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たんとおたべ

朝は君の声で起きたいのです(12/11編集)

作者: 狂言巡

そういう表現はありませんが、一線は超えた仲です、という前提で進みます。

 永遠を信じてしまいそうな、果てを知らない空は、なにもかも呑み込むように大きな口をあけていた。

 朝起きて、カーテンを開けば雲ひとつ無い青空でした。よって本日の藤野葵、ついに例のことを決行しようと思います。


「かーずーさーん、おーきーてー」

「…………」

「……はあ」


 毎朝毎朝、季節関係なく、それこそ登下校の放送如く繰り返されるお決まりの会話。といっても、カズさんの方から反応が得られるわけじゃないので会話とは言えないかもしれない。完全にあしの独り言。

 ペシペシと、軽く布団と一体化したそれを叩いてみる。そこから強行な姿勢に出ないのは、なにも相手を恐れてのことでは無い……まあ、多少はそれもあるけどね。完全の夢の住人となっているツンギレピアスさんは、時々もぞりと動いたかと思ってもまだまだ起きる気配は無くて、それもまたホホエマシイ。とか思ってしまうあたり、あしもかなりヤバイよね……とか。


「朝ごはん出来たら起きてくださいねえ」


 そんなこんなで、今日もまた聞いてもいないだろうに声を掛けてうちはキッチンを目指す。今日の朝ごはんは、きのこたっぷりの炊き込みご飯ごはんとアサリの味噌汁ですよ、カズさん? だからさっさと起きやがってほしいですね。

 トントンと、階段を降りる音が妙に響く。ああ、こういう静かな朝っていうのも良いよね。カレンダー上でも休みで学校もアルバイトも無くて。それこそもっと寝ていることだって出来たのに、やはり習慣で起きてしまった。

 台所に立ってまず水道の青色のレバーを倒して水を流せば、まだ覚醒し切れていなかった躰を完全に起こすかのような冷たい感覚を手に感じた。念入りに手を洗ってから軽く手を振って水切り、まな板と包丁を出してお鍋に水を張って火にかける。昨日の夜の内に準備しておいた混ぜご飯の種を冷蔵庫から出すと、それを別のお鍋に入れてやはり火にかける。

 あ、そうだ、カズさんコーヒー飲むかな? 一応お湯も沸かしておこう。そんなわけでヤカンも火にかけ、現在三点同時進行。

 砂を吐かせるために昨夜から食塩水につけていたボウルの中では、アサリがパクパクと口を開いていて。それがなんだか面白かったから、食器立ての中にあった菜箸を一本引っ張り出して開いているアサリの口に突っ込んだ。案の定食いついたアサリに思わず笑みが零れる。すっごい反射神経とくいつきぶり。上で布団に包まっている誰かさんみたあい。

 というか遊んでばかりもいられないので(ってか食べ物で遊んじゃいけません)、冷蔵庫から味噌を取り出し、同時に混ぜご飯の種が入ったお鍋を開けて味付け開始。お玉片手にお醤油・お砂糖・お塩・みりん……日本のおかずって、大抵こんなもので作れるから不思議で奥深いのよね。とにかく慎重に味を見ながら加えていく……よし、こんなもんかな。というわけであとは煮込むだけ。

 ……一応もう一品くらい作っておくか。蓮根は皮をむかず、灰汁もぬかない。太いフライドポテトくらいの大きさに切って、オリーブオイルと塩胡椒をまぶして、オーブントースターで十五分ほど焼く。皮は全く気にならず、香ばしい。お酒が進むとカズさんが言っていた。

 あ、ヤカンのお湯も沸いたからそのままポットにGOで、こちらも片付いた。あとは味噌汁、アサリ投入……うわーすごくダシ出ているんだけど、これ結構良いアサリだったかも……そして火を消して味噌を入れば……完成。


「かーずーさーんー、起きてますう? てゆーかいい加減起きくださーい朝ごはんですよー」


 はい、反応なし。叩き起こすこと決定。あ、その前に今日の新聞とチラシを取ってこないと。カズさあん、上でのうのうと寝てられるのは後五分ちょっとなんですからね!

 外の郵便受けから今日の朝刊を取り出す。ああホント今日はいい天気だ、やっぱやるなら今日だよね、うん。新聞を開きながら、っていっても、うちが見るのはむしろチラシの方だけれど。あ、今日あそこのスーパー卵安いじゃない、買いに行かないとね。お一人様一パックだからカズさんにも買わせないと。……絶対拒否られるね。釣る餌を用意しておかないと。

 階段を昇って、わざとらしく大きな音を立ててドアを開いた。差し詰め気分は恐怖の大王だ。


「カズさんってば! もう起きて下さい。朝飯できたんだからいい加減に起きて顔を洗って」

「何だ……眠いんだよ……邪魔しな……れ」


 うわーすっごい不機嫌。いつものことだけど。


「せっかくアサリの味噌汁も作ったのに。カズさん、昨日食べたいって言っていたでしょ?」


 ちょっと残念そうなのがポイントだ。


「……ふん」


 あ、脈あり! あしって実は演技の才能あったりして? やっと、わずかに布団から顔を出したカズさん(上半身裸のままでスウェットだけ)は、朝日の眩しさにものすごく不機嫌そうに顔を歪めた。……なんかそんな顔されるとこっちが悪者みたいじゃない。


「カズさん」

「……わかったよ、オ・キ・マ・ス」

「うわっ、なんなのその態度は! (反抗的!)」

「何だ? 起きるのに、文句―――」

「無いです。さ、味噌汁冷めるから早く(このまま寝られても困るし)」

「……チッ……」


 モソモソと布団から這い出してきたカズさんはウンっと伸びをした後、欠伸をかみ殺した。ボサボサの頭を掻き回して階下へと向かってくれた。というか。ご飯は着替えてから食べようよっていつもうちは言っているんですが。聞いてくれませんか、そうですか。はい。

 ゆっくり部屋中に香ばしい香りが漂い始める。匂いがするとカズさんと一緒にいるような感じになるから、コーヒーが飲めないあしもその香りだけは好き。


「あおい」

「あ、え? 何ですか?」

「コーヒー……」

「ハイハイ」


 ご飯でもパンでも、カズさんの朝は一杯のコーヒーから始まるらしい。ノンシュガー、ミルク少し。これもお決まり。あしはご飯に鍋の中の混ぜごはんの種を混ぜながら。コーヒー片手に新聞を読むカズさんをチラリと盗み見る。

 ああ、こうして見るとやっぱカズさんって頭良さ気なんだ……実際、あしより良いんだけど。テストの時は大助かりですはい。ぼんやりまだ目の覚めてない感じで新聞を見るさまがこう……なんていうの? アンニュイな感じ?


「んだよ、人の顔ジロジロ見て」

「え? あーーゴメンね、何でも無い……(焦った」

「ふん……俺はまた何時もみたいに俺に見とれてたのかと」


 思っちゃいましたけど? なんて絶対わかっていてニヤリと微笑むから、このこの! エロ策士! 性質悪すぎだよ。ご飯をかき混ぜるしゃもじに余計な力が加わったのは仕方が無いと思う。あしがお椀に味噌汁をよそっている後ろでククッと笑うから、うぅ手ぇ震えてしまう。

 集中、集中と心に念じて……その時点で集中してないって突っ込みは置いといて。なるべくアサリの身が貝から離れないように注意しながら味噌汁をよそっていると、背後にフッと人の気配。ハッと気づいた時には背後から覆い被さるような温度と。あしを囲むようにシンクの縁に置かれた手、手。


「かずら……」

「ひゃぁああ、何なになんなの?(そもそもどうしてこの人は何時も背後に立つの、忍者?)」

「(面白ぇコイツ)……早く……しろよ?」

「わわわ、分かってるから(耳元で、耳元で!)」

「早くしないと……」


 そう言ってカズさんは耳元でフゥと溜め息をついた後、


「     」


 ガシャン。

 ああ、愛しのアサリちゃん……一食分無駄になっちゃった。今日の予定。そろそろコタツ布団を洗おうと思っていたんだけど(カズさんの協力の下)洗おうと思ってたんだけ……ど?

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