プロローグ
日々の暮らしをもっと鮮やかに暮らしたい。そういう、想いを創作の世界で満たそうという、悲しい理由から作品を作ろうと思いました。
そういう理由ですので、作品が暗くなりすぎないように、のんびりとした作風を心がけたいと思います。
不況のこのご時世、とりあえず生きるために陸自隊員となった筒井隆康は、訓練中の事故で谷底へ滑落し、目覚めると寂れた街のゴミ捨てばに転がっていた。
「は?何で俺はこんなとこに?」
疼く頭をふりつつ、のそっと起き上がると、少し離れた路地の先には、光輝く・・・ことはない、灰色の寂れた町並みがすぐにでもつぶれてしまいそうな様子でそこにある。
俺はあれからどうしたんだっけ?
隆康は混乱する頭を無理やり落ち着けるかのように、大きな息を吐きつつ記憶をたどる。
隆康たちは、陸上自衛隊の訓練検閲に参加していた。訓練規模はここ最近ではめったにない、方面隊対抗で、4個師団 VS 増強3個師団、大規模といっても過言ではない規模であった。
隆康たちの部隊は、3個師団の中の先遣師団である第一師団に、さらに前方部隊を命じられた第一聯隊、そのさらに先駆けを命ぜられた第一中隊の隊員である。
隆康は斜め後ろからついてくる隊員の安藤と二人で、対抗部隊でる敵を探しに偵察にでてきたのである。
「なぁ、安藤。分かってること言っていいか?」
「なんだよ、タカ?」
安藤はめんどくさそうにしながらも、隆康の話に耳を傾けてくれる数少ない同期である。さらにいうと、安藤は隆康と違い、就職に困って自衛隊に入ったわけでも、地本の広報官に甘い言葉で連れられてきたわけではない。
警察、消防、県庁、市役所、果ては国家公務員一種試験の全てを合格し、それらを蹴ってまで陸上自衛隊を選び、一兵卒から叩き上げで部隊の中核要員となっている隊員である。
こいつなんで自衛官なんてやってんだろ?こんな泥だらけになるような仕事も選べただろうに。
「あ、いや、俺ら何やってんだろうなってさ」
「タカ、歩きながら寝てんのか? いま、さっき、小隊長から偵察して、敵の拠点見つけて来いって言われただろが。」
安藤はそうぶっきらぼうに言うと、銃をローレディの状態で進んで行く。
「そういうんじゃなくてさ、こんなことして意味あるんだろうかってさ・・・。」
安藤は興味もなさそうに即答する。
「意味なら普通にある。中隊で一番タフな二人が選ばれて、敵拠点を見つけりゃ、中隊が奇襲されることもなく、聯隊、ひいては師団の作戦目的にも寄与するって寸法よ!」
「あいかわらず、安藤はブレないよなぁ。っていうか、中隊で一番タフなのはお前だよ。俺がふくまれてるのは訳が分からんのさ。お前はレンジャーで、俺はレンジャーくずれで、原隊復帰組だ。」
隆康は、2年前の夏にレンジャー教育に参加し、安藤と出会った。そのときバディであったタカヤスは、教育の途中で山道を転げ落ち脚を骨折し、腎臓が破裂して、あえなく原隊復帰したのである。
「タカヤス、自衛官はこんなバッジじゃ変わらんぜ。バディはさらに不変だ。だからバッジはダイヤモンドついてんだろうが。まぁ、いい、早く拠点見つけて、戻るぞ。」
安藤は気をつかってくれたのか、話を切り上げて、前に出て先に進む。
いまは、道ならぬ獣道を通り、敵の拠点がありそうな尾根の先へと回り込もうとしている。
あたりは太陽が落ちかけ、茜色に染まる森林のなか、暗黒がますます増えて、隆康たち斥候の主戦場を増やしていく。
隆康は安藤に感謝しつつ、安藤のあとに続く。
隆康たちは斥候任務のため、背嚢などの嵩張るものは六㎞後方の拠点に置いてきている。その足取りは早い。
『待て、タカ』
安藤は急にハンドシグナルにより、隆康の動きを止めてきた。そのまま、左手のピースを目に向け、そして前方に向けた。
『前方に敵一個組を発見。拠点の歩哨だ。もう少し観察したらずらかるぞ。座標割り出しとけ。』
隆康は、座標をとるため、GPSを懐から取り出す。8万円もしたが、安藤にごり押しされ買わされたものだ。安藤がいうには、『自己位置の標定が戦場の生き死にを左右する』だそうである。安藤語録を毎回聞かされる隆康は、そういった知識を他の人よりも蓄えているのだ。
『よし、座標取ったな?帰るぞ。』
安藤が来た道を戻り始めた。
そして戻ろうとした瞬間、周りの景色は乳白色に包まれた。