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第十一話 預言者

オーウェンとの激戦の後、俺達は預言者を探すために場内を探索していた。城内には兵士の他に、預言者が配置したであろうモンスターも蔓延っていたが、俺の憑依の力と、仲間の協力ですべての障害を片付けていった。

・・・もちろん、兵士は誰一人殺していない。洗脳されているだけの相手を攻撃するのは気が引けるし、元はアネッタの仲間なのだから。

そんな戦いの中でも、エミリアはまだ、オーウェンのことを引きずっているようだ。・・・あの時、エミリアに強制的に憑依させられた時。俺はエミリアを止めようと必死で動いていた。しかし、俺の意識は真っ黒い感情に塗りつぶされ、強化の力だけを発現させていた。・・・まるで、エミリアの怒りが俺の力を引き出しているかのように。


「これで、終わりっ!」


俺が憑依したアネッタの放つ火炎魔法でモンスターを一掃する。これで簡単に行けそうな場所をほぼすべて回ったが、預言者の姿は見えない。


「・・・ふぅ。お疲れ、アネッタ」


俺が声をかけると、アネッタは少し暗い様子で。


「・・・ケンゴ。エミリアのことなんだけど・・・」


「ああ。・・・表向きは元気そうに振舞っているが、アイツの心は冷えたままだ。・・・俺がもっとしっかりしていれば」


彼女の顔を見るたびに思い出す。・・・俺が、俺の力が足りなかったから・・・


「ケンゴのせいじゃないよ。・・・あれは、だれにも止められなかった。だからこそエミリアは・・・気持ちの整理が必要なのよ」


「・・・そう、だな。」


「む?どうしたお前さんたち。ボーっとしている余裕はないぞ?早くアイツを倒して姫を元の位に戻さんといかんからのう。ヒーッヒ」


俺たちが話していると、エミリアがやってくる。・・・調子はいつものエミリアだが、やはり無理をしているように感じる。


「・・・エミリア」


「なんだ?アタシが無理してるとでも思っているのか?ヒーッヒ、気にするな。アタシがこうなることを予想していないとでも思っているのかい?・・・最初から、覚悟は出来ていたさ」


エミリアは帽子で目元を隠す。・・・やはり、これ以上は・・・


「おっと、そうだ。もう普通の部屋に奴がいないことが分かったからの、次からは多少警備が厳重な場所を探すことになるが・・・。一つ、奴のいる場所に心当たりがある。案内しよう、ついて来るといい」


そう言ってエミリアが歩き出す。・・・心配だ。


――――――


エミリアに促されるまま俺たちは道を突き進む。モンスターをなぎ倒し、兵士は憑依で場所を移動させる。そうして俺たちが歩いていると、エミリアが一つの部屋の前で立ち止まる。


「・・・ここだ。姫ならばここが何の部屋か、わかるだろう?」


「ここは・・・展望室?」


「展望室?こんな城の真ん中に?」


エリーシャが言う。確かにここは城のほぼ中心。天窓くらいでしか空を見るのは難しそうだが・・・


「知らんのかい?投影魔法で常に空を再現することで好きな風景を楽しむことが出来る。それがこの展望室の役割さね。・・・そして、奴はいつも、ここにいる」


そう言ってエリーシャは展望室の扉を開ける。・・・内部は暗く、奥が見えない。


「その預言者ってのはどこにいるのかしらぁ~?」


「暗くてよく見えないな・・・。明かりはつかないのか?」


「確かこのあたりに・・・」


俺を含め、エリーシャたちが展望室に入る。4人が入ったところで、後ろで扉が閉まる音がした。


「扉が・・・!?」


「とにかく明かりをつけるわ!」


アネッタが明かりをつける。球体の白い部屋が照らし出されるが、どこにも預言者の姿は見えない。


「・・・あれ?預言者は・・・いない?」


「ちょっと待て。エミリアもいないぞ」


俺は気付く。この部屋にいるのは俺、アネッタ、エリーシャ、メアだけだ。エミリアの姿は見えない。


「・・・まさか、あいつ!」


俺は扉の前に立ち扉を開けようとする。しかし、扉は開かない。何か外側で扉を固めているようだ。


「どうなってる!おい!エミリア!まだいるのか!」


俺は扉に向かって叫ぶ。すると、エミリアの小さな声が聞こえた。


「すまないね、皆。でも、これはアタシの問題なんだ。・・・アタシが、アイツとのケリをつける」


その言葉を残してエミリアが走っていく音が聞こえた。


「エミリア・・・。あいつ、一人で決着をつけようと・・・!」


「そんな!」


エミリアはオーウェンを殺したことをまだ引きずっている。そして、彼を殺す原因となったのはその預言者。

・・・彼女は、自分の手でケリをつけるつもりなのだろう。でも。


「一人で行くなんて危険すぎる・・・!奴は俺の能力を知っている。つまりは、それ相応の準備もしているってことだ・・・!」


「今はそれで気をもんでいる場合じゃない。何とかしてここを脱出してエミリアを探さないと」


エリーシャが言う。そうだ。・・・きっとこの扉の奥はエミリアの能力で固定されている。・・・ならば。


「メア!お前の力を貸してくれ!」


「了解~。それじゃ、行くわよ~」


「憑依!」


――――――


アタシは場内を一心不乱に走っている。向かう先は分かっている。奴と初めて会った、あの場所。


「侵入者だ!捕らえろ!」


「裏切り者のエミリアだ!」


「うるさい!どいてな!お前たちに構ってる余裕はないんでね!」


腕を鞭に変化させ、打ち倒す。・・・昔のアタシだったら、容赦なく殺してたんだろう。アタシも丸くなったもんだ、とアタシは笑う。・・・でも、すぐに前を見る。いや、常に前を向いている。あいつと再会した時から決めていた。もう過去は見ない。・・・でも、今だけは。アタシは復讐者として。奴をこの手で始末しなくちゃいけない。


「・・・ここだね!」


丁度城の反対側。街ではなく、自然が見えるテラス。その扉を破壊しアタシは部屋へと突撃する。・・・そこに、奴はいた。


「・・・おや、アナタ一人で来るのは予想外でした。てっきり最愛の人を亡くして意気消沈していると思ったのですが。」


黒いフードを被り、性別も分からないその人影は、ゆっくりと立ち上がる。


「・・・それとも、敵討ちをするような殊勝な人間でしたか」


「アンタがオーウェンを操っていたんだね?」


「操っていたなんてとんでもない。彼は私の言う真実を受け入れただけですよ」


「ハッ、真実ねぇ。アンタの語る真実ってのは虚構の世界のことでも言っているのかい?一度言葉の意味を調べた方がいいんじゃないかね?」


「いいや、真実だとも。・・・これから起きる我がヒメの世界という未来がね」


「戯言を!」


アタシの鎌が奴の首を掻き切る。・・・しかし、手ごたえがない。


「どこを狙っているんだい?私はこっちだよ」


「っ・・・!」


後ろからの声。鎌を振り回すが、当たらない。


「今のキミの心は怒りで満たされている。その怒りの力が我がヒメの復活を近づける」


「意味の分からないことを言ってるんじゃあないよ!アンタは必ずこのアタシが倒す!オーウェンの敵は絶対に取る!」


「敵ねぇ。でも彼を殺したのはキミだ。キミが彼を殺したんだよ?」


「アンタがいなければこうはならなかった!」


「なら、私を殺してみなよ。もっとも、私に近づければだけどね」


預言者の周囲に巨大な魔法陣が浮かぶ。・・・こいつもやはり、モンスターを生み出す力を持っている!


「最初に言っておくけど、これは『モンスター』ではない。別の次元では・・・。そう。『偽骸』と呼ばれている存在だ」


魔法陣から巨大なモンスターが出現する。鉄くずを集めたような蛇に似た姿。歯車を固めたような羽根。そして何よりも。


「魔力が・・・ない!?」


その瞬間。アタシの体は宙に浮いていた。


――――――


メアに憑依しその拳で扉を破壊し外に出た俺たち。それと同時に爆音が響く。


「なんだ・・・!?」


「今の音は・・・テラスの方からよ!」


「まさかもうエミリアが敵と・・・!」


「急ごう!」


俺達はアネッタの先導で音のする方へと向かう。道には倒れた兵士たち。きっとエミリアがなぎ倒していったのだろう。


「エミリア・・・!無事でいてくれ・・・!」


「この先よ!そこにテラスが・・・」


アネッタが足を止める。アネッタの横に並んだ俺は、そこで起こっている状況を確認した。

そこにいたのはフードを被った人間。あれが預言者なのだろう。だが、それよりも目に留まったのは。


「なんだ・・・あのモンスターは・・・!?」


巨大な鉄くずの塊。いや、カラクリ仕掛けのような蛇のモンスター。俺たちが豆粒に思えるほどの巨体を持つ、怪物。そして、地面に叩きつけられているエミリアの姿。


「エミリアっ!!」


「おや、全員到着したようだね。・・・さて、エミリア。キミの復讐劇もここまでだ」


鉄蛇の一撃が、倒れているエミリアに直撃する。


「エミリア―ッ!!!!」


俺はただ、叫ぶことしかできなかった。

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