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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:04 MARCH OF THE DEMONS「怪物の行進」 ──黒竜の巣窟と化した市街から脱出せよ。
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ドラゴン・ストーム(1)  ──「墜落する!!」

挿絵(By みてみん)



 交通規制が敷かれた市街地の国道を進軍する車列の遥か上空、三角の陣形を組んだ三機の戦闘ヘリコプター、AH64Dアパッチ・ロングボウ。最初の大きな異変に気が付いたのは、彼らだった。



「こちら『ハニービー』…………【あれ】が、見えるか?」



 国防陸軍対戦車ヘリコプター隊に所属するパイロット、谷嶋(やじま)輝夫(てるお)中尉は、神経を張り詰めさせた表情で、そう漠然と尋ねた。


 【あれ】とは、どの方角のどの物体を示しているのか、それを説明する必要は今回ばかりは無かった。



<こちら『ホーネット』。ああ、見える。幻じゃない、よな……>



<こちら『バンブルビー』。こちらも、視認している……。あれは……東京テレポーターのある場所だ>



 地上で突発的な地震が観測された直後のこと。


 およそ十キロ先、東京テレポーターがあるはずのその場所から、紅く眩い巨大な光が爆発した。

 そこから太い光の柱が現れ、上空へゆっくりと昇っていく。



「蒔田少尉……! 東京テレポーター付近に展開している部隊はどうなっている!?」


 前席に同乗している、砲手を務める蒔田(ときた)眞衣(まい)少尉は、備え付けのコンピューターを操作して情報を照会する。


「……通信ロスト! 地上も含め、台場に展開している全ての部隊との通信が一斉に途絶えたとのことです!」


「嘘だろう!? 電波障害か!?」


「原因は不明です!」



 谷嶋は、ふと、周囲の景色の明るさに違和感を覚え、頭上を見上げた。


 そして、「イッ」と引きつった声を漏らす。



「谷嶋中尉?」



「う、上っ……!」



 蒔田も上空を見て、短い悲鳴を上げる。


 巨大な赤い光の環が、絨毯の模様のように、空中で無数に並んで浮かんでいるのだ。




 それはまるで────【魔法陣】。



 

 そう思い至った直後、全ての【魔法陣】が、強い光を放った。


 燃えるように鮮やかな赤色の泉を湛えた魔法陣の内環から、生み出された黒き怪物たちが、ゆっくりと体を浮き上がらせていく。


 大翼を広げた、黒の竜の群れ。その頭は、痩せ老いた黒い山羊に似ていた。神話に登場する邪悪なデーモンの顔そのものだった。


 天空を揺るがす無数の悪魔の声が、真の地獄の幕開けを告げた。









<──────墜落する!!>






 

 無線に、激しいノイズ混じりの悲鳴が飛び込んだ。


 カロリーメイトをかじっていた俺は、ハッと顔を上げる。


 コールサインが無く詳細は不明だが、この警護チームで『墜落するもの』といえば、思い当たるものは一つしかない。


 会議室でWASPブラヴォー小隊長の星乃が説明した言葉が、頭の中でリフレインする。



『30ミリ機関砲、ヘルファイア対戦車ミサイル、スティンガー対空ミサイル、ハイドラ70ロケット弾を装備。言うなれば、空飛ぶ戦車。逃れられる者など居ない』



 ……まさか。



 

 刹那、地を揺さぶる壮絶な爆発音が間近に轟いて、一瞬、車内の重力が消え、全ての物が宙に放られた。


 俺は反射的に、叡の身体を抱きかかえて庇う。


 

 著しく損傷し深紅の炎に包まれながら落下した『ホーネット』のAH64Dアパッチ・ロングボウは、警護チームの車列の中へと墜落し、燃料と搭載兵器が起こした凄まじい爆炎が、ハリケーンのように周囲を吹き飛ばした。


 爆風の直撃を受けた装甲車たちは激しく横転し、第四小隊の搭乗した車両はミニカー同然に転がりながら、間近の銀行ビルの一階の突っ込んで、フロアを滅茶苦茶に破壊しながら停止する。



 俺は、さっきまで九六式装甲車の床だったものを見上げながら、抱きかかえた叡を確かめる。


「おい……大丈夫か……?」


「……ありがとう。大丈夫」


 上体を起こして周囲を見渡し、他の隊員の安否も確かめる。


 装甲車の端で、古淵が手を振った。


「昔、風呂代わりにならんかと思って、洗濯機の中に入ったことがある。今更思い出しちまったぜ、クソ」


 そう言って、古淵に抱きつくように気絶している半田を叩き起こした。


 側にいた宮潟も、起き上がって慌てて銃を取る。


「なに……何が起こったの?」


「ヘリが……墜落したんだ。武装満タンの、あのヘリがな……」


「まさか、どうして……!?」


「分からない。……おい、柚岐谷はどこに?」


 姿の見えないチームメイトを探すと、自分の腰を置いていたクッションらしきものがいきなり動いた。


「ここにいますよ……」


「うわっ! すまない……!」


 知らぬ間に、柚岐谷を下敷きにしていたのだ。


「別に、大丈夫ですよ。良いご褒美です。……それより、早く出ましょう。この装甲車は、もう駄目です」


 外で銃声が聞こえた。機関銃の連続した銃声だ。


 ヘリコプターが墜落しただけに終わらない、何か恐ろしい事が起きている。


「古淵、半田。周囲を警戒しながら、ハッチを開け」


「了解」


 古淵が逆さまになったハッチを操作し、半田は側でGSRピストルに持ち替えて警戒する。


 開いたと同時に、二人は外に出て周囲を確かめる。


「クリア」


 続けて、宮潟と柚岐谷も銃を構えながら外に出て、最後に俺と叡が装甲車を脱出した。


 柚岐谷が建物の惨状を確かめて、溜息をつく。


「どうやら、このビルは銀行のようです。定休日で助かりましたね。もし営業時間だったら、多くの民間人を轢いていたことでしょう」


「そうか……。宮潟、柚岐谷、装甲車の運転員を救出しろ」


 運転員の救出を任せ、俺は古淵と半田と共に、外の道路の様子を伺う。


 そこには、凄惨な光景が広がっていた。燃え盛る火炎と煙があちこちに上がり、車両のほとんどが焼け焦げて横転している。


 付近を通行していた民間人の多数が、事故の巻き添えになっていた。


 身体に火が着いても倒れたまま微動だにしない者や、血を流して動かない恋人を抱きかかえて泣き叫ぶ者、半身に酷い火傷を負いながらも呆然とヨロヨロ歩く者、自分の欠損した脚を持ちながら助けを求める者……戦場のような地獄の光景が、この日本の市街地の真ん中で繰り広げられている。


 俺は放心し、立ち尽くす。



 …………もし、俺たちがここを通らなければ、彼らはこのような目に遭うことはなかったはずだ。



「宰河さん、早く、負傷した民間人を救護しないと! こんな状況じゃ、しばらく救急隊もまともに近寄れませんよ!」


 言うや否や走り出そうとする半田の腕を、古淵が強く掴んだ。


「待て。任務を忘れたのかよ」


「任務……? 任務だって? こんな状況で、任務を続行できると思ってるのか? こんなの、失敗に決まっているだろ!」


「それは、俺たちが判断することじゃない。中止命令が出ない限り、任務は続いてんだよ」


「だからって、目の前で死にかけてる民間人を見捨てるのか!? この事故は僕らのせいなんだぞ!」


「それは違う。俺たちのせいじゃない。悪いのは、あのヘリを落としたクソッタレだ」



 二人は平行線の口論を続ける。


 後ろを見ると、宮潟と柚岐谷が、装甲車の運転席から血まみれになった二人の運転員の身体を引きずり出した。宮潟は俺を見て、首を横に振る。



 俺は小刻みに震える手で、無線に話しかける。


「こちらS4よりHQ。ヘリコプターが墜落し、車列に直撃……民間人にも甚大な被害が出ている。応答願う」


 しかしいくら待っても、鶴騎中隊長や傘宮中隊副長の返答はない。繰り返し呼び掛けるが、いくら待っても結果は同じだった。


「どうなっているんだ……」


 俺は、唇を強く噛みしめる。

 指示がなければ、どうにもならない。


「……どうするの? ボクは、早く避難した方がいいと思う。ここはすごく危ない」


 叡は、相変わらず冷静な表情のまま、そう意見した。




『絶対に、自分を見失うな。いかなる事態に陥っても、必ず任務を思い出すんだ』




 鶴騎中隊長は、そう言っていた。

 彼は自らの身にも危険が迫っていることを予期していて、あのように強く忠告したのだろうか。


 最悪の事態は、既に起こり始めている。


 彼と話すことのできる機会は、もう二度と無い。心のどこかで、そんな確信があった。



「……鶴騎中隊長」



 俺は呟いて、スリングで吊ったHK416のグリップを握り直す。


「任務を続行する。……この子の護衛が、俺たちの任務だ」


「宰河さん!? 正気ですか……!?」


「正気だ! 半田、安全の確保の方が先決だ。ただの故障で、あんな重装備の戦闘ヘリが墜落するわけがない」


 HK416のセレクターをセフティからセミオートに切り替え、柚岐谷に向けて手招きする。


「柚岐谷、俺と来い。外の様子を確かめる。古淵、半田、宮潟は、この場所で叡を守れ」


「……ボクから離れちゃうの?」


「大丈夫。すぐに戻る。この三人なら安心だ」


 柚岐谷はガンケースからゲパードGM6アンチマテリアルライフルを軽々と取り出して、収納した銃身をジャコッと展開し、いつでも発砲できる状態にした。


「おい、こんな街中で何を撃つ気だ?」


「何って、戦闘ヘリを撃墜した『何か』を撃つためですよ?」


「……俺が許可するまで、撃つなよ」


 柚岐谷を連れて外に出ようとした所で、宮潟が不安な表情で呼び止めた。


「気を付けてね……」


「おい、そんな顔やめてくれ……大丈夫だ。叡を頼む」



 俺と柚岐谷はビルを飛び出し、道路に出て空を見上げた。


 予想を遥か越える光景に、俺は開いた口が塞がらなくなる。



「…………おい、柚岐谷、見えているか。俺の頭が変になったわけじゃないよな」


「ええ……私にも見えていますよ。二人揃って変になっているんじゃなければ、これは現実です」



 人類の終焉とも言うべき景色。


 この東京の空に、巨大な深紅の魔法陣が輝き、その下で夥しい数の黒い竜が縦横無尽に飛び回っている。


 痩せた山羊に酷似した、醜い悪魔の顔。瞳には赤い邪悪な光を孕んでおり、身体には棘のように逆立った黒い鱗を纏っていた。全長二メートル程度の小さい竜も居れば、三十メートルを超える大きな竜もいる。


 竜の群れは、あざ笑うように耳障りな鳴き声を上げながら周囲の建物に次々と取り付いて、目についた人間を片っ端から口から吐き出す紅い炎によって焼き尽くしている。逃げ場を奪われビルから転落していく人間の姿も見えた。


 生き地獄を味わいながら死にゆく人々の断末魔が、この街に渦巻いている。



「おい、助けてくれ……!! 手を貸してくれ!!」



 正面に、横倒しになった九六式装甲車があり、開いたハッチからSAT第三小隊長の北村総太郎がこちらに手を振った。意識のない負傷者を抱え、引っ張り出そうとしている。


 俺たちが咄嗟に駆け寄ろうとしたところで、一体の竜がその装甲車の上に取り付いた。


「あっ!?」


 見上げた北村の頭に、竜がいきなり噛みついた。ボギッと音がして、一瞬で食いちぎられる。


 頭部を失い、噴水のように血を噴き上げながら、第三小隊長の身体はどさりと倒れた。



 竜の真っ赤な目がぎょろりと動く。そして、俺たちを見た。

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