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第147話 故郷の地へ その2

 この時期には珍しい空を覆い尽くした分厚い雨雲が湿った空気を放ち、ラウルとヴェルドの国境付近に待機している2人の間を冷たく吹き抜けていった。


「ねぇ、どう思う?」

「……どう、とは?」

「タオの奴、またこのまんま見捨てるつもりかな?」


 交戦フェーズが始まり、無人になった国境のヴェルド側からラウルプロヴィンスを見つめながら、情報屋「百舌鳥」のリーダー、クイナが傍らで同じようにラウルプロヴィンスに視線を送っている雨燕にそう問いかけた。

 いつも飄々とした雰囲気で、思ったことを口にだしてしまうクイナだったが、今日は特に刺があると雨燕は思う。

 理由は簡単だ。ノスタルジアが滅亡した交戦フェーズの時と同じく、ヴェルドのGMゲームマスタータオがノスタルジア・ラウルへの援助に踏みきれず、二の足を踏んでいるからだ。

 そして、雨燕もまたクイナと同じ心境だった。


「タオはそのつもりかも知れない。すでに西部のラウルプロヴィンスはユニオンの手に落ちたらしい。敗戦濃厚の戦に参戦するほどタオはお人好しじゃない」


 交戦フェーズが始まり、タオから出された命令は「国境を守れ」だった。

 GMゲームマスターからラウルに協力する許可がでていない以上、ヴェルドに所属するプレイヤーは誰も国境を越えることができず、例え目の前でラウルプレイヤー達がやられようとも手出しをすることは出来なかった。


「東方諸侯連合も動いてないらしいじゃない。バルバスが口添えに行ったんじゃないの?」

「私もそう聞いているが、彼らも動いていない。……理由はヴェルドと同じだろう」


 ヴェルドと東方諸侯連合、共にラウル・ノスタルジアと共闘し、ユニオンへ攻撃を仕掛ければ十分勝機はあるはずなのに彼らはお互いがお互いの動きを注視するのみで先に動こうとはしていない。

 ヴェルドも東方諸侯も己の利害の事しか考えていない。だからこそ、彼らは動かない。

 

『クイナ、雨燕、国境の状況はどうだ?』


 雨燕が小さく溜息を漏らしたその時、中継機ルーターによって通信範囲が増強された小隊会話パーティチャットが届いた。

 その声の主は他でもない、ヴェルドのGMゲームマスター、タオの声だった。


『動きは無い。ラウルが陥落していない以上、動きは無い』

『判った。そのまま待機せよ』

『……ちょっと待って、タオ』


 雨燕とのやりとりを静観していたクイナだったが、そのまま会話を終わろうとしたタオに思わず食って掛かる。


『一体どうなってンのさ? いつあたし達はこの国境を越えてラウルとノスタルジアを助けに行けるワケ?』

『……未だ答えは出ておらぬ。ヴェルドの総意として彼らを助ける結論には至っていないのだ』

『総意って……あんたがこの国のリーダーでしょ!?』


 もっともな意見をクイナが吐き捨てる。


『全員の意見を合わせるなんてどんなに時間をかけても無理に決まってる。他の奴らの意見を聞いて、最終的に決断すンのはあんたでしょ』

『……』


 クイナの言葉にタオは何も返さなかった。

 タオの中で多少なりともどう立ち回るべきかの答えがででいたからだ。どう動いてどう立ち回ればヴェルドとヴェルドに所属するプレイヤー達が生き残っていけるか。

 ──損得で考えれば、敗戦濃厚なラウル・ノスタルジアに加勢するべきではない、と。


『クイナ』


 と、また別の声が静かにクイナと雨燕の元に届いた。

 

『バルバス?』

『イースターエッグがクラウストの手に渡りつつあるらしい』

『……なんだって!?』


 驚嘆の声を上げてしまうクイナ。傍らで会話を効いていた雨燕もまた驚きを隠せなかった。

 恐れていた事が現実になった。現実世界に戻るための鍵であるイースターエッグがクラウストの手に渡る──

 それはつまり、この世界でユニオン連邦に誰も逆らう事ができなくなることを意味する。


『東方諸侯も動かない以上、その状況でユニオンに歯向かうのは愚かな者がやることだろう』

『それはあんたの意見? それともタオの意見?』

『……両方だ』


 苛立ちが滲むクイナの言葉に、バルバスは冷ややかにつき返した。

 普通に考えればその結論に至るのは普通だろう。だがクイナには納得がいかなかった。


『……ヴェルドはユニオンに「肩入れ」するって言う事?』


 バルバスではなく、タオに対し問いかけるクイナ。

 そしてタオは静かに言葉を返した。


『……それが総意なのだ、クイナ』

『ッ!! 馬ッ鹿じゃないの!?』


 激昂してしまったクイナの声が小隊会話パーティチャット内に響き渡る。

 そういう話が出ている事はなんとなく知っていた。歩み寄るべきだという意見が増えている事も。だけど、ユニオンの独裁の未来で待ち受けている事は簡単に想像できる。

 それこそ、バルバスが言う「愚かな者がやる事」じゃないの。


 クイナにとってユニオン連邦という国家は、最も嫌悪し、不愉快極まりない存在だった。

 元々彼女は南方の小国、ユニオンの謀略で吸収されてしまったリーフノットに所属するプレイヤーだった。

 甘い言葉で擦り寄り、隙を見せた瞬間に背後から喰らいついたユニオン連邦。

 祖国を滅ぼした彼らに復讐する事がこの世界でのクイナの最大の目的であり、彼女が悠吾の提唱するアセンブリに参加した理由もそれだった。


『クイナ、そなたと今議論を交わすつもりは無い』

『この意気地なし……ッ!』


 クイナが身を震わす程の苛立ちに唇を噛み締めた、その時だ。


『バルバス、タオ』

 

 小さい声がクイナとタオの会話の間に割って入った。

 クイナの隣に立つ、雨燕だ。


『今、悠吾達が何処に居るか知っているか?』

『……悠吾くん? 交戦フェーズでユニオンと対峙していると思うが?』

『彼らが居るのは、狩場シークポイント「無花果の樹海」だ』


 無花果の樹海──

 聞きなれない名前に、バルバスとタオは沈黙を返す。


『……その狩場シークポイントが何か?』

『情報によれば、ユニオンプレイヤーの一部、例のブロッサムの街を襲った連中がその狩場シークポイントに向かったらしい。そしてその中にクラウストの姿もあるらしい』

『……ッ!? まさか!?』


 息を呑む声が雨燕の耳に響く。

 それは同じアセンブリに所属する情報屋であるクイナもバルバスも知らない情報だった。


『それって、ホントなの?』

『事実だ。クラウスト達が向かった場所、狩場シークポイント「無花果の樹海」にイースターエッグがある可能性が高い』


 そして悠吾達がその狩場シークポイントへ向かった理由──


『……悠吾くん達は……イースターエッグをクラウストから守る為?』

『違う。奴はそんな大層な理由で動く賢い男じゃない。悠吾はクラウストにさらわれた小梅を助ける為に単身乗り込んだ』

『……雨燕、そなたは何が言いたいのだ。そのプレイヤーが何なのだ』


 思わずタオが問いかける。


『悠吾は私にメッセージを送った。「皆を助けて欲しい」と。単身乗り込んだ自分ではなく、出来るならばユニオンと戦っている皆の力になってほしいと』

『……ッ』


 小隊会話パーティチャットの向こう、それがバルバスのものなのか、タオのものなのかは判らなかったが息を呑む声が聞こえた。


『バルバス、タオ、悠吾がトットラの街からノスタルジアGMゲームマスターのルシアナを救出したのは己の利益の為か? アセンブリを立ち上げたのは己の利益の為か? 竜の巣ドラゴンス・ネストで単身ユニオンと交渉に行ったのは己の利益の為か?』


 しんと静まり返った沈黙だけが小隊会話パーティチャットを支配する。


『奴は他人の為ならば己の命をなんとも思わん、馬鹿が付くほどのお人好しな男だ。だがな、私は……そんなお人好しで馬鹿な悠吾を助けたい。こんな殺伐とした世界でありながら──変わらなかった奴を助けたいのだ』

「……雨燕」


 思わずぽつりとクイナが驚嘆の声をこぼしてしまう。

 他人との関わりをあまり好まない雨燕がこれまで誰かを助けたいと語る姿をクイナは見たことがなかった。人との関わりを避け、独りで生きてきたからこそ、雨燕は単独ソロプレイを極める事が出来たプレイヤーだった。


『お前達がユニオンに肩入れして、悠吾やラウル、ノスタルジアを見捨てるというのならば、私はヴェルドを抜け彼らを助けに行く』

『……なッ!?』

  

 それは雨燕の決断だった。

 国として動かないというのであれば、私ひとりでも彼らを助けたい。

 そしてその言葉を聞いていたクイナも即座に言葉を紡ぐ。

 

『……あたしも雨燕の意見に賛同するよ。国がどうとか関係ないもんね。あたし達は人間だもん』


 そういって満面の笑みを投げかけるクイナ。

 そんな彼女に、仕方のないやつだ、と雨燕は呆れた様な笑みを返す。


『さぁどうする、バルバス、タオ。私は決断した。ヴェルドは……お前達はどう動く?』


 最後の問いを雨燕は放つ。

 雨燕の瞳に映っているヴェルドの空。その空を覆っていた重苦しい雨雲の隙間から一筋、陽の光が差し込んでいた。


***


 ラウルの国境を越え、旧ノスタルジアプロヴィンスへと攻め入ったルシアナだったが、感じていた彼女の嫌な予感を具現化したような最悪の状況に陥っていた。

 手薄になっていた国境は軽微な反撃で切り抜ける事ができたが、ラウルの国境に一番近い拠点アルファは、遠距離砲撃が可能な野戦砲と迫撃砲、そして外壁に一定間隔で配置されていた短機関銃ライトマシンガンタイプのセントリーガンによって堅固な防御網が構築されていた。

 じっくりと攻略作戦を組む時間が無いルシアナは拠点アルファの防衛部隊に臆する事無く攻撃を開始し、1時間足らずで陥落させたものの、受けた被害は甚大なものだった。

 50名強だったプレイヤーの半数近くが失われ、そしてあろうことか──拠点アルファの陥落を聞きつけた各拠点の防衛部隊が拠点アルファへと急行し、ルシアナ達は拠点内に押し込められ包囲されつつあった。


「ルシアナ、素材がもう底を付いちゃったよ。弾薬生成も無理だ」


 重苦しい空気が立ち込める拠点の一室、ぽつりと小さくそう切り出したのは旧ノスタルジアプロヴィンスに侵攻するA軍集団に参加しているミトだった。

 解放同盟軍に残っていた素材は、拠点エコーの周囲に構築する地雷原を構築する為に機工士エンジニアの匠であるルルと共に拠点エコーに残してきていた。元々手持ちが少なかった生産素材はラウルの国境を越え、拠点アルファの攻撃でその全てを使い果たしてしまっていた。

 

「ルシアナ、攻撃は失敗だ。もう暫くすればこの拠点の包囲網が完成してしまう。唯一残った北部への隙間から脱出し、ラウルの拠点アルファを攻めているB軍集団に合流するべきだ」


 今は復興を諦め、ラウルを守る事を再優先に考えるべき。

 そう提言したのは、ミトと同じくルシアナとの席に同席しているロディだった。

 ロディがそう提言するに至ったには、プロヴィンス奪還を目的としたA軍集団の侵攻が頓挫している以外にも理由があった。ラウルプロヴィンスをユニオンに奪われる事を防ぐ為に、ラウルの拠点アルファにに向かったB軍集団の作戦も難航しているからだった。

 このままでは、プロヴィンスを奪い返す事もできず、ラウルは滅亡してしまう。


「攻めるにも守るにも、兵力不足というわけですか……」


 広げられた地図を見下ろし、頭を抱えるルシアナ。

 すでに仲間達に犠牲を出してしまっている。ここで中止してしまえば、彼らは無駄死にだ。このまま包囲網抜けて攻撃を続行する事が彼らの死に報いることなんじゃないか──

 だが、ルシアナはその考えをぐっと心の奥底へと押し戻した。


「……わかりました。侵攻作戦は中止。北部へ抜けラウルプロヴィンスへ戻ります」


 苦渋の決断だった。

 その決断が非難される可能性は高い。だけど、このまま続ければさらに犠牲者を増やした上に作戦は失敗してしまう可能性は高い。そうなれば、ラウルもノスタルジアも終わり──

 それだけは絶対に避けなくては駄目だ。


「部隊をまとめ、機械兵器ビークルで北へ一気に抜けます。ロディ、準備を」

「判った」

 

 ルシアナが下した決断をねぎらうように小さく笑顔を見せ、頷くロディ。

 と、その時だった。


 ひゅう、と上空から何かが落下してくるような音がルシアナとロディ達の耳に届いた。

 そして、その刹那──


「……ッ!!」


 凄まじい轟音とともに辺りが大きく揺れた。空気がビリビリと震え、何かに捕まっていないと立っていられない程の衝撃がルシアナ達を襲う。


「ななな、何!?」

「こ、これはッ……!」

「榴弾砲による砲撃だ」


 慌てふためくミトとは裏腹に、ロディが冷静に返す。

 榴弾砲は大砲の一種で、カノン砲と比べ砲身が短く、初速が低い砲弾を高仰角で放つ野戦砲だ。初速が低く、砲身が短い為射程が短いというデメリットがあるが、軽量でコンパクトな為持ち運びが容易な兵器だった。


「砲撃で消耗させて一気にくるつもり?」

「だろうな。榴弾砲で砲撃を加えて来たということは、直ぐ近くまで奴らが来ている事になる」


 慌てるミトにそう答えるロディ。

 彼女らの会話を聞き、ルシアナは唇をきつく噛み締めた。

 事態は刻一刻と悪化してきている。攻撃を開始したということは、彼らの包囲網は完成したということになる。つまり、私達は──離脱するタイミングを逃してしまった。


『オイ、ルシアナッ! 奴らが来るッ!』


 ルシアナの焦りを象徴するように、ルシアナ達の元に慌てふためいた様な声が届いた。

 周囲警戒に当たらせていたレオンだ。


『落ち着けレオン。具体的な敵の数は?』

 

 続けざまに届くレオンの声にロディが答えた。

 レオンは確か南側の歩哨に当たらせていた。南側からは北方以外の三方向に視界が確保されているはず。来るならどちらだ。南か、それともユニオンの本国方向である東か──


『全部っスよロディさん! 三方向……いや、多分北からも……』

『なんだと?』


 と、レオンの小隊会話パーティチャットを遮るように、再び榴弾砲の砲撃が始まる。

 先ほどは東側を狙った砲撃だったが、今度は着弾点がずれ、中央から西側へと榴弾の雨が降り注ぐ。


『レオン、無事かッ!?』

『……やべェっスよ、ロディさん! このままじゃ全滅しちまうッ!』


 小隊会話パーティチャットでは声以外の音声は届かない。

 だが、レオンの声からすでに彼らが戦闘を開始したことがロディには判った。

 

「すでに防御壁近辺で戦闘が始まっている。どうするルシアナ」

「……包囲網が完成しているとしても、北側は手薄なはずです。皆を集めて北へ脱出します」


 それが出来るう最良の策。

 だが、悪化する状況はさらにルシアナに過酷な試練を与えた。

 

『報告! 機械兵器ビークルが大破しましたッ!』

『……なんですって!?』

『榴弾砲の直撃を受け、大破10、中破5ッ! 稼働可能な機械兵器ビークルは3両です!』


 ここに来て──

 届いた報告に苦悶の表情を浮かべてしまうルシアナ。

 動けるのは3両。であるならば、包囲網を突破し、ピストン輸送を──


「駄目……ッ」


 ルシアナは力が抜けたように項垂れてしまった。

 包囲網を何度も往復するなんて出来るわけが無い。


 ……万策尽きてしまった。

 苦い表情のルシアナに、その場に居た誰もが終わりを察知した。

 ──その時だ。


「な、何!?」

「……北側?」


 榴弾砲の砲撃ではない、何か別の凄まじい爆音がルシアナ達が居る拠点を襲った。

 地面の奥底から揺れる様な、重く、芯に響く爆音だ。

 

『状況を!』


 即座にルシアナが歩哨達に小隊会話パーティチャットを送った。

 ユニオンが用意した機械兵器ビークルは全て前線に運ばれたとバームさんから連絡があった。残っているのは榴弾砲のような軽い兵器だけのはず。

 でも、この爆音は──機械兵器ビークルの戦闘音に近い。

 

『……うそだろっ、マジかよッ!?』


 一瞬の間を置き、驚愕したレオンの声がルシアナ達の耳に届いた。


『良くわからないぞ、レオン。何が起きた!?』

『……来たッ!! 奴らが来たんスよぉぉぉッ! ロディさん!!』

『何が来たのだ!? 敵の機械兵器ビークルかッ!?』


 だがレオンの声は危機的状況のそれとはまた違う興奮に包まれているようにロディには感じた。

 一体何が起きているのか判らず、顔を見合わせる3人。


『味方っスよ! 味方の航空機械兵器エアビークルが北から来たんスよッッ!!』

『……ッ!? まさか!?』


 現れるはずのない援軍に、「来たから北」ってどういう意味なの? と混乱気味に慌てふためくミト。

 そしてルシアナとロディにはその情報自体が信じられなかった。


『レ、レオン、私達以外に味方はいない。見間違いではないのか』

『ロディさんっ! この際、奴らが敵でもなんでもいいっスよ! でも現実、目の前で航空機械兵器エアビークルがユニオンの糞野郎共を蹴散らしてるんスからッ!!』

『……ッ!!』


 その報告に思わず駈け出したルシアナとロディ。

 防御力に優れた防御拠点トーチカから、視界に優れた司令塔へと駆け上がる。

 そして辿り着いた司令塔の頂上、榴弾砲の直撃を受け、吹きさらしになってしまっている窓枠の向こう、空に舞う幾つもの航空機械兵器エアビークルがルシアナ達の目に、確かに映った。

 輸送ヘリとは違うスマートなシルエット。そして両サイドのスタブウィングに装着されているのはミサイル──


「ヘルファイア対戦車ミサイル……ローターに付いた『鏡餅』……あれはロングボウ火器管理レーダーを搭載した攻撃ヘリコプター、アパッチ・ロングボウだ」


 ぽつりとロディが漏らす。

 ユニオンが好んで使っているのはソ連製の兵器だ。

 そして私が知る内で、米国製のアパッチ・ロングボウ攻撃ヘリコプターを好んで使っている国家はただひとつ。


「ヴェルド共和国──」

「まさか……ッ!!」


 上空に現れた天使は間違いなくヴェルド共和国の航空機械兵器エアビークルだった。

 空を舞うアパッチ・ロングボウから放たれたヘルファイア対戦車ミサイルが拠点を包囲するユニオンプレイヤー達に襲いかかり、火柱を次々と立てていく。そしてその様を見て、歓声を上げるノスタルジアプレイヤー達。

 その光景はどこか現実離れしているような感覚だった。


「ルシアナ、ヴェルドが動いたということは、東方諸侯連合も動く可能性が高い。……行けるぞ」


 ユニオンからプロヴィンスを奪い返し、ノスタルジア王国を再建出来る。

 ロディのその言葉に、ルシアナは込み上げてくる想いを抑えきれなかった。


 ほんの少し前までは実現不可能だと心の何処かで諦めかけていた事だった。ノスタルジアが滅亡し、亡国者の称号を与えれた私達はこの世界で生き抜く事が出来ないと、考えたくなくても考えてしまっていた。

 でも、悠吾くんは……皆は諦めなかった。皆が居たからここまで来れた。

 そしてそれは今、現実のものになろうとしている──


「行こう、ロディ! 皆と……ッ!」


 静かに囁くルシアナ。

 司令塔を吹き抜ける風にきらめく髪が揺れ、そして彼女の頬からしずくが一つ風に乗り、ノスタルジアの空へと放たれた。

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