とある授業にて
Build up your identitiy!
MARGINAL MAN
ピーター・パン・シンドローム
What's love?
Build up your identity!
アイデンティティヲ確立セヨ!
倫理の授業で、そんなことを言われる。
先生はこの高校に入って、identityの崩壊と再構築を経験したらしい。私たちにも同じ経験がどうのこうの、高校生は青年期だからどうのこうの...
青年期とは、自分を見失う不安定な時期。そんなときに高校に入って、全く新しい環境で自分は何ができるのかわからなくなってしまう。だけど友達ができて、自分の存在が見いだせるようになる。
今とは時代の違うお話。高校の思い出話なんて、当人や関係者以外全くもって面白くないものだ。
授業じゃなくて同窓会で花を咲かせて欲しい。
MARGINAL MAN
ピーター・パン・シンドローム
高校生という不安定な時期。この時期を、青年期と言うそうだ。MARGINAL MAN。直訳すると、境界人。大人にも子供にも属さない、中途半端な存在。先生は笑顔で、私達は人間ではないと鋭い言葉で攻撃してくる。大人になれない、ピーターパン。
しかし社会は、都合よく私たちの存在を変化させる。
「高校生にもなって、もう大人なんだからしっかりしなさい」「高校生が、何言ってるの。まだ子供じゃない」何回言われた言葉だろう。社会は私たちに大人と同等のものを要求し、かつ大人には追いつくなという。よくわからない。それを教えてくれるのが倫理の授業だと思っていたのに。
「だから、何」
呟いた言葉は教室の隅に転がっていく。倫理の授業はある意味で洗脳と同等だ。
What's love?
愛とはなにか。
「愛とは、靴紐」
最初はうまく結べず、慣れてくるとやっと結べるようになる。緩すぎるとほどけてしまうし、固すぎると解けなくなってしまう。
数年前の先輩が残した言葉。先生はこれを気に入り、楽しそうに当時の授業の様子を語る。そしてそれを、私たちにも押し付ける。
「愛とは、炎」「愛とは、果物」「愛とは、スマートフォン」「愛とは、ろうそく」
生徒が発表する度に、先生は笑顔になっていく。自分の満足のいく、期待通りの解答が得られたことに喜びを感じているのだろう。綺麗事で塗り固められた、カロリーの高そうな「愛」。先生の頭の中では砂糖菓子のお人形が踊っているのだろうか。
「愛とは、裏切り。」「愛とは、憎しみ。」「愛とは、悲しみ。」
先生の思い出話の中で語られた、また違う「愛」の形。高校生がこれを答えたというのもどうかしていると思うが。先生はこれを、強い語気で否定する。綺麗な形の愛は笑顔で拍手を送り、陰の部分は顔を歪める。美しい、綺麗な「愛」の形を求めて。
「愛とは、静電気」
私が出した答えはプリントの上に文字となってひそかに、確実に存在する。
あなたにとって、愛とは?