも何も、これはウチらが最後に出会った・・・!」
その言葉が終わる前に、男の様子がさらにひどくなる。
「俺が、違う、なくなる、俺が、オレは、オオォォォォ・・・!!」
男の体が少しずつ黒い瘴気に包まれていく。瘴気を纏っている個所が変形し、異形の姿へと変貌していく。
「そんな・・・!」
「これは・・・」
「あらぁ・・・」
人が人でなくなっていく。目の前にいるのは、すでに人ではない何か。その様子を見ながら、エミリアが言う。
「なぁ坊や。アポロは確か、今いる相手はこの前襲ってきたアーマー乗り二人組って言っていたよな」
「・・・ああ。だが・・・」
そこにいたのはあの男とモンスターが一体。・・・そして、この男の変形を見る限り・・・
「人間が、モンスターになるなんて・・・!」
アネッタが震える声で言う。今までモンスターと戦ったり、人間相手でも戦ったりはしていた。・・・だが。人がモンスターとなる。こんな現象はこの世界、いや、ゲームの中でも、どんな場所でも存在しない。そう考えながらルメルカの方を見ると、彼女がとてもおびえた様子で。
「ルメルカ、あれは一体・・・」
「・・・魔蝕」
「魔蝕?」
「センパイが白夜からいなくなったあの時。ウチらのギルドとしての最後の戦い。今まで見たこともない魔女が使ってきた、人間を異形の姿に変化させる力。・・・そうだ、思い出した。忘れていたのはセンパイだけじゃなくて、ウチも・・・」
ルメルカは呆然としながらつぶやいている。・・・ダメだ、やはり彼女を今この場にいさせるのは危険だ
「メアさん、ルメルカを頼む。今の彼女じゃ戦えない。・・・皆、辛いかもしれないが、一緒に戦ってくれ。あれをそのままにするのは、やばい気がする」
「・・・ええ、大丈夫よ。あれはもう、人じゃないわ」
メアがルメルカを抱きかかえて奥に隠れる。目の前にはかつて人だった異形。黒い鱗に覆われた、いろんな動物を混ぜ込んだような姿の化け物、魔蝕。
「・・・行くぞ、憑依!」
俺はアネッタに憑依し、ありったけの強化をかけていく。
「エリーシャ、エミリア。お前たちは援護を頼む。相手の能力は未知数だ。アネッタの魔法を強化して一撃で倒す。それまで時間を稼いでくれ」
「ああ、分かった」
「了解さ。・・・さーて、いっちょ暴れるとするかねぇ!」
――――――
少し時間が巻き戻る。
彼がトパーズと名乗る男を退け、周囲の修繕が終わった後、一人広場に残っている私。あの男の乗っていたアーマー。アリアル・アーマーと言っていたか。あれから感じたことのないエネルギーを感じ取っていた私は、広場の修繕を続けるという名目で一人、この場所の探索をしていたのだ。
「でもいいのかい、アンタのお仲間、先に行かせちまって」
いつもお世話になっている店の店主さんも手伝ってくれている。彼は私を心配してくれているようだ。
「皆に言えばきっと手伝ってくれると思う。それに、これはきっと彼・・・ケンゴにとっても必要な情報だと思う。でも、彼らは今あの敵について調べている、と思うんです。それに、こういう作業は私の得意分野です。今まで私は彼らにお世話になりっぱなしだし、ちょっとでも役に立ちたいんです。私しかできないやり方で」
「・・・そうかい。・・・ん?おいオリンピア。これを見て見ろ。あのアーマーが起動したあたりだ」
「なんですか?・・・これは・・・」
そこには微小ではあるが、未知のエネルギーが残っていた。私はバックパックから機材を取り出しそのエネルギーを調べる。黒ずんだ煙のような存在。でも、それは霧散せずにそこに残り続けている。
「・・・店主さん、これは・・・」
「ああ。見たこともねぇ力を感じる。それに、こいつは・・・」
煙の近くに小さな昆虫が歩いてくる。すると、煙はその昆虫に向かって動き出す。そして、昆虫を包み込んだ。
「意志を持ってる・・・?いや、これは・・・」
機材から検出されるエネルギーの質が上がっていく。いや、煙の量が増えている?
「・・・おいおい、どうなってやがる。こんな物質、存在するのか?」
店主さんが言う。・・・この煙は、取り込んだ生物を媒介して自身を増やしている・・・?さらに、取り込んだ昆虫の姿が変化し、小さなモンスターのような姿へと変貌していく。
「・・・店主さん、お願いがあります」
これは、放っておいたら大変なものだ。・・・そして、もしこれが奴の本当の力だとしたら。・・・彼らが危ない。
――――――
「なんだい、変なのは見た目だけかい!動きも鈍いし大したことはないねぇ!」
エミリアが魔蝕と呼ばれるモンスターを圧倒する。俺とアネッタも火炎魔法で攻撃を行う。最初に見た時はかなりの強敵と思っていたが、確かに他のモンスターよりもスタミナがあるようだが、動きは遅いし特段力が強いわけでもない。このまま押し切れる。
「よし、エリーシャ、エミリア!一度離れてくれ!あとは俺とアネッタで燃やしつくす!」
その言葉と共に二人が退く。アネッタが俺の指示で魔法陣を描く。これで終わりだ―――
「・・・ダメっス!魔蝕を倒したら――――」
火炎魔法を放つと同時、ルメルカの声がする。倒したら・・・?しかし、考えるよりも前に火炎魔法が魔蝕を焼き尽くす。
「グオオォォォォォォォ!!!」
魔蝕は絶叫して霧のように粉々になっていく。・・・普通に倒せるじゃないか。そう思っていると、再びルメルカの声がする。
「まずいっス!早く!そいつらから離れるっス!なるべく遠くへ!」
「離れる・・・?」
意味は分からなかったが、ルメルカは必死だ。俺達はその言葉に従うように遠くへと離れる。それと同時。粉々になった魔蝕が巨大な爆発を起こした。
「なっ・・・!?」
「なるほど、最後に敵を巻き込んで爆発するのか。確かにこれは近くにいたらまずかったねぇ」
エミリアが言うが、ルメルカがこちらにやってきながら言う。
「何ボーっとしてるんスか!まだ奴は、いや、魔蝕はそこにあるっスよ!」
「そこにあるって・・・。今こうして倒したはずじゃ・・・っ!?」
俺は爆発した方を向いて、絶句した。
確かに先程の魔物は倒した。そのはずだ。・・・なら、あの黒い瘴気は何だ?
「魔蝕はあのモンスターの名前じゃないっス。あの瘴気・・・。バーストしたマナの霧こそが魔蝕の本体。そして、魔蝕は・・・!」
ルメルカが叫ぶ。その間にも霧は拡大し、周囲の木々を埋め尽くしていく。そして、瘴気に触れた木が、いや、瘴気が触れたものに吸い込まれていく。そして、再び黒い鱗が出現し、植物が、石が、動き出す。
「なんだ・・・なんなんだこれは・・・!?」
エリーシャが驚きのあまり剣を落とす。言葉には出していないが、アネッタの動揺も俺に伝わってくる。俺だって困惑している。倒すと四散し増える。・・・いや、それだけじゃない。これが最初に変化させたものは何だ?・・・まさか。
「あの中にいたら・・・変化していたのは、俺たちか・・・?」
俺が呟く。その言葉にルメルカはこくり、と頷く。
「魔蝕の恐ろしさはその増殖力。そして、周囲にいる物質を全て汚染し、自身と同じにする能力っス。・・・そして、取り込まれたものはどんなものでも魔蝕となり、同じ能力を得るっス。無限に増殖し、辺りに災厄をまき散らす。・・・それが、魔蝕っス。」
そう言っている間に、全ての瘴気が辺りの木々や岩、草などに取り込まれモンスターと化していく。最初は二体だったモンスターが、今や30を超える数までに膨れ上がっている。・・・そして。
「これを倒してもまた周りのものを使って増えるってことかよ・・・!」
周囲は森。まだ変化する対象は無数に存在する。それに、このままだと・・・!
「街のほうにまで浸食したら、街の人々までこうなっちまうってことかよ・・・!」
背後は街。目の前にはモンスターの大軍。
俺たちは、絶体絶命の淵に立たされていた。




