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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:03 BLOOD FALLS 「ブラッドフォール」   ── 異世界侵攻を生き延びろ。
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オペレーション:TOKYO BATTLEFIELD (1)  ──「この子を、我々で守るんだ」

挿絵(By みてみん)



 特殊部隊庁舎、会議室。



「……以上が、東京テレポーターで発生した一連の事件の映像だ」


 SAT中隊長の鶴騎(つるき)恭一(きょういち)警視正が、死人のように蒼ざめた顔で、スクリーンの映像を切った。

 これほど絶望し追い詰められた鶴騎中隊長を見たのは初めてだった。

 鶴騎中隊長は、隊員一人一人を誰よりも思いやり、昇級した隊員には夜通しで豪勢な昇級祝いをして、訓練中に一つミスを犯した隊員には百の説教をかまし、やむを得ない事情で退職する隊員には熱涙を流しながら悔いなく送り出すような、もっと喜怒哀楽が豊かな男だったはずだ。


 すぐ隣に立つ傘宮源人中隊副長に至っては、無言で涙を流し続けるばかりだ。


 重苦しい沈黙を、ドンッと拳で強く机を叩く音が破る。

 SAT第二小隊長の沖國(おきぐに)清冶(せいじ)警視。彼は大阪出身で、歯に衣着せぬ物言いが有名だ。

 

「中隊長……! この映像は何ですか!? こんな、出来の悪い、荒唐無稽なスプラッタ映画を見せるために、我々を集めたんですか? 魔法で、人を殺す? あり得ない! 裏で隠れている永友さん達が、動揺する俺らを笑って見てるんですよね? そうと言ってください! 勘弁してくださいよ!」


 それに触発されて、他の隊員たちも次々と文句を飛ばし始める。


 だが俺は、口を噤んでいた。

 鶴騎中隊長は、冗談でも人の死を茶化すようなことは絶対にしない。


 不意に、鶴騎中隊長は猛然と沖國の元へ突進し、ブーツで長机を強く蹴った。沖國は、並んで座る第二小隊の隊員もろとも、後ろの机に挟まれる格好になり、鶴騎中隊長は間髪入れずに、その彼の頬を思い切り殴りつけた。そして胸倉を掴み、絶叫する。


「──────全員、死んだんだ!! お前らが見たのは、たった一時間前の映像だ! 永友も、皆も、こうやってバラバラに切り刻まれ、死んだんだ!! ここに全員の死体の残骸を持ってきてやろうか!? あぁ!? 分かってんのか!?」


 沖國は、小刻みに震えながら、「まさか」と小さく零した。


 鶴騎中隊長は沖國を乱暴に突き放すと、今度は隊員全員を見渡しながら、大声を上げる。


「いま見た映像が、我々が対峙する『敵』だ!! 未知の能力を使う、バケモノどもだ!! それが、東京テレポーターから現れたんだ!! 過去の話じゃない、【今】の話だ。今も新手が現れ続け、国防軍との戦闘が続いている。台場は既に、戦争状態だ。誰も信じられないだろうが……────これは現実だ!!」


 鶴騎中隊長の怒号に、会議室は静まり返った。



 俺は両手の指を組んで机に置きながら、立ち込める先行きの見えない暗雲に、背筋を凍らせ慄いていた。


 立て籠もり犯への対応などとは訳が全く違う。この一連の攻撃は、この国への侵略行為に他ならない。

 しかも敵の操る武器は、通常の銃火器などではなく、『魔法』としか形容できない、未知の能力だ。



 ……こんなものと、俺たちは戦うのか!?



 ここに集結しているのは、SAT第二小隊、第三小隊、そして俺たち第四小隊の面々だ。

 残りの小隊は、既に台場周辺の封鎖に駆り出されている。


 SATは、あくまで警察特殊部隊であるから、国防軍のように強力な戦車や砲の類は保有していない。このような大事に発展した場合、ほとんどSATは出る幕がないはずだが。


 俺は、すぐ隣に座る宮潟瑯矢を横目で見る。宮潟は長い睫毛の目を細め、首を軽く横に振った。


 鶴騎中隊長は、スクリーンの前に戻り、画面を操作した。



「これより、任務を説明する。我々の任務は、この事件における重要参考人の確保と護衛だ」


 スクリーンに、一人の老人の写真が現れた。

 丸眼鏡を掛け、皺が深く気難しい印象のある老人だ。



中嶋(なかじま)稔道(としみち)。テレポーター実験を世界で初めて成功させた人物であり、東京テレポーターを運営するJTEC社の会長。


 彼が、この事件を収束させるための技術的な手掛かりを持っていると警視庁は睨んでいる。テレポーター技術の核心を握るのは、彼だけだ。彼を速やかに確保し、暴走を続ける東京テレポーターを停止させる。


 さもなくば、最終手段として、空爆で一帯を破壊し焦土に変えなければならない。自らの国土を、自らの兵器で破壊する……そんな最悪の事態は絶対に避けねばならない」



 画面が切り替わり、港区台場の地図が表示される。その一か所に、赤い点が映っていた。



「ここに中嶋の邸宅がある。妻とは長年別居状態が続いており、事実上の一人暮らしだが、セキュリティ万全の豪邸だ。


 彼は現在、この地下にある自家製の核シェルターに籠っていると見られる。一時間前から、彼と連絡が全く繋がらない状態が続いている。JTEC社員や警察が彼を避難させるために邸宅を訪れたが、彼の姿はどこにも確認できなかった。……固く閉ざされた、地下の核シェルター以外の場所にはな」



 邸宅の写真と、その核シェルターの入り口である頑強な金属扉の写真が映された。



「社員の話によると、ここ三年の中嶋は、『常に、何かに怯えていた様子だった』という。


 核シェルターの建設とリフォームには、五つの建設会社と、六つのセキュリティ会社が関わっている。施工当時の資料は厳重に破棄され、現在の内部の様子はほとんど不明。

 入り口には最新式の生体認証セキュリティが導入されていて、指紋認証、静脈認証、網膜認証、音声認証の全てをクリアする必要がある。


 これを解除できるのは、この世で『二人』だけだ。


 シェルターは耐震強度五百トンクラスのスウェーデン鋼が使用され、物理的に扉を破壊するには何十年掛かるか分かったものじゃない。電子的にセキュリティを突破する方法もあるだろうが……恐らく日本では無理だと思われる。かつて米国防総省のセキュリティシステムを構築した、世界トップクラスのセキュリティエンジニアも設計に関わっているそうだからな」



 鶴騎中隊長は咳払いをして、続ける。



「こういった次第で、事件解決の鍵となる本人は、最強の核シェルターの中に籠って音信不通、外部から手出しは全く出来ない状態だ。


 しかしながら、事態は一刻の猶予を争う。そこで、警視庁は異例の決定を下した。


 それは、この核シェルターの扉を解錠できる鍵となる、もう一人の人物を同行させ、中嶋を確保するというものだ。


 我々のもう一つの重大な任務、すなわちそれは、この人物を中嶋邸までエスコートすることだ。……傘宮中隊副長、『彼女』を会議室に入れてくれ」



 傘宮中隊副長は頷くと、会議室のドアを開け、警護対象となるその人物を招き入れた。

 その姿を見て、会議室がどよめく。



中嶋(なかじま)(えい)。中嶋稔道の孫娘」



挿絵(By みてみん)



 黒色のミリタリーコートを羽織って、フードをすっぽりと被った少女。

 茶色の革製リュックを背負い、赤い厚手のマフラーを巻いている。

 ショートボブの髪型で、瞳はくりっとして大きく可愛らしいが、どこか陰気な雰囲気を醸している。


 少女は黙って鶴騎中隊長の横に立つと、黒のハーフフィンガーグローブを着けた手でマフラーを持ち上げ、口元を隠した。


「この子、唯一、中嶋以外で核シェルターのロックを解除できる人物だ。この子を、我々で守るんだ」


 まさか。


 俺はすかさず挙手して、発言する。


「鶴騎中隊長! つまり我々が……この子を連れて、戦場の真っただ中にある台場の道を切り拓き、中嶋邸の核シェルターまで導くと言うんですか?」


「ああ、そういうことだ」


 鶴騎中隊長は、顔色ひとつ変えず頷く。


 無茶苦茶な任務だ。


「それは……あまりに危険すぎます。我々が全力の武装で挑んだとしても、対抗しうるかどうか怪しい。それなのに、一般人……しかも子供を伴って、そんな場所に行くなんて……」


「そんなこと分かっている!!」

 

 場のざわめきを一喝で鎮め、鶴騎中隊長は言う。


「お前と同じ事を、既に何度も抗議した。しかし、我々に拒否権はない。これは……国からの命令だ。やるしかないんだ」


 俺は、その問題の中心である少女を、改めて観察する。


 その瞳は天井のどこかを無表情に見つめるばかりで、まるで危機感が希薄だ。それに、入室してから一言も喋らず、会釈ひとつすら無い。


 隣の宮潟が、怪訝な顔つきで小さく耳打ちする。


「……不愛想なガキね。あんまり好きじゃないわ」


 あまりに率直な感想に、俺は苦笑してしまう。

 確かに、恐怖で泣き叫ばれるのも嫌だが、こうして他人事のように振舞われるのもかえって不気味だ。


 再び見ると、ボンヤリしていたはずの叡が、宮潟の方を強く睨んでいる。


 そして、ボソリと言った。



「そう。ボクも、あんたは嫌い」



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