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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:05 THE WASTE TUNNELS「巣穴」 ──死の地下鉄を突破せよ。
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煉獄のヴァンガーズ(2) ──「君は、ルコを殺すことに集中しろ」



 ついに逆転していた天地が復帰する。全てが地続きに戻るのだ。


 徐々に全員の身体が宙に浮き始め、バリアーを張っているメヴェルが叫ぶ。



「どうして今……!? 予定より早い……作戦が変わったんだ……!」



 重力を戻すタイミングが事前の計画と違うらしい。敵側のルコの方を見ても、慌てている様子が見て取れる。


 作戦変更は、叡を確保したことによるものなのか、それともオゼロベルヤの裏切りによるものなのかは知る由もないが、少なくとも指令部と現場の連携が取れていないということは分かる。


 勝機を見出した俺は、89式小銃のセレクターを捻って3バーストに切り替えた。



 重力変動の前段階である現在の無重力状態は、しばらく続くはずだ。

  

 敵味方どちらに対しても言えることだが、この無重力状態では、身体を地面に固定することができなければ、銃を一発撃つだけで反動で姿勢を大きく崩されてしまううえ、移動も泳ぐような緩慢な動作になってしまい敵の攻撃を避けることが困難になる。


 しかしながら、重力が完全に復帰してしまえば、武力と人数で勝る敵側の方が有利。つまり、敵の動きに制約が掛かるこの無重力状態を活かして、敵の包囲網を破壊する必要がある。



 この深刻な状況下で、オゼロベルヤはただ一人楽しそうに声を上げた。



「面白くなってきたじゃないか、宰河よ! 君は、ルコを殺すことに集中しろ。私は邪魔な外野の連中を殺してやろう」



「……何だよ、お前も威勢が良いのは口だけか。俺に、一番手強い敵の大将を押しつけるのか」



「なぁに、腕試しだ。強敵との戦いも乗り切らねば、この先は生き残れんよ。……君には、あのメイ・ストゥーゲを殺してもらわねばならんのだから」



 スノードームのようにバリアーの中で浮きながら、俺の肩を掴んでいる宮潟が声を上げる。


 

「宰河! どうするの……!?」



「……俺の背中を掴め。素早く、言う通りに行動してくれ」



 その時、バリアー越しに対峙していたルコが、黒い缶のようなものをこちらに放った。


 咄嗟にメヴェルがそれを注視する。



「あれは……!?」



 メヴェルはその物体の正体を知らなかったが、俺は見た瞬間にルコの意図を察知した。


 スタングレネードだ。


 一刻の猶予もなく、俺は両足でメヴェルを思い切り蹴った。


 ルコは片腕で目を守りながらスタングレネードを銃撃し、その衝撃信管を起爆させた。



「うわぁあああああああ!!」



 眩い閃光が炸裂し、それを真正面に食らったメヴェルが悲鳴を上げた。


 銃弾を防御していた彼女のバリアーが消失してしまう。


 そこにルコの89式小銃の銃撃が襲い掛かった。


 だが、メヴェルは俺に蹴られた勢いで横に飛んでいき、銃弾が当たることはなかった。


 そして俺と宮潟も、メヴェルを蹴った反動でその反対側へ滑るように浮遊していく。



「宮潟! 床のツタを掴め!」



 俺のボディアーマーの背を掴んでいた宮潟は、すぐに『床』に生い茂っているツタを強く左手で掴み、俺の身体を支えた。


 俺は89式小銃をストックにしっかりと頬付けして構え、銃の反動に振り回されて無防備なルコを照準に捉え、引き金を絞る。


 ダダダンッ、と三連射で発射された5・56ミリ弾は正確に彼女の胸部に向かって放たれたが、そこに円盤型のバリアーが出現して、銃弾を阻んだ。



「……宰河ァ!! さっさと死んで楽になれよ!!」



 その間に体勢を立て直したルコは、スネルウェイの刃を壁に突き刺して、その伸縮を利用して高速移動する。



「俺を蹴れ!」



 俺が叫ぶと同時に、宮潟は待ってましたとばかりに俺を両足で勢いよく蹴った。


 その力を利用して俺は無重力空間を滑らかに低空移動する。



 ルコは壁に刺したスネルウェイをピッケル代わりにして身体を固定し、89式小銃を構えた。


 俺はルコを狙わず、すぐ近くに浮いていた消火器を素早く掴んで自分の腹の下に運び、89式小銃の銃口を押しつけて撃った。


 たちまち消火器が破裂して、その圧力を受けた俺は真上の上層階へと一気に吹き飛ばされた。



 飛んで行った先には、呆気にとられた表情を浮かべた二人のルコの部下。


 俺は『天井』のツタに足を引っかけて、その二人の頭をバースト射撃で薙ぎ撃ち抜く。


 ルコの銃撃が再開したところで、俺は足をツタから外して89式小銃を『天井』に向かって連続で撃ち、射撃反動を利用して迅速に宙を移動した。


 弾を撃ち切った89式小銃をスリングで背負い、たったいま殺害した敵が持っていたAA12ショットガンを拾い上げた。その隣には、HK416アサルトライフルも宙を漂っている。



 ちょうどルコが撃っていた89式小銃も弾切れになり、彼女は「クソが!」と悪態をつきながらマガジンを交換していた。


 俺は無重力の中でひらりと宙返りして、足を『床』のツタに絡めて固定し、AA12の12ゲージフラグ弾を発砲した。


 だが直前にルコは89式小銃を捨てて壁を蹴って攻撃をかわし、身体をしなやかに回転させながら宙を舞う。


 俺が狙いを捉えきれないうちに、ルコは宙に浮いていた死んだ部下たちの二本のスネルウェイを右手、左手に掴み取って、その刃を竜巻のように高速で変形させた。


 

「畜生……!」

 


 俺は『床』を蹴って、同時にAA12を足元に向けて撃った。蹴りの勢いにフラグ弾の爆風が加わり、俺は壁際へと吹き飛ばされる。


 元居た位置にはスネルウェイの刃の嵐が襲い掛かっていた。あと一瞬でも躊躇っていたらミンチ肉にされていただろう。


 俺は壁に掴まりながら片手でAA12を連射して反撃する。


 フラグ弾の一発がスネルウェイの刃に当たって爆散し、その衝撃でルコは悲鳴を上げ、あらぬ方向へ吹き飛ばされる。



 ────今だ!

  

 

 弾が切れたAA12を捨て、壁を蹴り、HK416を拾って引き金に指を掛ける。


 しかし予想外の事が起きた。


 無防備に吹き飛ばされているように見えたルコが、急に宙でぴたりと静止した。


 円盤型のバリアーを宙に展開して、それに素早く掴まり、腰のホルスターからMR73マグナムリボルバーを抜いたのだ。


 俺は移動標的を狙うための見越し照準をつけていたせいで、ルコの急停止に対応できず、初弾の狙いが逸れた。


 応酬に、MR73の鋭い発砲音が轟く。


 

「うぐっ……!」



 凄まじい衝撃がボディアーマーに突き刺さって、息が詰まった。



 後方に吹き飛ばされながらも、咄嗟に俺は防御のためにHK416の顔の前に掲げ、マガジンキャッチを押す。


 ルコがダブルアクションで放った二発目の357マグナム弾が飛んできて、HK416の機関部に突き刺さった。


 そして壊れたHK416から、5・56ミリ弾が詰まったSTANAGマガジンがカチャリと外れた。


 マガジンを左手で掴んで身を翻し、その勢いで背負っていた89式小銃を右手に持っていき、差さっていた空のマガジンを抜き飛ばして、HK416から取ったSTANAGマガジンを装着した。


 そして後退位置で停止しているコッキングハンドルを軽く引いて初弾を装填…………したつもりだった。



「────クソッ!!」



 俺は思わず叫ぶ。


 マガジンの相性が悪かったのか、初弾が引っかかって薬室まで送られて行かず、ボルトが中途半端な位置で止まってしまっているのだ。


 三発目の銃弾が頭を掠め、俺は咄嗟に『床』を蹴ってすぐ近くの柱に隠れる。



 銃撃戦は遮蔽物に隠れながら行うのが基本中の基本とされているが、魔法を使う異世界の軍人と戦うというこのあまりにもイレギュラーな状態では、その教訓がかえって仇になる。


 攻撃を避けるために遮蔽物に隠れて敵から注目を外してしまえば、敵はそのわずかな隙を使って、透明化して位置を変えたり、転送魔法を使って有利な位置に一瞬で移動したりすることが可能になるのだから。



 89式小銃のマガジンを抜いて、コッキングハンドルを引いて詰まった弾を捨て、マガジンを戻して再び初弾を正常に装填する。

 

 普通なら敵前で銃のトラブルに遭遇した場合は、迅速にピストルに持ち替えるところだが、今はこの89式小銃しかない。



 俺は89式小銃を構え直し、柱から身を乗り出すが、先ほどまでの位置にルコの姿は無かった。



「何処に……?」



 高速で風切り音が飛んできて、俺は反射的に身体を逸らした。


 柱から激しい粉塵が散った。透明化したスネルウェイの刃だ。


 すぐにかがんで首狩りを回避し、柱のツタを踏んで柱を駆け上って、胴体を切断しにかかった追撃も間一髪で避ける。



 だが、ルコの姿は目視できない。


 魔法で透明化できないボディアーマーと銃器を捨て、スネルウェイで不意討ちする戦法に切り替えたようだ。



「宰河……!」



 そこへ、蛾の羽を広げたメヴェルが飛んできて、ドーム状のバリアーを展開した。


 スネルウェイの刃が激しく弾かれ、攻撃が引っ込んでいく。


 どこに刃が戻っていったのかは、俺の目で追うことは出来なかった。



「すまない、また助けられたな……!」



「……だから勘違いするなよ! お前が殺されたら、こっちも殺されるんだから……! 早く勝ってよ……!」



 透明化するルコを、どうにかして見破るしかない。


 スネルウェイの刃を追えばルコの元に辿り着けるだろうが、刃を掴んで手繰っていくことなど物理的に不可能だ。



 オゼロベルヤなら全ての敵の位置を把握しているに違いないが、俺に力試しをさせたいという宣言通り、ルコとの戦いに直接協力してくる気配はない。


 実際、オゼロベルヤは今、蜘蛛の巣で拘束したルコの部下の腕を引きちぎってなぶり殺しにしている。


 その性根の悪さには虫唾が走るが、まず俺を第一の標的にしているルコを倒すことが先だ。



「メヴェル、魔法でどうにかならないか。俺にはルコの位置が分からない」



 アヤカなら強制的に視認させることが出来る魔法を使えたが、メヴェルは首を横に振る。



「私は、直接は無理……だから、奴らは厄介なんだよ。特殊傭兵空挺連隊は、透明化魔法と夜闇を活かした奇襲が得意戦術だ」



「……どんな戦法を使ってくる相手だろうが、撃てば、死ぬ」



「……異論なし」



「メヴェル、どんな形のバリアーが出せるんだ。ドーム型、円盤型、壁型、他には?」



「質量の限界があるから大きいものは難しいけど、小さいものならだいたい自由に生成できると思う。複雑でなければ、持ち運びできるものも作れる。なんなら、その場しのぎ程度だけど、剣とか槍の形にして近接武器にも出来るよ」



「……本当か? それなら……勝つ方法がある」



 命懸けになることは変わりないが、透明化しているルコの元に辿り着く手段がある。


 俺は89式小銃を握りしめ、覚悟を決めた。



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