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第75話 合流 その3

 どこからとも無く湧いて出てくるベヒモスメンバーが放つ弾丸がワズ452の車は体を捉え、幾つもの弾痕を穿った。

 道の脇から身を乗り出しタイヤを狙って発砲するプレイヤーから、屋根上から運転手のトラジオを狙い引き金を引くプレイヤーまでその攻撃は悠吾達を倒してラノフェルを救出する、というよりも復活リスポンできるラノフェルもろとも皆殺しにするという執拗な意思がにじみ出ている。


 薄い装甲を貫通し、飛び込んで来る弾丸。

 粉砕された車体側面の窓ガラスが飛び散る車内。

 気を抜けば命を落としかねない状況だったが、ハンドルを握るトラジオは冷静だった。

 猛スピードで駆け抜けている為に見当違いの場所に着弾するものが多いが、少しでもスピードを落とせば一瞬で蜂の巣になってしまうだろう。

 薄暗い道を照らすヘッドライトは心もとない物だったが、トラジオは怯む事無くワズ452のアクセルを踏み込んだ。


「北へ向かってクマジオ!」


 着弾の衝撃と、猛スピードの影響でがたがたと揺れる車内で必死に体勢を保ちながら小梅がそう叫んだ。


「北?」

「北から回って東へ抜けるのよッ! 北側に潜んでいた敵はあたしとノイエが処理したから少しは楽なはず!」

「了解した」


 ちらりとルームミラーで小梅に一瞥したトラジオは速度を保ったまま北に向けハンドルを切った。

 ワズ452はロシアの悪路を想定した四輪駆動車だ。四輪駆動は踏ん張りが効き、加速時の馬力が売りだがカーブでは車体が外側に膨らんでいく。四輪駆動車特有のアンダーステアという現象だ。

 だが、トラジオは小刻みなギアシフトで速度を調整し、タイヤのグリップを失わせる事無く走らせていた。

 すごいドライビングテクニックだ。なんというか手馴れている感じがする。

 小梅と同じく、必死に車体に掴まりながら悠吾は軽く舌を巻いてしまった。


「クマジオ! 追手が来たわ!」

「……ッ! 装甲車かッ!」


 小梅とトラジオの声に悠吾は背後に視線を送る。

 リアゲートのガラス越しに見えたのは、迫る一台の迷彩柄の車両──タイヤによって走行する装甲車、装輪装甲車だ。

 天上ハッチから身を乗り出して取り付けられた機関銃を向けているプレイヤーが悠吾の目に映る。

 

「あれはフランスのVBL装甲車?」

「対戦車ミサイルを装備しているかもしれん! 迎撃しろっ!」


 装甲車のフロントガラスは防弾ガラスになっているはずだが、何もせずこのまま撃たれれば、あっという間にこちらがスクラップになってしまう。

 瞬間的にそう判断したトラジオだったが、その叫び声が車内に響き渡ったと同時に背後にせまる走行車両VBLの機関銃が先に火を吹いた。


 ワズ452のリアゲートのガラスが吹き飛び、車体を貫通した弾丸が悠吾の頬をかすめる。


「くそっ! 撃ち返せッ!」

「……んもうッ!!」


 ガラスの破片を頭からかぶりながら、地面に伏せた小梅がクリスヴェクターの引き金をぎゅうと押しこむ。

 狭い車内に赤い発射炎が瞬き、耳をつんざく発砲音が悠吾の鼓膜を襲った。


「悠吾! あんたも撃って!」

「でも、銃が……」


 多分、Ka−52ホーカムと戦った時に落としてしまったんだと思う。ひょっとするとあの廃屋にあったのかもしれない。

 気がついた時に真っ先に探すべきだったと顔をしかめる悠吾だったが──


「悠吾、これを使え」


 ハンドガンで反撃を試みようとホルスターに手をまわしかけていた悠吾にトラジオが不意に何かを投げ渡した。

 トラジオの愛銃、HK416だ。


「Magpul PDRの弾倉マガジンがそのまま使える」

「……了解ですッ!」


 そう言って悠吾はトラジオに渡されたHK416を構えると、弾倉マガジンを確認し、安全装置セーフティが解除されていることを確かめた後、コッキングレバーを勢い良く引いた。

 そして、弾倉マガジンから5.56mm NATO弾がチャンバーに装填された小気味よい音が響いた事を確認した悠吾は身体を踏ん張り──引き金を押し込んだ。


 リコイルが悠吾の肩を打ち、硝煙のつんとした臭いが悠吾の鼻腔をくすぐる。 


装填中リローディング!」


 悠吾の射撃音の間を縫い、小梅の声が車内に響いた。

 射撃の手を止めないために、悠吾の射撃と合わせて小梅が弾倉マガジンの交換を行う小梅。

 フルチャージされた弾倉マガジンを装填し、コッキングレバーを引き下げると即座に射撃に戻った。


「射撃の手を緩めるな!」

「わかってるわよっ!」


 運転席から叫ぶトラジオに小梅が即座に怒鳴り返す。


 ここが踏ん張りどころだ。

 VBL装甲車からの猛烈な射撃に悠吾も小梅と同じように伏せの体勢に移行しながらそう思った。

 追ってきているのはこのVBL装甲車だけだ。

 これを退けることが出来れば脱出は一気に楽になる。

 

「トラジオさん! スピードを落として!」

「……!? 何だと!?」

「逆に装甲車との距離を縮めて下さい!」


 HK416に取り付けられたホログラフィックサイトの照準を装甲車のドライバーに合わせながら悠吾が叫ぶ。

 スピードを落とすのは危険だけど……仕留めるには近づくしかない。


「トラジオさん! 早く!」

「判ったッ!」


 再度放たれた悠吾の声に気圧されるようにトラジオはアクセルを離し、ギアを下げる。

 エンジンブレーキでワズ452はがくんと身体を揺らすとスピードを落とし、背後から迫るVBLとの距離を詰める。

 その瞬間、息を止め肘で車体に銃を固定する悠吾。

 VBLのフロントガラスは30ミリ以上の厚さの防弾ガラスで防御されている。タイヤも空気圧調整装置が備わっているから射撃でタイヤバーストを起こさせるのは無理だ。だけど、「そのタイミング」だったら──


 VBLの車体がワズ452の眼と鼻の先に近づき、そして悠吾が待ったそのタイミング、ぐんと左へカーブしたその瞬間だった。

 HK416の銃口から発射された弾丸は左に曲がる為に重心が傾いたVBLの右前輪をピンポイントで撃ち抜いた。


「……ッ!」


 悠吾の目に、制動が聞かなくなったVBLに焦るドライバーの姿が映った。

 タイヤバーストを起こすことは出来なかったものの、右前輪のグリップを失ったVBLはぐるんと大きくスピンし、弾丸を放っていた乗員の叫び声を引き連れながら家屋の中に突っ込んでいった。


「やった!!」

「仕留めましたッ!」


 ぼん、と家屋に突っ込んだVBLから赤い炎が噴き上がったと同時に、車内に歓喜の声が上がった。


「でかしたぞ悠吾!」


 この状況で一撃で仕留めるとは、やはりずば抜けた射撃能力だ。

 ハイタッチする小梅と悠吾をルームミラーで見やったトラジオは呆れた様な笑みを浮かべながら即座にギアを上げると、アクセルを踏み直した。


 車体はボロボロになってしまったが、走行には何も影響はない。

 エンジン音を確認しながらトラジオは街の北側を経由し、くるりと方向を変え街の東へハンドルを切った。

 攻撃は多少有るが小梅の言うとおり抵抗は小さい。


「抜けるぞッ!」


 途切れる家屋を横目にトラジオが叫んだ。

 その声にトレースギアのMAPを開く小梅。MAPには先ほどまで「トットラ」と表示されていた現在位置が、「ラウル市公国」という文字に変化している。

 現在位置からトットラが消えたって事は、クマジオが言うようにあたし達はトットラの街を脱出した──


「やった! あたし達助かったよ悠吾!」

「ええ、やりました!!」


 思わず抱き合う小梅と悠吾。

 幾度と無く襲った絶体絶命の状況を切り抜けた。

 2人の表情からはその歓びがただ溢れだしていた。


「やりましたよトラジオさん!」

「ああ、予定通りラノフェルの身柄も拘束できた。これでお前の作戦が実行出来るというわけだな」

「……ッ!」


 トラジオの言葉に抱き合う悠吾の顔にぴりと緊張の色が浮かんだ。

 そうだ、ルシアナさん救出とラノフェルさんの拘束はスタートに過ぎない。


「……大丈夫、あんたならやれるわ、悠吾」


 一抹の不安を覚えてしまった悠吾だったが、そんな彼の不安を察したようにぽつりと小梅が囁いた。

 このピンチを脱出できたんだもん。絶対できるに決まっている。

 笑顔でそう言う小梅に悠吾は得も知れない力が湧いてきたような気がした。

 

「ありがとう」

 

 小さくそう呟き、笑顔を返す悠吾。

 ──と、その時だった。


『ランディングポイントへ近づく車を確認した。悠吾くん、君達か?』

『……ノイエさん!?』


 突如3人の耳に届いたの聞き覚えのある声。

 ルシアナと先にランディングポイントへ向かったノイエの声だ。


『はい、僕達です。ラノフェルさんの身柄も確保しています』

『皆無事か?』

『問題ないわ』

『……小梅!? 怪我はないか!?』

『……ッ』


 狼狽したような声で返すノイエに思わず小梅はどきりと心臓が跳ね上がってしまった。

 それは、明らかに妹の身を心配する兄の声──

 その声を聞き、トラジオは小梅に小さく肩をすくめてみせた。


『……うん、大丈夫。あたしも皆も無事』 


 その複雑な心境を物語るように喜びとも苛立ちともとれる表情を浮かべる小梅。その姿に悠吾は首をかしげ、トラジオは思わず笑みを浮かべてしまった。


 トットラの街を抜け東のランディングポイントへ向かうぼろぼろのワズ452の車体と彼らの身体を、東の空に登るおぼろげな銀色の薄明かりが優しく照す。


 ──夜が明けた。

 その優しい光は、ひとときの平安をもたらしていた強化フェーズが終わり、ノスタルジア王国とラウル市公国の未来を決める交戦フェーズが開始した事を彼らに告げていた。

これにて第四章ルシアナ救出作戦は終了でございます!

ラノフェルを拘束し、作戦の第二フェーズへ移る悠吾達。

そして、悠吾と出会ったルシアナは……!?


少し間を開けて第5章スタートしまっす!

お楽しみに〜!


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名前:悠吾ゆうご

メインクラス:機工士エンジニア

サブクラス:なし

称号:亡国者

LV:17(up)

武器:M9ベレッタ、ジャガーノート、革の財布

防具:UCP迷彩服(スロット1:ルルのパッチ、スロット2:空き)、インターセプターボディアーマー

パッシブスキル:

生成能力Lv3/ 兵器生成時に能力が+20%(エンジニアがメインクラス時のみ発動)

交渉Lv1 / 店舗での購入金額が-10%

アクティブスキル:

兵器生成Lv3 / 熟練者クラスの兵器が生成可能

兵器修理Lv2/ 見習いクラスの兵器の修理が可能

弾薬生成Lv1 / 素人クラスの弾薬の生成が可能


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