第17話 鉄の精錬
隆康たちは宴会の次の日、再びアンの工房、作業場で顔を合わせた。
アンがどこかよそよそしい。
どうしたのかと聞いてみると、昨日の酔っぱらい具合を全部覚えているらしく、俺に迷惑をかけたと悶え、赤面しているらしい。
そんなの気にする必要はないと言うも、テンションはなかなか復活してこない。 まぁ、時間が解決するもんかもな。
ここで久しぶりに安藤語録を思い出した。
『戦場だろうと、宴会だろうと次の日に後悔を持ち越してはいかん。前の日にあった出来事は過去であり、自分を助けるものではない。とはいえ、反省なき行動はバカのすることだが、個人的な反省のし過ぎは頭禿げるぞ、隆康!』
うっさい、誰が禿げるか! あ、自分の回想に突っ込んでしまった。どうやら、これらの回想も創造力の関係か、頭のなかで、まさに安藤から話しかけられてるように思い出すことがある。しかし、これは外から見たらイタイ子である。
一人でツッコミをいれてるとか。
気を取り直してアンに声をかける。
「アン、今日はお待ちかねの鉄精錬をしよう。アンの本業だよ!」
アンはその言葉に少しだけ顔をあげ、嬉しそうにしたのも束の間、なにかを言おうとしては口をつぐみ、言おうとしてはつぐみを繰り返す。
どうも酒の場での失敗が相当堪えたらしい。
しかし、さすがの隆康も過去は変えられない・・・はずだ。さすがに変えられる魔法を作り出すとかは考えない。それをすると際限がなくなるうえに、なんかこう・・・自分に引いてしまう気がする。
とまれ、こうも主役のアンが沈んでるのは不味いなぁ。
うーん、どうしようもないな、これは。
とりあえず、アンを無理やり作業場へ連れていき、金槌を振り回させて元気を出させようとしてみたが、これが見事に裏目に出た。
両肩を羽交い締めにして連れていこうと後ろから手を回した瞬間、アンはくすぐったがって脇を絞めてしまった。すると、隆康の手は中途半端に回された状態で固定され、ものの見事にむんずとアンのぷにぷに双丘を鷲づかんでしまった。
隆康もアンもあまりの事態に一瞬時が止まる。
しかし、隆康の頭は停止していても、手は勝手に動いていた。もみもみもみと・・・。当然、隆康の下半身は不動だったのだが、手はまた別の生き物であったようだ。
その後、隆康はアンから金槌でボコボコに殴られたのであるが、ほとんど無傷でさらにアンを怒らせたのは、また別の話である。
それから二時間。謝り倒して、なんとかアンは落ち着き、やっと鉄の精錬の準備が整った。
鉱山からとってきた、鉄鉱石をまずは鉄のインゴットにしないとならない。鉄を炉にいれ、不純物を取り除いていくアンは綺麗である。
真っ赤になった鉄鉱石の塊を金槌でたたいて、どんどん折り返していく。この折りかえしが重要で、鉄の分子をどんどん細かくして結合を強めないといけない。
これはもうアンの才能といっても過言ではないほど見事な槌打ちであった。さすが、『天賦の槌打ち』持ちである。
さぁ、そろそろ鉄の精錬、インゴットの作成がひとつ終わる。それを使って何を作るかを決めることができるのは、作成者の醍醐味である。
「アンはこれを使ってまず何を作りたい?」
「うーん、えっとね・・・アタシはこれでショートソードをまず打ってみたいかなぁ。お父さんはやらせてくれなかったんだよねぇ、まだ早いって。」
おそらく、アンの父ノイトンは『天賦の槌打ち』のせいでどんなに下手でもある程度の出来になってしまうのはアンのためによくないと思ったのではないだろうか。
だから、下積みを長く経験させて、技術よりも知識を増やさせたのかな?
ただ、もうアンは大丈夫だろう。思い上がったりもしないだろうし。
「よし!じゃあ、ショートソードを作ろうよ。おれは最後の仕上げだけ魔法かけるから、ほとんどはアンがやってね。それに、そのショートソード以外は当初の予定通り、包丁を街のおばさまたちに売り込むんだ。」
「あっ、忘れてたわ!」
こんな感じでのほほんとした空気も、売る段階になって阿鼻叫喚の地獄となるのを、このときの二人はまだ知らない。
アンの乳をもみ、槌でおもいっきり殴られました。
鉄のインゴットを作りました。




