第6話 盗賊の女の子 その2
さっき、このツインテールの女の子は可愛いと言ったけどあれは気のせいだった。
とても恐ろしい女の子だ。
腕を組み身を反らして見下ろす小梅を見上げながら悠吾はそう思った。
あんたが邪魔しなければ強奪できたのに。
そう怒号を飛ばした小梅は、冬眠から覚めたばかりの飢えた猛獣のようにどすどすと怒り肩で、先ほど彼女が仕留めたプレイヤーが居た草むらに入って行った。
その小梅の姿に悠吾はあっけにとられ、彼女の後ろ姿を目で追う事しか出来なかった。
『悠吾、間もなく着く』
『あ、はい。待ってます』
トラジオからの小隊会話が入る。
だが、悠吾はトラジオにそう言いながらも、小梅が入っていった草むらに意識は向けたままだった。
あの子が一体何をやっているのかなんとなく想像できる。多分、あの消えたプレイヤーが残したアイテムを拾っているのだろう。
説明書に書いてあった。プレイヤーが戦闘不能になった場合、主に弾丸等の手持ちのアイテムの一部と、武器をその場に落とす、と。
あの子が行っていた「強奪」とはこの事なんだろう。
にしても、あの子は3人相手に立ち回るつもりだったのか。なんというか、「もしかしたら死んじゃうかも」という死の恐怖は無いのだろうか。
そしてしばらく草むらを物色していた小梅が悠吾の元に戻ってきた。
その手には幾つか「戦利品」を抱えている。
「……ま、助けてくれた礼は言っておくわ。ありがとう」
そう言いながら、小梅は納得いかないけど、と誰が見ても判るふてくされたような表情を浮かべてながら先ほどチャラ男が持っていた銃、Magpul PDRを悠吾に差し出した。
「え? これは?」
僕にくれる、という事なのだろうか。
悠吾はいつの間にかまるで母親に叱られる子供の様に岩の上に正座し、Magpul PDRと小梅を交互に見ながら考えた。
「あんたが倒したんだからあんたの戦利品。……初心者のあんたには判んないだろうけど、それがルールなの」
受け取って良いものなのか、ためらっている悠吾に小梅は「さっさと受け取りなさいよ」と苛立ちをにじませながら、がさらに銃を突き出した。
察するに、システム的になのか、ゲーム内の暗黙のルールなのかは判らないけど、プレイヤー同士の戦いで倒した相手のアイテムや武器は横取りは出来ないということなのか。
あのチャラ男を倒したのは僕だから、このライフルは僕の戦利品というわけだ。
──そして多分だけど、彼女はこの武器が欲しかったに違いない。
己の欲と理性の間で揺れ動く心を怒りという代替え品で吐き出している小梅に、何処かおかしくなってしまった悠吾はつい笑みを浮かべてしまった。
「ええと、ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて……」
失礼します、と小さく頭を垂れ、悠吾は小梅の手からMagpul PDRを受け取ろうと銃のストックを手に取った。
ハンドガンより強力で、アサルトライフルより取り回しが良い護身用火器として開発されたMagpul PDRは短機関銃と違い、弾丸に貫通力が強い5.56mm NATO弾を用いている。単純に考えてかなりの戦力強化だ。
やっとメインウエポンがベレッタからMagpul PDRになる。
その事実に、悠吾は安心感と喜びでついニンマリとニヤけてしまった。
それがまずかった。
「……ん?」
悠吾が手を止めた。
Magpul PDRを掴む小梅の手がぷるぷると震え、その手を離すどころかよりガッチリと両手で掴み直したからだ。
「……やっぱり辞めた」
「え?」
よく聞き取れなかったけど、なんて言いました今?
もう一度言ってもらえますか、と小梅の顔を覗きこんだ悠吾の顔を小梅がキッと睨み返した。
「あんたのほくそ笑んだヤラシイ顔見たら気が変わったの! やっぱこれはあたしが貰う!」
「えぇッ!? な、何を!」
ヤラシイ顔とは失礼な。この世界に転生させられて一度も鏡を見ていないけど、あのキャラクター設定画面では中々のイケメンだったはず。
それに今更気が変わっただなんて。
すでに貰う気満々だった悠吾も負けじとMagpul PDRを両手でつかみ返した。
「落とした装備は仕留めたプレイヤーの物じゃ無いんですか!?」
「う、うるさい! 最初からこれが目当てだったのよっ!」
「離して下さい」「あんたが離してよ」と悠吾と小梅がMagpul PDRを引っ張り合い始める。その姿はまるでおもちゃを奪い合う兄妹。
そして、そんな二人を少し離れた場所から呆れた顔で見つめていた男が居た。
「……悠吾、何をやっているのだ」
「……ッ!」
「ト、トラジオさん……!」
助けた小梅と銃を奪い合っている悠吾を冷めた目で見下すトラジオの姿を見て、二人が慌てふためいく。
突如現れた手練のプレイヤーの姿に小梅は一瞬身をすくませたのが悠吾に判った。
初心者の僕一人だとたかをくくっていたのだろうか。残念でした。
「一体どんな状況なのだ。その娘は敵だったのか?」
「……そのようなものですかね」
多分。暗黙のルールを力で反故しようとするこの子は敵なのかもしれません。
銃から悠吾を引き剥がすために頬を目一杯小梅につねられながら悠吾が言う。
──と、突如、悠吾の頬を硬い衝撃が貫いた。
「うぶっ!」
その衝撃に悠吾の視界が歪む。
ついに最後の止めが悠吾を襲った。襲ったのは、小梅が作った小さなゲンコツ。
「てて、て、敵じゃない!」
焦ったような表情を浮かべ、小梅が吐き捨てた。
……あのー、敵じゃ無いなら、せめて平手打ちにしてくれませんかね。
小梅のゲンコツを頬にめり込ませながら、悠吾は何処か冷静にそう思い、トラジオは深い溜息を一つついた。
***
あれから、悠吾達はチャラ男達と対峙した岩から最初の丘に戻っていた。彼らがユニオン連邦の所属であるならば、|リスポン(復活)していると判断した為だ。
交戦フェーズ以外で発生したプレイヤー同士の戦闘において、負けたプレイヤーは負けたその場所へ戻ってくる可能性が高い。
運が良ければ付近に居るであろう武器を奪ったプレイヤーに再度戦いを挑み、大事な武器を奪い返す為だ。
ちなみにプレイヤー戦で武器の消失救済として、「アイテム保険」という物がある。アイテム保険とは、自分の武器に一つだけかけることが出来る保険で、もしその武器を落としてしまっても同じ武器を安価で買い戻す事ができるというシステムだ。もちろん作為的に複製出来ないように、落とした元の武器は消失してしまうらしい。
「幾つか質問があるのだが」
悠吾の時と同じようにトレースギアで周囲の安全を確認した後、トラジオが小梅に静かに問いかけた。
「何よ」
小梅は不機嫌だった。額にそう書いてある。
あの後、流石に大人げ無いと思った悠吾が「Magpul PDRは小梅に譲る」と言い出したのだが「情けをかけられているようで気に食わない」と逆に小梅が怒り出し、トラジオの仲裁で、公平に三回勝負のジャンケンで決める事になった。
ぎゃふんと言わせてあげると意気込む小梅だったが、結局あっさりと悠吾がストレート勝ちし、Magpul PDRは悠吾の手に渡ったのだった。
「お前は何故あそこに敵国プレイヤーと居たのだ」
さすがはトラジオさんだ。今にも噛み付きそうな不機嫌な狼のようなこの子に動じる様子もなく淡々としていらっしゃる。
「単純よ。目的があったから」
「……目的?」
聞き返すトラジオに言葉を返そうとした小梅だったが、ふとその言葉を飲み込み、少し考えた後小さく続ける。
「小隊組んでもいいかしら?」
「……他には聞かれたくない事か」
「念のため、ね」
先ほどトラジオは念のため辺りをトレースギアでチェックしたが、不審な反応は無かった。とは言え、潜んでいる可能性はゼロじゃない。
そこまで重要な話なのかと悠吾は息を飲んだ。
『ン……聞こえる?』
『大丈夫だ』
『聞こえますよ』
小隊に参加した小梅の声が小隊会話を通じてトラジオと悠吾の耳に響いた。
これで誰かに聞かれる事は無い。
『一応、あんた達には助けてもらった恩があるから教えたげるわ。あのチャラチャラした男とあそこで会っていたのには2つ理由があったの。1つ目はそっちの初心者にも話した通り、武器と弾薬の強奪』
『単独であの3人を倒すつもりだったのか』
信じられない、とトラジオは呟いた。
あそこに居た敵は戦士の他に、ダメージの回復とサポートに特化した聖職者と瞬間火力に特化した魔術師の3人だった。レベルが低いとはいえ、単純にやりあえば俺でも無傷とは行かない。
『あたしにはそれが出来るの。それは後で説明するとして、続けるわよ。良い?』
僕より高いとはいえ、まだ低レベルのこの子が同レベル帯の3人を容易く倒せるカラクリがあるのか。
悠吾はそっちのほうが気になってしまうが、とりあえず話を進めて貰うために、頷いた。
『そしてもうひとつは、ラウル市への脱出経路の情報を貰うためよ』
『……ッ!』
小梅のその言葉に思わず悠吾は息を呑んだ。
脱出経路、と確かにこの子は言った。ということは、正攻法である街道を使い、プロヴィンスを跨ぐ以外に方法が有るということだ。
確かに、その方法が準備されている可能性は有るんじゃないかと思っていた。僕の様に低レベルで閉じ込められてしまった場合、ある意味それは「詰み」を意味する。救済措置として脱出する方法があっても何もおかしくない。
『兄がラウル市で待ってる。このままここに居ても生きていける自信はあるけど、あたしは兄に会うためにどうしてもこのプロヴィンスを脱出する必要があったの』
『その情報をあの男が?』
『詳細を聞く前にあんた達が現れちゃったから、部分的にしか聞けてないけどね』
そうか、だからあの時この子は鬼の形相で僕を睨みつけていたのか。
この子の厳しい視線は先ほどのジャンケンの遺恨だけじゃなかったのか。悠吾は思わず視線を伏せてしまった。
『部分的な情報というのは……』
『おっと、ここまでよ』
トラジオの声を小梅がいつもの腕を組んだポーズで遮った。
このプロヴィンスを脱出する方法。その情報はトラジオや悠吾にとっても喉から手がでるほど欲しい情報だ。
だが、その情報は簡単には渡さない、と小梅が二人に良からぬ笑みを浮かべた。
『ここから先を知りたいなら……取引しましょう?』
『取引?』
トラジオと悠吾が同時に小梅に問いかけた。
『そう。これ』
そう言って小梅がトレースギアが着けられた右腕を悠吾の前に突き出す。
だが、そのトレースギアは普通ではない。大きく亀裂が入り、中の電子機器が覗いている。
『これって、壊れてる?』
『あんた機工士でしょ?』
『そうですけど』
訝しげな表情を浮かべ、悠吾が答える。
だから何だというのだろうか。まさか僕のトレースギアと交換とでも言うんじゃないでしょうね。
『……あ、そっか。あんた初心者だったわね。機工士のスキルで壊れたトレースギアの修理ができるのよ』
『へぇ……!』
思わず悠吾が感嘆の声を上げた。
機工士は機械に強いクラスだと説明で書いてたっけ。兵器生成だけではなく、こういった機械系のアイテムの修理もできるのか。多分トレースギアで兵器生成のレシピが見れるんだろうけど、全く確認してなかったな。
『それがお前の取引、というわけか』
『そう。あんた達はあたしのトレースギアを直す。あたしは情報を提供する』
どう? 悪い話じゃないと思うけど。
小梅が顎をクイとあげ、トラジオと悠吾を見下ろす。
彼女が言うように悪い話じゃない。僕のスキルで直せるのであれば、容易い事だ。
そう考えた悠吾はトラジオにゆっくりと頷く。
『わかった。だがもう一つ条件がある』
『何?』
『俺達の脱出に協力してもらいたい。あの時魔術師を仕留めたお前のあの動きは目を見張る物があった』
確かに、あの時、僕を押しのけ素早い動きで敵を仕留めたあの動きは素人じゃなかった。
出来るのであれば、脱出に協力してもらいたい。
悠吾もまたトラジオと同じようにそう思った。
『フン、当然よ。あたしの腕は兄仕込みだから』
トラジオに褒め称えられた事に気を良くしたのか、鼻の穴をぷくりと広げ、小梅が勝ち誇ったような顔を見せる。
……あまり調子に乗せない方がいいと思いますよ、トラジオさん。さらに生意気になりそうなので。
『お前の兄は相当な手練のようだな。この世界には何時から?』
『戦場のフロンティアをプレイしていて、この訳の分からない世界に入ったのが3日前よ。それまで兄と一緒にログインしていたんだけど、気がついたら一人だった』
3日前。その言葉に悠吾とトラジオは顔を見合わせた。
この転生はここ数時間で起きた事じゃなかった。すでに3日も前からこの子はこの世界に居たんだ。
『成る程、それで兄と連絡を取るためにトレースギアを?』
『そうよ。兄はラウル市近郊の狩場で探索してたの。兄と連絡が取れればきっとこのプロヴィンスから脱出する協力をしてくれる』
脱出経路からより安全に脱出出来るために、兄の協力を得る。ということは、その脱出経路は危険が伴っているということなのか。そして、兄の協力がなければその脱出経路は使えない、と言うこと。
小梅の話を聞いて、悠吾は先ほどチャラ男に銃口を向けられた時の事を思い出し、胃が締め付けられるような痛みを覚えてしまった。
そして、その痛みは小梅の言葉でさらに加速する。
『……だからあたしはあんた達に協力しない』
『えっ!?』
協力しない。
その言葉にトラジオの頬もぴくりと引きつった。
『トレースギアさえ修理できればあんた達の力を借りなくてもあたしは兄の協力だけでこのプロヴィンスを出れる自信があるもの』
凄い自信だな。己の腕と、それを教えた兄の腕を疑いもしてない。
この小梅の姿に悠吾は心当たりがあった。
そうだ、僕に似てる。FPSゲームにのめり込み、プロゲーマーに僕ならなれると思っていたあの時の僕に。
『……確かに腕は立つようだが、お前に単独は無理だ』
『なんですって?』
トラジオの言葉に小梅の表情が硬くなった。
プライドを傷つけられた。
硬くなった小梅の表情の裏に、苛立ちとともにそんな感情が見え隠れしているのが悠吾にもはっきりと判る。
『お前に足りないのはひとつ。『情報分析力』だ』
『フン。何を言うのかと思ったら。そんなもの』
小梅がトラジオを嘲笑した。
経験に裏付けした情報の分析力なら十分あたしにもある。
『先ほど、お前は1人であの3人を相手すると言っていたな』
『それが?』
『敵に聖職者が居たのは知っていたか。俺が仕留めたプレイヤーだ』
『知ってたわ』
それがどうしたの。
硬い表情から卑下するような表情に変わった小梅にトラジオが続ける。
『脱出経路に関する情報を聞いた後、あの戦士の男を『バックスタブ』で仕留めて、目当てだったMagpul PDRを奪い、『スプリント』で離脱する……作戦はそんな所か?』
『……ッ!』
静かにつぶやいたトラジオの言葉に今度は小梅の表情が引きつった。
どうやら図星らしい。
バックスタブ、スプリント共に盗賊のアクティブスキルの一つだ。バックスタブは背後、もしくは視認されていない状態からのダメージがアップし、スプリントはダッシュの速度がアップする。
『だがな……』
その作戦がいかに稚拙か。
トラジオは静かに続ける。
『お前のスキル『バックスタブLv1』で加算される攻撃力は10%だ。クリスヴェクターの攻撃力からして、一撃であの戦士を葬ることは不可能だ。聖職者の回復を受けながら戦士のMagpul PDRの斉射と、魔術師が携帯していたM79グレネードランチャーの攻撃を受ける可能性は高い』
『え、M79グレネード!? 嘘、そんな武器……』
思わず言葉が出てしまったらしく、ハッと気がついた小梅が両手で口を覆い、なんでもないという表情を浮かべた。
『己が置かれた情報を確認もせず、腕を過信したプレイヤーの末路は見えている。復活出来ない俺達が待っているのは『死』だ』
トラジオの言葉に小梅は何も返せなかった。
明らかにあたしより経験豊富な意見。兄も言っていた。「情報が己を救い、己を殺す」と。
『それでもお前は単独で行くというならば、止めはせん。……さらにその脱出経路とやらの情報も要らん』
『……っ!』
『ト、トラジオさん!』
思わず悠吾は声を上げてしまった。それはつまり、小梅をこの場に置き、情報を得ないまま先を行くということだ。
せっかく見つけた助かるかもしれない情報をポイと捨てちゃうんですか!?
それに、確かにこの子はクソ生意気な女の子だけど、この場に放って行くのはさすがに後味が悪いんんじゃないでしょうか。
思わず憂懼してしまった悠吾だったが、そんな彼の心配は必要なかった。
『……わ、わかったわよ』
小梅が慌ててトラジオに返す。その小梅の反応に、さらに悠吾は慌てふためいた。
……なんということか。Magpul PDRの時は絶対折れなかったのにこの件にはいとも簡単に折れてしまったではないか。
思わず悠吾がトラジオの顔を覗きこむ。
『し、仕方ないわね! 手伝ってあげるわ!』
『そうか。宜しく頼む』
虚勢を張る小梅に、トラジオは変わらない淡々とした空気で頭を垂れ、そう返した。
だが、トラジオの表情が笑っていた。その笑顔を見てすぐに悠吾はピンと来た。
作戦だったんだ。この生意気な子を仲間に引き入れるか否かを判断するための。
情報分析力。トラジオさんはさっきそう言った。彼はその分析力でこの子が己の腕を過信しているプレイヤーだと察知したんだ。確かに、先ほどのこの子の会話からその兆しは幾つもあった。そしてそれをより確実に確かめるために、この子を「褒めた」んだ。
己の腕を過信し、蛮勇するプレイヤーがどうなるかは火を見るより明らかだ。それはこの子だけの問題ではなく、僕達の命さえも危険にさらしてしまう。それで懐柔できれば良いし、もし反発して聞く耳を持たなければそれまでのプレイヤー、という判断なのだろう。情に流されない冷徹かつリスクを負わない判断だ。
『それで、先ほどのお前の兄と情報の件だが』
『うっ……』
じっと小梅を見つめたまま静かに問うトラジオに小梅は泣きそうな表情を浮かべ、身を竦めた。
情報は命に関わる。この無秩序な世界では情報は強大な武器になるとこの子にも判っている。その情報を使えば優位に状況を運べると思っていたらしい小梅は身をすくめながら、警戒の色を強める。
『そう警戒しなくてもいいですよ。信じられないかも知れませんが、僕達は君を裏切ったりしません』
思わず悠吾は小梅に語りかけた。
この言葉にどの位力があるのかはわからないけれど、それが本心には変わりない。きっとトラジオさんも同じはず。
その証拠に、トラジオがキュウと口角を上げ、引きつったような笑みを悠吾に見せた。
『そこまでして兄に連絡が取りたいということは、脱出経路からこのプロヴィンスを脱出する為には兄の協力が必須だということか?』
やはりトラジオさんも僕と同じ意見だった。この子も、それほど自信があるなら一人で脱出できると考えるはず。
なのに、その重要な情報を渡してまで兄と連絡を取るためにトレースギアを修理したいと言う。
『そうよ』
『成る程……これは興味半分の質問なのだが、お前の兄は一体何者だ?』
静かにトラジオが質問を投げかけた。
確かに僕も興味はある。この子のあの動き、そしてその自信から相当な手練だとは思うけれど。
だが、小梅の答えはトラジオの、そして悠吾の予想を超えていた。
『あたしの兄は──』
言うべきか少し間を置き、静かに小梅が続ける。
『……ノスタルジア王国の伝説的クラン、オーディンのメンバーよ』
名前:悠吾
メインクラス:機工士
サブクラス:なし
称号:亡国者
LV:3
武器:Magpul PDR
パッシブスキル:生成能力Lv1 / 兵器生成時に能力が+5%アップ(エンジニアがメインクラス時のみ発動)
アクティブスキル:兵器生成Lv1 / 素人クラスの兵器が生成可能