異世界の『親善大使』、ミイ (1) ──「殺されたんだよ……乗客、全員が……!!」
再び、東京テレポーター。
「HQ、HQ……こちらS1……! 映像が見えているか……!」
永友はPM5ショットガンを構えながら、大声を上げた。
永友の防弾ヘルメットには小型カメラが取り付けられており、撮影された映像はSAT中隊本部へと送信されている。
<こちらHQ。映像は正常に受信している。……これは一体、なんだ。映画の撮影か?>
間の抜けた中隊副長の傘宮の返答に、永友は怒気を炸裂させた声を吐き捨てる。
「ふざけるんじゃねえ……!! 殺されたんだよ……乗客、全員が……!!」
ノアズ・アーク前の搭乗橋。
永友の足元には、切断された血まみれ頭部が三つ転がっていた。
部下の小野寺、そして銃器対策部隊の西生と加座の三人だ。
皆、想像を絶する恐怖に表情を歪めていた。今にも、彼らの断末魔が耳に飛び込んでくるような錯覚に苛まれる。
犠牲者は彼らだけではない。
ノアズ・アークの開かれた扉から永友を出迎えるのは、大量に積み上げられ敷き詰められた乗客たちの生首。
血に汚れた虚ろな悲しみの視線たちが、濃厚な死の香りと共に、永友に無言で覆い被さる。
永友は血が滲むほど、歯を強く強く噛み締めた。
「……死なないでください! 綾継さん……!」
永友の背後では、重傷を負った綾継が栗沢に抱えられている。
綾継は、左脚と右手を、鋭利な刃物で切り落とされていた。それだけでなく、彼の両目は醜く抉り取られ、舌も切断されている。
瀕死の綾継は、呻くように何かを言った。
彼の口の中は酷く傷つけられていて、ほとんどまともな言葉にならなかったが、永友だけにはしっかりと聞こえていた。
『……ごめんなさい、永友さん』
永友は怒りに満ちた顔で、PM5ショットガンを右手一本で構えたまま、左手で腰のポーチから赤いビニルテープを貼ったマガジンを引き抜く。
握り込んだマガジンでショットガンのマガジンキャッチに叩き、ラバー・ビーンズバッグ弾のセットされたマガジンを弾き飛ばして、入れ替えるように素早く機関部にセットした。
右手の人差し指でスライドリリーススイッチを押しながら、フォアエンドを力強くジャキンッと前後させると、排莢口からラバー・ビーンズバッグ弾の白いカートリッジが排出され、薬室には鉛玉が八発封入された対人殺傷用ダブル・オー・バック散弾が装填された。
そしてショットガンの銃口を、ノアズ・アークの船体の上に立つ、一人の女に合わせた。
────「やっぱり、この世界の空気は、とても美味しいですね」
女はそう言って、クスクスと笑った。
腰まで伸びた真っ白な髪。
病的なまでに白く透き通った肌。
ゴシックロリータ風の装飾が施された白いドレス。
大きな黒い日傘を差している。
彼女の足元には、目が四つある黒猫のような生き物が、丸まって毛づくろいしている。
女は赤い唇で笑みを作りながら、行儀よくお辞儀をした。
「はじめまして。ニンゲンの皆様。わたしは、ミイと申します」
ミイは顔を上げ、続けた。
「今日は、わたしたちの世界の、シンゼンタイシとして、挨拶にきました」
……親善大使だと?
永友はショットガンを構えたまま怪訝な視線を送る。
ミイの背後には、十三人の男女が立っている。
全員、黒い厚手のローブで全身を覆っていた。
懐には、明らかに何かの武器を隠しているように見える。
「ニンゲンさん。その『銃』というものを、下ろしてくれませんか? わたしたちは、仲良く、お話をしにきたんです。テキイ、はありません」
敵意はない……?
永友は、あまりに狂気的な状況に、唇に薄ら笑いを作った。
彼の足元に転がっているのは、三人の仲間の生首だ。