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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:03 BLOOD FALLS 「ブラッドフォール」   ── 異世界侵攻を生き延びろ。
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アローン・イン・ザ・ダーク  ──「このユートピアを勝ち得るために」


 

 叡の大きな瞳には、情けなく憔悴した俺の顔が反射して映っている。



 ……今の俺は、何てみすぼらしい顔をしているんだ。



 出し抜けに、視界の外から腕が現れ、叡の頭をバシッとはたいた。


「ちょっと。なにドサクサに紛れて私の小隊長を口説こうとしてるの?」


 頬を膨らせながら現れたのは、宮潟だった。


「来ちゃった」


 付き合いたての恋人のように、わざとらしくはにかんでそう言った。


「おい宮潟……話はついたのか?」 


「当たり前じゃない! コテンパンに論破してやったわよ。史上最強の小隊長と一緒なら、そこが世界で一番安全なの。そうでしょ?」


 宮潟は腰に手をやって、偉そうに胸を張った。

 そんな彼女を見て、叡は吐き捨てる。


「……やっぱりボクは、こいつは大嫌い」


「ええ、結構? 私だって、牛乳拭いた雑巾よりあんたが大嫌いよ。次にまた小隊長を口説こうとしたら、逆さ吊りにするわよ」


「ここ、吊り下げられる天井なんて無いよ」


 俺はプッと息を吹き出してから、二人の間に入って無理やり喧嘩を仲裁する。


「やめやめ! とにかく話は後だ!」


 その光景を見ていた鶴騎中隊長は、俺に言った。


「何があろうと……お前たちは最高の部下だ。ベストを尽くせ。気合を見せろ。……頑張れよ!」


 俺が返事をする前に、鶴騎中隊長は俺の肩を思い切りぶっ叩くと、去っていた。


「行こう。装甲車に乗るんだ。時間が無いぞ!」



 俺たち三人は駆け足で、九六式装甲車の後部ハッチから車内へ乗り込んだ。


 ベンチシートに座って待機していた半田、古淵、柚岐谷が、思い思いの表情を浮かべた。


「宰河さん、遅いですよ! 左崎のクソ野郎がキレ気味ですよ?」


 半田が、とばっちりを受けるのは御免だという風に首を振りながら怒る。


「まあまあ……これが最期かもしれねえんだ。出発前にちょっと3Pするくらい許してやれよ」


 古淵は、両手でピストン運動を示す卑猥な形を作りながら、何の擁護にもなっていないことを言う。


「…………確かに、小隊長、何か疲れていませんか。いったいどんなことをしていたんです」


 柚岐谷は、恐ろしい無表情で興味半分苛立ち半分に尋ねてくる。


「中隊長のありがたい激励を貰っていたんだよ! 全く……お前ら、高校生の部活じゃないんだぞ! 気を引き締めろ!」


 そう言いつつも、やはりこのチームは掛け替えのない大切な仲間であり、最高の武器だ。

 

 俺は、このチームがあるから、戦える。




 


 国防陸軍特殊部隊『WASP』アルファ小隊長、左崎一郎少佐は、フラグ弾を装填済みのドラムマガジンをセットしたAA12アサルトショットガンをスリングで吊りながら、嫌味たっぷりな引きつった笑みを浮かべ、無線に呼びかける。


「こちらアルファ1からS4へ。漏らしたオムツの交換は済んだかい?」


 SAT第四小隊の遅れを皮肉ると、ストライカー装甲車に同乗しているアルファ小隊隊員十名は一斉に笑った。


<こちらS4。遅れて申し訳ありません。準備は整いました>


「ハァ。随分と遅かったじゃないか。足を引っ張っているという自覚が足りないようだな」


<……これから、オムツ替えのプロにしっかりと学んでいきたいと思います。サー>


 左崎は笑顔のまま眉間に強く皺を寄せ、通信を終了した。


「……このクソガキ共。任務が終わったら、ブチ殺してやろうか」


 腰に差したボウイナイフを抜き、その刃に映る自分の笑顔を見つめる。


 警察は、軍隊の下位互換に過ぎない。彼らは平和な時には市民に権力を振りかざしているが、本当の国家の危機が訪れれば、軍隊にその対処を丸投げする。最前線で血を流すのは兵士であり、警察ではない。


 上層部の意向とは言え、既に初動対応で無能を晒している警察にチャンスを与え手柄を立てさせるような、このふざけた任務に就かされることは誰もが納得していない。


 貧弱な警察特殊部隊たちに、我々軍隊の実力を思い知らせてやる。


 モチベーションを高めて心の平穏を取り戻すと、左崎は無線に威勢よく呼びかける。


「アルファ1より全隊へ! 準備はいいか?」

 

 各車両から、次々と準備完了を告げる返答が集まった。


「アルファ2、準備よし!」と、アルファ副小隊長、相須(あいす)梨子(りこ)

「ブラヴォー1、準備よし」と、ブラヴォー小隊長、星乃弓子。

「ブラヴォー2、準備よし」と、ブラヴォー副小隊長、志麻(しま)幸樹(こうき)


「S2、準備完了」と、SAT第二小隊長、沖國清冶。

「S3、準備完了」と、SAT第三小隊長、北村(きたむら)総太郎(そうたろう)


「J1、準備完了」と、銃器対策部隊第一班班長、舞原(まいはら)(りょう)

「J2……準備完了」と、銃器対策部隊第二班班長、善田鉄二。

「J3、準備完了」と、銃器対策部隊第三班班長、横川(よこかわ)浩市(こういち)

「J7、準備完了」と、銃器対策部隊第七班班長、畠山(はたけやま)貴一(たかかず)


 左崎は首を傾げながら言う。


「おい、肝心のチームの返事が聞こえないぞ。 ────S4!!」





 俺は、手にしたHK416のチャージングハンドルをジャキッと引いて、初弾を装填した。


 チームの四人と叡に見守られながら、俺は口を開く。


「こちらS4────準備完了」





 待機する車両のエンジンが次々と稼働を始め、騒々しい唸りで東京の夜を震わせながら、左崎が搭乗するストライカー装甲車を先頭とした車列が隊庁舎の営門を続々と出発していく。


 鶴騎中隊長は門の前で、その光景を緊迫した面持ちで見送っていく。



 ……皆、頼んだぞ。この任務が、国の未来を決める。



 車列が去っていき、後には白い靄として残る排気ガスの煙たさだけが残った。


 

 静寂の感傷に浸っていた時、地面が大きく揺れた。



「────! 地震か!?」



 地面が波打つように動き、鶴騎中隊長は咄嗟に門を掴んで踏ん張る。その地震は、すぐに収束した。


「今のは……?」


 振り返って見ると、そこにはいつの間にか、傘宮中隊副長が無言で立っていた。


 彼は何故か、出動していったSAT隊員と同様に完全武装しており、両手にはサイレンサーを装着したHK416を持っている。


 まるで罪悪感に沈むように、涙を流しながら暗い顔を俯かせていた。


「傘宮……? その格好は、どうした……?」


 今までとは全く異質の不気味さを感じ、鶴騎中隊長は苦い唾を飲み込み、腰のホルスターに手を掛けながら一歩ずつ後ずさりする。


 傘宮中隊副長は、か細い声で言った。



「……鶴騎中隊長。今まで、本当にお世話になりました」



「お前、一体……何を?」



「ここでの暮らしは、本当に充実していて楽しいものでした。

 共存の道があれば良いと、何度も願いました。

 

 しかし……私にとって最も大事なものは、私の国の仲間たちです。

 彼らの為に、私は戦わねばなりません。


 このユートピアを勝ち得るために。それが……私の任務です」



 鶴騎中隊長が銃を抜くよりも早く、HK416の引き金が引かれた。


 ヴスッ、と減音された独特の発砲音が鳴り、5・56ミリ弾が脳を一瞬で打ち砕いた。



 傘宮中隊副長は悲しみに満ちた目で、自分の撃った硝煙の臭いを胸一杯に吸い込み、それから鶴騎中隊長の亡骸を見やる。


「……これで良かったんです。これから起こることを、何も見なくて済むのですから」


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