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グングニルの青春  作者: 空丘伸也
第二章 京都編
6/8

5 黒スーツと機関銃

京都についてから、まずは飯だと言って予約していた老舗の筍のフルコースに舌鼓を打ち。

移動の車の中で各々が眠気とノーガードの殴り合いを繰り広げ、たまに負けたりしながら。

午後三時現在、俺たちは四条河原のど真ん中を走行中だった。

……筍ご飯美味しかったな、なんと言ってもあのシャキシャキとした歯応えが良かった。

あの老舗の筍料理の為だけに京都に行ってもいいと思わせる程の絶品、正直このまま観光して帰りたいぐらいだった。

それにしても……。


「なんかこの辺、街並みが東京とかとあんまり変わらないよな。実は俺達今渋谷にいたりするんじゃないか?」

「疑わしいなら駅前にハチ公でも探しに行ってこい」

「しかも街ゆく女が誰一人着物でもなければ、髪を結ってすらいないんだけど。やっぱりここ東京だろ」

「京都の女の人みんながみんな舞妓さんな訳ないんだが……」

「馬鹿言うなよ、良く考えてみろ春斗。古都だぞ?(いにしえ)(みやこ)だぞ?やたらめったらに寺があって坊さんやら舞妓さんやらが跳梁跋扈してないとおかしいだろうがよ」

「いつの時代も舞妓さんは跳梁跋扈まではしてないと思うぞ……」

「そ、そんな……。舞妓さんはもう、絶滅してしまったのか……?それとも架空の存在なのか?」

「何でそう百か零かの発想になるんだ。ちゃんとした場所行けば会えるって」

「いや別にそこまでしなくていいよ。俺舞妓さんより巫女さん派だし」

「Oh, my god」


下らん駄洒落はスルーに限る。

何らかの反応を求めているような雰囲気を醸し出している春斗を余所に、運転席の男を盗み見した。

さっきから一言も喋らないので、いつごろ目的地に着くのかも分からない、なんか話しかけるには壁を感じるし。

今までの任務における送迎役の運転手はどれも一言二言は喋ったぞ、中には会話が止まないほどお喋りなやつもいたのに。

運転する為に作られたアンドロイドだと言われれば信じてしまいそうだ。

いくら助手席の俺と後部座席にいる二人が、車の外の喧騒と変わらぬ会話を繰り広げたところで。

この男のただならぬ気配が、表社会(車外)裏社会(車内)の間のどうしようもない距離をより広げている。

徹底して、運転手という以外の価値を感じさせない、どこまでも人間味を感じさせない、滲ませもしない人間。

真っ当な表社会の環境で育てられれば、絶対にここまで没個性的な人間は生まれない。

『三極』は毎回どこでこんな人間をどんな教育をして生み出しているのだろう。

……よし、勇気を出して話かけてみるか。

年上だから敬語の方が良いよな、どっちが立場が上かといえば俺達だけども。

ええい、ままよ。


「あの、あとどれぐら――」

「到着いたしました、『常勝の槍(グングニル)』様」

「あ、そうですかどうも」


いやぁぁぁぁ恥ずかしいよぉぉぉっ!

というか何だよ『常勝の槍(グングニル)』様って。普通に秋虎(あきとら)様でいいじゃないか。

結構その通り名は気に入ってはいるんだけど、こう真っ正面から、しかも仲間がいる前で呼ばれるとくすぐったい物がある。

自作のポエムとか読まれるよりはマシだろうけど、そんなのないけど。

しかしなんだ、良い声ではあったけどどこか自動音声のような口調の平坦ぶりだった。

本当に特徴が一つも見つけられないままだ、どうでもいいけど。

車が完全に停車すると、日雀が驚き呆れたような声を上げた。


「……着いた、って……。ここただのオフィスビルの駐車場じゃない。さっきの大通りから一本外れただけの」

「は?いやそんなはず……」


助手席から車の外に出てみる……と、そんなはずはあった。

窓の外の景色に変化が無かったのであまり見ていなかったが、確かに目の前には6、7階建てぐらいのビルがある。

ガラス張りではないが、窓の並びようからしてマンションやアパートではなさそうだ。

何の変哲もない、日本全国津々浦々に溢れてそうな建造物。

その地下にあるのは、日本どころか世界各地を探しても続けられていないような研究を、今なお続けている特異で奇異な研究所。

確かに――ミスマッチではある。

もっとこう、お誂えむきな施設はなかったのか。閉鎖された廃墟のようないかにもな場所が。

今にも玄関からくたびれたサラリーマンが出てきそうなんだけど。

周りも普通のアパートやらしかないし、木を隠すなら森の中ってことなのだろうか。

ぐるりと周囲を見回そうとすると、横に一際目立つ黒塗りの車が停まっていた。

しかも横には同じく真っ黒なスーツにサングラスの男二人が微動だにせず立ったまま待機していた。

何だろう、依頼人が直々に激励の挨拶でもしに来たのだろうか。

いらねぇよそんなもん。


「……本当にここみたいね。ねぇグングニル君」

「やめろ」

「白牙君、ちょっと荷物持ってもらっていい?」


日雀はそう言いながら横っちょにいる黒スーツに視線で何かを促した。

それを受けて、瞬時に黒スーツの二人が傍らに停めてあった車のドアを開けて何かを取りだそうとした。

が、そこで彼らの俊敏な動きが止まった。

どうやら、相当重くかさばる何かを必死に外に出そうとしているようだ。

時々「お、重い……」「手がもう、壊れる」「ぎっくり腰になっちま……ぐあっ!」「や、山田ァァァ!」という悲惨な声が聞こえてくる。仲良いなあいつら。

そうそう、黒スーツにサングラスだからって全員が全員冷徹で無口だとは限らないんだよな。

ただ大の大人が悪戦苦闘してるだけなのに、格好とのギャップがあいまって笑いを誘われる。

失礼なのでこらえてはいるけど、そろそろ笑い声が俺の喉のバリケードを破壊してしまいそうだ。


「朱夏さん?あの、何あれ」


俺と並んでその様相を見ていた春斗が、恐る恐る日雀に問いかけた。

それに対して日雀は、何ともないようなごく自然に、


「あれ?そりゃあミニガンよ」


と不自然な言葉を返した。

ミニガン?全くミニじゃないと思うんだが、ていうかそもそも俺そんなん手配してたなんて聞いてないぞ。

そもそもミニガンなんて言葉初めて聞いたんですけど、そういう名前の助っ人外国人かな?四枚しか使えないのに勝手に登録されたら困るよ監督。


「……僕てっきり冗談だと思ってたけど、本当に使う気だったんだね、ミニガン」

「えぇ、ターゲットの写真を見せられた時からもう使おうとしてたの。新幹線の中ではああ言ったけど、見た目からしてもう並の武器は通じなさそうだったから」

「鋭いですなぁ……。流石普段から銃器に精通してるだけはあるね」

「褒めても銃弾しか出ないよ?」

「迂闊に褒められない!?」


あれ?ミニガン知らないの俺だけ?

おかしいな、俺は今ようやくミニガンが銃器だって事が分かったところなのに。

話題についていけない孤独感を味わっていると、ようやく黒スーツ二人が車外にミニガンとやらを引っ張り出してきた。

あの黒光りしている筒状のいかにも重そうな見た目。

あ、あれはまさか!?


「ガトリングガン!?やべー初めて見たぞ!何これってミニガンとも呼ぶの!?」

「なんか俄然テンションが上がってるね白牙君……。夜に塗っておいた砂糖水に群がるカブトムシを見た虫取り少年みたいに目がキラキラしてるもの」

「すごい的確な比喩だけど、今そういう子供いるのかな……」


あれこれ言ってる二人を尻目に、俺は思わず男のロマンの塊に走り寄った。

あぁ、この鉛色の箱にNATO弾がたんまり入ってるんだな。これ背負って動くの大変そうだな。

そしてベルト状に並んだ弾薬帯は、既にその箱からガトリング本体に給弾されている。

おおぅ、この重厚かつおぞましさすら感じるド派手なフォルム……ぞくぞくと血が騒ぐぜ……。

銃身が六本か、これが唸りをあげながら生き血を求めて回転し、とんでもない量の弾薬を驚くべき速さで打ち出すんだよな……!

やっべぇ超使いたい、撃ち方さっぱり分からんけど。トリガーすらどこか分からんのに。


「なぁ日雀、これ毎分何発撃てんの?」

「――その点につきましては私から説明させていただきます。御注文通りの品かどうかをご確認していただきたいので」


視線を上げると、腰をさすっていた黒スーツの一人(たぶん山田)が姿勢を正していた。

おつかれさんです本当。


「今回用意致しましたのはM134、6バレル仕様のガトリングガンでございます。先程仰られたように、ミニガンとも呼ばれます。毎分およそ3000発の射撃が可能です。なお、バッテリーの方は備え付けの充電式となっておりますが、15分で切れますのでご注意下さい。弾薬の方は7.62x51mm NATO弾を4000発、また三脚も一つ用意しております。以上でよろしかったでしょうか?」

「流石ね、全部私がお願いした通りよ」


この銃身の脇についてる小さい樽みたいなのがバッテリーなのかな?

三脚に接続して使うのか、確かに下に嵌め込むような金具がついている。

なるほど、注文ってのはこういう小さい改造のことも含めてだったのか。


「いかがいたしましょう?地下の目的地まで運びましょうか。ご存知だとは思いますが、相当重量があるので……」

「それはいいわ。白牙君、持ってくれる?」

「荷物ってこれの事か、しょうがねぇな」


まぁ日雀のスイッチも入ってない状態では、野郎二人が苦戦するミニガンを持てる訳がないからな。

弾薬箱の肩紐を左手で持ち、ミニガン本体の銃身あたりを右脇に抱えるようにして持ってみた。

重さは大したことないけど、確かにかさばるし持ちにくいなー……。

黒スーツの二人が鳩が豆鉄砲喰らったような顔をして俺を見ている。

やだな、そういう顔されるとこれ持ったまま目の前のビルの屋上までジャンプとかパフォーマンスしたくなるじゃないか。


「白牙、一応聞くが助けはいるか?」

「要らん」

「そうかい、じゃあ僕は三脚持つよ」

「ありがとね、春斗君。私はちょっとこれがあるものだから……」


日雀は俺達の乗ってきた車のトランクから横長の金属箱を取り出した。

あぁ、中にライフル入れてんのか。

そりゃ手も塞がるよな。俺の手が猫の手より使えてよかった。


「準備はよろしいでしょうか、皆様」


ずっと黙りこくったままだった運転手の男が不意に口を開いた。

相変わらず感情の起伏のようなものを感じない底冷えした声だ、そこの山田くんを見習えばいいのに。


「あぁ、大丈夫だ。案内してくれ」

「――それでは、こちらへ」


踵を返してビルの入口に向かう男に、日雀、俺、春斗の順でついていく。

それにしても、今まで使ってきた武器の中でも、文句なしに最高クラスの火力の重火器を文字通り引っ提げてきたな。

日雀の事だ、密かにミニガンの扱いはしっかり練習済みなのだろう。

表には出さないが、日雀も今回の敵に対して警戒心を抱いているのだろう。

そして警戒心とは裏返せばそれなりの恐怖心を持っているということ。

その恐怖心こそが、実は強い。

例えば日雀は、スイッチが入った時は、何も恐れず猪突猛進に武器を駆使してひたすら殺して突き進む殺人狂だが。

日雀がただの殺人狂であれば、既に命を落としていただろう。

スイッチが入っていないときに、何も言われなくとも、情報が少なくともあらゆる可能性を考慮し、恐怖し、その都度最適な準備を整える。

恐怖するべきところで正常に恐怖を感じることが出来る――。これは簡単なようで、経験や実力に反比例してだんだん恐怖を感じることを怠ってしまう。

それが油断に繋がり、命を落とす。

何事も慣れた頃が一番危ないとは、おしなべて恐怖を感じなくなる事を指しているのだと俺は思う。

さるべき所で恐怖し、戦場において無駄な恐怖を捨てる。

その取捨選択、矛盾した両面の両立。

それこそが、日雀の強さ。

俺よりも小さいはずの背中は、不意に今は大きく見えた。

俺も負けてはいられない。

恐怖を覚え、捨てたその次は――俺達の手で恐怖を与え、そして終わらせにいこう。


「あっ!?」

「あ?どうした日雀、そんな間抜けな声出して」

「ちょっと待ってて、パンプス履き替えてくるから……。このままじゃろくに動けもしないよ、忘れてた忘れてた」

「え、パンプスも武器じゃないの?」

「そんな全身が武器な訳ないでしょ、サイボーグじゃないんだから……」


すれ違いざまに軽く睨まれた、怖い。

仲間を恐怖に陥れてどうするんですか日雀さん。

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