第20話 弟子入り
さて、オリビアと待合せている料理屋街の広場へと向かおうか。
今回はアンとも広場で落ち合う予定である。
待ち合わせは午後6時頃。思ったより早く到着した隆康は、町を見渡しながら、展示即売会のことを思う。
あれは成功と言ってもいいはずである。一番初めのおばちゃんが周りにPRしてくれて、かなりの包丁を売り上げた。
加えて、おばちゃんたちの旦那さんが大工で、その関連で大工道具もよく売れた。
いずれも素材の値段くらいだったので、試しに買ってくれたのであろうが、アンの鍛冶屋の技術力がこれで分かったであろう。お得意さんになってくれれば、儲けものである。
あ、アンが来たな。
「アン!こっちこっち。」
「お待たせー。待たせちゃったかしら?」
アンは白のワンピースにピンク色のストールを羽織っている。普段の作業着とのギャップが激しい。あとは、耳に綺麗な石のイヤリングをしている。あれは何の鉱石だろうか?
「全然待ってないよ。俺もさっき着いたばっりだよ。普段の格好と違うから一瞬分からなかったよ。すごく似合っている。
その耳飾りはなんていう石なの?」
「ありがとう。あ、これね、トルトン石っていって、非常に硬い石らしいの。お父さんが生きてるときに趣味で加工してたみたい。イヤリング一つは作りかけだったから、アタシが完成させてみたの。だから左右少し違うんだけど、変じゃないかしら?」
そう言って、右、左と首を回して見せてくれるアンは、非常に綺麗に見えた。
ん、これ、魅惑の魔法かなんかかかってないか? 観察の魔法を使うと、石にはわずかながら魅了の効果が宿っているようだった。
石自体にそういう効果があるんだな、これは。他にもそんな鉱石があるんだろうか?
しかし、ここは感想を早く言う場面である。
「うん、どこもおかしくないよ。似合ってる。アンはファッションセンスもあるんだね。僕なんてただ古ダンスから出してきたフォーマルだもんね。カビくさいし」
「ありがとう。嬉しいな。タカくんもカッコいい。言動と相まって大人びて見える」
隆康とアンが周りから見てイチャイチャしていると、オリビアともう1人女性が到着した。
「タカレーン様、待ったぁ?」
オリビアが声をかけてくる。胸の谷間がばっちり強調され、薄い青色のスカートも異様に短い。肌が人種の違いか、隆康たちより軽く焦げ茶色であるせいか、服の色と相まって非常に扇情的である。
もう1人のほうは、オリビアと良く似た、というよりそっくりな顔立ちで、上下の衣服とも控えめなどこかの御令嬢然とした装いである。唯一、長いスカートの右足部分にスリットが刻まれており、そこから見えるこれまた薄い焦げ茶色の太ももがチラチラ見えるのが、周囲の男どもの注目を集めている。
「いや、こちらもさっき着いたところだよ。オリビア。ところで、そちらの女性は?」
紹介を求めると、オリビアは待ってましたと、もう1人の女性を前に押し出し、タカレーンの前に立たせると、口を開く。
「ご紹介しますわ。私の双子の姉で、セシリア。性格は見た目の通り奥手で、おしとやかですが、夜はこの胸で殿方をたっぷり楽しませることができますわ(笑)」
そう言いながら、オリビアはセシリアの胸を後ろから揉み揉みする。
「ちょっ、オリビア、人前でハシタナイことはやめなさい。」
オリビアはセシリアを軽く無視すると、
「こちらはタカレーン様。今回、私たちの魔法探しのうえで見過ごせない魔法を使える方よ。」
「タカレーンだ。こっちはアン。鍛冶屋をしている。」
「アンです。よろしく。」
「よ、よろしくお願いいたします、タカレーン様、アン様。ご紹介に預かりました、セシリアです。
私はオリビアの双子の姉で・・・
あ、アっ、こら、ダメだったら」
オリビアはセシリアの双丘を再び揉み続けながら、頂上のさくらんぼを指で弾いたらしく、セシリアは艶かしい声をあげている。
もう、周囲の男たちはまっすぐ立てないようだ。
おかしい、やはり隆康の下半身は不動である。子供とはいえ、性に興味を持ち始めているはずなのに。こ、これが耐久力の弊害か・・・。
「あー、オリビア。外でその手のネタは控えた方がいい。周りの人たちもびっくりするからね。」
軽くたしなめるとオリビアは思ったよりアッサリと了承して、セシリアをいじるのをやめた。
「そうですねぇ。せっかく皆さん揃って、自己紹介も済んだことですし、ご飯食べに行きましょう。」
そうして隆康たちは、目にとまったある小料理屋のなかに入っていった。
料理屋の名前は『肉づくし』。まぁ、旨い肉が食べれそうである。
中にはいると、テーブルが6つ、それぞれに椅子が6つついている。大体、40人くらいが入る部屋に、まぁまぁのお客が・・・、ざっと30人はいるな。
片隅のテーブルは空いており、これはオリビアが予約しておいてくれたのであろうか。
席につくと店員がメニューを持ってきてくれる。何を頼んでいいか分からないから、適当に頼んでみよう。
「オリビア、ここのおすすめが分からないから店員さんに任せようと思うんだけどいいかい?」
オリビアは否応なしに答える。
「ええ、問題ありませんわ。」「ええ、そうですね。」「アタシもいいと思うわ。」
「決まりだ。店員さん、この店の人気メニューを人数分とあとはテーブルに乗るだけ、適当に見繕って出してもらえますか?」
「わかりました。当店は基本的に肉がメインで、量も多いので、人気メニューは二人分お出しして、無くなられたらお出しするようにしてよろしいですか?あとは付け合わせの小皿などをお持ちします。お飲み物はどうしますか?」
思った以上にしっかりした店だ。
「みんなエールで。」オリビアが即答する。
まぁ、いいか。この世界は子供が飲んではいけないとはなってないしな。
店員が4つのエールを持ってきてくれる。お、こっちのエールは鉱山の時も思ったけど、やはり常温保存なのか。暖かいエールとかやだなぁ。
日本人ならビールはキンキン冷え冷えじゃないと。
皆にエールが行き渡ると、他の三人がこちらを見てくるので、乾杯の挨拶か?と目で問うとアンがそうだと答えてくれる。
「あー、オリビアとセシリアは他の国から来たんだったな。とりあえず、ようこそ、コロンへ。この街の長の息子としてそう言わせてもらいます。
まぁ、魔法やらなにやら詳しい話は料理でも食べながらやりましょう。
ま、カンパーイ」
「カンパーイ!」四人でグラスをカチンとぶつける。
オリビアとセシリアがそれをやるとそれだけでブルルンと胸のほうが振動した。
やはり、周りのテーブルからの視線をすごく感じる。
これはなんか周りの目が気になるなぁ・・・。
そうこうしていると料理屋『肉づくし』の名に恥じぬ肉料理が出てきた。
大きな豚の厚切り肉に、美味しそうな香草の匂いがとてもいい。
料理を見ているとセシリアがすかさず取り分けてくれた。
できるお姉さんである。
オリビアはセシリアから取り分けた料理の小皿を受けとると、フォークと合わせて隆康に渡してくれた。
「ありがとう。この肉料理はなんていう名前だろう?すごく美味しそうな匂いがするのは香草のせいかな?」
「えぇ、そうねぇ。香草は私たちが住んでたインネス共和国で特に盛んに取引されていたわ。香草というよりも香辛料がメインだけど。なんにでも香辛料よぉ。お肉にも相性がとてもいいのぉ。
そういえば香辛料ダイエットとかっていって、インネス共和国で流行ったんだけど、ウケるのよぉ。香辛料を身体に塗って揉みこむらしいんだけど、それが豊胸マッサージと融合してぇ、香辛料を塗っておっぱいモミモミが流行ったのよぉ。
私たちは別にそんなことしてないのに、どうやって胸が大きくなったのとか、どの香辛料がいいのとか?長いこと聞かれ続けたわ。」
セシリアも自分の胸の前に腕を組みつつ、苦笑しつつ答えた。
「アタシたちは特に何かしたという気はないのですが、流行りというものは恐ろしいんですよ。知らないんだからって、教えないと人は私たちが秘術を隠しているっていうんです。ちょうどインネス共和国内に魔法を軽視する動きが広まってたものだから、あの女たちは魔女でいろいろな秘術を隠匿している。近々、人々に災いをもたらすぅ、とかなっちゃって・・・国では生きていけないと判断して二人で出奔したんです。」
この世界でも胸を大きくしたい女性の願望は健在らしい。アンに目を向けると、うんうんと頷いている。
アンも歳のわりには大きなほうだと思うが、双子に比べると大分小さい。
「大変だったんだなぁ。あ、気になってたんだけど、君たちがつけてるネックレスに何か魔法的か魔術的な仕組みがついてるように見えるんだけど、何の仕組み?」
双子は驚いたように自分の胸元を見つめる。
「このネックレスにそのような仕組みがついているとは聞いてませんでした。これは父方のおじさんが東方への旅行帰りに買ってきてくれたもので、二人ともこれが妙に気に入ってずっと着けているんですが・・・」
「ちょっと観察の魔法を使うよ。目で見ただけではよく分からないから。」
そばでアンが呟く。
「目で見えないはずなのに、なんでタカくんは気づけたのかしら?」
そのつぶやきは耳に届くも、俺自身もよく分からないので、考えるのはやめた。気づけたのだからそれでいいのだ。
うーん。どれどれ・・・やはり何かついてる。
魅惑のネックレス:石はトルコ石を使用した土産物品。後付けの魔術的機能あり。魅了の魔法効果付与。使用者に愛着を持たせるとともに、石との相性によっては周囲にも徐々に影響を及ぼす。兄弟石の関係は効果を高めあう。
旧時代の魔法原理で構成。付与特性:魅了(中)、加護(小)
「うん、やはり魅了の魔法が付与されてるよ、このネックレス。二人の元々の魅力が高められてるのと、周囲にも影響し出しているみたいだね。」
「知りませんでした。おじさんは何のためにこれをくれたんてしょう?」
「ま、純粋に土産物だったかもしれないしさ。害はないものだと思うから大丈夫そうだし。」
「えぇ、これからも装着はしますわ。ところで、その魅了にタカレーン様はかからないのですね?ずっと誘ってますのに(笑)」
「まだ子供だからねぇ。大人の魅了には影響しないんじゃないかな?」
うそです。下半身が耐久力を発揮しちゃってるせいです。
「とにかく、これではっきりしましたわ。あなたは『観察』などという古代魔法が使えるスゴい魔法使いなのですね。ぜひともお教え願いたいです。」
「お願いします・・・。」
双子ふたりはそれぞれのやり方で一礼する。セシリアはしずしずと上品に、オリビアは豪快にされど下品には見えないような礼をしている。
「教えるのは構わないんだけど、この国に、というかこの片田舎に長く滞在していいの?他に行くところあったりとかしたら、そっちを片付けてからのほうがいいよ。教えたこともないし、教えれるのかも分からないんだから・・・」
隆康の本心である。創造力のお陰で考え出しただけなので、古代魔法ということすらよく分かっていなかったからだ。
待てよ、ということはかつてにあった魔法を使えるようにしただけだから、反動が少なかったのか・・・。温故知新って大事なんだねぇ・・・
意味はよく知らんけど。
「構いませんわ。魔法が私たちの主目的ですから、国だの都会だのは関係がありません。それに聞くところによると、都ではこの街コロンの噂が乱れ飛んでおりました。近い将来、かならず大都市に成長いたしますわ。」
自分が住む街を誉められるのは悪くない。
「分かった。学ぶのは自由だ。聞かれたことには答えるし、便宜も図ろう。ただし、俺がやりたいことをいろいろ手伝ってもらうからな?」
「もちろんですわ。弟子が師匠と行動を共にするのは当然です。もし、求められるのであれば、私たち二人が夜の褥を共にしてタカさまを男にしてさしあげますよ?ふふふ」
オリビアは相変わらず誘惑してくる。
されど、隆康の下半身は鉄壁の様相でそこに佇んでいた。
なぜだ、息子よ。この齢にしてアルファベットにしてEと、Dをくっつけた症状だとでもいうのか!?
隆康は相変わらず耐久力が仕事をして、もとい邪魔をして、オリビア、セシリアの魅了の魔法に耐えきるのであった。
最近、忙しくて書けてませんでした。
久しぶりの投稿です。
オリビア、セシリアみたいな娘がいたらぜったいに落とされるなぁというのを想像しつつ書きました。




