第十話 接敵
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教国『ピスティス』に侵入した俺たちは、監視の目から逃れ、隠れ、忍び、ときには俺の力で兵士の位置を動かしたりする事で、何とかイーゼロッテたちのいる城にたどり着いていた。
「ここが・・・、ピスティスの城」
俺が呟く。今までで見たどの城よりも大きい。サグラダ・ファミリアが完成したら、このくらいの大きさになるのだろう。そのように感じた。
「この大陸に存在するどの国よりも大きな城。それが私の国の特徴だからね。・・・でも、今はそれが仇になっている、かな。」
アネッタが言う。そうだ。この大きさの城だ。その中にいるイーゼロッテやその仲間を探すのは骨が折れそうだ。
「一から探すのは難しくてもぉ、玉座とかにみんな集まってるんじゃないかなぁ?そこならぁ、アネッタちゃんが場所を知ってるでしょぉ?」
メアが言う。確かに、相手が姫候補や宮廷魔導士ならば、玉座やそれに準じた場所にいると考えるのが妥当だろう。だが・・・
「簡単に言うが、玉座は特に防御が硬い。場所は分かるが近づけぬのでは本末転倒じゃ。元は我らが故郷の人間。殺すのは憚られるからのう。ヒーッヒ」
そうだ。玉座とはその国で最も大事な人が存在する場所。簡単に近づけるとは思えない。ならば・・・
「ここは『預言者』を狙おう。場所は分からないけど・・・。魔物を操る魔法も、たぶんイーゼロッテを裏で操っていたのも、その預言者というやつだと思う。俺がメアさんやトリスさんと出会ったときに、アイツの声が聞こえたんだ。今まで襲ってきたモンスター・・・オーウェンの送ったモンスターと格が違った。たぶん、オーウェンに魔物を操る魔法を教えたのもその預言者だと思うんだ」
俺が言うと、エミリアも同意見だ、と言い続ける。
「ああ。アタシも同じことを考えていた。オーウェンは確かに昔から暗黒魔術に精通していたが、魔物を操るようになったのはあの預言者とやらが来てからだ。・・・それに、そいつさえ倒せば、オーウェンとは敵対しなくて済むからねぇ。」
エミリアは下を向く。オーウェンという人物。それがエミリアにどれだけの影響を与えたのか。・・・想像もつかないが、とにかくオーウェンという男は倒さず、できれば和解したいところだ。
「決まりかね。それじゃ、ボク達はその『預言者』ってやつを見つけ出し、アネッタを追い出した理由を聞き出すなり、討ち倒すなりする。それでいいんだろう?」
エリーシャが締める。・・・そうだ。俺たちの目的は既に決まっている。
「・・・倒そう。預言者を。それですべてがきっと、解決する。」
「ええ!」
「ああ」
「おうともさ。ヒーッヒ!」
「了解~」
決心を決めた俺たちは、城の内部へと侵入した。
――――――
城の内部への侵入が成功する俺達。敵の本拠地だしかなりの兵士が配置されていると思ったが、中はがらんとしていた。
「人が全然いないな。侵入対策に人員を割いているのか?」
「ふむ。そうならいいのだが・・・」
エミリアが心配したように言う。いつものエミリアらしくない、ネガティブな発想だ。
「エミリア、大丈夫か?やっぱりオーウェンのことが・・・」
「ふん、坊やに心配される筋合いはないさ。それに、預言者を倒せばすべて解決するんだろう?なら問題ないさ」
「・・・いや、お前たちはあの方へ近づくことはない。」
エミリアと話していると、突然背後に気配を感じる。あの時の預言者と思われる声とは違う声。その声を聞いたエミリアの顔が青ざめる。
「アンタ・・・!オーウェン!」
「エミリア、よもや生きていようとはな。さらにその反逆者の手先になり果てようとは」
オーウェンは黒い宝石のついた槍を持ちこちらに明確な敵意を向ける。
「オーウェン!どうしてあなたが・・・!」
「アネッタ。この国を裏切った叛逆者め。俺の魔法で裁きを下してやる」
「待ってくれ、オーウェン!アネッタは裏切り者なんかじゃない!お前は預言者ってやつに嘘を教えられているんだ!」
俺がオーウェンに言うが、彼は聞く耳を持たないようで。
「反逆者の仲間の言葉など聞くものか。それに、貴様はあの方の言っていたイレギュラー。反逆者もろとも貴様をこの俺の魔術で破壊する!」
オーウェンの槍から黒い波動が飛ぶ。俺は呆然と立ち尽くしているエミリアを庇いながらその攻撃を避ける。
「オーウェン・・・お前は・・・」
エミリアは完全に呆けてしまっている。やはり、裏切られたと言っても彼女の今まで口ぶりからしてただならぬ関係だったのだろう。・・・ここは、エミリアは離れていてもらった方がよさそうだ。
「エミリア。お前はどこかに隠れていてくれ。・・・大丈夫、殺しはしないさ」
「坊や・・・」
エミリアを柱の陰に隠し、俺はオーウェンに話しかける。
「オーウェン!お前はこれでいいのか!エミリアだって、アネッタだって、元はお前の仲間じゃないのか!」
「ふん、たとえ元第一王女とわが弟子であろうと、お前らは国に仇名す大罪人。罪人に同じ接し方をするわけにはいかない!」
「これは聞く耳持たないって感じねぇ~」
「ああ。このまま防戦一方ではボクたちの身が持たない。殺さない程度に弱らせるよ!」
エリーシャが攻撃を仕掛ける。それに合わせて俺はエリーシャに憑依し強化をかける。オーウェンは攻撃をかわそうとするが、強化されたことで攻撃距離が伸びエリーシャの斬撃が届き、オーウェンの肩を少し斬りつける。
「ぐっ・・・!これがイレギュラーの持つ力か。・・・ならば、こちらも本気を出させてもらおう!」
オーウェンの体に黒い炎のようなものが出現し、その周囲に赤黒い魔法陣が出現する。
「これは・・・!」
アネッタが驚いたような声を出す。それと同時に魔法陣から巨大な腕、足、顔、そして胴体の順に魔物が姿を現す。
「なんだコイツは・・・!?」
「このあたりじゃ見たことないモンスターねぇ~」
エリーシャとメアが驚く。アネッタも愕然としている。エビルギガースの3倍はあろうかという巨体。そして、その右手に握られた巨大な雷を纏った剣。まさかこいつは・・・!
「『ミスティックゴーレム』・・・!?」
「ほう、こいつを知っているか。やはり、あの方の言うとおり外の世界から来たというのは本当のようだな。このモンスターは『今の時代』には既に存在しないモンスター!だが、あのお方はあらゆる魔物を使役する術を俺に師事した!かつての英傑であるこのモンスターもな!」
「嘘だろ・・・!?こいつは・・・!」
「ケンゴ!?どうしたんだ、お前が知ってるならコイツの弱点だって知ってるってことじゃ・・・!」
いや、確かに俺はこいつを知っている。・・・だが・・・!
「・・・『無理だ』。ミスティックゴーレムは絶対に倒せない。奴に弱点は存在しない・・・!」
「なんですって・・・!?」
ミスティックゴーレム。ゲーム後半の20面で出現したモンスター。イベント戦で出現したコイツはあらゆる攻撃をはじき返し、負けイベントの代表として語り継がれているモンスター。ゲームではこのモンスターの猛攻をかわしながら逃げることで先に進めたが・・・
「お前たちを逃がしはしない。このモンスターの力でお前たちを断罪する!」
オーウェンの指示でミスティックゴーレムが動き出す。エビルギガースのように鈍重な動きではなく、重く早い一撃。一番近くにいたのがエリーシャだったため、丁度憑依していた俺が強化をかけて何とか回避させるが、攻撃は止まらない。
「くっ!弱点がなくたって怯ませるくらいなら!『バーンスマッシュ』!」
アネッタが炎の爆裂魔法を顔面に炸裂させる。しかし、怯むどころかよろめきもしない。
「ならばケンゴ、お前の強化を入れたボクの攻撃で!」
最大まで強化を入れたエリーシャの剣撃がミスティックゴーレムを襲う。しかし、剣が体を貫くことはなく、逆にエリーシャの剣が弾き飛ばされる。俺はエリーシャの体を操り一度距離を取らせる。
「クソッ!なんなんだよあの化け物は!」
「これこそが俺の操る最強のモンスター!何者であろうとこいつを止めることは出来ない!」
オーウェンが勝ち誇る。・・・俺には一つだけ、あれを突破する方法を知っている。・・・だが、それは・・・
「何か策はないの、ケンゴ!」
アネッタが叫ぶ。・・・これを伝えても俺たちにはどうしようもない。・・・だが。
「召喚魔術は召喚者がいなくなれば解除される。・・・だが、それは―――」
「そうだ。俺を殺せばこいつは止まる。だが、ミスティックゴーレムの防御を抜けて俺を攻撃できるものはいまい!」
それもある。だが、それ以上に・・・。
俺はエミリアの方を見る。そう。エミリアのためにも俺たちはオーウェンを殺せない。彼女に辛い目にあってほしくないから。・・・だからこそ俺は考えないといけない。何か、ミスティックゴーレムを倒す方法を・・・!
「オーウェンさん~。もっと穏便にできないのかなぁ。私たちはアネッタちゃんを追い出した理由、それを知りたいだけなんだけどぉ。」
メアがオーウェンに言う。するとオーウェンは口を開いた。
「何度も言わせるな。その女はこの国を捨てた大罪人。だからこそ、俺はお前たちを罰するのだ!」
「捨てたって・・・!どこにそんな証拠があるのよ!」
アネッタが突っかかる。オーウェンはさらに続ける。
「しらを切るな!お前は自分が死んだことにしてこの国から逃げ出した!お前が消えてからこの国は疫病が蔓延し、魔術を嗜む者も減っていった!全てはお前が仕組んだこと、あのお方はそう言っていた!お前が逃げ出す前に全て仕込んだことだとな!」
「私はそんなことなんてしないわ!それはオーウェン、お前が一番よく知っていることでしょう!」
「いや、俺は確かに見た!お前が衛兵に毒を仕込んでいたところを!お前は戻ってくる振りをしながらそうやって少しずつ、この国に悪意を仕込んだのだ!」
オーウェンがまくしたてる。アネッタは後ずさる。
「そんなの知らないわ!私は本当に戻ってこようとしていただけ!イーゼロッテに国から追い出された後、私は何度も戻ろうとした!でも、兵士たちは誰も私を覚えていなかったし、入れてもらえなかった!だからって、毒を仕込むなんてするわけないじゃない!」
「ああ。アネッタとは短い付き合いだが、彼女がそうする奴だとはボクも思えない。その預言者とやらが嘘をお前に吹き込んだんだ」
アネッタたちの声はオーウェンには届かない。
「罪人の反論など無意味だ!今すぐにでもお前たちの命を持ってその罪を償ってもらうぞ!」
ミスティックゴーレムの攻撃がさらに激しさを増す。エリーシャに剣を拾わせたいがその隙すら与えられない。そして、次の攻撃を避けようとしたところでオーウェンからの魔法弾の追撃が飛んでくる。
「くっ・・・!?」
避けられない。エリーシャは柱に叩きつけられ、気絶する。それと同時に俺の魂も元の体に戻ってくる。
「くそっ・・・!エリーシャ!」
呼びかけても返事がない。アネッタたちももう限界が近い。いったいどうすればいいんだ・・・!
「・・・坊や。」
同じ場所に隠れていたエミリアが声をかけてくる。弱弱しい声だ。
「・・・大丈夫だエミリア。きっとオーウェンを倒さずにあのモンスターを倒す方法を思いついて・・・」
「・・・すまないね、坊や。・・・でも、もういいんだ」
エミリアが俺の顔を見ながら言う。そのままエミリアは俺の手を掴み、腕輪のスイッチを押させる。
「エミリア、何を・・・」
俺の手で押したことで俺が押した判定になったのだろう、俺の意識は暗転する。
――――――
「どうした!もう終わりか?ならば、望み通り終わらせてやる!」
「っ・・・!!」
ふらついたメアをオーウェンは見逃さず、メアはモンスターの一撃をもろに食らい吹き飛ばされる。残るは私一人・・・!
「アネッタ。お前の暴虐もここまでだ。お前を倒すことでこの国は真の平和がもたらされる。イーゼロッテ様が王女になり、この国は永遠の繁栄が約束されるのだ!」
「永遠の繁栄・・・?」
「あの方の力をイーゼロッテ様は受け取った。モンスターを、魔法を全て管理する能力。彼女が王女になることでその力は効力を発揮しこの世界全ての文明は彼女が管理する。あらゆる国家、人間はこの国の支配下に置かれ、争いのない世界へと生まれ変わるのだ!」
「そのためにあの子を使おうってこと・・・?でも、そんな夢物語、成功するはずがない。それに、そんな膨大な魔力を使ったらあの子は・・・!」
「お喋りはここまでだ。あの方の命令でお前の持つ魔力もこの国の原動力として使わせてもらう。そのためにも・・・ここで死ね!アネッタ・ウィーナイン!」
ミスティックゴーレムの雷撃が私を襲う。・・・もう駄目だ。私はここで―――
「いいや、終わりなのはお前さ、アルフレッド・オーウェン」
その声と同時に雷撃がそれ、一人の女性の下に吸収される。
「・・・エミリア!?」
振り返るとそこにはエミリアが立っていた。
「ほう、お前も刃向かうか。そのまま隅で震えていれば命だけは助けてやったものを」
オーウェンの言葉にエミリアは返す。
「・・・オーウェン。アンタは変わっちまった。昔のお前なら。アタシが好きだったころのオーウェンは。そんな胡散臭い話を信じるような男じゃない。」
「だからどうした!俺はあの方の言葉によって目覚めたのだ!真実に!それを邪魔伊達するなら、お前であろうと容赦しない!」
オーウェンはミスティックゴーレムに指示を出し攻撃させる。しかし、エミリアはそれらすべてを変化させた腕で弾く。
「・・・オーウェン。アタシの大事な師匠であり、アタシが唯一愛した男。・・・もう、アンタの暴威はおしまいだよ」
エミリアが一気に距離を詰める。この速さ、ケンゴが力を貸している?・・・いや、これは、ケンゴの力をエミリア自身が使っている・・・!?
「馬鹿め!ミスティックゴーレムがいる限り俺に攻撃は届かん!俺を守れ!ミスティックゴーレム!」
オーウェンの前にミスティックゴーレムの腕が攻撃から身を守るように出現する。しかし、エミリアは止まらない。
「お前さんこそ馬鹿な男だよ。・・・アンタが教えた、教えてくれた、このアタシの技を忘れるなんてね」
その声と同時にエミリアの姿が消える。いや、消えたのではない。元々動いていたのはエミリアではなく、高速で滑るエリーシャの剣。
「・・・!?あいつはどこに・・・!ミスティックゴーレム!周囲を焦がせ!天狼の雷であぶり出すんだ!」
ミスティックゴーレムは立ち上がり、剣に雷を貯め始める。
しかし、それこそがエミリアの狙い。
「ぐっ・・・!?」
腕が無くなったことで防御を解いたオーウェンの胸に深々とエミリアの鎌が突き刺さる。最初から彼女は床に変化し、デコイを囮にしながら接近していたのだ。
「・・・さよならだ、オーウェン。・・・アタシがもっと早く、アンタの暴走に気付いていれば、こうはならなかったのかもしれないけどねぇ」
「き・・・さま・・・。俺を・・・殺しても・・・あの方が・・・この国を・・・」
「もう喋るな。・・・バイバイオーウェン。アタシは前へ進むよ」
鎌を引き抜く。それと同時にオーウェンは倒れ、ミスティックゴーレムが消滅していく。
全てが消えた後、そこには立ち尽くすエミリアだけが存在していた。
――――――
「エミリアっ!」
憑依が解けた俺はエミリアに駆け寄る。エミリアはまだ、オーウェンの前に立っていた。
「どうして・・・!」
俺の問いに、エミリアは泣いたような顔で笑う。
「いいんだ。これで。アタシのわがままでお前さんたちを死なせちゃ悪い。・・・それに、すでにアタシの知っていたアルフレッド・オーウェンは死んでいたんだ。・・・アタシが、こいつを変えちまったんだ」
俺はとっさにエミリアを抱きしめていた。エミリアは困惑したような様子で。
「わわ、なんだい坊や。苦しいじゃないか・・・」
「すまない・・・!俺が、弱いばかりに・・・!」
俺は謝っていた。しかし、エミリアは俺の頭をなでながら言う。
「坊やのせいじゃないさ。・・・それに、アタシ達はここで立ち止まっているわけにはいかない。そうだろう?」
・・・そうだ。こうなった原因・・・。全ての元凶。預言者はまだ、この先にいる。
後ろでエリーシャたちも立ち上がる。二人とも傷は浅いようで、メアが看護している。
「・・・それより坊や、そろそろ離れてくれないかねぇ。苦しくなってきたよ」
「あ、ごめん・・・。」
俺はエミリアから離れる。その慌てぶりを見て、エミリアは笑う。
「ヒーッヒ、赤くなって。意識でもしたかい?」
いつもの軽口。・・・でも、それに少し哀愁を感じる。
「・・・行こう。オーウェンを操った、黒幕を倒しに。・・・もう二度と、誰も死なないために」
俺は決意した。もう誰も悲しませない。誰も死なせない。そのためにも・・・。この事件の首謀者、預言者を打ち砕くと。




