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天狗の仕業じゃ!  作者: ねこぢた
第1章:天狗と学園生活!?
9/15

『身代わり作戦』

今回はちょっとシリアスめに書いてみました。

 それはある日、俺が校舎裏へ用事があって立ち寄っていた時のことだ。

急に誰かの怒鳴る声が聞こえ、何をしているのかと、俺は声のする

方へ向かった。


 すると、上級生らしき三人組が俺と同学年の生徒から、何かを奪ってゆく

光景を目にした。おそらくはカツアゲ、今風にいえばいじめだろう。

なんて汚い事をする奴らだ、と思いつつも、自分は立ち向かう術を持たない

傍観者の一人に過ぎず、脅しを受けた彼を助ける事すら出来なかった。


 けれど、姿なら目に焼き付けたぞ。小柄で気弱そうな顔、いじめの対象には

うってつけだ。そして、忘れてならないのが特徴的な眼鏡のフレーム。

銀縁で長方形に(かたど)られたあのフレームなら、見間違うことはほぼない。


 俺は踵を返して足早にその場を去り、早速鈴音に事の顛末を話した。


「まあ、それはお気の毒に……」

「だろう?だから俺、彼の代わりにあの上級生たちを懲らしめてやりたいんだ。

鈴音、協力してくれるよな?」

「私は晃儀様の命に従います。ですが――」

「? 何か問題でもあるの?」

「いえ、その……私が意見するのもおこがましいのですが

件の生徒さんがそれを望んでおられるのか、確かめてみては如何でしょう?」

「なんでそんな回りくどい事を!助けて欲しいに決まってるだろ!」

「私の「心音」で、その方の真意を探ります。一度会わせて下さいませ」

「……」


その時の、鈴音の真剣な眼差しが今でも目に浮かぶ。

 後日、俺たちは被害を受けた生徒を虱潰しに探し回り、漸く放課後に

落ち合う約束をするまで漕ぎ着けた。

我ながら、かなり無茶な行動であったと反省しているが、(なり)振り構って

いられなかったのもまた事実。悪い芽は、まだ若いうちに摘み取って

おかなければ。


 俺と鈴音が教室で待っていると、見覚えのある銀縁眼鏡の彼が

おどおどしながら入って来た。


「あ、あの……秋葉君、ですか?」

「ああ、俺が秋葉だ、宜しく」

「僕は許斐寿喜(このみとしき)といいます。初めまして。

早速ですが、本題に移らせてもらっても……構いませんか?」


握手を交わした俺は、待ってましたとばかりに許斐君へと近寄る。

鈴音の能力がばれないように配慮した結果だ。

その間、鈴音は彼の方を向き、「心音」で本音を探る。


「実は、僕の父が働いている会社の上司に当たる方の息子が、あの先輩なんです」

「うわ、そりゃあ複雑な問題だな……」

「はい……日に日にお金を要求してきては『金を渡さないとお前の親父を

クビにするぞ』と脅されて……ううっ」

「安心して、絶対に俺が止めてやるから!

おーい鈴音、どうだった?」


俺は、泣きそうになる許斐君を落ち着かせて、鈴音の方へ顔を向けた。

すると、鈴音は難しい顔をしている。何か問題でもあったのだろうか?


「おい、鈴音?」

「……あっ、申し訳ございません!」

「それで、彼の「心音」は?」

「間違いありません。助けを求める声が犇いておりました」

「よし、言質は取ったな!」


俺は許斐君の方へ向き直り、彼に言い聞かせるように話す。


「許斐君。見ず知らずの俺に頼るのは不安だろうけど、俺も無策で

そいつらに挑もうなんて思っていない」

「え?じゃあ……」

「俺に良い考えがある。後は任せてもらえないかな?」

「で、でも、そしたら君がどうなるか……」

「大丈夫、引き際は弁えてるつもりだから!

危なくなったらダッシュで逃げるよ。俺、逃げ足には自信あるんだ」


心配する許斐君をよそに、俺はにかっと笑いかけた。

その様子に安心したのか、ありがとうございますとだけ言って

許斐君はその場を後にした。


「うーん、やっぱ良い事するのは清々しい気分になるよな!なあ鈴……」

「晃儀様、一寸宜しいですか?」

「……どうしたの?そんな真剣な顔して」

「よくお聞きになって下さいませ。

先程の「心音」、確かに嘘偽りは含まれていないと思います。

ですが、気になることが一つだけ……」

「気になること?」



 その次の日の放課後――俺は校舎裏で、上級生たちが来るのを待っていた。

時間はもう午後三時を回ろうとしていた頃だろうか。向こう側から

やって来る複数の人影を確認した。


(よし、手筈どおりに行くぞ)


俺は今にも震えそうな足に力を入れて、相対する姿勢を整えた。

そうだ、俺には鈴音がいる。ちょっとやそっとの非常事態は……


「あぁん?アイツかぁ?例の野郎ってえのは」

「そうらしいぜぇ?態々一人でご苦労なこったなぁ」

「ッヒヒヒ、ほんとに一人で来るなんて馬ッ鹿じゃねーの?」


あ、あれ……?おかしいぞ?

 人影が、ひとつ、ふたつ、みっつ……ここから見えるだけでも

五人はいる!?

どういうことなんだ?あの時は三人「しか」いなかったのに――


「さぁーて、秋葉くん、って言ったっけかなぁ?

俺達に用があるんだって?早く済ませて帰りてえんだけど?」


(え!?なんで俺の名前を?)


動揺する俺をよそに、四方からぞろぞろと不良じみた連中が

やって来る。その数、ざっと十人以上。

それぞれが、手に金属バットや木刀などを手にしている。

その光景に、俺は狼狽えるしかなかった。


「あ、ああ……」

「あぁん?どうしたんだよ、まさかビビってんのかぁ?」

「「俺が何とかする」とか調子こいてたっていうから、どんな奴かと

思って来てみりゃ……只のチキン野郎かよ?」

「早くシめて帰ろうぜぇ?時間のムダってもんだ」


(こいつら、どうして俺が話していたことを……まさか、許斐君が!?)


と、一抹の不安に襲われていた俺だったが、直後に衝撃の真相を

目の当りにする。


「おーい寿喜くん、こいつ一人で来やがったんだけど」

「あっははは!本当に?大層な正義感だねえ」


(え……?どういうことだよ、これ!?)


不良たちをかき分けて現れた、小柄で銀縁眼鏡をかけた男子。

間違いない、彼は許斐君じゃないか!


「まさか目撃者がいるなんて露ほども思わなかったけれど、本人自ら

やって来てくれて手間が省けたよ。ありがとう、秋葉君」

「ど……どういう事だよ!君は脅されて仕方なく……」

「あははは!まだそんな安い芝居を信じてるのかい?」


許斐君の表情が、今までの弱気なものから一変して哀れむような顔を作る。

状況が飲み込めないままの俺は、その場に立ち尽くし、彼の言葉に

耳を傾けるのが精一杯だった。


「最期に教えてやるよ。僕は「脅されていた」んじゃない、「結託」していたんだ。

彼ら不良生徒たちとね!」

「な、なん……だって……!?」

「滑稽だねぇその顔!まるで裏切られたかのようじゃないか!

けれど、君は始めから『邪魔者』だったんだよ、秋葉君!」


許斐君の言葉を皮切りに、周囲の不良たちも口々に声を上げ始めた。


「まったくだぜ!俺たちは寿喜くんから「いつも通り煙草を受け取ってた」

だけなのによぉ!」

「てめえに話したことは、半分ホントで半分ウソだったんだぜぇ?ヒャハハ!」

「実際は寿喜くんの方から俺たちに近づいたんだよ。寿喜くんの親父は

結構な資産家だそうだが、躾が厳しいらしくってなあ!イライラが溜まって

爆発しそうだったんだとよ!」

「そこで、ちょっとしたストレス解消のために親父の金を使って、俺たちと

取り引きしてくれるようになったんだ。今では助かってるぜぇ?」

「つまりだ、俺たちは簡単に言やぁ、寿喜くんの『用心棒』ってワケだ。

分かったか?ヒーロー面したカン違い野郎さんよぉ!」


そこまでにしておけ、と、許斐君が不良たちを制する。

したり顔でこちらを見つめる許斐君に対して、俺は為す術がない。


「さて、君にも大体理解出来ただろう?これ以上の問答は無意味だ。

君には暫く大人しくしてもらわないとね。君と同じく、この現場を

運悪く見つけてしまった奴らのように……」


不良たちが、手にした得物を構える。

絵に描いたような絶体絶命の構図。しかし、俺はこのタイミングを

逃さなかった。



「今だ!鈴音ーーっ!!」


後ろの草陰から姿を現した俺が合図したと同時に、不良たちに

囲まれた「俺」が輝きを放ち始める。


「なっ……何ぃ!?」

「はぁあ!?どうして、あいつが……」

「二人いるんだよぉお!?」


許斐君とその他大勢が目の当たりにしたのは……「俺が二人いる」という

まるでマジックの類いを見せられているかのような絵面だった。


突然の出来事に、面食らって身動きが取れなくなった不良たち。


「……やはり、そのようないきさつだったのですね」


輝きが弱まってゆくにつれて、かれらの目の前に現れたのは一人の

美少女――「空蝉」を使い、俺に化けた鈴音だった。


「な、なんだこの女!?いきなり現れやがったぞ!?」

「お、お前は……あの時秋葉君と一緒にいた!?」

「知ってるのか寿喜くん?あの女のこと……」

「そんな、お前は秋葉君の付き添いじゃなかったのか?」


狼狽え始める連中を見すえて、鈴音が淡々と言葉を発する。


「あなた方が大勢でいらっしゃったのですから、こちらもそれ相応の

準備をしてきたまでです。不満はございませんね?

私は晃儀様の『用心棒』、鈴音と申します。お見知り置きを」


よし、形勢逆転だ!

鈴音と目配せをした俺は、とばっちりを喰らわないよう校舎裏から

退避する。


「あっ!あいつ逃げやがった!」

「追うぞ!」

「晃儀様を危険に晒すようなことは、許しておけません!」


いち早く俺が逃げたことに気づいた不良たちを、鈴音の「神風」が襲う。

今回は彼女も本気らしく、勢いよく二メートル程巻き上げられた不良たちは

カエルにも似た呻き声をあげて、地面に叩き伏せられる。


「なっ……何だよ今の!?ワケ分かんねえ!」

「こっのアマぁ!やりゃあがったな!!」

「手品かなにか知らねえが、相手は一人だ!

取り囲んじまえばこっちのモンだろ!」


と、残った不良たちが鈴音を中心に、円の形で飛びかかっていく。

されど鈴音は、奴らの数に頼った作戦を根本から否定するかのように

漆黒の翼を顕現させ、舞い上がった。

 結果は案の定、不良たちの同士討ちで幕を閉じた。

意外にもあっけない幕切れに、許斐君は呆然と立ち尽くしている。

そこへ、翼を顕現させたままの鈴音が歩み寄る。


「ひ、ひぃいっ!お、お前は一体何者なんだ……!?」

「ふふっ♪その言葉、聞き慣れておりますのでお答えできません♪」


余裕の笑みを浮かべつつ、鈴音は後ずさる許斐君に軽くでこピンした。

ふぎゃっ、と気の抜けた呻き声を発し、許斐君もその場に倒れ込む。

画して、俺たち二人の『身代わり作戦』は大成功に終わった。



 その後、許斐君以下不良たちをふんじばって風紀委員へ連絡。

後の処理は風紀と生徒会に任せ、俺と鈴音は学校から帰った。


「ナイス演技だったよ、鈴音!本当に俺かと思うくらいに!」

「ふふっ、あの時の経験が活きました♪晃儀様にも、お礼

申し上げませんとね」

「ああ、日曜日のあれか……役立って何よりだよ。

しっかし、よく許斐君の真意に気づけたなあ、鈴音」

「今回は偶然です。「心音」を行使した際に、僅かですが聞こえてきたのです。

彼が晃儀様を鬱陶しく思っている事、それを彼らに伝えようとした事を」

「けどすっげえよな!あれだけの不良相手に一人で勝っちゃうなんて!」

「そんな……大層な事ではございません。私は、晃儀様を守ろうと必死で――」

「うん、よく伝わってきた。あの時の鈴音、別人みたいだったからさ。

まあ、何はともあれ一件落着、だな」


俺が再び鈴音の方を向くと、なんだかもじもじしている。

心なしか、頬もピンク色に染まっているような……。


「あ、あれ?鈴音さん?」

「……あのっ、晃儀様!私、お願いがございます!」

「おっ、お願い!?」


何を言われるのかと、内心穏やかではない俺に向かって

鈴音が言ったのは、なんと……。


「今日、頑張ったご褒美に……その、頭をなでて頂けませんか?」

「……へ?」

「も、勿論ご都合が悪いというのなら、無理強いは致しません!」

「……ぷっ、はははは!なあんだ!

そんなお礼なら幾らでもするって!」


俺はおかしさを堪えながらも、鈴音の頭をなでてあげた。

もしかすると、これが出会って最初のスキンシップかもしれない。

なでられている鈴音は、満足げな顔をしてこちらを向いた。


「うふふ、ありがとうございます~、晃儀様♪」

「どういたしまして。けど、そこまで喜ばれると、なんか調子狂うな……」

「私からもお礼差し上げます~、受け取って下さいませ♪」


不意に鈴音が俺に接近したかと思うと、彼女、頬にキスしてきやがった!

突然の出来事に、顔を赤くして言葉を失う俺。


「あら~?晃儀様、お顔が赤くなっておられますよ~?」

「う、うっさい!ちょっと吃驚しただけだから!」

「ふふっ♪そういう晃儀様も可愛らしくて、素敵です~♪」

「なっ……何言ってんだ、もう!」


本日の一件で、鈴音との距離がちょっとだけ縮まったような感覚がする。

天狗の女の子が側にいるっていうのも、それ程悪くないかもしれない。

まあ、過度なアプローチは勘弁してもらいたいが。



【本日の教訓:石橋を叩いて渡る】

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