第1章 燃え尽きる日々
胸糞展開が多めですがご容赦ください。
「おい音無!メロンパン買ってこいや!!」
「俺、カレーパンね」
「1分で買ってこないとしばくぞゴラァ!!」
今日も不良どもの乱暴なオーダーが昼休みの教室に鳴り響く。
「わ、分かったよ。今買ってくるから・・・」
俺は吃りながらも返事をし、財布を手に購買へ走っていく。早く注文をこなさなければまたやつらのサンドバッグにされてしまう・・・。俺はそうならないように祈りながら購買へと足を急がせた。
俺、音無翔太は東京第五魔術高校の一年生である。スクールカーストは最底辺。不良どものパシリやサンドバッグを務めている。いや、砂じゃなくて肉だからミートバッグか。ハハハ。
俺が今の地位に落ちぶれたのは、俺の過去を知る人間から見れば自業自得とも言えるだろう。しかし俺はその自業自得を認めたくはなかった。ただでさえ壊れている自尊心を更にどん底に突き落とすからだ。この認めたくないという思いがかえって今の状況から抜け出せない泥沼状態にしている。
落ちぶれたのならまた努力すればいい?駄目だ、今の俺が努力したところで底が知れてる。凡人から毛が生えた程度の実力しか身に着けない。
今の俺はもうどうでもいいんだ。このままうだつの上がらない日々を送るのが性に合ってるのさ・・・
「くそったれがっ」
俺はストレス解消にもならない独り言をつぶやいた。
購買への曲がり角を左折しようとした時、突然前から受けた衝撃に思わず尻餅をついてしまった。視線の先には同じく尻もちをついた女子がいた。
その女子のスカートの中は熊さんパンツであった。
うだつの上がらない俺に舞い降りたラッキースケベ・・・。俺は大仏を拝むお年寄りのように手を合わせながらスカートの中の景色を堪能した。
しかし景色は数秒もしないうちに終わった。件の女子が突然蹴り技を放ったからだ。顔面に直撃を食らった俺は尻もちの体勢から仰向けの体勢に変わった。
「てめぇ・・・見たな・・!?」
尻もちの女子が般若の形相をしてこちらを見つめていた。
運が悪かった。あの女子、いや、あのギャルは我が校一の不良である赤金凶子だ。
喧嘩・万引き・喫煙・飲酒・痴漢冤罪でっち上げは日常茶飯事、時にはヤクザをもボコす。殺人すらやったことあるという噂でやってない犯罪はないとのことらしい。
うだつの上がらない俺すら霞むほどのクズが幼稚園児ぐらいしか履かない熊さんパンツを履いていたとはスキャンダルである。俺はそのことを思うとついニヤけてしまった。運が悪かったというよりは良かったのかもしれない。
「何笑ってんだよ変態!!」
凶子の無慈悲な蹴りがまたしても俺の汚い顔面に炸裂した。
「がはっ・・・」
「てめぇ、俺のスカートの中を見るとは余程の命知らず見てえだなオイ」
「く、ふふふふ・・・」
「っ!!!」
三度目の蹴りが醜悪な顔に炸裂した。俺の顔は辛うじて原型をとどめている状態であった。
「けっ、すげぇキモい顔だなお前。そんな顔して恥ずかしくないの?」
「あはっ★国宝級のキモさ★RINEにあげちゃえ★」
「ちっ」
ある取り巻きは罵り、ある取り巻きは写メを撮り、ある取り巻きは唾を吐いた。もはや俺は人間扱いされてはいなかった。
「お前、今から顔貸せや。逃げたらお前の家族もただじゃ済まないぜ?」
家族をダシにされたら流石の俺も従わざるを得なかった。家族を売るほど俺は落ちぶれちゃいない。黙って頷くと彼女とその取り巻きに屋上に連行された。
「ハハハッ!!すげぇや!こいつはよく燃える!」
もう午後の授業が始まっているころだろう。俺は凶子とその取り巻きの魔術の火種となっていた。
赤金凶子は東京では知らない人はいない黒炎魔導師である。その黒炎は万物を焼きつくし、残るものは消し炭である。普通の人間なら生きていないだろう。しかし、あの物質を体内に宿した人間ならば話は別である。なぜなら俺がその人だからだ。
「ぐ、がああああああああ!!」
俺は熱さのあまり呻き声を上げた。いくらあの物質を体内に宿し、魔術に対する耐性が備わったとしても、熱いものは熱いのである。
「ハハハッ!さすが、落ちぶれても魔術師は魔術師だ。その辺の人間よりも長く燃える燃える!」
凶子は燃え盛る俺を見て嘲笑った。
「もーえろー★もーえろー★」
「おい、今度こいつを燃やして焼き芋パーティーでもやろうぜ!」
彼女の取り巻きも輪唱するかのように釣られて嘲笑う。
やがて黒炎は消え、残ったのは黒焦げになった俺だけであった。衣服なんて何も身につけちゃいなかった。あの物質が体内に合ったおかげか、火傷はさほど酷くはなかった。俺はただ地に這う。
「ふん、よくも耐えてくれたな。」
凶子が地に張っている俺の頭を掴んで顔を自身の方へ乱暴に向けた。首が折れそうだ。
「明日もこの時間にやるからな。キャンプファイアー」
彼女はそう言うと俺の頭を投げ捨てるように放した。
「行くぞ。今日は学校をフケてどこか遊びに行こうぜ。」
凶子は取り巻きを連れて屋上をあとにした。消し炭と化し、燃え尽きた俺を残して。
時刻は既に夕暮れになっていた。午後の授業は既に終わり、部活も終わりかけの頃であった。俺は黒炎で傷ついた身体に鞭打ち、足を引きずりながら教室へ戻った。
教室には誰もいない。俺は内心喜び帰宅しようとかばんを取り出そうとした。俺の荷物はなかった。おそらくクラスの連中が持ちだしたに違いない。
馬鹿な奴らだ。荷物なんて持ちだして何になる。俺はそう思った。なぜ俺がこう思ったのかこの後明らかになる。
「よお・・・随分と遅かったじゃないか・・・!!」
後ろから声をかけてきたのは昼休み俺をパシらせた不良の一人、照島清だ。金髪のリーゼントと浅黒い肌、そして何より両頬にある十字の傷が特長だ。
「て、照島――」
俺が呼ぶなり照島はいきなり俺の殴りかかってきた。鈍い音が俺の脳内を木霊する。凶子に蹴られまくった顔が更に酷くなった。
「てめぇは人が頼んだこともまともに出来ないのか!えぇ!?」
照島は鬱憤を晴らすかのように怒鳴り散らした。
「あとカバンの中身が空っぽなのはどういうことだぁ!!説明しろぉ!」
「持ってくるものが・・・なかったから・・・」
嘘である。実はこういうことになることを見越して家にわざと置いてきたのである。
「ああん!?言い訳なんかしてんじゃねえ!!とりあえずサンドバッグになれ!!」
この時俺は彼のサンドバッグと化した。ただただ殴られ、蹴られる理不尽で可哀想な存在である。照島の暴虐はこの後一時間ほど続いた。




