第37話 廃坑再び その3
考えろ。この状況を切り抜ける方法を。
悠然と勝者の面持ちで歩いてくるグレイスを見て悠吾は思考をフル回転させた。
男の仲間らしきプレイヤーは少なくとも3、4人は居る。ここであの男に反撃したとしても、その仲間に打ち返されて終わりだ。
この男にとって負ける要素が無い状況──
まるで獲物をいたぶる肉食獣のように、復活できる己の状況を利用して、わざと撃たせるように仕向けているのではないか。
悠吾はそんな事すら思ってしまうほど、この状況にすでに憔悴してしまっていた。
「ま、恨むならノスタルジアに転生しちまった事を恨めよ」
グレイスは持っていたアサルトライフル、タボールAR21をヒョイと仲間に投げ渡し、腰に下げていたホルスターから自動拳銃、マカロフを取り出した。マカロフは携帯性に優れ、取り回しが容易に出来るように設計されているロシア製の拳銃だ。
手慣れた動きで音もなく一つの動作でグレイスはマカロフを構えると、その銃口を悠吾へと向ける。
何回経験しても、一向に慣れない。というか慣れる事は絶対無いと思う。
危険な空気を放つ男が向ける銃口に、文字通り、悠吾の背筋は凍りつき、その恐怖で心臓が飛び出す程に激しく胸を内側から叩く。
「まま、待って下さい。どど、どうして貴方達は僕達を?」
「……あん?」
時間を稼がないと。
そう考えた悠吾は考えつく内で、最善の時間稼ぎの方法をグレイスへと投げかけた。
「お前らを狙っている理由か?」
「そ、そうです」
小首をかしげるグレイスに、悠吾はこくこくと何度も頷いた。
死の前の最後の質問に答えてくれているその隙に、何かいいアイデア思いつくか助っ人が現れる……ってのが物語の常でしょう?
冷や汗を滴らせながらそう思った悠吾だが──
「あ〜……答える必要は無ぇ」
「……ッ!」
無情の言葉をグレイスが放った。
駄目だ。映画やドラマのようにはいかない。
そして、グレイスはマカロフの引き金をゆっくりと押す──
その時だった。
『インサイトスキルを発動しました』
「……ッ!?」
絶望に身を捩った悠吾の耳に届いたのは、トレースギアから放たれたあの声だった。
だが、その声は悠吾のトレースギアから放たれたものではない。
その声は──トラジオのトレースギアからの声だ。
「悠吾、フラッシュバンだッ!」
トレースギアの声と同時にトラジオが叫んだ。
トラジオが使ったスキル。それがどんな効果を持つスキルなのか悠吾には判らなかったが、目の前のグレイスの動きを見てすぐに理解した。
グレイスが悠吾に向けていたマカロフの銃口がくるりと向きを変え、トラジオの方へと移動した──
「チッ!」
グレイスの舌打ちと同時に辺りに響いたのは乾いたマカロフの発砲音。
ハンドガンの弾であれば、ヘッドショットさえ免れれば致命的なダメージは負わないはず。
その乾いた音に、トラジオは瞬間的に身をひねった。
だが、トラジオの想定は大きく覆された。
グレイスが放った弾丸は、頭部を守るために曲げた前腕を貫通すると、そのまま左肩をも貫き、トラジオの背後の壁面に着弾した。
「ぐあッ……!」
まさか。
ハンドガンとは思えない貫通力のあるその弾丸をまともに受けたトラジオが呻き声を上げた。
ステータスを見なくても判る、このダメージは致命傷──
「クマジオ!」
そう叫ぶ小梅の目にも、ガツンと減ったトラジオの体力ゲージが映り込んだ。
あたしの目でも判る。
あのゲージの減り方──あの弾丸は普通の9mm弾じゃない。
「ハン! インサイトで俺のターゲットを取って、フラッシュバンで切り抜けるつもりかッ!?」
小癪な事を。
グレイスが不敵な笑みを浮かべながら、とどめを刺さんと、もう一度トラジオにマカロフのアイアンサイトを合わせる。
と──
「このぉ……ッ!」
悠吾が怒りの篭った雄叫びを上げた。
インサイトは、たしか戦士のアクティブスキルで、対象のターゲットを自分に向ける効果があるスキルだ。
トラジオさんに助けられた。
そして僕の代わりにトラジオさんが致命傷を──
悠吾は怒りに身を震わせながら、トラジオが言っていた強烈な閃光と音を放つフラッシュバンをアイテムポーチから取り出す。
即座に目の前にキラキラと光りの塵が現れてくると、完全に表示される前にピンを抜き取り、男の足元へと投げ放った。
キン、と金属が床に跳ね返る音が聞こえた次の瞬間、まるで小さな太陽が現れたかのような強烈な閃光と、衝撃音が坑道で破裂した。
「ちッ!」
現実世界であれば、フラッシュバンを至近距離で食らってしまえば、その爆轟で身動きすら取れなくなってしまう。
だが、戦場のフロンティアの世界では、そこまでの効果は無く、一時的に視界がホワイトアウトし、聴覚が麻痺する程度の物だった。目標が見えなくなるだけで、手足は自由に動かすことが出来る。
その情報を事前に得ていたグレイスは、一瞬ひるんでしまったものの、トラジオが居るであろう方向ヘマカロフの弾丸を浴びせかけた。
坑道内に反響した甲高い射撃音が幾度となく響く。
だが──
「……くそッ!」
手応えが無い。見えるはずの、ゼロになったゲージも見えない。
──逃したか。
トラジオが使ったインサイトのスキル効果が切れた事を感じたグレイスは、トラジオへの攻撃を中断し、すぐさま悠吾と小梅が居た場所へマカロフの弾丸を放った。
その時だった。
「むおッ!?」
グレイスの耳に届いたのは彼らの断末魔ではなく「ボン」という何かが破裂する音だった。
地面から吹き上がるように立ち昇った白色の煙がホワイトアウトしたグレイスの視界をより乳白色の世界へと誘う。
スモークグレネード。フラッシュバンと同じ、非殺傷型の手榴弾。
あのガキ、フラッシュバンとあわせてスモークグレネードを──
「撃てッ! 奴らを逃がすなッ!!」
グレイスの声が坑道に響き渡ると、その声と同時に、薄暗い坑道の壁に幾つものライフルの発射炎が浮かび上がった。
目の前で炸裂したフラッシュバンとスモークグレネードの影響でよろめきながら後退するグレイスも、マカロフの弾倉が空になるまで引き金を引き続ける。
時間にして数十秒。
だが、狭い坑道で反響した射撃音は幾層にも重なる轟音になり、終わりの無い死神の咆哮のように廃坑内に轟いた。
「辞めろッ! 射撃中止ッ!」
フラッシュバンで白く飛んだ視界に色が戻り、放った銃弾の影響で煙幕が切れつつあったその時、グレイスはマカロフを持つ手を掲げ、射撃中止の合図を発した。
「……ちッ、逃がしたか」
転がっているはずの死体は無く、グレイスの目の前にあるのは、誰も居ない坑道。
先ほどまで悠吾達が居た場所にはもう、彼らの姿は無かった。
あの距離、あのタイミング、そしてこの状況から逃げきるとは。
「フン。だが、時間の問題だ」
正直な所ここへあいつらが本当に来るかは「賭け」だったが、ファーストコンタクトでもう追い詰めるのは難しいことじゃなくなった。
マガジンポーチからマカロフの弾倉を取り出し、空になった弾倉と交換しながらグレイスはそう思った。
踵を返し、廃坑の奥へと足を向けたグレイスの足元、地面に落ちたマカロフの薬莢が、不気味な青白い煙を放っていた。
***
命からがらグレイス達、ワルキューレの待ちぶせから脱出した悠吾達は、ただひたすらあの場所から離脱することに注力していた。
体勢を立て直す必要があるけれど、アジーさん達の件もある。それに脱出にタイムリミットもある。本当は廃坑の奥を目指したい所だけど……。
そう考える悠吾だったが、事態は悪化の一途をたどっていた。
「悠吾、どうしようクマジオが」
トラジオに肩を貸す小梅が顔面蒼白でそう言った。
と──
「……ぐうっ」
「トラジオさん!」
激痛に身を悶え、弱々しく地面に片膝を突いてしまったトラジオに小梅の逆側で同じように肩を貸していた悠吾が駆け寄った。
最悪の状況──
グレイスが放った弾丸が貫通したトラジオの傷は、予想だにしない事になっていた。
「自然回復するどころか……次第に減っている。何か対策を打たねば……」
やはりあの男が放った弾丸は通常の9mm弾ではなかった。
時間を置けば自然回復するはずが、逆に減り続けている体力ゲージをを睨みつけながら、トラジオは苦悶の表情を浮かべた。
「と、とりあえず、そこの岩陰に一旦身を隠しましょう。小梅さん、周囲警戒をお願いします」
トラジオの身体を岩陰に押し込みながら、悠吾が小梅にそう言った。
だが、小梅は呆然とした表情でトラジオを見ているだけだ。
「……小梅さん! しっかりして下さい! 周囲警戒を!」
「あ、わ、解った!」
悠吾の声にびくりと身を竦めた小梅は、慌ててクリスヴェクターを構え、リーコンスキルを発動し、周囲に注意を配り始める。
あの残党兵狩りの連中に先制攻撃を受けてしまったのは、ポイントマンを務めていた小梅さんのミスの可能性は高い。だけど、それを問い詰める事は意味の無いことだ。小梅さん自身がそれに気がついているし、それを言った所で何も解決につながらない。
それに今は小梅さんよりも、トラジオさんの身に起きているこれを何とかしないといけない。
「トラジオさん、この症状、原因はわかりますか?」
顔を歪ませ、脂汗を滴らせているトラジオに悠吾がそっと問いかけた。
トラジオさんが自分で言っている通り、体力は時間と比例して減っていっている。流血は無いが、弾丸を受けた患部は赤く腫れあがり、黒い穴が開いている。
明らかに何かがおかしい状態。
「エ……エンチャント弾だ。何か持続ダメージを与える効果が付与された弾丸。考えられるのはそれしか無い」
「エンチャント……!」
ルルさんが言っていた、生産リストに載っていない弾丸──
トラジオの言葉を聞いて悠吾は息を呑んだ。
「効果は!? この効果は何ですか!?」
「わ……判らん……神経毒なのかもしくは別の何かか……」
そう言って再度トラジオが顔をしかめる。
僕が撃たれたときは痛みは直ぐに無くなった。だけど、多分その痛みは続いて、そして体力は減り続けている。
単なる毒か、それとも自然治癒力を抑制する何かか──
判らない。原因は何なんだ。
『体力が10%を切りました』
焦る悠吾の心に拍車を加えるように、トラジオのトレースギアから警告アナウンスが発せられた。
体力残り10%──時間は無い。
両手を合わせ、天を仰ぎながら悠吾は考える。
トラジオさんがあの銃の弾丸に付与された何かしらの効果を永続的に受けているのは事実。これは、ルルさんが言っていた効果が付与された弾丸──
効果が、付与された?
その言葉に悠吾の脳裏に1つの仮説が突如として舞い降りた。
「……トラジオさん、この傷を癒やす効果があると考えられる方法は1つあります。……ですが、本当に効果があるかどうかは『賭け』です」
「賭け……?」
「はい。僕を信じてくれますか?」
そう考えた悠吾がトラジオに深く頷いた。
もうあの手段しか無い。
──エンチャントガンによる効果の相殺。
自然治癒力が増大するエンチャントを投与して、継続ダメージと相殺させる。
今この場で出来る手段はそれしか無い。
効果が無いかもしれないし、ダメージが薄いとはいえ、もしかするとエンチャントガンのダメージでトラジオさんの残り体力が無くなってしまうかもしれない。
助かるという確証が持てない悠吾は自分で行っておきながら、不安に苛まれてしまう。
が──
「……お前に託す。死んでも文句は言わん」
激痛を我慢し、トラジオが引きつった笑みを浮かべた。
その表情に、悠吾は押しつぶされそうになっていた不安から這い出し、覚悟を決めた。
「……死なせませんよ。絶対に」
そう言って悠吾はアイテムポーチから、エンチャントガンをタップし呼び出す。
決して他言するなと言われていた兵器。
だけど、トラジオさんの命には変えられない。
「それは……」
「質問は『生還した後』でして下さい」
キラキラと光り輝きながら掌の中に現れたエンチャントガンの感触を確かめ、悠吾が笑顔で囁くと、すかさずチャンバーに専用の弾丸を込める。
効果よあらわれてくれ。
そう祈りながら、悠吾はトラジオの前腕部にエンチャントガンを宛てがい、すぐさま引き金を引いた。
プシュンという空気が抜けたような音がエンチャントガンから発せられた。
「うっ……」
どうだ……!?
トラジオの呻き声に、悠吾は即座にトレースギアのステータス画面を確認する。
そこに表示されていたのは……残り僅かなトラジオの体力。
よし、体力は大丈夫だ。表示されているアラートにも「残り8%」と出ている。
後は、効果だ。
天に祈る悠吾だったが、その結果は直ぐに現れた。
みるみるうちに、苦痛に歪んでいたトラジオの表情が柔らかくなり、アラートの残り体力表記が8%、10%と増え──ついにアラートが消えた。
『や、やった!!! 小梅さん! やりましたよ!』
思わず小隊会話で悠吾はそう叫んだ。
ミスを犯してしまったと己を責めているであろう小梅さんに、トラジオさんが助かった事を知らせなきゃ。
そう思った悠吾は、咄嗟に小隊会話でそう叫んでいた。
『ほ、ホント!? 今戻る!』
嬉しそうな小梅の声が返ってきたのはすぐだった。
助かった。トラジオさんは助かった。
ぐったりと壁に寄りかかっていながらも、峠を超えたような安堵感に包まれた表情を浮かべるトラジオに悠吾は改めてそう思った。
「……凄いアイテムだな悠吾。それは……」
「ルルさんのクエストで作った兵器なんです。だけど、他言するなとルルさんに言われていました」
黙っていてすいません。
そう言う悠吾にトラジオは呆れたような笑顔を見せる。
「なぜ謝る。こっちこそ足手まといになってすまん」
「足手まといだなんてそんな。あの時、トラジオさんがインサイトスキルを使わなかったら、あの弾丸を受けていたのは僕です」
そして、エンチャントガンの事を知らないトラジオさんと小梅さんは僕を助けることが出来なかったはず。
命の恩人は貴方の方です。
「それが戦士の役目だ。気にするな」
「……そうですね、だったら僕がトラジオさんを助けたことも気にしないでください」
「フッ、言うじゃないか、悠吾」
お互いを補完し合い、そして助け合うのが小隊だったな。
そう笑顔で言うトラジオだったが……直ぐに笑いは失せ、彼の瞳は厳しい眼差しに変貌した。
トラジオが考えている事、それは悠吾も同じだった。
「安心してはおれんな」
「……はい、まだ危機は脱していません。あいつらが来る前にどうにかアジーさん達と合流して早く4階に降りないと」
「悠吾」
小梅が消えた方へ視線を送り、早く戻ってこないかと到着を心待ちにしている悠吾にトラジオが小さくぽつりと言葉を放った。
「何故あの場所に残党狩りの連中が居たか、だが……」
「……?」
突如そう切り出したトラジオの言葉に悠吾は、何を言っているのか判らないといった表情を零す。
「あの残党狩りが何か?」
「判っていると思うが、俺達がここに来たことを知っているのは……アジー達だけだ」
その言葉の意味。
瞬間的にトラジオの言葉の意味が判らなかった悠吾だったが、間を置き、それが読み取れた瞬間、ぞわぞわと体中の毛が逆立ってしまった。
──まさか、アジーさん達が僕達をハメた?
「そ、そんなはずはありません。だって、前回彼らは……」
「可能性として、だ。この世界では何が起きても不思議じゃない。命がかかっているのであれば、尚更だ」
トラジオのその言葉に悠吾は何も返せなかった。
僕も何処かでその事を感じ取っていたのかもしれない。アジー達以外知り得ぬ情報が……残党狩りの連中に伝わっていたからこそ、奴らはあそこで待ち伏せしていたんだ。
それに、あの場所にアジーさん達は居なかったし、あの残党狩り達が放った銃声は多分この3階中に響き渡ったはずなのに、僕らの身を案ずるメッセージも無い。
それはつまり、安否を確認する必要は無いと彼らが思っていると言う事じゃないだろうか。
と、悠吾が沈痛な面持ちで考えていたその時だ──
「悠吾! クマジオ!」
「小梅さん」
飛び込んできたのは小梅の小さな身体。
全速力で戻ってきたのか、息を切らせながら小梅が岩陰に滑りこんできた。
「クク、クマジオ、大丈夫!?」
「ああ、悠吾のお陰で助かった。心配をかけたな」
その言葉に瞬時に、思わず小梅の表情が崩れる。
「良かっだ……良かっだよ! あたぢ、あたぢのせいで、クマジオが死んじゃったらさぁ……!」
ふええええ、と思わず涙をこぼしながら小梅がまくし立てる。
多分、周囲警戒をしながら、小梅さんなりに反省していたに違いない。
でも、RPG-7の攻撃を受けたあの時まで小梅さんのポイントマンは完璧だった。そこのところは後で褒めてあげるべきかな。うん。
あ、小梅さん、鼻水でてますよ。
「う、むう。そう泣かれては、調子が狂う」
「うるさい! あたしのせいで死んじゃったかと思っちゃったんだから! うう……死にかけたあんたのせいで、泣いちゃったじゃないのよぉ!」
「……えぇぇ?」
あたしのせいでとか、あんたのせいでとか、一体誰のせいにしたいのですか君は。
泣きじゃくりながらそう言う小梅に思わず悠吾は呆れ返ってしまった。
……だけど、なんというか、小梅さんもこの小隊の事を大事に思ってくれていたんだな。はちゃめちゃな事をいうのはどうかと思いますが、そこんとこはなんか嬉しいです。
「……大丈夫ですよ、小梅さん、泣かないで下さい」
「な、泣いてなんかないわよっ! あたしはちゃんと自分の仕事をこなしてたんだからっ」
思わずよしよし、と頭をなでる悠吾に「触るな!」と小梅が手を払いのけ噛み付く。
仕事、と言うのは僕がお願いした周囲警戒の事だろうか。
「……あ、それで追手は?」
「追手は大丈夫だけど……彼らが来たわ」
小さく鼻をすすりながら、小梅がそういった。
彼ら。
と、その言葉に悠吾とトラジオの表情が瞬時にこわばった。
彼らって──まさか。
「……悠吾君、トラジオさん、久しぶり」
突如暗闇を這うようにして、悠吾達の耳に届いたのは男性の声だった。
そして、闇の中から現れた1人のプレイヤー──
「貴方は……」
小梅を追うように、闇の中から現れたのはアジー‥…ではなく、ルーシーだった。
アジーさんと小隊を組んでいた聖職者。
だが、ルーシーの姿を見て、悠吾達は安堵の表情を浮かべていない。
微笑みを浮かべる彼の表情に何処か違和感があったからだ。
──そして悠吾達の直感は当たった。
「……ッ!!」
間髪いれず、悠吾達に向けられたのはルーシーが携えていた短機関銃──
やはり、トラジオさんの考えは当たっていた。
「やっぱり貴方達が……?」
「すまんな。仕方なくなんだ。判ってくれ」
変わらない表情でルーシーがそう言う。
一体何故。そしてアジーさんではなく、なぜルーシーさんが。
幾つもの疑問が悠吾の頭を過り、渦巻いていく。
そんな悠吾を見る、ルーシーのその目は、あの時悠吾達を助けた恩人の目ではなく、マカロフを構え、悠吾を見下していたあの残党狩り男と同じ淀んだ目だった。




