殺戮の円舞曲 ──「早く、逃げろ……」
「……下がってください! 皆さん、早く!」
襲撃者の接近を察知した銃対隊員は声を張り上げ、背負っていたガンケースを素早くひるがえしてロックを解き、ケースを投げ捨てると同時に収められていたSIG556アサルトライフルを掴み取った。
機関部右側面のコッキングハンドルをチャキンッと引いて初弾を装填し、グリップを握る人差し指でセフティを解除する。
他のSAT隊員と、銃対隊員も同様にガンケースから銃器を取り出し構えた。
下がれと言われたものの、群衆に他の逃げ場などない。
警察官たちの注意喚起は、現場にさらなる混乱をもたらした。
集団は何とか少しでも逃げようと、ある者は怒号を上げながら、ある者は泣き叫びながら、人ごみを無理に押しやった。
後方の集団が人波に押し流され、体勢を崩した何人かが出口の蒼い光に触れてしまった。
出し抜けに、凄まじい悲鳴が上がった。
灼熱の蒼い炎に巻かれた人間が叫びながら暴れ、助けを求めて掴みかかった人間へさらに火を移し、ロビーは瞬く間に大勢の人々が生きたまま業火に焼き尽くされる地獄と化した。
「ぁあああああああ……! 誰か……助けテクレェエエ……!!!」
大柄の男が激しい炎に焼かれながら、縋るように両手を前に出して篠巻たちへ走り寄ってきた。
蒼い炎の犠牲になった者たちの末路は────爆死だ。
呆然と立ち竦む天城に向かって、男は絶叫しながら腕を伸ばした。
「蓮華────!!」
篠巻は咄嗟に、天城を抱え、突き飛ばした。
男の燃え盛る手が、篠巻の眼前に迫る。
刹那、鋭い銃声が響く。
男の眉間に穴が開き、後頭部から脳と頭蓋骨が噴き散って、派手にのけぞって後方へ倒れた。
驚愕して振り返ると、あの銃対隊員が、銃口から硝煙を揺らめかせるSIG556を構え、生気を失った表情で立っている。
「君たちは、早く、逃げろ……」
地獄の喧噪の中で、篠巻は例の風切り音を聞いた。
篠巻は、声にならない叫びを上げる。
銃対隊員の頭、そして四肢が、人形を壊したように、バラバラになって床に崩れ落ちた。
同時に、爆発音。
焼かれた人間たちが次々と蒼い爆炎と化し破裂し始めたのだ。
天城の肩を掴んで逃げようとした瞬間、射殺された男の遺体が蒼い光を放ち、轟音と共に炸裂した。
爆風と衝撃波が驚異的なスピードで襲い掛かり、突き抜けて、篠巻と天城は宙に放り出され、蒼い爆炎と共にエントランスホールの反対側へと吹き飛ばされた。
床に背中から強く叩きつけられ、激痛に一瞬、呼吸が止まった。
倒れたまま、篠巻は薄目を開く。
エントランスホールでは、爆死を逃れたSAT隊員が、MP5Kサブマシンガンを手に「どこに居る!? 出てこい!」と、見えぬ襲撃者に向かって大声を上げていた。
急に、そのSAT隊員が悲鳴を上げた。
銃を握る両腕が、床に落ちる。
血を噴き続ける腕の赤黒い断面を見て、彼は目を剥いてより一層恐ろしい声で叫び、そのままガクリと倒れて動かなくなった。
仲間の異変を見て駆け寄ろうとした銃対隊員も、すぐに見えない何かによって両足、そして両腕を切り落とされた。
断末魔を上げながらイモムシのように床を這った後、間もなくその首も切られて床にごろり転がった。
篠巻は、目を凝らす。
床に落ちた彼らのMP5KとMPXサブマシンガンが、かたかたと揺れ、ふわりと浮き上がった。
しばらくクルクルと回転して、その銃口はエントランスホールの奥、出入口側に残った生存者たちにぴたりと向いた。
サブマシンガンのセレクターが、独りでに『フルオート』の位置にカチチッと動く。
「やめて……助けて────!!」
銃口を向けられた女性の一人が、泣き叫んだ。





