叡との一夜(1) ──「やっぱり、初めては生がいいよね」
十二月二十五日、深夜一時。
ミーティングと装備点検を終え、隊のメンバーの半分が仮眠休憩に入った。
敵の奇襲にも対応可能な哨戒を行えるよう、グループ決めはクジ引きではなく各人の技能を考慮して均等なバランスになるよう決定した。
SAT第四小隊は、先に瑯矢と半田が休息を取り、その後は俺と古淵が交代する。
「おい……本当に良いのか?」
M7動体探知機を片手に持った舞原が、口髭を掻きながら不安そうに尋ねる。
三洋百貨店前駅の南側区画の奥、防火扉で封鎖された地下鉄半蔵門線の改札口の手前。
例の多数の虫食い穴が開いたその気味悪い通路で、俺と古淵は黙々と必要な作業を進めていた。
それは、M18クレイモア指向性対人地雷の設置。爆破面を向ける先は、北側だ。
「あのな……俺たちが出発したら、ここを通過するんだぞ……? クレイモア地雷の殺傷エリアを抜けて南に行けって言うのか……?」
「その通りだ。クレイモア地雷はリモコンで遠隔起爆する。誤爆の心配は要らない」
予定では、休息を終えた後は全員で三洋百貨店前駅の北側区画から南へ移動し、地下鉄半蔵門線へ向かうことになっている。
その道中に今、五個のクレイモア地雷を仕掛けているのだ。
「さっき説明しただろう。これは、北側区画から敵襲を受ける最悪の可能性を想定しての事だ。
全員が南側区画へ退避したら、クレイモア地雷を起爆し、北側から迫る敵に大打撃を与える。
そして────重機関銃で掃討する」
重々しい金属音が響いた。
横川が射撃用三脚を展開し、その上にブローニングM2A1重機関銃を据え付けたのだ。
横川は慣れた手つきで、金属リンクに接続された百発のMK211徹甲焼夷弾が詰まった大型弾薬箱を横に置き、弾薬帯をジャラジャラ引っ張り出すと、ブローニングM2A1重機関銃の給弾口にその先端を押し込んだ。
そして大型コッキングレバーを思い切り握り込んで、ジャコンッと引っ張った。
「準備よし」
横川が自慢げな笑みを作った。俺は頷く。
「もちろん、何事もなければクレイモア地雷と重機関銃は回収すればいい。正直言って、俺だって地雷の有効範囲内を突っ切って進むのは嫌に決まっている。だが、俺たちが休息する北側区画から襲撃を受けた場合は、この防衛策は必ず役に立つ」
舞原は相変わらず落ち着きのない様子で、辺りを見渡す。
「けど、宰河さんの予測とは逆方向、今は封鎖されているが地下鉄半蔵門線の方から敵が来る可能性だってあるだろ……。その時はどうするんだ」
「むしろ、その方が長い射程が取れるから安定した迎撃ができる。ライフルグレネード、ロケットランチャー……何でも使えばいい」
そこで、起爆リモコンの通信のチェックを終えた古淵が、肩をコキコキと鳴らしながら言う。
「オッケイ、こっちも完了だぜ。ところで……そこの嬢ちゃんは、いつ寝るつもりだ?」
その視線の先には、側で離れず無言で俺を見守っている叡。米海から奪っていたM590ショットガンは既に返却され、今は手ぶらだ。
「無理しないで寝ておいた方がいいぜ? 良い子は寝る時間だぞ」
「……子供扱いしないで。ボクは、小隊長さんが寝るときに、一緒に寝る」
ずっとこんな調子だ。俺も何度言っても、頑として聞き入れない。
気持ちはよく分かるが、無理にでも休んでもらわねば彼女の体力がもたないだろう。
どうしたものかと考えていると、古淵は今度は俺をまじまじと見つめた。
「おい、古淵……? 今、変なこと考えてないか?」
「いやぁ、それなら小隊長どのが今から一緒に寝てやれば、解決するんじゃないか。地雷と機関銃のセッティングは終わったし、後は敵が来ないよう見張るだけだ。小隊長どのは、嬢ちゃんの側について守ってやれ」
「え? いや……それは……」
流石に気まずいものがあり、俺は返事を濁す。
「ヘイヘイ……それが一番の最善策だろ。あっちの駅員室の中に、仮眠室がある。そこを使え」
「でもな……」
叡が、俺の腕をグイグイと引っ張る。
「ボクを寝かしつけたいんでしょ? なら、来て」
俺は根負けする。
古淵が何か思いついたという風に、ポケットから小さい潰れた紙箱を取り出した。
「これ、使うか? 役立つかもしれんと思って、持ってきたやつだ」
「……何だ?」
受け取って中身を引っ張り出して見ると、ビニールで個別包装された薄いゴムが入っている。
「って……避妊具じゃねえか! 何考えてんだクソジジイ!」
「おいおい、必要なことだろう。『やれば、できる』。そう小学校で教わっただろ」
「この大馬鹿野郎! そんなつもりあるか!」
避妊具を古淵の足元に叩きつけると、叡がまた小悪魔な笑みを浮かべた。
「そうだね。やっぱり、初めては、生がいいよね」
「何の話をしてるんだ……!? 勘違いするなよ……!」
多大な不安を抱えながら俺は、叡によって強引に駅員室へ引っ張り込まれてしまった。





