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天狗の仕業じゃ!  作者: ねこぢた
第1章:天狗と学園生活!?
6/15

邪なる勉強会(俺視点)

 翌朝。またいつも通りの朝だった――ように見えた。

俺は何が起こっているのか分からず、只々右腕を伝う感触に違和感を

覚えていた。

マシュマロのような柔らかさに、程良い弾力……一体これは何だ!?


「ん……うぅん」


その時、俺の耳元で艶っぽい声が聞こえた。


(ま、まさか……)


 みんな、落ち着いて聞いて欲しい。「俺が右手を置いている場所は、どうやら

年頃の女性の胸であること。加えて息のかかりそうな近距離にいること。」

ラブコメやちょっとしたお色気シーンなんかより、もっと恐ろしいものを

味わっている気分だ……。


「あ、駄目ですぅ……晃儀、様ぁ……♪」


――やっぱりこの子だったかぁぁあ!!

 っていうか、何?今の言葉?ちょっと喜んでない!?

一体俺に何されてるんだよちくしょーー!!

そんな俺の葛藤を余所に、鈴音は気持ち良く寝息を立てているようだ。

……起こそう。今すぐに。


「ほら鈴音、起きて!起きてってば!

そもそも何で俺のベッドに入って来てるの!?」

「う、うぅん?……あら?晃儀、様?」

「君はなんでこう、変な行動ばかり取るかなあ……こっちが参っちゃうよ」

「え……まあ!何故私は、晃儀様の床の間に……?」

「それはこっちが聞きたいよ!

ほら、早く自分の部屋に戻って、着替えてくる!」

「はっ、ふぁい!わかりまひた!」


寝起きで呂律の回っていない鈴音を部屋から出して、俺はふと時計を見やる。

え?7時半……?


(しまったぁ!俺も寝過ごしてたぁぁあ!!)


 その日の朝食が抜きになってしまったのは、言うまでもない。

 鈴音の神通力に頼ろうともしたが、それは遅刻ギリギリの最後の

手段として取っておくべきだ。何より、遅刻してまで真面目に

登校してくる生徒もいるのに、他人の力に頼ろうなんてフェアじゃ

ないからな。



 学校に着くと、校門付近で騒がしく注意している人影を見つけた。

あの赤い腕章に生徒手帳……間違いない、我が学校の『風紀委員』だ。

何故こんなタイミングで抜き打ち検査なんて……と、心中愚痴を吐きながら

俺と鈴音は校門を抜けようとする。が、


「ちょーっと待ったぁ!そこの二人組!!我が学園の風紀委員を素通り

できると思ってるわけ?」


やはり風紀に足止めさせられた。ん?この顔どこかで見たような……。


「あぁーー!!あんたは秋葉!」

「げっ!?星奈!?」

「あら、晃儀様、お知り合いですか?」

「うちのクラスの風紀委員、星奈嘉枝(ほしなかえ)だよ!

規則の事になると口煩いので有名でさ……」

「何こそこそと話してるのよ!あと、転校生!」

「はい?何でございましょう?」

「そ、その……制服はちゃんと身の丈に合ったものを着なさい。

あ、あなたのは、なんというか……胸が強調され過ぎてて不健全だわ!」


鈴音の豊満な胸にいちゃもんをつけるかの如く、星奈は彼女の制服を指差した。

しかし、当の鈴音はきょとんとした様子で


「あら、そうでしょうか?しかしながら、お爺様が「これが一番似合っとるぞ」

と仰るものですから……申し訳ございません」


と、一礼する余裕まで見せている。星奈は、その態度に顔を顰めて不服そうだ。

どうやら、星奈にとって彼女は天敵らしい。

 おっと、そうこうしているうちに予鈴が鳴りそうだ。


「星奈、話は教室でつけてくれよ!じゃあなー!」

「あ、こら!待ちなさい秋葉ーー!!」

「あの、晃儀様?その行動は流石に不躾では……」

「いいんだよ、星奈はいつもあんな感じだし」


というより、何で今日に限って風紀当番が星奈だったんだ?

己が不運を呪うしかないか……。



 教室に入ると、真っ先に爽太が駆け寄ってきた。

もしかして、昨日の不自然な俺(鈴音が化けてた)に違和感を……!?


「おーい晃儀ー!ちょっといいかー?」

「え?あ、ああ……」

「あのさ……今度の放課後、片桐さんと一緒に勉強会しようって

誘ってくれねえ?」

「へ?」

「聞こえなかったのかよ!?かたぎりさんと!べんきょうかいしようって!

さそってくれ!って言ってんだよ!」

「な、なんだ……そんな事かぁ、ふう」


俺は嫌な汗を拭った。良かった、爽太は昨日のことに疑問を持っていなかった。

それどころか、クラスでも反応の薄さに定評がある片桐沙綾(かたぎりさや)と勉強会

だって!?何考えてるんだこいつは……。


「そんな事じゃねえよ!俺はなぁ、この日が来るのをどれ程待ち望んで

いたか……」

「ってか、何で片桐さんなの?お前なら他の女子に手を付けそうなものを」

「馬鹿野郎!!お前は今まで、片桐さんの何を見てきたんだ!」

「いや……特に何も?」

「爽太様、その片桐様に何か特別な感情がおありです?」


会話の途中で、急に鈴音が割って入った。

彼女の言葉を聞くや否や、押し黙って顔を真っ赤にする爽太。

……ははぁ、これはそういう事か。


「……つまり、お前片桐さんに近付きたいが為に、こんなことを?」

「ばっ、バカ!声が大きいよ!」


そう言うや否や、俺を引き寄せ小声になる爽太。


「お前、片桐さんのスタイル、まじまじと見た事ないな?」

「そりゃあそうだろう。本人に失礼だし」

「やっぱり晃儀は晃儀だなぁ……いいか?片桐さんは間違いなく

“隠れ巨乳”だ!」

「はぁ?」

「それだけじゃない!彼女は着痩せするタイプのようで、制服の中には

肉感的な肢体が隠れていることははっきりしている!

加えて、眼鏡の奥に眠るアーモンド型の瞳!外したらきっと可愛くなるぞぉ!」

「……で、その為だけに勉強会をしろと?」

「そうだ、悪いか!俺は今片桐さんにぞっこんなんだ!!」

「顔が近い!堂々と死語を使う前に、落ち着いたらどうだ?」

「あのう……晃儀様、爽太様、先生がお見えになられましたが……」


話に区切りをつけるように、鈴音が俺達に向かって言う。

 じゃあまた後でな、と、爽太は決行する気満々のようだ。

何でそんな事を俺の家でしなければならないのか……理解に苦しむが

俺も薄情者ではない。二人の成り行きを見届けようという気持ちはある。

ここまで来たら乗りかかった船だ。ちょっとばかし手を貸しても

罰は当たらないよな?



 ――さて、時は流れて放課後。俺は今日掃除当番だった片桐さんを呼び止めた。


「あのー、片桐さん?」

「っ!?は、はい!」


ん?どうしたんだ?急に慌てたような反応して……。

 いつも授業で指されたって、調理実習や体育で怪我をしたって殆ど

動じる素振りを見せなかった彼女が、動揺している……?


「あのさ、今週の木曜日、授業午前中までだろ?

だから爽太たちも呼んで勉強会を開こうと思う――」

「ぜっったい駄目!!」


背後へ振り向くと、まさかの星奈の姿が。


「はぁ?星奈、俺は何もやましい事なんか考えてないぞ?」

「いいえ!そんな事言ったって私にはお見通しよ秋葉!

どさくさに紛れて、片桐さんと鞍馬さんを弄ぶ気でしょう!」

「なんでそんな解釈になるんだよ!?」

「仕様がありません!その勉強会、不肖私風紀委員・星奈嘉枝も参加

させて頂くわ!」

「異議あり!なんで関係ないお前まで……」

「異論は聞かない!私は二人の貞操を守るための監視役よ!」

「え、えぇ~~!?問答無用かよー!」


そんな俺たちのやり取りを見ながら、何故か片桐さんは頬を赤らめていた。



 そして、遂にやって来た木曜日。

俺の家に、爽太・片桐さん・そして星奈がやって来た。

 この時点で、俺はまだ知る由も無かっただろう――。

これから始まる、陰謀渦巻く勉強会の結末を……。


【今日の教訓:嵐の前の静けさ】

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