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第128話 旅立ち

お待たせしました!いよいよ最終章スタートです!!

毎日更新でお送りします〜!!

 右も左も判らない暗闇の中、ぼんやりと浮かび上がっている扉の前で誰かがこちらを見ている。

 見たことも無い白ひげを蓄えた──初老の老人だった。

 何処か冷たくもあり、暖かくもある不思議な感じがする。


「この扉を開いてはならん」


 老人は小さく、掠れた声で囁いた。

 その錆びついた巨大な扉を守るように、扉の前でこちらをじっと見つめたまま。

 

「この場所へ来る事が君の定めだとしてもだ」


 その声が消えると同時に、すう、と老人と扉の輪郭が曖昧になった。

 その老人の姿が目に映っているのか、それとも肌でその存在を感じているのか判らない。

 まるでノイズのような靄が視界を覆い尽くし、次第に黒く、深く落ちていく。


 突如として得体の知れない不安が襲った。 

 その不安を払いのけようと喉の奥から悲鳴を上げたが──声は出なかった。

 そこに居たはずの老人に助けを求めようと駆け寄るが、足がうまく動かない。


 待って──

 

 じゅくり、と熱を持った疼きが心を貫く。

 次第にどくどくと鼓動が早くなっていくのがはっきりと判った。


 置いて行かないで──


 もう一度喉を震わし、声を出そうともがいたが結果は同じだった。


 老人と錆びた扉が忘却の彼方にふわりと消え去る。

 そして同時に、不安は消え去った。

 目の前から老人と錆びた扉が消えると同時に──確かに目で見て、耳で聞いた老人と扉の記憶が光の粒に変わり、消えていったからだ。


 暗闇の中に残っているのは寂しさ。

 独りになってしまったという、胸を締め付けるような寂しさだけが、そこに残っていた。


***


 ごう、と燃え盛る炎の熱が風に乗り悠吾の頬を撫でていった。

 じり、とその熱が悠吾の肌を焼き付けたが、痛みは既に感じない。感じている暇など無かった。


 小梅さんはあの黒服の連中に連れ去られてしまった──


 崩れ落ちたプライベートルームを前に最後の希望が絶たれ、絶望してしまった悠吾だったがアムリタのその言葉に全身に力が湧いてきたのがはっきりと判る。

 殺されたのではなく、連れ去られたということは──小梅さんはまだ生きているということだ。

 奴らがこの場所を離れてそう時間は経っていない。

 このまま追いかければ、小梅さんを助ける事ができる──


 悠吾に迷いは無かった。  

 トレースギアから、小隊パーティメニューを開き、フレンド登録をしているトラジオに小隊パーティの参加依頼を出す。

  

『……トラジオさん』

『悠吾!』


 まるでそれを待ち望んでいたかのようにトラジオの返答は直ぐに返ってきた。

 悠吾は気づいていなかったが、工廠の長屋を離れた後、トラジオは小隊パーティの誘いを幾度と無く出していた。

 

『悠吾、今何処に居る!?』

『小梅さんが居たプライベートルームです』

『小梅は……?』

『連れ去られてしまいました。この街を襲った正体不明のプレイヤー達にです』


 淡々と事実だけを伝える悠吾。

 悠吾の頭に残っているのは黒い戦闘服を着た、赤い目のプレイヤー達。

 その正体を悠吾も、そして探索から帰還したトラジオ達もまだつかめていなかった。

 

『……本部に戻ってこい悠吾。小梅をどうするか、これからの事を決める』

『いえ、僕は戻りません』

『……なんだと?』


 思いもしなかった悠吾の一言に、トラジオが息を呑む。


『何を言っている? お前まさか……』

『僕はこのまま小梅さんを助けに向かいます』

『馬鹿な! 独りで向かうつもりなのか!?』

『やつらが向かっている場所はアムリタちゃんが知っています。それに、今から向かえば十分に追いつけるはずです』


 今は一秒でも時間が惜しい。

 そう言い放つ悠吾にトラジオは声を荒げる。


『駄目だ! この街の惨状を見ろ! 小梅を連れ去った奴らはお前独りでどうにか出来る相手ではない!』

『工廠のメンバーと小梅さんを命がけで守る事がルシアナさんから与えられた僕の任務でした。ですが、皆が犠牲になり、僕だけがこうして生き残っています』


 だから、今は小梅さんを助ける事が僕のやるべきことなんです。

 そう静かに続ける悠吾。


『……いいか悠吾、良く聞け。今生存者の捜索を続けている所だが、ざっと見積もってブロッサムの街に残っていた工廠チームの半数以上がやられた』

『……』


 トラジオのその言葉にぎゅう、と心臓が握りつぶされた様な気がした。

 喉の奥から苦い後悔の味が這い上がってくる。


『責任を感じているのであれば、まずは戻ってこい、悠吾』


 話はそれからだ。

 優しくささやきかけるトラジオのその言葉に悠吾は傍らで自分を見上げているアムリタへ視線を移した。

 確かにトラジオさんが言うとおり、一度みんなと合流して体勢を立て直した方が良いかも知れない。戦闘で受けた傷は未だ回復していないし、弾薬もそう多くない。ジャガーノートだってボロボロだ。

 でも……でも、時間が経てば経つほど小梅さんは手の届かない遠くへ行ってしまう。ヘタをしたらもう二度と会えないほどの遠くに──


『……すみません、トラジオさん。また連絡します』

『ッ!? 悠吾……』


 思いを断ち切るようにトレースギアから小隊パーティメニューを開き、悠吾は「小隊パーティからの離脱」ボタンをタップした。

 トラジオの声がぷつりと途切れ、破壊されたブロッサムの街に吹き抜ける風の音だけが悠吾の耳を撫でる。


 悠吾は最初からなんと言われようとも小梅を追うつもりだった。トラジオへ連絡を入れたのはこの大事な時期にブロッサムを離れる事への罪悪感からくるものだった。

 ノスタルジアの未来か、小梅の命か──

 悠吾が選択したのは、小梅の命だった。

 

「……オジサン?」


 悠吾の顔を心配そうに見つめるアムリタ。

 大丈夫と言いたげにその頭を優しく撫で返す。


「行こう、アムリタちゃん」


 そう言って悠吾は、残骸の固まりに帰したプライベートルームの直ぐ脇に止まっている半壊したハンヴィーへと歩き出した。 


 向かうはアムリタちゃんが聞いたという、あの黒服の連中が向かった先。

 ラウルとの国境にほど近いユニオン連邦が支配する街──クベタだ。

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