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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:01 OPEN SEASON 「解禁期」   ── 敵を探し、殲滅せよ。
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SAT VS 銃器対策部隊 (1)  ──「こいつ生きてるわ。どうする?」


 朝八時。


 東京都江東区、警視庁術科センター。




「SATって……どのぐらい強いんでしょうね」



 森内(もりうち)祐太郎(ゆうたろう)巡査部長は、誰にともなく小声で呟き、緊張で乾いた唇を軽く舐める。

 少し間を置いてから、側に居た副班長の大泉(おおいずみ)幹昭(みきあき)警部補が、汗ばんだ顔で薄ら笑いを浮かべた。



「俺たちと同じ人間だ。それ以上でも、それ以下でもない。俺たちと同じ脳味噌を持ち、俺たちと同じ血が流れている……」



 小刻みに震えながら、恐怖と高揚が入り交じる狂気じみた表情を浮かべる。既に正常な思考能力が失われてしまっているように見えた。



「……すみません、もっと元気の出る言葉が欲しいんですがね」



 森内の言葉に同調して、上杉(うえすぎ)巡査と奥美(おくみ)巡査も無言で眼差しを大泉に向けた。



「敵を見たら撃て……それだけを考えろ。いつも撃ってる的よりデカいんだ。楽勝だ」



 そう言って大泉はMP5Fサブマシンガンのコッキングハンドルを引いた。


挿絵(By みてみん)



<全員、準備はいいか!?>



 装着した無線から、班長の善田(よしだ)鉄二(てつじ)警部の威勢の良い声が響く。



<よーく聞け。精鋭集団のSATと言えども、個人の練度は俺たちと大差ない。何せ、この平和な日本だ。的は山ほど撃ってても、人なんて誰も撃たないからな。つまり、俺たちでも勝てるんだ。最後は男としての気合いが勝敗を決する。『銃器対策部隊』の名に懸けて、奴らを全員返り討ちにしてやれ!>



 いつもの体育会系な演説。大泉は目を潤ませて「了解!」と叫んだ。

 森内はそんな彼を、防弾ヘルメットのバイザーの下に着けた遮光グラス越しに見つめ、小さくため息をついた。



 銃器対策部隊。


 警察の機動隊に属する機能別部隊のひとつで、その名の通り銃器を使用した事案に対処する武装警官隊だ。

 重要施設の警戒警備の他、特殊部隊SATの出動が必要とされるような重大な事件が発生した際には、初動対応やSATの後方支援などを行うのが任務となっている。


 この場所は、警視庁術科センター内にある屋内射撃訓練用施設。


 突入訓練用の様々な状況を想定した建造物が用意されており、実戦さながらの射撃訓練を行うことが出来る場所だ。隊員たちの間ではキリング・ハウスとも呼ばれている。



 今回行われるのは、警視庁銃器対策部隊と警視庁特殊部隊SATの合同訓練。


 過去にも多くの合同訓練を行ってきたが、今回は攻守に分かれた模擬戦だ。非殺傷弾を装填した実銃を使って銃撃戦を行う、本格的な戦闘訓練となる。


 これは銃器対策部隊では滅多に行われることがない訓練で、この善田警部補の班にも経験者が誰一人として居ない。


 しかし、モニター室から東京都知事や多数の警察幹部によって、この訓練の様子を逐一監視されていることを思えば、簡単に負けられるものではない。


 血反吐を吐くような日々の過酷な訓練に耐え、死に物狂いで実力を磨いてきたプライドが懸かっている。




 部屋のスピーカーからブザー音が鳴った。

 訓練開始の合図だ。



 森内は、MP5Fのグリップを握る右手の親指を動かして、セレクターを『セーフ』の位置から『フルオート』の位置にカチチッと捻った。


 今頃、SATの隊員たちは定められたスタート地点から、静かに、そして素早く、この建物へ肉薄しているに違いない。



 銃器対策部隊の隊員たちが籠城しているこの建物は、二階建て。


 玄関のある大部屋に、一本の廊下が繋がり、その左右両側に二戸ずつ部屋がある。

 階段は廊下にある一つだけ。二階の部屋配置は一階とほぼ変わらない。

 寮を元にしたシンプルな家屋だ。


 予め、全ての窓は善田警部補の指示で、侵入や狙撃を防ぐため棚などの障害物で塞いである。

 そして日頃の訓練からSATの行動パターンを推測して、奇襲できる配置と装備を整えた。



 対してSAT側は、銃器対策部隊の隊員の配置は知らず実際に踏み込んで虱潰しに探す必要があるから、周到な準備が出来るこちらの方が有利だ。……基本的、には。



 閉ざされた玄関のドアの向こうで、人が動く気配がした。


 来る。



 その場の全員が察知した瞬間、鋭い光が突き抜け、爆発音が轟いた。


 凄まじい衝撃波が瞬間的に突き抜け、内臓が容赦なく揺さぶられる。



 煙が立ち込める壊れた戸口から、黒い缶が投げ入れられるのが見えた。


 地面に落ちたと同時に、建物内で目映い光が炸裂して、イヤープロテクター越しに轟音が聞こえた。




 ……セオリー通りだ。




 森内は内心ほくそ笑みながら、MP5Fを構えた。


 入り口を爆薬で吹き飛ばし、閃光と大音響で視覚と聴覚を一時的に奪うスタングレネードを投げ込んで、相手が怯んでいる隙に一気に突入して制圧する。基本中の基本だ。


 我々は全員、スタングレネード防御用に設計された遮光グラスとイヤープロテクターを装備している。ノーダメージだ。



「撃て────!!」



 大泉が叫んだと同時に、四人のMP5Fが同時に火を噴いた。


 乾いた銃声が連続で鳴り響き、ストロボのように部屋を照らし上げた。排莢された9ミリパラベラム弾の薬莢が次々と床を叩く。



 戸口から飛び込んできた黒い人影が、一斉掃射をまともに浴びて、床へ派手に倒れた。


 全員のMP5Fにはレーザー照準器が搭載されており、狙いは正確だ。



 ……やった!



 森内は弾が切れたMP5Fを手放して、右手でホルスターからH&K社製のP2000SKピストルを抜き、左手では腰のベルトに差した訓練用グレネードを握り込んだ。


挿絵(By みてみん)


 P2000SKで牽制射撃を行いながら、ピンを抜いた訓練用グレネードを戸口のすぐ外に投げ込む。


 瞬間、クラッカーのような破裂音が響き、訓練用グレネードが、たっぷり入ったオレンジ色のインクを周囲に撒き散らした。


 これで後続の隊員もイチコロだ。



 そう思った刹那、大泉が何かに気付いた。


 その視線は、床に倒れたままのSAT隊員に向けられている。




「……これ、人形だぞ」




 ────途端、人形が爆発した。



「うわっ!!」



 黒色の濃厚な煙が拡散し、部屋に一気に充満する。


 予想外の出来事に、森内の右手からP2000SKが滑り落ちてしまう。


 遮光グラスで視界が暗いせいでまともに物が見えない。


 見えるものといえば、MP5Fに装着された四人のレーザー照準器が描き出す、赤い光線だけだ。



 混乱状態に陥りながらも、森内は手探りでスリングからぶら下げたMP5Fを掴み直し、空のマガジンを捨て、新しいマガジンを差し込んだ。


 間髪入れずに、再び爆発音。


 それは、天井から聞こえた。



 ……まさか!!



 野太い銃声が響き、腹に強い衝撃を受ける。


 森内は吹き飛び、壁に叩き付けられた。







 ────まず、一人。

 俺は心の中でカウントした。SATの一勝。


 爆破した二階の床穴から、煙幕の満ちた一階へ飛び降り、銃器対策部隊(銃対)隊員の持つMP5Fのレーザー照準器の光線を頼り位置を探り出して撃つ。簡単なことだ。


 俺は床に寝そべったまま、MTS255ショットガンの次の狙いをつけて発砲した。太い銃声が空気を震わせ、銃口から鮮やかな発砲炎が噴き上がった。


 二人目の銃対隊員も悲鳴を上げ、衝撃で背中から壁に叩きつけられた。


────これで、二人。


挿絵(By みてみん)


 MTS255ショットガンは、リボルバー型の弾倉を持ち、一発ごとに排莢動作を挟む必要がなく素早い連射が可能なショットガンだ。


 約六ミリ径のゴム弾を数十発、お手玉のように封入した布袋を発射するラバー・ビーンズバッグ弾を使用。

 この弾は皮膚を貫通することはないが、内臓に大きな衝撃を与え激痛で行動不能にする暴徒鎮圧用の非殺傷弾だ。



 俺の背後で、ショットガンの銃声が二発鳴った。


 俺は身体を横倒しにしたまま、視線だけを動かして敵影を探る。



「……クリア。二名排除」



 そう口に出すと、俺の背後に寝そべったSAT隊員、宮潟も応える。



「こっちも、二人排除。楽勝ね……」



 俺はショットガンを構え、宮潟と背中合わせのままゆっくりと立ち上がる。



「十人のうち、四人を排除。あと六人だな……」



「二階に居なかったのが意外だったわね。一階に戦力を集中させたつもりなんだろうけど……こっちとしては手間が省けて結構なことね」



 倒れた銃対隊員の一人が、防弾ヘルメットのバイザー越しに俺を睨んだ。



「うう……ちくしょう……」



 俺は冷淡に言い捨てる。



「……喋るのはルール違反だぞ」



 この訓練では、一発でも頭もしくは胴体に被弾すれば『死亡』というルールだ。


 急に男が目を見開き、悲鳴を上げる。

 宮潟が、足で彼の股間を踏みつけたのだ。



「こいつ生きてるわ。……どうする?」



 加虐的な顔つきを向ける宮潟に呆れつつ、首を横に振る。



「今ので今度こそ『射殺』されたよ。まだ制圧する部屋は残っている」



 倒れて死んだ演技をする男から、わずかに安堵のため息が漏れた。



 俺はショットガンの銃口を降ろし、腰のウェポンキャッチで銃身を固定して、スリングでぶら下げた状態にした。


 自由になった右手で、腰のALSホルスターに収まったグロック社製のG17ピストルのグリップを握り、親指でスイッチを押してロックを外し銃を引き抜く。


挿絵(By みてみん)


 G17には夜光塗料を使用した照準器であるトリチウム・ノバックサイトと、シュアファイア社製のX300ウェポンライトが搭載されている。


 ピストルは威力こそショットガンに大きく劣るが、小型軽量で片手でも扱えるほど取り回しに優れており、屋内戦において防弾装備のない敵を相手にする時や、この模擬戦闘のように一撃でも与えればいい状況では非常に有効な火器となる。



 続いて俺は、床に転がった透明なプレートを持ち上げた。


 抗弾性に優れた強化樹脂とガラスを織り交ぜて造られた、防弾盾。


 防弾性能はレベル3A。銃器対策部隊が標準的に装備するMP5シリーズに使用される9ミリパラベラム弾はもちろんのこと、狩猟にも用いられる高威力の44マグナム弾も防御可能だ。

 

 俺は防弾盾を床に立たせた。


 防弾盾にはグリップとローラー付きのスタンドが備わっており、持ち上げなくても押すだけで動かせる。


 廊下へと通じる閉ざされたドアの脇に防弾盾を設置し、そして左手でスタングレネードを取り出して、ピンを引き抜く。


 宮潟は頷いて、ドアの脇に取り付いた。


 ドアノブを左手で素早く握り込んで空錠を外し、その腕をすぐに引っ込め、右手に握ったMTS255ショットガンをドアに向けて発砲した。


 射出されたビーンズバッグ弾が、着弾の衝撃でドアを一気に押し開けると同時に、俺は戸口に身を晒さないようにスタングレネードを廊下へ放り込んだ。


 床に落ちたと同時に炸裂し、廊下で猛烈な白光が大轟音と共に走り抜ける。


 途端に、喧しいサブマシンガンの砲火が巻き起こった。待ち伏せだ。


 MP5Fの銃弾は戸口を抜け、反対側の壁に次々と着弾していく。


 俺は防弾盾越しに目を凝らし、廊下から突き抜ける赤い光線が二本あることを見通す。


 軽い調子で、反対側の宮潟がウインクした。



「グッドラック」



 俺は防弾盾のグリップをしっかりと握り、廊下へ突入した。

 

 奥に、二人の銃対隊員が見えた。


 この廊下と階段を同時に見張れる位置に陣取っており、丁寧にも間に合わせの家具や資材でバリケードを作り、ほとんど身を晒さないよう隠れながらMP5Fを構えていた。


 真っ赤な光を放つレーザー照準器が、俺の身体を容赦なく補足する。


 二人のMP5Fが同時に火を噴いた。


 射出された銃弾が、空を裂き、俺に迫る。


 そして目の前で、真っ赤に潰れた。


 

「────効かないぞ!!」



 俺は叫び、防弾盾で弾丸を次々と蹴散らしながら突進する。


 蛍光赤インクが充填された大量の訓練弾が着弾し、瞬く間に視界が汚されていく。


 だが、相手の動向が見えなくなるのは敵も同じだ。


 一気に肉薄した俺は、腰から訓練用グレネードを取り出し、防弾盾の脇からバリケードの内側へ放り込んだ。


 銃対隊員は、すぐにグレネードに気付いた。



「ぐっ、逃げろ! 逃げろ!」



 俺はすっかりインクまみれになった防弾盾を蹴って傾け、視界が広がった瞬間、G17を構えた。


 銃後端のリアサイトの谷の間から、銃先端のフロントサイトの山が覗き、その先に、慌てて身を晒した二人の銃対隊員の姿が映る。


 俺は引き金を絞った。


 銃口から炎の輪が燃え広がり、火薬の力で後退したスライドが排莢口から真鍮色の薬莢を宙へ吐き捨てた。衝撃波が腕を突き抜ける。


 薬莢が地を叩くより早く、次の弾を撃ち込む。胸と頭に弾を喰らった銃対隊員は、声もなく崩れ落ちた。


 もう一人がMP5Fを構え直そうとするが、俺の方が早い。

 正確に照準したG17を二連射し、仕留める。



 しかし、撃たれた銃対隊員が握り込んだMP5Fの引き金が引かれた。


 暴発が始まり、フルオートの銃弾が廊下を暴れまわる。


 俺は反射的に床に飛び込むが、同時にショットガンの発砲音が鳴って、隊員は悲鳴を上げながら真横に吹っ飛んだ。


 その射撃は、階段から放たれたものだった。


 二階の索敵を行っていたSAT隊員の古淵と半田だ。


 レミントン社製のM870Pショットガンを持った古淵は、廊下の惨状を見て鼻で笑う。



「マッチ一本、火事の元。引き金一本、事故の元ってやつだな」



「……別に上手くないぞ。古淵」



挿絵(By みてみん)


 俺は先ほど投げた、ピンを抜いていない訓練用グレネードを速やかに拾い上げて、残りの四部屋のドアを順番に見つめた。


 廊下の騒ぎを聞いて援軍として飛び出した銃対隊員がいれば、廊下の入り口で警戒していた宮潟が仕留めるつもりであったが、そう甘くないようだ。


 残るは四人。


 敵は我々が部屋に踏み込んでくるのを、じっと待ち構えるつもりだろうか。


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