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第十七話 襲撃

ウールカへと向かった俺たちは、あの後幾度か野良魔物に襲われはしたが、比較的無事にウールカへとたどり着くことが出来た。


「ここがウールカなのね。名前には聞いていたけど、工業都市と言われるだけあって熱気あふれるいい都市ね」


アネッタが言う。実際人々にも活気があふれ、そこらに露店が開かれている。見たことのないような機械の部品や、魔法道具などが大量に陳列されている。


「えっと、それで私はちょっと奥まった場所に行くんですけど、皆さんは情報集めをするんですよね。それではいったん別れませんか?集合場所はこのあたりの広場ならば気づきやすいですし。」


今俺たちがいる場所は噴水が目印になる広場になっている。確かにここならば集合場所としては問題ないだろう。だが。


「いや、お前は今狙われている身だ。一人ってのは危険だろう。エミリア、ここは彼女について行ってもらえないか?」


「坊やの頼みなら聞くしかないねぇ。オリンピア。お前さんもそれでいいかい?」


「あ、そうですね。それではお願いします。」


「ああ。それじゃ、無茶しない程度に頑張りな、坊やたち」


そう言ってオリンピア達は裏路地へと入っていく。・・・見た目としては子供二人だから、ちょっと気が引けるが。メアさんは一人だと戦闘向けじゃないし、エリーシャはさっきから俺の方を睨んでいる。離れることはないだろう。アネッタは・・・たぶん、俺について来るだろう。いや、俺があまり離れたくない。


「それじゃ、情報を集めようか。ボクとメアは東側を担当する。アネッタとお前は西側を頼む」


俺の予想に反し、エリーシャは俺と別行動をとるようだ。

エリーシャの提案に賛同し、二手に分かれることになった俺たち。他の都市でもやっていたように、人々に聞き込みを開始する。

フードの預言者の存在。それ以外にも、彼らに関する手がかりを。

この世界には写真がないから最初は聞き込みが大変になりそうだ、と思っていたが、アネッタたちが持っていた記憶球の魔法で預言者の姿は記録されていたらしい。それを見せることで情報を集めるのだ。

しかし、やはり、というべきか、預言者に関する情報は誰も持っていない。30人くらい聞き込みをしてみたが、かすりもしない。


「やっぱりかなり厳重に情報を遮断してたみたいね・・・」


道中アネッタが言う。あそこまで人々の心を掌握することが出来る能力者だ。その情報を外に漏らすことはないだろう。・・・そう思いながら記憶球の映像を見ていると、後ろから声がかかる。


「あんた達、人探しかい?」


老人の声。振り返ると、骨董品などを売っているようなお店と、そこに座る一人の老人がいた。


「はい。探さなければいけない人なんですけど、全く手掛かりがなくて・・・」


俺は簡単に事情を説明し、老人に記憶球の映像を見せる。老人はふむふむ、と言いながら続ける。


「このフードの奴は見たことがねぇが、ほら、ここ。この一瞬だけ映るこのフードに見える紋様があるだろ?」


老人が記憶球の映像を止めて指をさす。今まで気づかなかったが、フードの中身、マントのようになっている部分に装飾が見える。白い太陽を模したマークのようなものがぼんやりとだがあることに気づいた。それを確認したのか老人が続ける。


「この紋様、ちょっと前からこのあたりに現れた見たことのないアーマー使いが来ていた服に刺繍されてたのを見たような気がする。・・・なんだったかねぇ、姿は思い出せないが・・・」


「いえ、貴重な情報ありがとうございます。・・・そうか、紋様・・・」


「ケンゴ、何か知ってるの?」


「・・・いや、俺の知ってる紋様じゃない。でも、同じ紋様をつけているやつがいる、ってことは、こいつは個人じゃなくて組織のようなものってことだ。それが分かっただけでも進展だ」


俺達は老人に礼を言い、その場から立ち去る。白い太陽・・・。確かに太陽は光の影響で白く見える。でも、きっとそういう意味じゃないのだろう。俺は空を見る。そこには青空と、うっすらと赤い太陽が昇っていた。

この世界の太陽は赤の光が強い。…だからこそ、この世界の存在が白い太陽を模した紋様をつけるだろうか?あの預言者が呼び出したモンスター。あいつはあれを『別の次元から呼び出した』と言っていた。もしかすると、奴は・・・。・・・いや、考えすぎか?

そんなことを考えながら集合場所へと戻ろうとした時だった。


ズゥン、という何かが爆発したような音、そして、立っていられないほどの揺れが俺たちを襲う。


「な、なに!?何が起こったの!?」


慌てるアネッタ。俺はとっさに手を繋いで安心させようとする。

そのまま俺は爆音のした方へと目を向けると、黒い煙が上がっている。本当に何かが爆発したようだ。人々がそちらの方向から逃げてくる様子も見える。・・・だが、それよりも。


「・・・あっちって、オリンピア達が行った方角じゃないか?」


「・・・そうね、もしかして、この前襲ってきたっていうやつらが・・・」


俺達はお互いに目くばせをして、逃げてくる人たちの波に逆らって爆心地へと向かう。


「無事でいてくれよ、オリンピア、エミリア・・・!」


――――――


襲撃のあった場所へ向かう途中、同じく異常に気付いたエリーシャたちと合流する。


「おい、何があったんだ。急に爆音が聞こえたが・・・」


「俺もまだ分かってない。だが、あそこはオリンピア達がいるかもしれない。またあの盗賊たちが襲ってきてるなら、二人が危険だ」


「そうねぇ~、急ぎましょう~」


メアたちも納得し、俺たちが急ぎ煙の出ている場所へと向かう。

その場所に近づくにつれて、何かが焦げたような匂いと金属同士がぶつかり合う音が聞こえてくる。・・・やはり、誰かが戦っている。


「オリンピア!エミリア!」


俺は叫ぶ。音は近い。もうすぐそこだ。

角を曲がると、少し広い広場のような場所があり、そこに二機のこの前出会ったアーマー、そして、もう一つ。他のアーマーよりも巨大な、歯車を模した見た目を持ったアーマーがエミリアたちを攻撃していた。

エミリアたちも反撃をしようとしているが、攻撃をかわすので精一杯のようだ。


「くっ、やっぱり追手が来ていたか!アネッタ、俺を頼む!俺はエリーシャに憑依する!」


「分かったわ!」


「ボクか、いいだろう。ボクの速度ならあの攻撃をかわしながら攻撃もできるだろうしね」


「ああ。メアちゃんは二人のサポートを!・・・行くぞ!」


――――――


「オラオラ!さっさとくたばっちまいな!」


「くっ・・・!」


迂闊だった。人が多く居る所ならば奴らも手出ししにくいだろう、そう高をくくっていた。・・・だが、甘かったようだ。


「オリンピア、無事かい?」


「ええ。・・・すみません、まだ武器の調整が終わってないので・・・」


「ヒーッヒ、大丈夫さ。この程度の相手、アタシ一人でさばききれるってもんさ」


そう強がっては見たが、相手は普段相手にしないメカだ。攻撃のタイミングがつかめない。・・・そして気になるのが、後ろで動かないあのひときわ大きいメカ。動きに統制が取れている所を見ると、あれがリーダーの可能性が高い。・・だが、動きがないのが不気味だ。まるで何かを待っているかのように・・・


「オリンピア、エミリア!」


遠くから坊やの声が聞こえる。やはり、というべきか、逃げずにアタシたちの様子を見に来たんだろう。・・・だが、助かった。坊やの能力があれば、いや、戦える人数が増えればまだ勝機はあるだろう。

そう思っていると、エリーシャとメアがやってくる。あの動きのキレからして、今坊やはエリーシャの中にいるのだろう。


「何だお前らは?お前らもこいつらの仲間か。ならお前らもぶっ飛ばしてやるよ!」


一機のアーマーがエリーシャたちの方へ攻撃を行う。しかし、エリーシャは瞬間移動とも思える速度でその攻撃を避け、アーマーの腕を切り落とす。その反動でアーマーは後ろへと倒れる。


「なっ!?なんだコイツ!?」


「お前たちが何度来ようが、俺が何度でも追い返してやる。さっさとあきらめて帰ってくれ」


坊やの口調でエリーシャが言う。たぶん坊やが喋っているのだろう。すると、先ほどまで動かなかったアーマーから声がする。


「・・・クックク、やはり来たな、イレギュラー。会いたかったぜ。」


その声と同時にアーマーのコックピットが開き、中から金髪の男が現れる。その男の来ている服には白い太陽の刺繍があてがわれていた。


「お前は・・・いや、その紋様・・・、それにイレギュラーって、まさかお前・・・」


「ああそうさ。俺はトパーズ。ガーネット・・・いや、お前たちには預言者、と言った方がいいか。あいつの同僚さ」


その名前を聞いて、アタシはドクン、と頭が揺さぶられるような感じがした。・・・預言者の。オーウェンの敵の、仲間。


「お前たちの目的は何なんだ!国を乗っ取ろうとしたり、町中で暴れたり・・・!」


坊やが問うと、トパーズと名乗った男は笑いながら言う。


「ハハハ!俺たちの目的、か!お前たちに言っても理解できねぇだろうさ。だが、俺は親切だからな、教えてやる。俺たちの目的はこの『作られた次元』を元にあらゆる次元を制圧する!そして、我らがヒメの復活を遂げる!それが俺達『白夜』の目的さ!」


「白夜・・・」


「正直俺はお前たちなんて興味はないんだがな、イレギュラーであるお前がいると目的に支障が出るかもしれねぇ。それに、やられっぱなしってのは面白くねぇからな!・・・おい、お前らは先に戻ってろ。『アリアル・アーマー』を起動させるにゃお前たちは邪魔だからな!」


「は、はっ!」


トパーズは仲間のメカを転移させる。・・・数で押した方が分がありそうなのに、わざわざ一人になる。いったい何をする気なんだ・・・?

坊やをイレギュラーと認識している、ということは奴も坊やの能力は把握しているはず。・・・いやな予感がする。


「さぁ、おっぱじめようぜ戦争をよ!アリアル・アーマー!起動しろ!」


トパーズがコックピットに戻り、アーマーが動き出す。体についている歯車が急速に回転を始め、アーマーの表面に青白い光が走り始める。


「これは・・・」


「お前たちは知らねぇよなぁ!これもあの偽骸と同じよ!この次元の存在じゃねぇ!科学の力を結集したこのアリアル・アーマーの力、とくと思い知りやがれ!」


その声と同時にアーマーが消える。・・・いや、アタシには見えた。奴は高速で移動している。坊やもそれは理解したようで、エリーシャに強化をかけて攻撃を待つ。


――――――


白夜にアリアル・アーマー。聞いたことのない名前ばかりが並ぶ。・・・いや、今考えるのはそこじゃない。今奴の動きはなんとなくだが見えている。だが、攻撃を当てる隙がない。


「エリーシャ、気を付けてくれ。どこから攻撃が来るか分からない。いつでも動けるように・・・」


「分かってるよ。お前はボクの強化だけしていてくれ。お前も知らない相手だ、なら戦いに慣れているボクが主導で動いた方が得策だろう」


エリーシャはそう言い集中する。・・・確かに、偽骸の時もそうだが俺は知らないことに対しての対処が出来ていない。そこはみんなのサポートが必要だろう。・・・来る。


「そこだ!」


エリーシャが背後を斬る。飛んできていたのはミサイル。それを両断し攻撃をかわすが、すでにそこには奴の姿はない。


「ハーッハア!その程度かイレギュラー!そんなんじゃ俺を倒すどころか姿すら捕らえられないんじゃねぇか?」


「くっ・・・」


その後もあらゆる方向から攻撃が飛んでくる。何とか瞬発力を強化して捌いているが、反撃が出来ない。

俺は考える。高速で動く相手。しかも遠距離攻撃を持っている。攻撃の隙をつくのは不可能だ。どうする・・・?


「ケンゴ、お前は考えすぎなんだ。いいか、お前の知っているやつで動きが早いモンスターはいないのか?」


俺が考え事をしているのが分かるのか、エリーシャは攻撃を捌きながら俺に問う。


「動きの速いモンスター・・・。確かにいるけど、それが・・・」


「それの対処と同じだ。相手がどんな見た目であろうと、動きが近いなら対処法は近いはずだ」


「対処・・・」


動きの速いモンスターを倒す方法・・・、そうか。


「・・・分かったエリーシャ。なら、頼んでもいいか?」


「勿論さ。・・・ボクはお前のことは許さないが、お前の力は信頼している。・・・さぁ、反撃と行こう」


俺たちは目をつぶり、動きを止める。後ろでエミリアが騒いでいるが、これはれっきとした作戦だ。


「ハッ、もう諦めましたってか?いいぜ、一撃で殺してやるよ!」


精神を研ぎ澄ます。動きは見える。全てがスローに感じられる。・・・そこだ。


「はっ!」


一閃。いくら素早い動きをしていても、どんな遠距離攻撃を持っていても、攻撃時には一瞬隙ができる。その瞬間は、動きが少しだけ動きも止まる。そこならば、攻撃は当たる。


「ウグゥッ!?・・・へぇ、なかなかやるじゃねぇか」


アーマーの姿が見えるようになる。斬り飛ばしたのは腕に付いていた歯車のようなパーツ。歯車が一つ外れたのか、青白い光も消滅していた。


「さぁ、これでお前の動きは封じた。話してもらおうか、お前たちの全てを」


俺は剣を突きつけながら言う。しかし、トパーズは笑う。


「ハハハ!いいねぇ面白い!俺に一撃を入れるやつはお前が初めてだ。やはりイレギュラーであるお前は潰しておいた方がよさそうだ!」


「まだやる気か?だが、お前はもう動けないだろう。ここでお前を捕縛し、情報をすべて話してもらう」


エリーシャが言うが、トパーズは余裕を崩さない。


「ハッ、いいねぇ、イレギュラーのお仲間もいいセリフを吐ける奴がいるじゃねぇか。だが、俺は捕まらねぇぜ?それに、まだこのアーマーの力をすべて使ったわけじゃねぇ。さぁ、第二ラウンドを―――っと、なんだ?・・・チッ、分かったよ」


「何だ?誰と話している?」


「時間切れだ。お前たちともっと遊びたかったが呼ばれちまってな。今度はもっと派手な戦争を用意しておくから、楽しみにしておいてくれよ!」


その言葉と共にアーマーが転移する。・・・どうやら取り逃がしたようだ。


「逃がしたか・・・。エミリア、そっちは無事か?」


エミリアたちの方を見る。彼女達は攻撃を受けていなかったらしく、無事そうだ。


「ああ、アタシらは平気さ。・・・しかし、預言者の仲間、か・・・」


エミリアは空を見つめる。・・・まだ、あの戦いは終わっていない。預言者、そしてアーマー乗りのトパーズと名乗る男。それらが所属している謎の組織、白夜。

・・・考えることは多い。だが、進展はした。


「・・・白夜。この世界を襲う敵。奴らを倒すことが、俺の目的なのか・・・?」


俺は、空を見上げた。そこには、赤い太陽が全てを照らしていた。


――――――


ケンゴとアーマーたちが戦っていた広場の近くの物陰。戦いに巻き込まれないように人々は逃げていたが、そこには一つの人影があった。

ケンゴがエリーシャへの憑依を解き、広場に現れる。そこで、人影は笑う。


「・・・やっと見つけたっすよ、セ・ン・パ・イ。」


その言葉は、風とともに消えていった。

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