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東京バトルフィールド <東京を奪還せよ。異世界の魔法使いの手から>  作者: 相山タツヤ
STAGE:05 THE WASTE TUNNELS「巣穴」 ──死の地下鉄を突破せよ。
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煉獄のヴァンガーズ(1) ──「宰河の首を狙え」





 そして、叡が囚われている吹き抜けのホール。



「……丸腰のアホ面の兵士と、ボロボロの捕虜と、その捕虜にキスしてる性欲旺盛なバカ。そんな連中に囲まれる姫も、ほんとに可哀想なもんだ。同情しちゃうね」



 グーリンルド共和国軍の竜の異人種傭兵、ルコ・カメルスコールは、挑発的に長い舌をチロチロと出しながら言う。


 対するオゼロベルヤは、顔色一つ変えない。



「グーリンルド共和国軍、特殊傭兵空挺連隊。恩赦と引き換えに入隊した重罪人だけで構成された空挺部隊。民間人の虐殺、略奪、誘拐、強姦、何でもやってきた連中だ。つまり、皆殺しにしても、悼む必要は皆無だ」



「おおう、随分と上からの説教だな、先生よ。確かに色々とヤッてきたのは事実だけど、民間人に花を植えて飾るなんて悪趣味なことはやった記憶がないねぇ……」



 ルコは、身振りと声色も活用して意図的に敵の注目を引きつけながら、遠距離精神感応を使って仲間と交信する。



<────狙いはオゼロベルヤだ。必ず、一撃で仕留めろ。追撃を許してくれるような相手じゃない。確実に、殺せ>



 交信の相手は、上層でルコと共に姿を現している班員たちではない。


 下層で、完全な透明化を維持したまま、オゼロベルヤの背後へと密かに接近しつつある別動隊だ。



<……こちら、バートリィ。確殺射程まで接近完了。察知された様子はない。作戦通り、六名の班員で一斉に攻撃し、上半身を狩り取る>



 別動隊の班長であるバートリィが、冷静な口調で報告した。


 ルコや班員たちの視界では、透明化した味方の位置が赤く発光して見える。オゼロベルヤの背を完全に捕捉している。


 彼らは人間の銃器ではなく、グーリンルド共和国軍の伝統的な武器であり、所有者と同期して透明化が可能な変幻自在の大鎌『スネルウェイ』を使用して攻撃を行う。



<上出来だ。私の合図を待て。警戒が最も緩んだ瞬間を狙う>



 ルコは遠距離精神感応を使いながら、同時にオゼロベルヤに喋りかけ続ける。



「それより、私らの目的、分かるでしょ。これ以上の無駄な犠牲を出して壊滅するより、その姫様をさっさとこっちに託してくれた方が、お互いより良い未来を築けると思うんだけどねぇ」



「そうか。私は、穢れた血が流れたグーリンルド共和国の軍人など、捕虜には要らん。一人残らず処刑する。その家族も同罪だ。根絶やしにする。それが、私にとって素晴らしき未来だ」



 オゼロベルヤの表情は変わらないが、言葉からは隠しきれない怒りが伝わってくる。煽った甲斐があったとルコはほくそ笑む。


 しかし、そこで予想外の出来事が起こった。


 オゼロベルヤが捕虜にしていた人間、宰河弘樹の身体を拘束していた糸が、急速に溶けて消失したのだ。



<こちら、バートリィ。宰河が解放された。今は丸腰だが、危険人物だ。班員六名のうち、二名の目標を宰河に切り替えるか?>



 ルコは余裕の笑みを作りながら、内心では動揺していた。


 話の流れから、オゼロベルヤは宰河を謀略の為に利用しようとしている事は判っていたが、これほど早く彼を解放することは想定していなかった。


 もともと、宰河という人間の存在自体が、作戦の遂行を狂わせる特異であった。


 彼は日本橋の地上のビルで、驚異的な戦闘能力を発揮し、正規軍である空挺突撃連隊の隊員たちを瞬く間に掃討した。実戦経験が比較的乏しい部隊であったとはいえ、魔法という圧倒的に有利な条件を持っていたにも関わらず、宰河はあっさりとそれを打ち負かしたのだ。


 その底知れぬ強さは、グザエシル帝国軍の最強の切り札である死神兵士、メイ・ストゥーゲ少佐を彷彿とさせるものがある。


 こんな『怪物』に真正面から攻撃を挑むのは多大な危険が伴うという判断から、こうして彼が捕縛されている好機で勝負に出たのだが、オゼロベルヤの得体の知れない豪胆さを完全に見誤っていた。



<……バートリィ、二名に宰河を狙わせろ。奴が武器を握る前に、殺せ!>



<了解。確実に殺害する。……テルガート、スオウ、宰河の首を狙え>



 バートリィの指示で、二名が速やかに位置を変える。


 不意を突ける有利な状態だが、ルコは焦りを感じ続けていた。


 宰河の手に再び武器を握られてしまったら、犠牲者が出るのは避けられない展開となるだろう。そしてその犠牲とは、自分かもしれない。


 ルコは89式小銃を構えながら、宰河を睨む。



 ────こんな所で、死にたくない。



 今まで生きてきて、何度、そう強く思ったか。数えきれない。


 言葉も満足に喋れないほど幼い時、雨が降りしきる中、私は、両親によってゴミ捨て場に置き去りにされた。


 それから娼館の主人に拾われて、男たちの慰み物として育てられた。初めて感じた臭さ、痛み、屈辱……今でも決して忘れない。


 地獄の日々に耐えられず、客と主人を皆殺しにして、逃げ出した。


 行く先々で、闇夜に紛れながら、金目になる男を誘惑して殺し続けた。


 やがて捕まり、刑務所でも多くの凌辱を受けたが、決して諦めなかった。


 そして脱走を図って捕まった時、刑務所長から、二つの選択肢を与えられた。



 ここで死刑となるか。


 それとも────使い捨ての傭兵となるか。




 ────殺される前に、殺してやる。お前から全てを奪い去ってやる。……生きるために!



 ルコの心に、漆黒の憤怒が満たされた。


 作り笑顔が砕けていき、瞳に火焔が宿る。



 獰猛な殺意をのせた遠距離精神感応が、全隊員に響き渡った。



 

 しかし。




「さて、私と君の初仕事の時間だ。たっぷりと、共に暴れようではないか」



 オゼロベルヤは平然と、白い歯を見せて邪悪に笑った。



<バートリィ!? 早く、奴を殺せ! 何してるんだ!?>



<……ルコ……助けてくれ>



 背筋に恐ろしい戦慄が走る。


 まさか。



「ルコ・カメルスコール……後ろから忍び寄ってスネルウェイで攻撃させれば、簡単に私を倒せると思ったか。この私を軽んじてもらっては困るな」



 別動隊の班員六名が全員、オゼロベルヤの蜘蛛の糸によって捕獲されていた。


 装備していたスネルウェイもろとも、がんじがらめに縛り上げられ、上層へゆっくりと吊り上げられていく。



「さて、このまま解体ショーでも始めようか。もしくは、虫の餌にしてやろうか。どんな断末魔を聞かせてくれるのか楽しみだ。……なぁ、ルコ?」



 焦燥に駆られたルコは、上層の班員たちに遠距離精神感応で指示する。



<ラッカート! 彼らを吊っている糸を切れ! スネルウェイを使え!>



 指示を受けた班員のラッカートが、武器を銃からスネルウェイに持ち替えて、その刃先を高速で伸ばして横薙ぎに振った。


 だが、刃が糸に当たる瞬間、そこにオゼロベルヤの黒い半透明のバリアーが展開された。攻撃反射型のバリアーだ。


 ガキンッと火花が散り、振られた時の勢いを保ったまま、こちらに向けて刃が戻ってきた。




「──ッ!! 伏せろ──────!!!」




 咄嗟に身を低くしたルコのすぐ頭上を、スネルウェイの刃が凄まじい勢いで通過していき、反応が遅れた班員の胴体を次々と刎ねていく。


 そして彼らの切り落とされた上半身は、銃を握りしめたまま下層へと落下していった。



 ……このクソ野郎!!



 ルコは血走った目で、生き残った班員に向けて吠える。



「全員、撃て────! 皆殺しにしろ!!」









「宰河! 銃よ!!」



 俺が、蜘蛛の糸の拘束を解かれた宮潟を助け起こしていた時だった。


 オゼロベルヤが殺したルコの部下の死体が、目の前に落下してきたのだ。



 俺は、死体が握っている89式小銃を拾おうと、手を伸ばす。


 だがそこに、上層から銃撃が襲い掛かる。



「危ない!!」



 俺の後ろに立っていたメヴェルが、赤い半透明の球形バリアーを展開した。


 バリアーに、放たれた5・56ミリ弾丸が次々と突き刺さって静止する。


 その隙に俺は死体からボディアーマーを剥ぎ取って身に着け、89式小銃の初弾装填を確認する。



「ナイスだ、メヴェル! バリアーはどれだけ維持できる!?」



「これだけ小さい弾丸だったら、まだまだ大丈夫……! でも、この中からは攻撃も出来ない……!」



 やはり四方八方を守る球形のバリアーは、全方向の敵の攻撃を防御できる反面、内部から外へ攻撃を行うことは出来ないらしい。


 そうなると、かつてグーリンルド共和国軍の兵士に襲撃された時、アヤカが使った方法が有効になる。銃弾を、敵の元に転送してやるのだ。


 すると、俺の思考に呼応するかのように、すぐ足元に転送魔法陣が出現した。



「メヴェル! やるじゃないか、俺の思ってたことを……!」



「え? 私じゃないよ……!」



「は?」



 俺は愕然として、同じくバリアーを張っているオゼロベルヤを見た。 


 

「宰河! 私からのプレゼントだ。活用してくれたまえ」



 俺は心底嫌な気分になって、89式小銃を構え直す。



「宰河……オゼロベルヤを殺すべきよ……。あんな奴の仲間になるなんて、ふざけてるわ」



 宮潟が言う事はもっともだが、俺は首を横に振る。



「この局面を生き抜くために……俺も奴を利用する。全ての敵を正面から相手にしていたら、この場は生き残れない。だから、オゼロベルヤと奴らを存分に戦わせてやる」



 一方、同じく拘束が解かれていた米海は、満身創痍の半田と古淵を連れて、射線の通らない安全位置に避難していた。



「米海、そっちは無事か……!? 半田と古淵の容態は!?」



「ああ、なんとか生きてるが……!!」



 すると米海の横で、血まみれの男二人が、ゆっくりと同時に親指を立てた。


 言葉はないが、意志の宿った強い瞳で、俺を見つめていた。



 俺は、視線を一巡させてから、深く頷く。



「……絶対に、全員で生き抜くぞ。叡も助け出す。そして、この地獄を、ぶっ壊してやる」





 その時、巨大な衝撃が襲い掛かった。



「次は何だ!?」



 踏み出した足が、妙な感覚に陥った。力を込めて『床』を踏み込むことが出来ない。



 ……デジャブを感じる。


 かつて俺たちは、これと同じ感覚を、地上で味わっていたはずだ。


 その正体についに思い当たって、俺は興奮した声を上げる。




「──────重力が変化しているんだ!! 反転した重力が、ついに戻るんだ……!!」

 




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