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第一話 憑依の腕輪

この物語は主人公とそれを取り巻く女の子たちで構成されています。

時には戦い、時には笑い合い、時には涙する、そんな物語です。

異世界転移もので主人公の持つ腕輪はかなりの強アイテムですが、チート成分は薄めだと思います。


「・・・ここは、どこだ?」


気が付くと俺は草原の中にいた。少し前まで座っていた椅子の感覚がまだ残っている。手にはメール機能が起動したままのスマートフォン。


「・・・やはり、こいつが原因か・・・?」


スマートフォンに映し出された一通のメール。俺はここに来るまでの記憶をさかのぼることにした。


「チッ、またハズレアかよ。死ねばいいのに」


俺―――藤原 健吾はごく一般的な高校生だ。今はとある有名ソーシャルゲームをプレイしている。


「これで20万は使ったぞ・・・。確率どうなってんだよ・・・。」


いつものように愚痴を言いながらのプレイ。馬鹿らしいと思うかもしれないが、他人にマウントを取るためには必要なのだ。


「いい加減天井付けろって運営に文句メールでも出すか・・・。・・・・・・っと、こんなもんか。送信っと。」


受付メール宛にメールを送信する。少し熱も冷えてきて、一休み・・・と思ったところにメールが届く。宛先を確認すると、見たことのないアドレスだった。しかし件名が、先ほどのご意見について、という題名だったので、もう運営から返信が来たのだ、と思いすぐさまメールを開いて確認する。


「えーと何々?『この度は貴重なご意見、参考になりました。つきましてはお詫びの品として、以下のURLにとある貴重なアイテムのコードを添付します。これからも当ゲームをご愛顧ください』・・・?貴重なアイテムってなんだよ。とりあえず中身を開いて・・・」


一瞬フィッシングメールの可能性も脳裏によぎった。しかし、こんなすぐに、しかもゲームのタイトルまで把握して送ってくるフィッシングメールなんてないだろう。俺はためらわずURLをタップした。


そこに映し出されたのは、ゲームの舞台となっている大陸「ユースティア」。その天上に位置する天界のマップグラフィックだった。


「んだこれ。こんな演出作ってる暇があったらゲームのほう改善しろってんだ・・・」


そうぼやきながら演出を見守っていると、ゲームでもよく見るナビ妖精のティルがメッセージを書き込みだす。


『このゲームを楽しんでいるあなたには、ぜひ私たちの世界『ユースティア』に遊びに来てほしいの!そして、貴重なアイテムとしてこの『憑依の腕輪』をプレゼント!』


画面に奇妙な文様が掘られた腕輪が表示される。ゲーム内でも見たことのないアイテムだった。前の方に書いてあった遊びに来てほしい、というのがよく分からなかったが、このアイテムは欲しい。俺はアイテムをタップした。


その時。


「さぁ、行くわよ!夢と魔法の世界、ユースティア大陸へ!あなたの旅に幸あらんことを!」


ゲーム内でよく聞いたナビ妖精の声。それが耳元で聞こえたような気がした感覚と同時に、俺の視界は白で埋め尽くされた。


―――――――


「・・・あぁ、それで俺はここにいるのか・・・」


ここまでのことを思い出しながらあたりを見渡す。遠くに見える建造物の形から、ここは確かにあのゲームの舞台である大陸「ユースティア」。その中の主人公たちが拠点としている都市「エルピナ」であることが分かった。だが、それでも理解できないことがあった。


「マジでゲームの中に来ちまったのか・・・?」


体を確認する。服はさっきまで来ていた服のままだ。持ち物はいつも持っているこのスマホだけ―――


「あ?なんだこれ」


そうやって体に異変がないか探っていると、腕に違和感を覚えた。

服の袖をまくってみると、そこにはさきほどスマホの画面に表示されていた腕輪・・・『憑依の腕輪』が付けられていた。


「既に装着済みってことか。・・・外せねぇな、これ」


腕輪には継ぎ目がなく、外せそうな箇所はない。まぁ重さも感じないし、別にこれで何かあるとは限らないからこのままでいいか。そんなことを考えていると、遠くから女性の声と、爆音。


「なんだ?・・・行ってみるか」


俺は興味本位で音のする方へと歩いて行った。



「くっ・・・!こんな都市の近くまで『メガロファントム』の群れが現れるなんて・・・!」


私はそう愚痴りながら得意の爆炎魔法でメガロファントムを打ち抜いて行く。しかし、相手は大軍。一人の力では到底対処しきれる量じゃない。

そして、自身の体の中に眠る魔力が尽きかけているのも体で理解していた。


「くっ、こんなところで死んでたまるもんですか。絶対に生き残って・・・私は私の目的を果たすんだから!」


私がそう言いながら森を抜けると、目の前に一人の男が立っていた。

男は見慣れない服装をしており、明らかに武装もしていない。一般人がなんでこんなところに?


「アンタ!ここは危険よ、さっさと逃げなさい!」


そう叫ぶが、男は動かない。


「あれは『メガロファントム』か。確か3-4あたりでいっぱい出てきて面倒だったなぁ」


男はよく分からないことを口にしている。私は再び忠告する。


「あーもう!今後ろからやばいモンスターがたくさん来てるの!私一人じゃ抑えられないんだから、死にたくなかったら逃げるのよ!」


男はそれでも動かず、へんてこな四角い装置を取り出して何かを見ている。そして、男は自身の左腕についている腕輪を押し―――

その場に倒れこんだ。


―――――――


音のする方にたどり着くと、赤髪長髪の見るからに魔法使いと言った女性がモンスターに追われていた。女の方は見たことがないが、モンスターの方はゲームで見たことがある。確かあれはこの先の『イドリア墓地』に生息している『メガロファントム』だったか。ゲームで言うと3面あたりに出てくる雑魚敵だったはずだ。


「アンタ!ここは危険よ、さっさと逃げなさい!」


赤髪の少女はそう叫ぶ。たぶん俺に向かって言っているのだろう。3面の敵に苦戦するってことはこいつはそこまで強い魔法使いってわけじゃないのだろう。だが、かくいう俺も知識はあるが武器も何もない。ここに来るまでに試してみたが魔法も使えるわけじゃない。


「あーもう!今後ろからやばいモンスターがたくさん来てるの!私一人じゃ抑えられないんだから、死にたくなかったら逃げるのよ!」


女性が再び叫ぶ。とはいっても、女性を置いて逃げるってのも寝ざめが悪いよなぁ・・・。そう思っていると、スマホが鳴りだす。おかしい、ここに来るまでに確認したが、スマホは常に圏外で、ネットはおろかメールすら繋がっていないはずだが・・・。

そう思いながら俺はスマホを開く。そこにはここに飛ばしてきたメールと同じ宛先のメールが届いていた。件名は『腕輪の使い方』となっていた。


「腕輪の使い方ねぇ。何々?『あなたはその腕輪で特殊な能力を扱うことが出来ます。しかし、それには依り代となるこの世界の人間が必要となります。近くに依り代がいる場合、腕輪の文様の中心にある宝石を押し込んでください』・・・。よく分からないが、特殊な能力ってやつであのモンスターを撃退できるかもしれないなら試しにやってみるか。」


俺はそんな気持ちで腕輪の宝石を押し込んだ。


そこで、俺の意識は暗転した。


―――――――


「なんだ、これ」


意識が飛んだのは数秒だっただろうか。しかし、先ほどとは明らかにおかしい点がある。


「・・・俺が倒れてる」


そう、目の前に俺が倒れていたのだ。そして、目にチラチラと映る赤い髪。俺は状況を瞬時に理解した。


「あの女の中に俺の意識だけが移ったのか・・・?」


試しに女に話しかけてみる。


「おい、聞こえてるのか?」


しかし返事はなく、ただ女が取り乱している様子なのが分かる。


「ああもう!何よいきなり倒れて!モンスターを見て失神でもしたのかしら!だらしないわね!」


「・・・聞こえてはない、と。」


やはり完全に女に精神だけ移った感じのようだ。さて、特殊な能力ってのはどうやるのか・・・

そう考えていると、頭の中に様々な呪文が浮かんでくる。なるほど。これらを適当に使ってみるか


「『魔力強化』『火炎強化』『俊敏強化』『精度強化』」


――――――


男が倒れてしまい、放置するのも寝ざめが悪い。私はモンスターの方に向き直る。


「でも、もう私の魔力は限界。なんとかしてこいつらの気をそらさないと・・・」


そう思った時、私の体の中から急激に力が沸いて来るのが分かった。


「・・・!?これは・・・。一体・・・」


理由は分からないが、これだけの力があればあのモンスターを焼き払える!


「行くわよ!『ファイアストー―――』」


私が魔法を紡ごうとした時、なぜか体が自分の意思とは関係なく動き出す。私は口から自分でも知らない魔法の呪文を唱え始める。


「あの魔物の弱点はフードの中のコア。それを打ち抜くなら広範囲魔法よりも一点集中の方が有効だ。だからこっちの魔法を使う。『ランス・オブ・ファイア』!」


私の知らない情報が私の口から出てくる。そして、今まで使ったことのない魔法―――炎を槍の形に圧縮した魔法がメガロファントムの体のコアを貫いた。槍は全てメガロファントムのコアを正確に貫き、あっという間にすべて消滅させてしまった。


「い、今のは一体・・・」


魔物を倒した安堵感からか、先ほどまで溜まっていた力が抜けているのが分かった。そして、後ろで倒れていた男が起き上がる気配を感じる。


―――――――


「・・・なるほどな、これがこの腕輪の力ってことか・・・」


モンスターを倒すと同時に俺の意識は元の体に戻っていた。どうやら多少のことならばこちらの意志で憑依相手を動かすことが出来るらしい。

そうやって効果を確認していると、先ほどの女が駆け寄ってくる。


「アンタ、大丈夫なわけ?モンスターを見て倒れるなんて、かなり危険よ」


女性は心配そうに俺を見ている。どうやら憑依されている側はそのことについて気付くことはないみたいだ。


「ああ。大丈夫だ。ところでお前は・・・」


「私?私はアネッタ・ウィーナイン。魔法使いよ。それよりもあんた、見ない顔ね。服装もこの辺で売ってるものじゃないし・・・何者?」


「俺か?俺は健吾。藤原 健吾だ」


「ケンゴ?聞いたことのない言葉ね。まぁいいわ、またモンスターが出たら危険よ、町まで連れて行ってあげるから。どうせ私も行く予定だったし」


そう言ってアネッタと名乗る女性は歩いて行く。俺もそのあとをついて行く。

憑依の腕輪・・・。面白いアイテムだけど、これから俺はどうすればいいんだろうか。ま、ここがあのゲームの中の世界なら、だいたいの内容は知ってるし、何とかなるだろう・・・

そう思いながら俺は都市エルピスへと向かうのであった。

第一話ということですっきり目にまとめてみました。世界観やこの世界のことなんかはまだ分からないかもしれませんが、後々明らかになっていくのでこれからよろしくお願いします。

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