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第16話 遭遇 その4

※本日は二話アップしています。

今日分は15話と、この16話です!ご注意を!

 キン、という甲高い破裂音と共に、廃坑の壁面が白く飛ぶ程の強烈な閃光が起きた。

 一発で相当な効果を発揮するだろうフラッシュパンだったが、念のため悠吾はもうひとつ同じように投擲する。

 フラッシュパンはこれで打ち止め。どちらにしろ、こちらに被害が出るから、戦闘中に使えるものじゃない。ここで使っておくのは良い作戦だと思う。

 だけど、同じく2本しか生成できなかったECMグレネードの使い所は熟考する必要がある。タイミングを外せば一巻の終わりだ。

 

『悠吾、地人じびとの動きが止まってる!』


 閃光が落ち着いた後、多脚戦車パウーク達の方向に視線を移した小梅が叫ぶ。目を覆い、もがいている地人じびとの姿が悠吾の目にも映った。

 次は多脚戦車パウークだ。

 悠吾は、念じるようにECMグレネードを握り、勢い良くピンを外すとそれを多脚戦車パウークめがけ投擲した。

 カン、と多脚戦車パウークに当たった音が響いた後、パシュンという比較的大人しい音が聞こえた。


『どうだっ……!』


 小梅の側へ駆け寄り、祈りを込め悠吾が多脚戦車パウークを見る。


 ──効いている。

 やった。


 旧式の兵器と違い、明らかに電子制御され、遠隔操作によって各武器が稼働するように作られているハイテク兵器という事が逆にアダになった。

 ガクガクと、まるで痙攣のように身を震わせる多脚戦車パウークに悠吾は思わず歓喜の声を上げそうになってしまった。


『行きましょう、小梅さん。今のうちに』

『う、うん』


 僕達に銃口を向ける敵は今の所居ない。

 そう思った悠吾達が岩影から身を乗り出したその時だった。


 辺りに響いたのは多脚戦車パウークの50口径重機関銃の恐ろしい射撃音──


『なっ……!』


 思わず悠吾が小梅を押し倒す様にその場に伏せた。

 まさか効かなかった? 

 悠吾は背筋に冷たいものを感じた。

 が、悠吾と小梅の目に飛び込んできたのは変わり果てた多脚戦車パウークの姿だった。


『大丈夫よ悠吾! ほらっ!』

『……やった! 地人じびとを攻撃してるっ!』


 悠吾の狙い通りの状況が起きていた。

 ECMグレネードのジャミング効果によって、標的設定がリセットされたのか、多脚戦車パウークの砲塔に設置された50口径重機関銃がぐるぐると回転し、周囲に居る地人じびとに対し斉射を行っていた。


『よし、よしっ! 行きましょう、小梅さんっ!』


 行ける、このまま行ける。

 そう判断した悠吾は小梅の手を取り、飛び起きると数十メートル先に見える坑道に向かい走り始めた。


『通常のECM兵器と違って、ECMグレネードのジャミング効果はそう長くないはずです。急ぎましょう』


 グレネードが一時的に発した妨害電波はすぐに消えてしまうはず。その効果が消えるまでに、あの多脚戦車パウーク地人じびとを全員倒してくれればベストなんだけど。

 そう思った悠吾だったが、現実は甘くなかった。


 フラッシュパンによって動きが止まっていた地人じびとを次々となぎ倒していた50口径重機関銃が突然静まり返った。

 50口径重機関銃だけではない。多脚戦車パウーク自体も突如、まるで電源が落ちたかのように動きを止め、砲塔を支えていた4本の足が傾いた。


『あれ? ……壊れた?』


 悠吾が足を止め、楽観的な言葉を呟いた。

 停止し、傾き、地面に突っ伏すような体勢になった多脚戦車パウークは沈黙を続けている。まるで目の様に光っていた部分も黒く落ちている。


『……かな?』


 でも、なにもしてないけど。

 

『兎に角、行きましょう。構っている暇は……』

 

 無い。

 そう言いかけた悠吾の目にまたしても絶望が飛び込む。


 キュウ、と何か電源が入るような音が聞こえたかと思った次の瞬間、息を吹き返した様に多脚戦車パウークが起き上がった。

 4本足のアクチュエーターに動力が灯り、巨大な砲塔が目を覚ました。


『うッ!』


 その姿を見た悠吾の脳裏にぞわぞわと恐怖が這い上がってきた。

 ECMへの対抗手段。確かそのようなものがあった。正常機能を復活させるために、一度電源を落とし、周波数を変更する。

 悠吾がそれを思い出した瞬間、多脚戦車パウークの砲身がこちらに向いた。

 

「小梅さん、伏せてッ!」

『えっ?』


 肉声でそう叫んだ悠吾はとっさに小梅を突き飛ばした。

 と、同時に多脚戦車パウークの152mmの砲身から赤い光が放たれた。


「……ッッ!!!」


 その瞬間、何が起きたのか悠吾には判らなかった。

 背後から襲った衝撃と、舞い上がる砂塵。爆発音のような、叫び声のようないろんな音が混じったノイズのような音が悠吾の耳を襲う。吹き飛ばされた身体は何処を向いているのかすら判らない。

 

「がっ……はっ!」


 地面にたたきつけられると同時に、悠吾は肺の中の空気を全て吐き出した。

 息が出来ない。体中が痛い。

 トレースギアを見るまでもなく判る。致命傷だ。


「悠吾ッ!」

「こ、小梅さん、大丈夫ですか……」


 駆け寄ってきた小梅に悠吾は弱々しく言葉を返す。

 

「ば、ばかッ! それはこっちのセリフ!」

「そ、そうですね」

 

 小さく咳を繰り返しながら悠吾が身を起こす。

 さっきのは対人用の成形炸薬弾だ。多脚戦車パウークの再起動から直ぐの射撃だったから、ポイントが少しずれてしまったのか、僕達のはるか後方に着弾したみたいだけど、受けたダメージは大きい。

 背後に出来た巨大なクレーターを見ながら悠吾は慄いた。


「てか、なんであんなすぐにこっちに攻撃してきたわけ? ECMグレネードってそんなに効果短いの!?」

「いえ……」


 操縦士が機能の微修正を行っているのか、こっちに砲撃を加えた後多脚戦車パウークは静かに目の前に佇んだままだった。

 小梅の肩を借り、立ち上がりながら悠吾が続ける。


「あれは、ECMに対抗する方法です。機能を一旦停止させ、再起動させたんです」

「……って事は」


 多脚戦車パウークは今まで通り、こっちに攻撃してくるって事? 

 青ざめる小梅に悠吾はひとつ頷くともう一度手を取り、よろよろと走り始める。


「逃げましょう小梅さん……! もう走るしか無い……!」

 

 もう一つ残ったECMグレネードを投げようかと悠吾は考えたが効果があるか判らない。また一時的に動きを止めたとしても同じように再起動されて終わりだ。

 その短い時間であの坑道に入り、姿を隠すのは無理だ。


「走るって……! ち、ちょっと悠吾! 多脚戦車パウークが!」

「くそっ!」

  

 微修正を終えたのか、多脚戦車パウークが動き出す。一瞬で終わらせるつもりなのか、砲身だけではなく、50口径重機関銃とズーニー・ロケットまでもこちらに向けているのが悠吾に見えた。

 マズイ、マズすぎる。

 先ほど成形炸薬弾が運良くそれたけど、微修正を行った今回はそうはいかないだろう。それにあの高レベル中隊アライアンスを仕留めたズーニー・ロケットの斉射も来る。


「何やってんのよ悠吾! こんな時に!」

「か、考えているんですよ!」 


 瞬間的に両手を合わせ天を仰ぐ悠吾に思わず怒鳴る小梅だったが……悠吾に解決策は何も生まれなかった。

 こちらを追う多脚戦車パウークの砲身がこちらを捕らえ、黒い点になった。

 来る。

 悠吾が絶望したその時だった。


『標的、多脚戦車パウーク! 制圧射撃ッ!』

『……ッ!』


 突如悠吾と小梅の耳に届く、聞きなれない小隊会話パーティチャットの声。

 その声と同時に銃弾の雨が多脚戦車パウークに降り注ぐ。ダメージは無いものの、突然浴びせられた弾丸に多脚戦車パウークが怯み、索敵するように砲塔を旋回させた。


「た、助かった! けど、今の……」

「だ、誰だろう」


 判らない。ここに居ない小隊パーティメンバーはトラジオさんだけだ。だけど今のはトラジオさんの渋い声じゃない。

 トレースギアの小隊パーティメニューを開くが、やはりそこに表示されているのはトラジオだけだった。だが、1つ違いがあった。

 トラジオの横に書かれた現在位置。そこに表示されていたのは同じ地下3階。


『悠吾! 小梅! 無事かッ!』

『……ッ! トラジオさん!!』


 続けて悠吾の小梅の耳に届いたのは力強く、そしてすでに懐かしい男の声。

 トラジオさんだ。

 思わず悠吾と小梅は顔を見合わせ笑顔をこぼした。


『脱出するぞ! 2時の方向、足場を使って上がって来い!』


 2時の方向。そこにあったのは、木製支保で組まれた高い場所の坑道に昇るための足場だった。

 そしてその上、小さな坑道に居たのはトラジオと……見知らぬ男の姿。


『君たちが悠吾君と小梅さんだね。僕達が支援射撃を行っているうちに、早くこちらへ!』

『は、はい! ええと……貴方は……』


 と、悠吾の言葉を遮るように、別の坑道から凄まじい射撃音が轟いた。

 まるで爆発音のような凄まじい音だ。


『……サポートする。逃げろ』


 別の声が小隊会話パーティチャットで悠吾達の耳に届く。

 女性の声だ。多分先ほどすごい音で射撃をした人だろうか。

 きょろきょろと辺りを見渡した悠吾の目に届いたのはトラジオ達とは逆側の坑道に寝そべり、狙撃銃を構えるプレイヤーの姿。

 あの人が構えているあれはフランスのプレシジョン社が開発している対物ライフルのPGMヘカートIIだ。同社の最大口径の銃で、重機関銃弾薬である12.7mmの弾丸を2km離れた標的に命中させることが出来る恐ろしいライフルだ。

 

『ト、トラジオさん、彼らは……?』


 小隊パーティメンバーリストには載っていない。けど、小隊会話パーティチャットができている。それって……


『僕達は貴方達と敵対するユニオンプレイヤーです』

『……ッ!?』

『……なんですって!?』


 男の声に小梅が思わず声を荒らげた。

 そうなんじゃないかと少し思っていた。だって、この廃坑に同じノスタルジアのプレイヤーが居るわけない。でもどうして僕らの援助を?


『安心しろ、悠吾。彼らは味方だ。この廃坑を脱出するまでは、な』


 トラジオの言葉に再度悠吾と小梅は顔を見合わせる。

 よくわからない。けど、あの多脚戦車パウークを攻撃していることから、僕達のサポートをしてくれるということに間違いはないらしい。


『……早く行け』


 どうするべきか一瞬迷ってしまった悠吾と小梅に小隊会話パーティチャットで再度女性の声が届く。

 そうだ、理由はわかないとしても、今は逃げないと。


「行きましょう、小梅さん!」


 悠吾の言葉に小梅が頷くと、2人はトラジオが言った足場へと走りだした。

 2人の急かすように、女性が構える対物ライフルPGMヘカートIIが再度雄叫びを上げた。

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