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第4話 林と熊男 その3

「……あまりショックではないようだな」


 顔色一つ変えず、例の掌を合わせ天を仰いでいるポーズの悠吾に熊男が静かに言う。

 一見、逆に「このような素晴らしい境遇を与えてくださった神様に感謝いたします」などと思っているような雰囲気の悠吾だったが、彼の心の中は真逆だった。


「いえ、すごくショックです」


 そのままのポーズで悠吾が言う。

 やはり、判っていても他人から言われるのはキツイ。太ったかなーと思ってて、他人から「太ったね」と言われるとショックが大きいのと同じ。

 なんというか「ああやっぱりそうだったのね。だけど言葉にしないで」的な。

 

「そうか。すまん」


 まだ他に聞きたいことはあるか、と熊男が淡々と言葉を紡ぐ。


 ……凄まじく淡々としてますね。僕もよく「何考えているか判らない」とか言われるけど、この熊男も相当なものだ。

 でも、その淡々とした雰囲気がショックを少し和らいでいる気もする。


「このゲームについて教えていただけませんか」

「構わん」

「ええっと……大体の事は判っているんですが、その……さっきの軍人達はどうして僕達を攻撃してきたのかとか、そこら辺を」

「うむ」


 そう言って熊男はもう一度腕時計型ガジェットを開き、周囲をMAPで確認してその場に腰をおろした。

 そして促されるように、悠吾も熊男の前に正座する。


「今のは?」

「念のため周囲に『地人じびと』が居ないかチェックした」

「ジビト?」


 聞きなれない単語に悠吾は首をかしげる。


地人じびととは……そうだな、簡単に言えば、人間が操作していないNPCノンプレイヤーキャラクターの事だ。先ほどのロシア製の装備で身を固めた奴らもその地人じびとだ」


 そうして、熊男は己が知っている範囲、あくまで「PCゲームの時の戦場のフロンティアからこの14時間で体験したこちらの世界の戦場のフロンティア」の知識内で悠吾に説明を始めた。


 まず、この場所。

 やはりここはノスタルジア王国という国があったらしい。この世界に転生(という表現が適切かどうかはわからないが)する前は確かにノスタルジア王国という国がここにあり、40ほどのプロヴィンスを管理する大きい国だったらしい。


「俺もお前もそのノスタルジア王国の所属だ」


 そう言って熊男は腕時計型ガジェットを開き、自分のステータスを悠吾に見せた。

 確かに所属国家にノスタルジア王国とある。

 だが、その文字はグレーに落ち「滅亡」という文字が赤く光っている。


「この14時間で得た情報によると、ノスタルジア王国は先日の『交戦フェーズ』にてユニオン連邦という国に負け、滅亡したらしい」

「40もあったプロヴィンスを全て占領されたんですか?」


 悠吾が驚嘆の声を上げた。

 事前に得た情報によると、交戦フェーズは約1週間の期間で領土をプレイヤー同士で奪い合うと書いてあった。交戦フェーズが終了した時点で占領しているプロヴィンスが自国領土になる、という具合だ。

 一回の交戦フェーズで40ものプロヴィンスを占領し、それを守りぬくなんて初心者の僕からみても、とても大変な事だと判る。


「そうだ。だが……そのユニオン連邦という国家は、PC版戦場のフロンティアでは存在しなかった国家だ」


 熊男は静かに言う。

 PC版戦場のフロンティアでは、ノスタルジア王国を始めとする近隣諸国は交戦フェーズでも領土の奪い合いが比較的起きにくい「セーフティエリア」として、対人戦を好まない平和主義的プレイヤーから人気が高い地域だったという。


「この国を統治しているGMゲームマスターが温厚な性格でな。近隣国家とも良い関係を築いていた」

「ゲームマスター?」

GMゲームマスターとは現実世界で言う国家元首のようなものだ。GMゲームマスターの指示で国の進むべき道は決まると言っても良い。ちなみにGMゲームマスターも戦場のフロンティアをプレイするプレイヤーの一人だ」


 熊男曰く、ノスタルジア王国のGMゲームマスターは対話によって周囲国家との均衡を保っていたらしい。 

 だけど、話術だけ得意な国家がそう安定するはずはない、と悠吾は思った。

 対等に交渉を行うにはそれ相応の「武器」が必要のはず。それが単純な武力なのか、お金なのか、それとも他の何かなのか。対応を誤ってしまえば自分に多大な損害が被ると思わせなければ交渉がうまくいくはずがない。


「ノスタルジアには伝説的なクランがあった」


 クラン。クランとはプレイヤー達の集まりで、簡単に言えば「チーム」のようなものだ。戦場のフロンティアだけではなく、FPSゲームで一般的に有るもので僕もどういうものかは良く知っている。

 通常、FPSなどのゲームにおいて、クランに所属することはプレイヤーは多くのメリットがあるが、それがこの戦場のフロンティアにおいては顕著にあらわれていると熊男は言う。


 探索フェーズで数多く探索する事になる廃坑や洞窟などの「狩場」の情報や、メンバー同士のサポート、それにクランメンバーにメリットがあるスキルも数多く存在している。

 また、戦場のフロンティアにおいてクランは各国家の重要な「軍事力」と言えるものだ。登録された各クランは交戦フェーズ時に、GMゲームマスターが決めた戦線へ配備され、国から支給される装備や兵器、弾薬などの「支給品」を糧にプレイヤー同士で争う。

 熊男曰く、クランという存在は、国家にとって、そしてプレイヤーにとっても重要なファクターらしい。


「それは、とてつもなく強いクラン……ってことですか?」

「そうだ。戦場のフロンティアの創始期に設立されたクランで、名を『オーディン』という。10人のメンバーで構成された少数のクランだが、ノスタルジア近辺がまだ無秩序だった創始期にその40ものプロヴィンスをその10人で勝ち取り、守ってきたという話だ」

「なるほど、その『オーディン』というクランがあったからこそ、この地域は平和だったというわけですね」


 だが、今その「オーディン」というクランによって守られてきたノスタルジア王国は無い。それはつまり──


「俺の知る内では活動を続けているクランだったはずだ。だが、オーディンが居るノスタルジア王国が滅亡してしまったということは、クランが解散されたかもしくは『この世界に転生されなかったか』のどちらかだろう」


 交戦フェーズでオーディンのメンバーが負けるはずがない。

 熊男は直接口には出さないものの、言葉の裏にはその意味が見え隠れしているような気がする。それほどオーディンというクランはずば抜けた戦闘能力を持っていたと言うことなのか。


「ちなみに、滅亡すると何かプレイヤーにデメリットが?」

「……これを見ろ」


 熊男はそう言って再度腕時計型ガジェットからステータスを開き、己の「称号」という箇所を指さした。

 「亡国者」と書かれた文字が光っている。


「亡……国者……?」

「これは俺の知る戦場のフロンティアでは無かった称号だ」


 称号システム。確かそんなものがあると説明書に書いてあった。

 称号は、特定の条件で取得することが出来るものらしく、その称号によって様々な効果がプレイヤーにもたらされるらしい。


「無かった?」

「そうだ。……お前は今回の拡張パックで参加した、と言っていたな」

「はい。購入したのは、ゲーム本体と拡張パックがセットになったものだったと思います」

「察するに、この称号はその拡張パックで追加されたものだと思うのだが……どうやら所属国家が滅亡した際に付与される物らしい」


 そう言って熊男の表情が固くなった。

 そ、その「亡国者」の称号にはどんな効果があるのだろうか。……熊男の表情から、それがあまり良くない事だとはなんとなくわかるけど。


 そんな嫌な予感が悠吾を襲う。そして悠吾のカンは当たる。

 熊男が称号「亡国者」のプレートをタップして表示させた詳細説明を目にし、悠吾の表情もまた固まってしまった。


「……こ、こ、この称号を持つプレイヤーは……死亡した場合復活リスポン出来ません……って……ええっ!?」


 思わず悠吾は熊男と視線を交差させた。

 

 ちょっとまって。

 死んだ場合、復活出来ない?

 ということは、死んだら死んじゃうって事ですか。まんまですけど。

 

 慌てて悠吾も自身の腕時計型ガジェットのメニューを開き、ステータスから称号をタップする。

 嘘だ。ビギナープレイヤーの自分にいきなりそんな称号が付与されるなんて。


 が、悠吾の願いをあざ笑うかのように、そこに表示されているのは熊男と全く同じ説明文。

 その画面を見つめたまま悠吾は身体が硬直させてしまう。


「リ、リ、リリ、復活リスポン出来ないって、死んだらどうなるんですか?」

「……それは俺にも判らん。すでに身を持って体験している者は居ると思うが、PC版では、領土を奪い合う交戦フェーズ以外のフェーズでプレイヤーが死んだ場合、マイハウスと呼ばれる「自分の家」で復活することになっていた。国家が滅亡してしまった場合も同様だ。だが……」


 熊男がメニューから、マイハウスと書かれた文字をタップした。

 だが、タップに対し文字は反応しているようだが、何も変化はおきない。


「プレイヤーは探索中、もしくは戦闘中でなければいつでもマイハウスに行けるはずなんだが、今は行くことが出来ない。つまり、死んだとして、PC版のようにマイハウスに戻る、と言うことはあり得ないと言える」

「と言うことは」

「つまり、現実世界と同じく死ぬと考えていいだろう」


 悠吾は足元がガラガラと崩れていく音が聞こえた。

 ゲームの世界に強制的に転生して、しかも死んだら死んじゃうって。

 この熊男みたいに知識も装備も豊富だったら生き延びられるだろうけど、今の僕は……心もとないハンドガン一丁だけの初心者だ。


 というか、危なかった。

 危ないという表現じゃ足りない位危なかった。

 あの林道で、軍人の銃から放たれた弾があと一発かすりでもしたら僕は死んでいたということじゃないか。

 その事実を知り、今更だが悠吾は背筋が凍りついた。


「しかも最悪なのは……」


 なんだか背中がスースーするような感覚とともに絶望の縁に追い込まれていた悠吾に熊男はさらに追い打ちをかける。

 今度は何でしょうか、熊男さん。


「ノスタルジア王国がユニオン連邦に滅ぼされ、この場所がユニオン連邦の領土になったということは……俺達は『敵国』のまっただ中に居るということだ」

「……あ~」


 ──オワタ。

 僕達終わっちゃいましたね。

 その口から魂がでているのではないかと思うほど悠吾は放心状態のまま、熊男の言葉に耳を傾けていた。


「だからあの軍人さん達は僕に攻撃を」

「そうだ、あれは自国の領土内を巡回している地人ジビトだ。能力はそう高くなく、重火器型ドローンか機械兵器ビークルでもあれば難なく退けられるだろうが、奴らの特徴は……」

「増援を呼ぶ」


 悠吾の脳裏にあのKa-52ホーカムの姿が浮かぶ。

 

「そうだ。奴らはこちらのレベルに関係なしに高レベルの凶悪な機械兵器ビークルを呼ぶ。その機械兵器ビークルに対応できるのは、重火器が扱えるクラスの魔術師ワーロックだけだ」


 魔術師ワーロック──

 そうだ、さっきも熊男が言ったその名前、ゲームを始める前のクラス選択画面で見たんだ。確か、瞬間火力に特化したクラスで、対戦車ライフルや対戦車擲弾、大口径の機関砲などの武器を装備できる唯一のクラスだったはず。


「そういえばお前のクラスは……」

「え? えっと……機工士エンジニアです」

機工士エンジニア……生産職か。生産職の中でもあまり見ないクラスだが、高レベルになれば先ほどのセントリーガンも生成出来るようになる」

「本当ですか!」


 熊男の言葉に悠吾は地獄の中で一輪の花を見つけた気がした。


「……まぁ、そこまで行くのが大変らしく、皆挫折するようなんだが」

「あう」


 その花は無残に踏み潰された。まぁ、コツコツやるのは性に合ってるから苦にはならないと思うけどね。

 だけど、そんな魅力的な兵器が作れるクラスだと言っても、死んでしまっては意味が無い。この場所から離れ、安全な場所に避難しないと。

 そう考えた悠吾の頭に、先ほど熊男が言った「周囲国家とも良い関係を築いていた」という言葉が浮かんだ。


「もう一ついいですか」

「構わん」

「先ほど、ノスタルジア王国は周囲国家と良好な関係を築いていた、とおっしゃっていましたが、自国と良好な関係の国だったら、その国の地人じびとから攻撃を受けることは無いんですか?」


 敵対しているから攻撃を受ける。だとしたら、自国が無い以上安全な場所は、自国と良好な関係の国にあるんじゃないか。

 悠吾はそう考えていた。


「攻撃を受けることは無い」


 やっぱり。

 熊男の言葉に悠吾は笑みを浮かべた。


「あくまでこの世界がPC版と同じであると仮定してだが、プレイヤーが攻撃を受けるパターンは大きくわけて3種類ある。『探索可能な狩場に配置されているどの国にも所属していない地人じびとと遭遇した時』『交戦フェーズで敵対国家プレイヤーと相対した時』そして『自国内、もしくは敵対国内でその敵対する国家のプレイヤー及び地人じびとと遭遇した時』だ」

「……つまり、今この場所はノスタルジア王国と敵対するユニオン連邦の領土なので、僕達はユニオン連邦に所属するプレイヤーと地人じびとに攻撃を受けてしまうけれど、ノスタルジア王国と良好な関係を結んでいる隣国に逃げることができれば助かる、ということですね」

「そういうことだ」


 熊男は頷く。

 簡単じゃないか。こんな危険な場所から早く離れて安全な隣国へ移ればいいだけの話だ。

 だが、暗い影が落ちている熊男の表情を見て、悠吾の脳裏にまたしても嫌な予感が過る。


「……まだ、何かあるんですか?」

「お前の言うとおり、安全な隣国へ逃げることは俺も考えた。だが、それには2つの問題があった。ひとつは隣国の存在だ」


 そう言って熊男は腕時計型ガジェットを開き、現在地のMAPからズームアウトし、近隣諸国の分布図を出した。

 

「これは……」

「見ての通りだ。ノスタルジア王国と良好な関係を築いていた近隣諸国のほとんどがすでにユニオン連邦の支配下にある」


 ユニオン連邦はノスタルジア王国の40のプロヴィンスだけではなく、その他の近隣諸国のプロヴィンスも同時期に落としていたと熊男は言う。

 悠吾は愕然とした。

 一体ユニオン連邦という国が抱える軍事力クランの数はどの位あるのか。そんな国のまっただ中に僕達は居る。

 全くもって生きた心地がしないではないか。


「唯一この場所と国境が隣接した国はここだけだ」

「……ラウル市?」


 僅か3つのプロヴィンスからなる国。その小さな国家を熊男は指す。


「ノスタルジア王国ともっとも良好な関係を築いていた都市国家だ。離脱するとすれば、ここ以外には無いな」

「でしたら……」

「だが、ふたつめの問題だ」


 そう言って熊男はMAPをズームさせ、今居るプロヴィンスの全体図を表示させた。


「ゲームルール上、真っ当にプロヴィンスを跨ぐには、街道を通る必要がある。北方に位置するラウル市に行くにはこの2本の街道のどちらかを通る必要がある」


 比較的大きな道が二本、南から北へ通っている。先ほどの林道よりも更に幅が広い道であることは一目瞭然だ。

 道の幅が広いと言うことは、より多くの人や物が通っていると言うことになり、通行量が多い道には巡回兵も多数居るだろう。


「さっきの地人じびとと遭遇する確率が高くなる?」

「それだけじゃない。通常、国境には国境を守る警備兵が配備されている。巡回兵と比べ物にならんほど、強力な装備で武装されている連中だ」


 それがふたつ目の問題ということか。

 そう理解した悠吾は深い溜息を一つついた。


 敵対する国家に侵入することが難しくなるよう設計されている。ということだ。それはそうだろう。

 占領、もしくは死守すべき領土は何のものさしで判断するべきか。それは「戦略的にその場所が重要かどうか」そして「その場所で重要な資源が取れるかどうか」だろう。

 戦場のフロンティアに置いて、プロヴィンス内に点在する「狩場」がその資源に当たり、隣接するプロヴィンスへの街道が戦略上重要なファクターに当たる。

 だとすると簡単に敵対する国家が支配するプロヴィンスに入れるようなことがあっては、ゲームそのものが成り立たなくなる可能性がある。簡単に侵入できない設計にするのは当然だろう。


「入りにくく、出づらい、というわけですね」

「国境を強行突破出来んこともないが、人手がいる。5名以上の小隊パーティを組まないとまず不可能だろう」


 そう言って熊男はMAPを静かに閉じた。

 難しい。だからこそこの屈強な熊男は14時間も落ち着くことが出来ない敵陣のまっただ中で立ち往生していたんだ。


「だから俺はまずプレイヤーを探す事にした。そしてお前を見つけた」

「すいません……助けて戴いたのに、こんな初心者で」


 しかも折角助けてもらったのに、敵対する地人じびとに場所を知らせるような事をしちゃって。

 穴があったら入りたいです。そしてそのまま埋めて下さい。

 だが、熊男は怒るどころか意外な反応を見せた。


「いや、こちらこそすまん。声をかけるにもまず自分の身を守る為に手荒い真似をしてしまった。」


 熊男が深々と頭を下げた。

 まさか謝られるとは思って居なかった悠吾は、頭突きでもされたのかとビクリと身を震わせてしまう。

 

「や、やめてください。仕方が無かったと思います。僕こそ、あの巡回兵に馬鹿な真似をしてしまって……」

  

 大人しくあのまま林の中で大人しくいていれば巡回兵達を素通りできたのに。


「うむ、あれは俺の注意不足だった」

 

 そう言って何やら難しい表情で熊男が腕を組む。

 不注意……って何のことだろう?


「まさかあの林に……熊が出るとは」

「……へ?」


 予想もしなかった熊男の言葉に悠吾は目を丸くしてしまった。

 今、熊とおっしゃいましたか?

 熊……ってまさか僕があの時言った口からでまかせの事ですか?


「……ええっと……」


 この人は何を言っているんだろうと、首を傾げてしまった悠吾だったが、ふと理解した。この熊男という男の事を。

 ああ、この人天然だ。

 厳つい顔してすごく天然なんだ。


「い、いえ。僕も熊にびっくりしてしまって、こちらこそ申し訳ないです」

「助けるどころか、お前を危険な目に合わせてしまって本当に言いにくいのだが──」


 鋭い目つきで熊男が続ける。

 天然だと知って、以前のような威厳が少し薄らいでいる気がするのは気のせいだろうか。

 気のせいですよね。


「よければこのプロヴィンスから脱出する為に、俺と小隊パーティを組んで貰えんだろうか」


 頼む、と熊男は武士のようにあぐらをかき頭を深々と下げる。

 なんというか、うん、すごくいいヒトなんだろうなこの人は。現実世界でも。

 でも、すごくありがたい話だ。災い転じて福と成した。

 たった今。


「そ、それはこちらとしてもぜひお願いしたいです」

「本当か」

「は、はい。それは、もう」


 熊男が満面の笑みを浮かべた。

 それは、ひどく大雑把で愛嬌がある笑みだった。そのギャップが半端ない。

 その笑顔のまま、熊男が右手を差し出した。


「ありがとう。トラジオ。俺の名はトラジオだ」


 熊男……トラジオの言葉に悠吾の頬がぴくりと引きつった。


 ……な、なんと言うことか。

 熊なのに虎だなんて。

 クマジオのほうがいいんじゃないだろうか。

 そんな失礼な事を思いつつも、悠吾はトラジオのゴツゴツとした手を握りしめる。


「悠吾です。よろしくお願いします」


 悠吾も笑顔でそう返した。

 思いもよらない援軍そして僅かな希望。その2つに悠吾は今まで感じていた薄ら寒い恐怖が少し和らいだ気がした。

 だが、悠吾がそう感じた時だった。


「……ちょっと止めなさいよッ!」


 丘の向こうから風に乗り、2人の耳に届いたのは女性の叫び声。

 

「クマジ……いや、トラジオさん今のは」

「女の声、か」


 プレイヤーだ。声から察するに、只ならぬ状況が想像出来る。

 そう直感したトラジオが瞬時に戦闘モードに入る。

 HK416の弾倉を確認し、コッキングレバーを引くと、セレクターを「セーフティ」から単発射撃の「セミオート」へと切り替える。


「……行きましょう!」


 そう言って悠吾はM9ベレッタをホルスターから取り出すと、トラジオとともに丘の逆側へを走り出した。


名前:悠吾ゆうご

メインクラス:機工士エンジニア

サブクラス:なし

称号:亡国者

LV:1

武器:ベレッタM9

パッシブスキル:生成能力Lv1 / 兵器生成時に能力が+5%アップ(エンジニアがメインクラス時のみ発動)

アクティブスキル:兵器生成Lv1 / 素人クラスの兵器が生成可能

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